kanaco
2025-08-02 08:39:57
2224文字
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【洛信】炎

《洛信》洛信ワンドロワンライに参加させていただき、お題「火/炎」をお借りしたものです。成立済CPの仲良し洛信です。

「俺、お前が秘める“苛烈さ”がけっこう好きだったりする」

そう、信一は朗らかな調子で言った。
「例えば今とかさ」
自分の腕の中でフフ、と小さく笑う信一を見て洛軍は不思議そうな顔をした。


数分前。
洛軍は仕事場に向かう途中であった。通路を歩いていたら、信一が見知らぬ男と話し込んでいるのが目に入った。それだけであればいいのだが、その2人の距離が妙に近いのが気になってしまう。信一はいつもの調子でフランクに会話をしている。しかし相手の方が信一になんとなく身を寄せ、さりげないフリをして体にタッチを繰り返しているのがどうしても気にかかった。

信一と恋人関係にある洛軍からすれば、容認できることではない。

2人の前に洛軍が姿を現せば、信一が破顔して相手との会話をいとも簡単に止めた。スルリと相手との距離からも抜け出す。甘えるような表情をして寄ってきた信一に、洛軍は少しだけ機嫌を浮上させた。あれだけ言い寄られていたのだ。相手からのアプローチに気がついている信一の“牽制”であったかもしれないとは思う。それでも嬉しさは隠せない。

ただし洛軍の様々な感情を刺激しても、モヤモヤとした気持ち全てを払拭するまでには至らなかった。それで気持ちの赴くままに信一の手を引き路地に連れ込んだ。言葉もかけずにその細い腰を抱きしめて早急に唇を重ねれば、信一は一度だけ目をパチクリさせたが、抵抗することなくキスに応えた。

恋人の薄くて滑らかな唇の感触、それから柔らかくて熱い口内をじっくりと味わうように愛撫すれば、信一の鼻から可愛らしい息が漏れる。少しだけ縋るように自分の服の端を掴む手が、洛軍には愛らしく映った。信一のトロンと潤んだ瞳をのぞきこめば、「好き」という気持ちがお互いに流れ込んできて、気持ちがあっという間に満たされていく。

口を名残惜しくも一度離し「ちょっと衝動的だったか」と心配して信一を見た。
そこで彼は微笑んで”そう”言ったのだ。

お前が秘めてる“苛烈さ”がけっこう好き、と。

「苛烈さ?」

「お前って凪いだような大人しい表情をしているけどさ。実はこだわり強いし、頑固だし、それで相談もせず1人で突っ走っちゃうし、ムッとした時には意外と着火は早いし、存外に解決方法が物理ばっかりだし」

それにさ、ふつーに手も早いよな。
恋愛に奥手で疎そうな顔しておいて噓ばっかり。

「嫉妬深いのも知っているんだから」

楽しそうに話す信一を見ながら、洛軍は少しだけ唸った。

異論は特になかった。嘘をついた覚えだけはないが、手が早い自覚もそれなりにあった。好きだという感情は止められないし、それが譲れない想いだと自覚したならば、早急かつ素直に伝えるべきだった。それにこんなに見目麗しい、性格も良くて周りに愛されるような人間を好いたならば、手をこまねくような遠慮はなんの利もないように思う。これまでの人生において苦境や我慢を強いられてきた洛軍は、譲れないと決心したものは数が少ない。その代わりにそれを奪われない、失わないための努力は惜しまないつもりだった。

キスしたばかりの顔の近さで、揶揄うようにデコピンをされて洛軍は気まずそうに頭を後ろに少しずらした。しかし細い腰に回しままの腕は、信一が逃げるそぶりをしないので許されているのだろう、と解釈してより力をこめる。もう少しだけ信一の体が近づいて、また吐息が触れ合うほどの顔の近さになった。洛軍は(もう一度キスしたい)と思ったが、信一は洛軍の目の下をそっと触ってニコニコと笑っていた。

「でもそういう、お前が怒ったり必死になったりするその度にさ、いつもは穏やかで優しい目の中に、俺は炎をみるような気がするんだよな」
「炎?」
首を傾げる洛軍に信一が頷く。

「そうそう。その目に宿る強かな信念を感じる“熱意”をさ」
その炎はお前の瞳の中で、静かにユラユラと揺らめいていたり、グルグルと渦巻いていたり、激しく燃え盛っていたり時にはゆるやかに熱を与えようと揺蕩っていたり。そういう時は、俺はお前に包まれているような気がするよ。温度を感じる。いずれにしたって優しいってだけじゃない、お前の“熱”を感じるわけなんだ。

お前が炎のような熱を孕むときは、大事なものを守ろうとしたり愛そうとする時だから。

だから激しさと優しさが混同するようなその炎の苛烈さが、俺は見ていて愛おしいと思う。
「まぁ、同時に心配になることもあるけど。普段は本当に柔らかいヤツなのに、いざという時は思ったより直情的だから」


「し、心配をかけているならすまない」
分かったような、分からないようなと思う洛軍が、それでもお前が気にかけてしまうというのであればと謝れば、信一は頭を小さくフルフルと振った。

「いんや?信念の強い男が好きさ。そんな男ばっかりに俺は囲まれているからな。みんな融通きかねぇ男たちばっかりで困っちまう。そのくせ揃って”黙りがち”だしな」
そう言う声音はとても優し気であった。

「お前が俺を見る時の炎はいっとう綺麗」
だからその炎が好き、と信一の唇が近づく。

なぁ、もっと。キスしてくれよ。
愛しい恋人がねだる。

(信一を見つめる時の炎がいっとう、綺麗)

それは
いつだってその炎芯にいるのは、お前だからだろうな。

洛軍はそう思いながら、信一の期待に応えるべく唇を寄せたのだった。