まぶたを開くと、眼前に炎の色をした髪があった。状況はすぐに理解したけれども、にわかには信じがたくて、オーエンは静かにまばたきをした。
魔法舎のバーで鉢合わせて、嫌々ながら一緒に飲むことになって、存外愉快な酒席になって、彼の部屋に場所を移して飲み直して、それから――。
それからの記憶がないが、今、ひとつのベッドに同衾して朝を迎えた。それは確かな事実だった。
この男と親しく酒を酌み交わすことも、ひとつのベッドで共に眠ることも、自分がそれを許すことも、彼がそれを赦すことも、信じがたいことではあったけれど、それでも、目の前にカインがいる。
ふたりとも服を着ていることを確認して、ホッとした。なんでそんなことを確認したのか自分でもわからなかった。それから、行かなければと思う。いま姿を消してしまえば、この朝のできごとはひょっとしたら自分の胸だけに留めておけるのかもしれない。
けれど、次の瞬間には、レースのカーテンが開くようにして、朝焼けと夕焼けのふたいろが現れた。
予想していた、驚きや拒絶の色は、そこには滲まなかった。
ぼんやりと長いまつ毛をしばたかせて、結ばれていない赤い流れを大きな手のひらでかきあげて、カインはふんわりと笑った。敷布のうえの、行き場のない手をきゅっと握られる。
どきりと無いはずの心臓が跳ねた感覚があって、なぜだか胸がぎゅうと痛んで、けれど「ふああ」とてらいのない大あくびと伸びが、感傷の邪魔をする。
「おはよう。よく眠れたか?」
そう愛おしげに囁いたあと、カインはパチパチと数度まばたきをした。じわじわと頬が赤く染まったあと、気まずそうに掻く。
「悪い、寝ぼけてた……」
「へえ。騎士様は寝ぼけると恋人でもない相手に、こんなことをしちゃうんだ? 雑魚寝をしただけの相手でも?」
朝空に雲がかかるように、胸のうちに立ちこめてきた感情。彼の隣で朝を迎えた人物など、何人もいる。恋人でなくたって、騎士団の遠征で、あるいは賢者の魔法使いの任務で、それとも中央の魔法使いのパジャマパーティーで。
吐き出すように言うと、カインは困ったように眉を下げ、めずらしく小さな声で呟いた。
「寝ぼけてこんなことしちまうのは……おまえが相手だからだよ」
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