青い空に浮かぶ彼らの家、ブレイブアサギ号。その一室、ロイの部屋の扉を少女は叩いた。中にいたロイが扉を開けると、彼女は顔だけを内に覗かせる。
「リコ、どうしたの?」
「あ、えと…ロイ、そのまま目瞑っててくれる?」
「いいけど…なにかするの?」
「なにをするってわけじゃないけど…とりあえず目瞑ったまま後ろに下がってほしいの」
「わかった」
ロイは言われるがまま目を閉じ、視界が真っ暗になった中後ろに歩く。両肩をリコが支えてゆっくりと後退りしていくと、リコから止まるよう指示が出た。
「じゃあロイ、目…開けて」
「うん」
ゆっくりと目を開くと、そこにはシンプルな白いTシャツに水色とピンクのチェックが彩られたミニスカートを身につけたリコがいた。その姿をロイは呆然と見つめる。
「ど、どうかな」
「…!ああ…すごく…似合ってる…よ」
「…その…か…かわいい…?」
手を後ろに回して体を揺らしながらリコは聞いた。スカートにしまわれたシャツはきっちりと締まって、彼女のウエストの細さを強調している。
「かっ…ああ…かわいい…」
「そっか…えへへ…よかった…」
考える間もなく、恥じらいながら出た「かわいい」という言葉にリコはご満悦だ。青い瞳が赤い顔に埋もれてしまう気持ちのいい笑顔をしている。体もさっきより揺れて、ルガルガンのしっぽみたい。熱くなっていた頬が若干落ち着いて、ロイは頭に浮かんだ疑問をぶつけた。
「リコ、なんで僕にその服見せに来たの?」
「え!?それは…そりゃ…だって…」
「だって?」
さっきまでの笑顔は消えて、リコはもじもじとして目を細める。ロイの視線に耐えかねて右下に目を向けた。そのまま質問に答える。
「…ロイに自分で分かってほしい」
「えー…教えてよー」
「やだ。それより…また見せに来ていい?」
「それはいいけど…りゆ」
「じゃ、じゃあまたね!」
逃げられた。どうしてリコは僕に見せに来たんだろう。頭を捻ってみるも答えは出ない。ロイはベッドに座り込んでさっきのリコのことを思い出す。
「かわいかったな…リコ…」
そして翌日。リコは再びロイの部屋を訪れた。今日のリコはツインテールだ。そしてまた彼女は聞いた。
「かわいい…?」
ロイも正直に答える。
「かわいい…」
そしてロイがなぜ来たか聞こうとすれば、リコはまた逃げるように去る。
次の日、リコは黄色いカーディガンをつけて現れた。少し大きめで手も少し袖に埋まっている。そして繰り返すかわいいの問答。そしてすぐに逃げるリコ。そんな日々を何度か続け…ロイはドットの元に向かった。
「で、どうしたんだ?相談って」
「ドットも知ってるでしょ。最近リコがいっぱいオシャレしてるの」
「ああ。オリオとモリーもそのおかげでなんか燃えてるよな。ボクもせっかくだからって色々教えてもらってるし…」
「うん。それでさ…リコ、冒険に行かない日はいつも僕の部屋に来て見せてくれるんだ。それで理由が気になって聞いてみたんだけど教えてくれなくて…自分で分かってほしいって言われて…」
なんとなく分かった。リコがロイに見せに行く理由もそれを教えない理由も、ドットはすぐに察しがついた。さすがのロイもなんとなく分かってるだろう。ここに来たのは確認のためだ。
「で?なんでだと思ってるんだ?」
「多分だけど…リコは好きな人がいるんだと思う」
「…うん…それで?」
「多分、その人にかわいいって思ってもらうために僕で試してるんだと思うんだ」
「は?」
ドットは思わずそう言ってしまった。ロイが目を丸くしている。静寂な空気に耐えかねたドットは喉を鳴らして切り替えた。
「…なんでそうなるんだよ」
「だって毎回『かわいい?』って聞いてくるんだよ。それしかないよ」
「…じゃあリコは誰が好きか、ロイの中で予想は?」
「そうだなあ…パッと浮かぶのはフリードかマードック…じっちゃんはさすがに歳離れすぎだから無い…」
「ウルトは?」
「無いとは言わないけどやだ」
なんだかんだロイもウルトにはライバル心あるよなあ…なんて思いつつ、ドットはロイを見つめる。ロイは次々に今までリコと知り合った男の人の名前を挙げる。もしかしたら学校の人かもしれない…と一人で不安になっている様に呆れてため息が出た。そこでドットは質問を重ねてみる。
「一応聞いとくけど…ロイってリコのこと好きだよな?」
「…!気づいてたの…?」
「そんな照れなくても多分みんな察してるよ」
「え!?僕そんなに分かりやすかったかな…」
全く気づかれている自覚が無かったらしく、恥ずかしさからかロイは下を向いた。そんな彼にドットはじゃあさ…と言って切り出す。
「リコが好きなのは自分かも…とか思わないわけ?」
呆れ気味の言葉はロイを大きく驚かせた。ただでさえ赤かった顔が真っ赤っかだ。ブンブンと顔を振ってドットの方を向いた。
「な、ないよ!」
「なんで?」
「だって…だって…うーん…」
ロイは理由を必死に探す。よく考えてみれば特別ドットの意見を否定する材料はない。かといってそう思う理由もあまりない。頭を抱えていると、ドットがまた口を開いた。
「はあ…ロイ、リコはかわいいって言われて嬉しそうだったか?」
「…うん。尻尾振ってるルガルガンみたいに…で、でも!それだけじゃ僕のこと好きだからかなんて…」
「リコからしたら、ロイにかわいいって言ってもらえるから意味があるんだよ。じゃなきゃわざわざ一番にロイのとこ行かないよ」
真顔でドットはそう言い放った。しっかりと受け止めてロイは自分の胸に手を当てた。そしてここ数日の記憶を振り返る。
『…かわいい…?』
『…ロイには自分で分かってほしい』
リコとはいっぱいお話をしてきた。それでもオシャレを見せてかわいい?って聞く理由は教えてもらえない。ロイはようやくリコの気持ちを理解した。
「ありがとドット…僕ちょっと行ってくる」
「うん。がんばれ」
ロイは応援を受けて部屋を飛び出した。向かう先は当然リコのいる場所。どこと知っているわけでもないのに、彼は自信を持って走った。辿り着いたのは船の甲板。いつもの姿のリコを見つけ、ロイは大声で彼女を呼ぶ。振り向いた彼女に告げる言葉は、二人の関係を進化させる想いの光。
If you make a mistake, you can cancel it by pressing the reaction.