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シナリオ後に、色んなことがどうなってるのかを考えてたらできたもの。
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「いらっしゃいませ〜」
カランコロンと鳴ったベルの音を聞き、榠が店の入口へと声を掛ける。店を流れる音楽はCDやレコードではなく、今時では珍しいピアノの生演奏だ。
今日は日中にカフェピアノが演奏される日なものだから、その日を楽しみにしている常連客や物珍しさでやってくる新規の客がいつもよりも多くやってくる。普段はのんびりした雰囲気であることが圧倒的に多いのだが、この日ばかりは普段よりも多く来訪のベルが鳴る。
そうなれば、勿論厨房も忙しくなるが、フロアを回すウェイターたちも勿論忙しくなる。
数人いるウェイターの中でも、一際年若いながらもサクサクと場を回しているのが__アルバイトとしては数年目でも、店との縁は長いこの店の店主の娘、白良榠である。
白いブラウスはカフェの制服であるが、ボトムスは自由である。黒色ではあるが斜めに段差の入った華美すぎないフリルを纏った長めのスカートを靡かせて、彼女はフロアを駒鳥のようにサクサクと動き回っていた。左手は義手であるのだが、バイトには装飾用のものを使っていることが多いのでよく見られなければそうとは早々には気付かれない。
黒く艶やかな黒髪を纏める髪留めは、片手でも使いやすい大きめのバレッタである。サラサラの髪であるからこそ纏めやすいので雨の日に爆発するタイプの髪を持つ人間からすれば羨望ものであるが、彼女からすれば生まれ持ってのそれなので左手を失ってからでも未だにロングヘアを保っていた。ちなみにヘアバンドで髪を押さえている時や、自助具を使ってポニーテールにしている時もある。1人暮らしを大学生からはする気満々なので、その為に着実に、出来ることを自身で増やしている最中なのだ。
呼び止められれば、メニューは口頭で受ける。暗記は得意であるので、そのまま繰り返して暗唱し確認。カウンターで文鎮を置いて注文内容をメモして厨房へ伝えれば、提供すべきものが出てくるまではフロア係の受注の仕事は一旦途切れる。
その合間に、食事を終えた人の食器を下げたりテーブルを片付けたりといった仕事をしたり、会計をしたりといった動きは健常のスタッフと大きく変わることは無い。装飾用の左手義手は細かい動きがしづらいだけで、支えたりだとかの大きな動きは問題なく可能なのだ。
電話が鳴ったとしても、受話器を取るのは難しいことでは無い。メモがどうしても必要な場合でも、受話器を肩に挟み文鎮を置いてメモを取ればサラサラと美しい文字を記す。従来から持っていた器用さと柔軟さ、そして回転の速い頭脳という自身の武器を活かして、少女はフロアの主力としての地位を確立していた。
ちなみに、英語しか話せない客が来た時……接客などの対コミュニケーションの場に限定するならばそれは彼女の独壇場になる。英語と日本語を話す際に性格が変わるように感じられることがある、というのはよく言われる言葉であるが、それは彼女にも当て嵌まる。英語を話している時の彼女を見た他スタッフ達は、「言語によって性格が変わるという言説は聞いたことがあるけれど、榠ちゃんの場合は元の日本語のときがぽやぽやだから違いがかなり顕著に感じるよねえ」と口を揃えてそう評した。
閑話休題。
◆
「今日もお疲れさま」
「ノア兄も、おつかれさま〜」
店のバックヤードに引っ込んでしまえば、従業員同士ではなく気心知れた親戚同士の会話が顔を出す。昼の店主である榠の母はレジの締め作業を行なっており、いまここにはミモザと榠の2人しか居ない。
ふぅ、と息を吐いた榠は、左肩辺りから装着されている義手を服から引き抜く。いつも彼女は中着をきちんと着ているので、そこまで破廉恥なことにはならない。それから、首をぐるりと回すと右手を左肩へと伸ばした。接続部へと伸ばされたそれにより、彼女の肩から義手が外れる。重みのあるそれが外れたことで、「ん〜!」と彼女が後ろへと伸びた。やはり重さは感じるらしく、付けていると肩が凝るのだとあっけらかんと彼女が話していたのはいつのことだったか。
取り出していた義肩…パッドのようにも見えるそれをつけ、少し下ろしていた肩部分の服を戻せば、断崖絶壁の造形になっていたが故にだるんと落ちていた彼女の服の左肩部分がきちんと、「肩」に見える造形になった。どちらにせよ腕は無いとはいえ、肩の幅で受ける印象というものはだいぶ変わるものだと毎回そんなことを思っている。完全に肩がない訳では無く義手は付けられる程度とはいえ、如何せん見た目としても保護の目的としても、こういった肩パッドはあった方が良いらしい。
「人前でやるなとは言わないけど、露出もあるんだから場所は考えなね?もう」
「え?……ふふ、他の人が来たらノア兄が教えてくれるでしょう?」
「信頼されていて嬉しい限りだけどさ……」
ミモザが肩を竦める様を見て、榠はくすくすと可笑しそうに笑った。外した義手を手早くシートで拭い手入れをするその顔に悲壮感は何もなく、ミモザはその度に少しだけ彼女のことを尊敬する。元々メンタルの強い子ではあったと思っていたのだが、それにしたって腕を失ったことに関する葛藤や悲しみといった色を感じたことはあまりなかったように記憶しているからだった。
彼女がまだ10歳の頃、元々持っていた腫瘍により余命宣告をされた夏の日のこと。今まで外で長時間過ごしたことのなかった彼女に、せめて1度くらいはと祖父母の家に預けられた(その間に家族はセカンドオピニオンに駆け回っていたらしいが……)時に、彼女は生まれて初めて過ごした緑の生い茂る夏の野山をいたく気に入っていたらしい。毎日のように畑や山道を歩く姿が余りにも楽しそうで、余命のこともあり祖父母が強く止めることもしなかった矢先、その悲劇は起きたのだという。
夏の終わり、随分と慣れてきた道を行く彼女は、田舎特有の補填されていない道の途中で迷ってしまった。暗くなりつつある山道を帰っていく中で近道をした結果、それなりの高さを持つ崖から足を滑らせて滑落__捜索に来た大人たちが発見する頃には、自身の身体の落下の衝撃を全て負担した左手が、開放骨折の様相でズタズタになって存在していたのだそうだ。それでもそのお陰か頭も脚も守られており、その滑落事故に遭ったにしてはまだ幸運だったと判断されたらしいのだから、その際の崖の高さというものは相当のものだったのだろう。
彼女は直ぐに都市部の病院へ救急搬送され、一命は取り留めたものの三日三晩…どころか、1週間以上も彼女の体は熱に浮かされ、意識不明のまま。その間に左手は感染が確認され、切断をしなければ全身に敗血症が回るか骨髄炎へと移行する可能性が高いと医者に告げられたのだとか。
そうして榠の意志は未確認の状態で、彼女の両親は命の選択を迫られた。
元より体力のない身体に敗血症や骨髄炎が重なれば、腫瘍のことがなくとも容易に死に直結する。目覚めた彼女のことを考え、そのままいのちを終えさせた方がいっそ本人にとっては楽なのではないかと真剣に考えた親の気持ちは、考えるにあまりある。それを酷いと断じることなど、周りにはできない。
例え腕を切断して今を乗り越えたとしても、その事実受け入れるまでには時間が掛かるだろう。ただでさえ残り短い人生だというのに、更にハンディキャップが増えるという事実。もしそうなったときに彼女は残りのいのちをどう考えるか……既に余命宣告がされてそれを受け入れる段階にあった彼女の命の残り時間をここから伸ばすことができるでも無いのだから、それで「生き延びることができた」と思えるかさえ分からない状態なのだ。義手を使うにしても、その為のリハビリやトレーニングをしているうちに彼女の命は燃え尽きることが分かり切っている。
……しかも、それに加えて彼女の切断しなければならない範囲は肘から下でもなかった。リンパに乗って感染が拡大したらしく、指先は壊死、肘は腫れ上がり、腋窩から切断する必要性が生じたのだ。手先どころか肩の直前から腕を失う必要があると重い顔で告げられた叔母は、あの時ばかりはこの世を呪ったとのちに語っていた。
結論として。
自我もしっかりとした娘のいのちを、勝手に安楽死させるのは親のエゴだと結論づけたことにより、目覚めぬ榠の腕は切断されることになった。腕を切断してまで生きて欲しいと願うのもまた親のエゴではあったが、彼女の意図を聞かないまま親だけの意思でいのちを終わらせるのは余りにも彼女を蔑ろにしていることになるだろうと、腹を括って。
のちに彼女の父はこっそりと、もし彼女が死を望んだ場合は安楽死を合法としている国に連れて行くことを覚悟していたと母にのみ心情を語った。
結果。
事態は思わぬ方向に動いた。
左肩から先の切断を実施したその後間も無く、発熱はするすると引いていった。感染源が除去されたのだから当然のことだったのだろう。しかしてその後、彼女の体はまるで今までの病弱が嘘のように、めまいや吐き気を生じなくなったという。最初は左手を失ったことに絶句していた彼女だったが、それから身体が酷く軽いことに疑問を呈するまでに時間は掛からなかったようで。急ぎ確認して分かったことは、彼女の身体に巣食っていた病巣が全て取り除かれていたという事実。酷い発熱のせいか彼女のあの夏の記憶は曖昧だったが、夏の記憶と腫瘍と左腕を引き換えに、彼女に残ったのはほぼ健康的な肉体となった形である。
病理学的に、そんなことは有り得ないはずだった。気が付かぬ間に脳の腫瘍が綺麗さっぱり左腕に移っており、切除により榠の体から消えたのだとしか思えぬ魔法。しかし切断術の直前に腫瘍がどうなっていたかを確認する術はなく(緊急手術だった為、最低限の術前検査であった)。他の同じ疾患の子らに治療を応用しようにも、榠に起きた事故や状態は人為的に引き起こせるようなものでもなく、そもそもどういう理屈で腫瘍が消えたのかの機序が誰にも推定すら不可能だった。再度調べようにもキーとなっていそうであった問題の腕は既に失われた後であり、医療界にまた人体の神秘としか形容しようのない事案が1つ増えた……と、最終的にはそういう結論になったらしい。時に人体は、神の領域とされる奇跡を起こすから。
そんなわけで、誰も予想し得なかった形で榠は病院を中心とする生活から解放されることになった訳である。
最初は片腕のない状態にショックを受けていた節もあったのかもしれないが、同時に生じた事象の内容が自身の未来にプラスな事象でもあった為か……周囲の人々が想定するほど取り乱すようなことは無かったらしい。
現在、彼女の持つ義手はひとつではない。外見を優先させた装飾義手は学校用やアルバイト時用にひとつ。もうひとつは機械的な見た目であるが細かい動きも可能な作業用義手で、“分かりやすく”彼女がハンディキャップ持ちであることが周囲から見て分かる仕様にはなっているが人並み以上に詳細な動きができる優れものだ。まあ、数年前から始めたメイド喫茶で夏の期間に開催されるサイボーグ×メイド祭り期間の看板娘を担っているのだから(初めての彼女のバイト期間にそれを発案してくれた先輩には親戚一同感謝の念を抱いている)、自身の特徴となった欠損をアンデンティティとして売り出している節さえあるのかもしれない。とはいえ初回でかなりその期間を盛り上げたからこそ、定年開催になっている訳で……それは、紛れもない榠の功績だ。実際、クラシカルで落ち着いたメイド服にメカメカしい義手をサイバーパンク感を少し上げて付けてくるくると店内を動き回っていた彼女は、一等その場で目を惹いていたように思う。それぞれ、自身らに合ったメイド服のカスタムを許可しているその喫茶の特徴を考えるに、自己プロデュースが上手い……または上司の部下プロデュースが上手いのだろう。
女性はやっぱり強かだ、とミモザが思うのは、周囲の女性陣が例え世間的には逆境と言われる環境の中でも、彼女ららしく強く在る人々たちばかりだからかもしれなかった。
「その義肩って、やっぱり楽なの?」
ふと思いつき、聞いてみる。着け心地としては、ギプスを付けた時のようなものだと思うのだがそうであれば蒸れるだろう。保護の為とはいえ、折角重い義手を外してもすぐに着けるのなら大変そうだなあというそんな思い付きだった。聞かれた榠は、「まあ、楽は楽かも、こっちの方が」と頷き、そこからまた言葉を繋げる。
「駅で偶にぶつかってくる人とかいるし。わざとぶつかってきた人って向こうから刺さりにきてるのと同じだから、逆に痛みに飛び退いて唖然としてたりするの」
しれっと想定とは全然違う返答が来て、咽せた。もし変なのに絡まれたり手を引っ張られそうになったら、相手の目て逸させないようにしつつ後ろ手にこそっと腕の接続を外してガタッと手を落とした上で「助けて下さい!無理やり引っ張られて義手を外されました!」と叫べと昔から家族に懇々と叩き込まれた少女だ、面構えが違う。
ちょっと困った顔で口を開こうとしたミモザよりも早く、榠が言葉を続ける。
「あとは、リュックかショルダーバッグを使うことが多いから、あった方が肩から落ちにくくて便利なんだよね。」
「そっかあ……いやごめん、話を戻して悪いけど、さっきのって俗に言うぶつかりおじさんってこと…?」
「え?あ、うん……私って、狙われやすいみたい。」
「そういうのはもっと早く聞きたかったな……今日は俺と一緒に帰ろっか。あと、そういう時はちゃんと駅員さんに突き出してね……」
当然のように肯定された内容に、渋面になるミモザだった。確かに華の高校生、身長は低くストレートのロングヘア、言ってしまえばひょろっこい身長と強く言い返すようには見えないが優しそうに整っている顔面、と来れば、そういう標的にはなりやすいのかもしれない。内部疾患である、外国人の見た目を榠よりも濃く持ち、かつ男性であるミモザだって優先座席を使っていてひそひそと言われた経験が0では無いのだから、榠の要素を持つのならばさもありなん、と言うことなのだろう。痴漢とか無いだろうな……、と、今度一緒に出かけるときには目を光らせておこうと意識を新たに固めたミモザとは対照的に、榠側としては割となんてことでもないように「うん、大丈夫……駅員さんと、もう仲良くなったから」とのほほんと言葉を返すのだから、正直彼女の両親の内心の心配を考えるとミモザとしても心が痛む。考えているようで、自分に降り掛かる諸々についてはある程度度外視して解決までひとっ飛びにしてしまう節があることを、ミモザはよく知っていた。
そんなミモザの内心なぞ露知らず、榠の中ではその話題は終わったようで、今日のミモザの演奏の方に思考がシフトしたらしい。小さい頃にミモザと共に病院のストリートピアノで遊んだことを思い出して、懐かしいことを思い出したと顔に書いたまま、榠がそのまま言葉を溢した。
「懐かしかったな、ノア兄のピアノ。」
「連弾とか、今も出来るかな」
外した義手に視線を落として、榠が言う。その横顔にはやっぱり重い影のようなものはなくて、やってみたら楽しそうだなあ、という前向きな色さえ感じられるそれだった。ミモザから見れば、なんだかそれが、何故か眩しいもののようにさえ時々思えるのだ。
それがどうしてだか分からなくて、でも初めて片腕を失くした榠と会った後からずっと思い続けてきたことであったこともあって、思わず独り言のようにミモザの口が動いた。
「榠は。……片腕を失って、全然後悔してないように見える」
ぽつ、と言葉を溢してから、ハッとした。失言にも程がある言葉だったと若干顔を強張らせて榠の顔を見れば、少しだけ虚を突かれたようにポカンとした表情が目に入った。それから、じわじわと顔に広がったのは何だか面白がるような、そういう顔。
「そんなの、初めて言われた」
ふは、と笑う彼女が不快感を表した様子はない。なんなら、くふふ、と少し堪えるように笑っている様子は、やっぱり悲壮感のようなものはなくて、やっぱり違和感のような不思議な感覚を覚えるのは拭えない。「んー、、」と間延びするように言葉を伸ばす榠は、なんと言ったものかを思案している様子だったが、しかしそれも何だか楽しそうで、益々訳が分からなくなる。
「ノア兄は、さ。……何か大事なものを失わずに済むなら、自分の手足だって差し出しちゃう人じゃない?それが例えば、恩ある人なら尚更。……ちがった?」
「それは……」
答えは、悩むことなくイエスだった。否定する余地がないのは、何度か……そう、間違いなく何度か、自分はそれを経験しているからだ。どこかの夢の中で自分で両足首を断ったことも、相手を死なせない為に左手を切り落としたことも、薬となった腕を潰して食べさせた、ことも………………思わず思考の途中で顔を上げた。口の中が異様に乾いている。まさか、と鼓動が早鐘を打つ。唇がはくり、と開いて、閉じた。
小さく首を傾げながらそんな言葉を告げた彼女は、ミモザのそんな様子を見て「だよねえ」と小さく笑った。知っていた、とでも言うようなそんな口調で、当然のように。
「私とノア兄は、似てるから……」
その声音に、ノア兄はそれを選ばないように、なんて釘を刺された気すらして口を噤む。同時に、その通りの状況又はそれに類似した状況下で腕を失ったのだとしたら、彼女の様子に合点がいくともそう思う。不思議なほどに、納得がいった。
自分と榠とは、時折酷く似ている。
黙り込んでしまったミモザの方を見て、榠がパチパチと瞬きをする。そうして、少しだけ唇を湿らせて笑うと、ミモザの代わりのようにそっと唇を開いた。目が細まる。花が開くようだ、と、何故だかそう思った。
「……私の座敷童子くんに、貰った分を返しただけ」
「それでもね、やっぱり安いくらいなの」
歌うように、秘密を共有するように彼女は言う。
それはどうしてだか、なんだか楽しそうですらあって。
自身の片腕を安いのだと笑う彼女に、やっぱり陰は見当たらなくて。
「ノア兄は覚えてて。」
かつて失った記憶の中の彼を「座敷童子」と評した従兄に、彼女は彼女で“言い得て妙だ”とそう思う。自分が忘れていたそれを輪郭だけでも知覚させてくれた彼に、だから真実を預けておこうと思った。外部への記憶の受託は、彼女の経験が経験だからこその判断。
間違いなく、彼は榠にとって座敷童子だった。幸運を齎してくれた、いのちを繋げてくれた存在だった。けれど、そんな存在だって忘れてしまうことがあるのだと自分はもう知っている。だから、もしいつかそれを忘れてしまっても、自分が腕のことを嘆くことがないように。その保険をかけるようにと。
いまは視線を下げる必要の無くなった彼を座敷童子だと思うことは無いかもしれないけれど……きっとどうせ、その存在の輪郭だけは忘れやしないから。心が覚えているのだろう、かつて従兄がそう口にしたように。
一方そう告げられたミモザ側としては、初知りの情報が多々漏れていて頭を抱えたい気持ちである。確か5年強ほど前にそんな話をしたっけだとか、つまりそれはどういうことなのか順を追って説明して欲しいだとか、もし何か巻き込まれるようなことがあったのなら説明してくれだとか、そういう言葉がぐるぐる回る。
榠の言葉の組み立て方はいつだって彼女ベースだ。マイペースだと評されるミモザだが、榠という例を知っているのでぶっちゃけあんまり自分をマイペースだと思っていない。実際には、単なるマイペースと弩級のマイペースだというだけなのだが。
「やっぱりね、私とノア兄って、似てると思うの」
口を開いたミモザを遮るように、彼女は重ねてそう言った。奇遇だね自分もそう思うよ、と返事をしようとしたミモザだったが、次に続いた言葉に言葉を止めて、溜め息を吐くことになる。
「だからね、その。やっぱり、帰りが遅くなった時に口裏とか合わせて欲しいなって……」
唇を尖らせてそう拗ねたように言う様子は、どう見ても年頃相応の女子である。この前、彼女の帰宅が余りに遅くなった時に「家にいたことにして欲しい」と懇願するも素気無く却下されたことについて、再度の交渉をしているらしい。
この流れでその話を持ってくるということは、似ていると言及したのは「境遇が」とかではなく「そういう目に巻き込まれるのが」ということか。そうか……
「ダメ、かな?」
という駄目押しのお願いに、ミモザの真白い額に手が伸び首が振られた。降参、とも、分かった、とも取れる動作に榠の瞳が不安気に揺れる。
実際のところは「やれやれ…」の意図が強いので、どちらの意味でもなかったのだが。
いろんな思いを飲み込んで、そうしてミモザが絞り出した言葉は結局のところ。
「ちゃんと説明を聞いて、納得出来たら協力したげる……」
という、"下手に突っぱねて自分の知らないところで好き勝手動かれるよりはそちらの方がまだ安心だな"という思考回路の末に出たイエス寄りの返答だった。
なにしろまあ。
自分もまたよく騒動に巻き込まれている身であり、同時によく巻き込まれる知り合いがいる身である。
預かり知らぬところで黙って消えかねない"探索者"たる彼らが、未だ弱いつながり……とはいえ、協力者を得た瞬間だった。
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義手になったまでの流れと歴史改変を、どういう経緯でそうなって認識しているのかな〜……という部分をきちんと詰めておきたくて「青の声がした」のあとに書き始めたSSでした。長っ!
実際に腕を失ったのは17歳時点なのですが。
本来のところはないはずの歴史であった賴麻くんの歴史を正史として確定&人間として確定させるぶんのリソースの清算としてなら、心のどこぞにずっと存在していて強く願っていた結果存在をさせたのだというのなら、人間賴麻くんが存在したことになっている時間≒その時間分も片腕を持っていかれる、の認識改変が起こっているという設定で書かせて頂きました。
同時に起こっていた方が、傍から見て片腕を失ったことに関する受け入れの良さに周囲も納得するんじゃないかと思ったこともあります。
とはいえ整合性が出来る限り取れるように植え付けられた正史、なので矛盾点をしっかり指摘されれば違和感を感じたりはするんじゃないかなーとか思いつつ……特に、“探索者”であるならば。
榠は別にその点を誰かに知ってほしいとも思わないし、それで周囲から哀れまれたり悲しんだりされたりするところから始められたりするよりも概ね周囲が受け入れたあとから始まるほうが楽で良かったかも?と思っているので、それで全然問題ないと考えています。正しく“お支払い”だと思っているので、別に良い。
ただそれはそれとして、腕を失った状態で向けられる視線や扱われ方を知ってしまった状態になったので、そのあたりで「面倒な人に目をつけられた」だとか「好き勝手できる相手だと舐められているなあ今」と判断できてしまう事案に遭遇した結果、少し大人な視点も手にしてしまった部分もあります。
100%ほわほわで居られなくなった点も多少は今後は有るだろうというそれ。
白良の女になって…いる……強か…………デバフかかると周囲を圧倒するっょっょになるレディたちの血筋。おもろ。
でも、将来の夢は変わっているかもしれません。人生計画が変わっているのでね……高校生で良かったかも。
ほぼ10000万字!?!?!?!??!?!?!?!びっくりだ
※どうにか整合性取れないかな〜〜とこねくり回しただけの文章なので、半分公式半分二次創作です。悪しからず。
ここの2人、境遇が似てるので何かあった時に言伝とかを相手に託すつもりで預けとくみたいなことしても良いと思ってる。あと、すべては話さないにしろ少しだけ漏らしたりだとかね…………相方が同じPLなので多少のうちうちはええやろ、と鼻をほじっています。やめな!の場合は遠慮せずに言ってね〜単なる妄想上の二次創作だからね~~
※開放骨折とは
:重度の骨折の1つで、骨折した際に骨が皮膚を突き破って体外に露出した状態のことを指す。骨折部に細菌が侵入して感染を引き起こす恐れがあり、露出した骨が感染すると骨髄炎や敗血症を引き起こし、治療が非常に困難になるため速やかな治療が求められる。
開放骨折は、交通事故をはじめとする強い衝撃を受けることで生じる。骨折と同時に、血管や神経、肺の損傷などのさまざまな合併症が生じる場合もあり、血圧や呼吸状態、意識の有無などの全身状態や血管、神経、骨折部を順に評価したうえで治療方針が決定される。
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