ユズリハ
2025-08-01 21:00:00
1419文字
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葬列と花

お頭が話すSF(すこし・ふしぎ)話

私の番か。
もう既に経路は封鎖されているが、海辺へ出陣したことがあっただろう。
ああ、暑かった……。日差しの強い土地だったな。
合戦場は海辺だが、出陣ゲートからそこに向かうまでに、いくつか民家があった。その集落を通り抜けて向かうわけだ。経験の浅いものには、そこで人間との距離の保ち方や、不審に思われない振る舞いを伝えることもあった。私も何度か、そこの人間とやり取りをしたことがある。そうだな……琉球の彼らと似た響きの言葉を話す、穏やかな人間たちだった。

ある日、出陣先で雨が降った。「カタブイだろう」と千代金丸が言い、「通り雨、って意味だ」と治金丸が付け加えた。
私にはとても「通り雨」とは思えなかった。何せ、空を一面厚い雲が覆い尽くし、地面に水煙が立つ程の豪雨だったからだ。どこからか、むせ返りそうな程の花の香りが漂った。
民家の軒下を間借りして雨止みを待っていると、ちょうど斜向かいの民家の辺りから、ギイ、ギイと音がする。木の軋むような音だ。ひとの足音もする。一つだけではない。いくつも、いくつも。
「あー……」「うわ……」「すさまじいなー、あれは」
隣で、斜向かいの民家を指して三振が口々に言う。
ギイ、ギイ、ひたひた、ばちゃばちゃ、ギイ、ギイ。
最早その狂騒は雨の音に紛れるようなものではなかった。その民家の方を見る。
斜向かいの民家は、小さな家だった。おそらく住んでいる人間も、そう多くはないだろう。ぴったりと閉じられた雨戸からは、中の様子は窺えない。その小さな民家を取り巻く、影。牛の形をしたもの、ひとらしき形を取るもの、そうして、真っ黒に塗りつぶされた小さな山車のような物。黒い山車は三つ程連なり、葬列のような様相を呈している。
豪雨の中小さな家を取り囲む、騒がしい異形の葬列。
異様なそれを、我々はどうすることもなく見送った。
そうしばらく経たないうちに、地元の彼らが言った通り雨が止んだ。人々がまるで何事もなかったかのように——彼等には認識できないものだったのかもしれない——雨戸を開けて、家から出てくる。我々も軒先を間借りしていた家の住人へ礼を伝え、合戦場へ向かった。
雨が止み、日が差してきたにも関わらず、斜向かいの民家は雨戸すら開かなかった。

「あれはなー、龕のマジムンだよ」
「がん」
「棺桶を担ぐための道具さ」
出陣が終わり、先程の葬列について尋ねた私に、北谷菜切は落ち着き払って応えた。
「人間が死ぬ時、死ぬ人間の家の前であれが歩き回るんだ。あの家に、あの数じゃあ……
彼はその先を濁したが、言わんとすることは明白だった。
……もしも、我々があれを切り捨てたとしたら、歴史修正になっただろうか」
私の言葉に、彼は薄く笑って首を振る。
「あれがいるから人が死ぬんじゃない。人が死ぬから、あれが出るんだ」
あれ。その言葉が指す光景を思い返す。薄暗い豪雨の中、小さな家を取り囲み狂ったように歩き回る影の葬列。屋外に晒されたままの、変色しきった洗い物。締め切られた雨戸。
我々の間に、しばらくの沈黙が落ちた。
「ちぃ兄、山鳥毛、さんぴん茶いれたけど飲むか?」
「ちんすこうもあるぞ」
機を見計らったように、治金丸の快活な声が響く。その後からのんびりと、千代金丸も顔を出した。
「あい、ありがとうねー」
「御相伴に預かろう」
よく冷えた茶が、喉を潤す。
あの雨の中で嗅いだ、むせ返るような花の香りがした。