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サケブンダト
2025-07-31 09:20:22
2421文字
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「不束ものだが、末長くよろしくな」
ご注意ください。卒業ネタ・死にネタ(モブ)・長こへです。長次が泣いたり、小平太が結婚を申し込んだりします。戦が苛烈になってく卒業後の短いお話。
(注意:卒業ネタ・死にネタ・長こへ)
未来は明るい。それは小平太を見ていれば分かった。全部、小平太から教えてもらった。たくさん本を読んでも、いくど詩を暗誦しても見当のつかない途方もないことだとわかっていても。
夢をみる。かつての友が見ていた同じ夢を同じように見てみたいと。
それが自身の枷になっていることは、嫌と言うほど分かっていた。
「一瞬、抜ける」
「すぐ戻れよ」
仲間に一言、言葉をかけて長次は戦場を抜け出し、林の中へ走った。戦場の土煙が解かないところまで走って、懐に包んだ赤子を見下ろす。彼はもう息をしていない。けれども、歩兵に踏まれてしまうのは嫌だった。
立ち止まった木の上で屈み込んで、その遺体を抱きしめなおす。もう温もりも声もないのに、その香りだけはまだ乳臭くて。母親もいたことだろう。集落も近く、もしかしたら戦に巻き込まれないように、避難をしている最中だったのかもしれない。
長次が忍びとして戦場を見にきた時には、もう近くの村はダメだった。
学園の頃の後輩にも、村を焼かれ両親を失った後輩がいた。なんの意味もなかったかもしれない。これから先に彼のような子どもを出すかもしれない贖罪に、先んじて未来の罰を受けている気持ちもあった。
けれど、彼も誰もそうは思わなかった。同情と取られるならそれで良い。けれど、紛れもなく先取りの罪悪感だ。
「また、泣いているのか。長次」
声がして振り向けば、長次の背後に見慣れた忍びが立っていた。
「私でなければ、今頃、その赤子と同じところへ行けたのにな」
「小平太
……
」
長次は抱きしめていた赤子のお包を引き延ばして、その死に顔を覆う。僅かに濡れていた布に申し訳なさが、再び募ったが、口にしないことにした。
「もう、その名前で呼ばないでくれ」
「すまん」
「何度泣くんだ」
「
……
」
長次が答えずに地面へ降り立つと、後に続いて小平太は降りて来る。戦場から離れた方へ歩き出そうとする長次の腕を引いて小平太は言った。
「親子は一緒にしてあげた方がいい」
小平太に案内されるまま、一緒に林の端に行くと、小さな穴が掘ってあり、隣にも掘り返して埋めた跡があった。ちょうど大人ぐらいの大きさだろうか。
「母親しか見つけられなかったから」
「すまない」
長次は、大きい方の穴だった場所を一瞥して、隣の小さな穴へ赤子を入れた。
小平太も隣にしゃがみ込んで両手を合わせる。2人は協力して穴を埋めて、それぞれ違う方角へ散った。小平太と長次はそれぞれ別々の城にいる。
だが、長次は自分の希望通り、学園から遠く離れた城へ仕えて仲間との戦闘を避けたつもりだったのに。小平太の城が勢力を増して、長次のいる城の方まで来てしまった。話を聞くに、とある新人の忍びの働きで、戦果を上げ、その忍びの進言通り進軍をしているとか。
「
……
会いたくなかった」
ボソッと、呟く。
戻ってみれば、待っていたはずの同じ城の仲間が遺体で転がっている。赤子を弔うつもりで抜けたのに、赤子に救われるように難を逃れて、今日も生き残ってしまった。
もう、城へ帰ることも出来ない。仲間の死を目の前に、長次に足は完全に地面へ縫い付けられてしまった。ここから一歩も動けない。迫る土煙に、学園時代を思い出して目を閉じる。
園田村の時がどんなに平和だったことか。土井先生を巡って行ったドクタケがどれほど優しかったことか。
長次は徐に懐から宝禄火矢を取り出し、両手で天へ押し上げる。
「
……
トス」
「トスされたら、アタァーーーーーック!! 」
自分の背後を、彼の背よりも高く飛んだ小平太に、彼は驚きつつもその足を掴んで木を降りた。小平太がバランスが取れずにズッコケそうなところが抱え込んで、長次は歩き出す。戦場とは反対の方へ。
「何をする! 」
「戦果として敵の城の忍びを生け取りに。それでも仲間を見殺しにした罰は避けられないだろうな」
誘拐されているのにも関わらず、プロになったはずの小平太は敵の城のその忍びである長次のために考え込む。肩に担がれているのに、持ち前の腹筋で身体を起こして顎に手を当てて。
「だったら、どっちも戻らなければ良いんじゃないか? 」
「
……
」
「だって、私もまんまと敵の忍者に捕まって間抜けなこと、この上ないし。長次も私を連れて帰っても褒められないなら」
長次は小さくため息を吐いて、小平太を地面へ下ろした。
「2人で抜け忍になるのか? 」
「うーんじゃ、駆け落ちだな」
あっけらかんと言われて、頭を抱える。さきほど泣きすぎて疲れているのかもしれない。きっと、大きな方の穴も空っぽで、同僚に手をかけたのも目の前にいる忍びなんだけども。それ以外に良さそうな案が浮かばなかった。
「
……
善法寺医庵って知っているか? 」
「それは良い隠れ家だな」
指を鳴らした小平太はにっこり笑うと肩を並べてあの頃と同じように歩き出す。長次は、せめてと服を裏返し、町民の格好へなった。
「元気かなー。なぁ文次郎が学園に戻ったの知っているか? 」
「先生に? 」
「あぁ、あの頃のは組より手を焼く一年生を教えているらしい」
きっと彼なら「バカタレー」と声を枯らしながら叱っていることだろう。とても似合っていると思った。
「あと、松千代先生がそろそろ引退を考えているそうだ」
「まだ若いだろ、先生は」
「研究に没頭したいんだそうだ」
「小平太は? 」
あの頃と変わらぬ太陽のような笑みを見せたかと思うと、小平太は言った。
「私は、“可愛いお嫁さん”だな」
「そうか」
口を尖らせる小平太は、頭の後で腕を組む。小平太もさきほど着替えて忍び装束ではなくなっていた。
「長次のだぞ」
「
……
知っている」
そうボソっと口にすると、長次に勢いよく小平太は飛びついた。
「不束ものだが、末長くよろしくな」
完
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