スサ
2025-07-31 01:24:44
2979文字
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【鬼+水】花屋の鬼と転生水の話

星願の鬼水新刊「ロマンス」に入れてた「六月の庭で出会う(https://www.pixiv.net/novel/show.php?id=25248639)」 のその後、花屋をしてる鬼太郎が天涯孤独の水木少年を引き取って育てている日常がみたいやつです。少年が青年くらいになったらくっつくと思う。

 渡りに船と始めた花屋の仕事だったが、世の中何が起こるかわからないもので、案外うまく回っていた。
 元々の商売を引き継いだからというのが勿論大きいが、それだけでなく、鬼太郎が世話する花たちは他よりも見栄えも保ちも良いと評判になり始めていた。加えて物静かな青年の風貌が本人が思うよりも世の女性達にうけが良く、なんだかんだで固定客も増えている。
 こんなはずでは、と人間社会の目まぐるしさに呆気にとられた鬼太郎だったが、子どもを預かる身となったこともあり、慣れないながらもそれなりに働いていた。自分や実父だけならともかく、一応人間の奨学生である水木には、健康で文明的な生活が必要だ。
 鬼太郎が水やりをすれば、鉢植え達はいきいきと葉を輝かせる。緑の陰に小さな妖精のような、精霊のような妖怪のようなものが見え隠れすることもある。彼らは幽霊族に自分達の輝かしい所を見せようと張り切る。強い霊力を持つ鬼太郎のそばにいる影響もある。
 そんなわけで、フラワー水木は今日もそれなりに繁盛をしているのだった。

「ただいまっ!」
 足音が聞こえる前から鬼太郎にはわかっていたけれど、その声に合わせて振り向き、エースストライカーの蹴った球のような勢いで飛び込んてくる体を受け止めた。もちろんよろめくようなことはない。
 きゅ、と控えめに抱きしめて、鬼太郎は黒髪の頭に顔をくっつけるようにして「おかえり」と言う。少し汗のにおいがして、それが、この子が今生きているということを強く感じさせる。
「学校、どうだった?」
「サッカー、おれ、ゴール決めた!」
 もぞもぞと動く気配を感じ、鬼太郎は腕を緩める。顔を上げた水木の髪は少し乱れていて、それを微笑みながら手櫛で直してやる。ふへ、と笑う顔は子どもらしく、鬼太郎もつられて笑った。
「あと、給食食べるの一番早かった!」
…………、」
 鬼太郎は少し悩んだ。早食いは、褒めていいのか悪いのか。ええと、と固まる。消化に良くないのでは?、という気持ちと、でも一番は一番だし、という気持ちの板挟みになって。
………鬼太郎の作ってくれるご飯の方がおいしいよ」
 そんな鬼太郎をどう思ったとのか、水木はまた抱きついてきて、ボソボソと言ってくれた。鬼太郎はなんだかもう胸がいっぱいで、ありがとう、と答えて抱きしめるのが精一杯だった。
「夜ご飯なに?」
 また鬼太郎から離れて、ランドセルを脱ぎながら水木は尋ねる。
「うーん、炒飯にしようかと思ってた。おかずは餃子かな」
「餃子! つくるの?」
「? うん」
 鬼太郎は頷いた。
 もう、うんと昔になるけれど、水木家では時々野菜の端などを集めて餃子を作っていた。肉は少しと、野菜をたくさん。目玉の父とふたりで森に暮らすようになってからは作ることはなかった(時々水木の家に行った時には一緒に作ることもあった)けれど、作り方は覚えているし、水木を引き取ってからもう何度か作っている。
「お手伝いする!」
「本当? 遊びに行っても大丈夫だけど
 鬼太郎は違ったが、水木は同級生と遊んだりする時間があった方がいい。それが人間の「普通」だから。鬼太郎はそう考ええいたが、水木は首を振る。
「学校で遊んでるし
「そう?」
 鬼太郎は困惑気味に首を傾げる。
「昼休みにサッカーとかしてるし!」
ありがと」
「店も手伝う! エプロンしてくるから!」
 う、うん、と押し切られるまま頷いて、鬼太郎は苦笑した。穏やかで変わり映えしなかった日々が、水木と出会ってからというもの実に目まぐるしい。驚きに満ちていて、鮮やかで、幽霊族の低い体温が少し上がるような気さえする。

 わざわざ子供用に誂えた店名入りのエプロンをつけて、水木はすぐに現れた。しかし、そうそう客が押し寄せるわけでもない。鬼太郎は苦笑をひた隠して、じゃあこっちにお水やってもらおうかな、と言う。しかし敏い所のある水木は、不服そうな顔をした。
「鬼太郎、楽なことやらせようとしてる」
「え?! そんなことは
「本当に?」
 困ったなと内心冷や汗が止まらない鬼太郎だったが、はたと思いつく。
「じゃ、じゃあ、僕の苦手なこと頼んでもいいかな」
「いいぜ! なに?」
 ぱっと水木の顔が輝く。
 ほっと胸を撫で下ろしつつ、鬼太郎は答える。
「夏の花のええと、広告、ぽ、ポップ? を作ってほしい、僕は絵が得意じゃなくて」
 水木は目を丸くした後、そういえば、と思い巡らせた。
……鬼太郎の描いた犬、なんか、おばけみたいだったもんな
…………………
 鬼太郎は気まずげに顔をそらした。
 言い訳が許されるなら、実際地獄にいるような存在とか、妖怪達の方が鬼太郎には身近だから、普通の犬を描こうとして何か不気味なものになってしまうのは仕方ない、と思う。
 だがそれは言えないので、鬼太郎は黙るしかない。それをどう思ったか、水木はとりなすように上目遣いで笑った。
「でも、鬼太郎かっこいいから、絵もうまいよりそっちの方がいい」
……………?」
 一瞬何を言われたかわからず、鬼太郎はぽかんとした顔をする。
 水木はニコッと笑って、おれ、図工の成績悪くないんだぜ、と言った。

 色鉛筆とクレヨン、マーカーを器用に使って花々の紹介を書いていく(時々名前や特徴を鬼太郎に聞きながら)水木をそっと盗み見て、鬼太郎は安堵の息を吐いた。
 力仕事を諦めてくれてほっとしたのもあるが、それだけではない。つい最近まで水木がいた環境は、あまり良いものではなかった。絵を描くという、ある意味ありふれた(勿論、描く内容や手法によっては当てはまらないが)行為にも、もしかしたら嫌悪感があるのではと密かに案じていたのだ。だがそんなことはないようだと知れて、良かったと思う。
 そういえば、と今まで忘れていたことを思い出す。
 養父の水木も、鬼太郎が小さい頃、犬や猫、車の絵をさらさらと描いてくれたことがあった。特徴を掴んだ、けれど子どもが喜ぶようなユーモアを含んだ絵が鬼太郎は好きだったのだ。色んな物を描いてもらった気がする。
 ──どんなにか、養父のことを慕っていたか。
 あらためてそれを思う。
 鬼太郎はしんみりした気持ちを引っ込めて、水木に声をかける。
「いっぱい描いてくれてありがとう。そろそろおやつにしないか?」
 んー、と生返事をした後、水木はこだわった最後の塗りを終え、顔を上げた。ついでのように吹き出し型のカードも持ち上げる。
「鬼太郎、これどう?」
 デフォルメされた猫のイラストに、鬼太郎は目を細めて微笑んだ。
「すごくいいと思う。水木は絵が上手い」
へへ」
 照れくさそうに笑う少年に、鬼太郎もまた微笑む。
「ありがとう」
 水木はもにもにと口を動かした後、ん、と頷いた。素直に照れた顔がかわいくて、鬼太郎は気づいたらその頭をくしゃりと撫でていた。
きたろ?」
「水木はいい子だ」
「ん
 そわそわしつつも大人しく受け入れる様子に、鬼太郎の胸も温かくなった。
 青年と少年のほわほわした様子に、かしましい花の精達は顔を見合わせ呆れていたが、その声が聞こえるのは鬼太郎だけなので、特に問題はなかった。