たくとろ
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ワンライ「ステージ」

人生は誰かが考えたストーリーなんじゃないかとか思うことありますよね

世界が誰かによって用意された誰かのためのステージなら、そこに生きる私たちは誰かの用意した脚本を演じているだけなのかもしれない。そしてこの世界がステージなら、本来そこにあるはずがないものが置かれていたって不思議じゃない。むしろ、そうじゃないとこの状況は説明がつかない。私とロイの目の前にあるこの本は、絶対誰かが世界の外から用意したものだ。

「ロイリコ本?」

隣にいるロイが不思議そうに呟いた。なんなら少し引き気味だ。そりゃそうだよ、だってこの表紙にはおでこを重ねて照れながら笑ってる私とロイが描かれている。そしてさっきロイが呟いた文字が印字されている。なんとなく、意味は分かる。ロイリコはきっと、私とロイのカップリングだ。だからってそれをそのままタイトルにする人は中々いないと思うけど、その雑さが余計に用意されたものって感じがする。きっとこれを用意した人は私たちがびっくりして、ドキドキして、慌てふためいてみたいな話を作りたいんだ。

「ねえリコこれなんだと思う?」
捨てよう。多分誰かのいたずらだよ」
「うーんでも僕はこれ、ちょっと気になるよ」

私はこの芝居を降りたい。だけどロイは降りてくれないみたい気になる気持ちは分かる。ロイはそういうのよく知らないし、多分まだ<ロイリコ本>という言葉の意味も掴めてない。ただ自分と私の名前が繋がった言葉に自分たちが描かれた表紙に困惑して、少しの好奇心がそそられている感じだ。どうしよう、ロイは切り替えが早い方だし、私が捨ててしまえばそのうち忘れてくれるだろうけど、読んでみたいって顔に書いてある。あくまで比喩だけど。

「リコ、一回読んでみようよ」
「なんでそんなに気になるの?」
「だって僕らの名前書いてあるし逆にリコはなんでそんなに興味ない感じなの?もしかしてもう読んだ?」
「読んでないよでもどういうのか想像つくし
「リコの想像だとどんな本なの?」

ロイの純粋な目が眩しくて辛い多分私とロイがいちゃいちゃしたり、恋人になったり、結婚したりする話だよ!!なんて口にするのはさすがに恥ずかしいし無理。絶対に無理。段々顔が熱くなってきた。ああ、結局私は芝居に乗せられてきてるんだ。

言えない。わかったよロイ一緒に読もう」
「え、いいの?」
「その代わり、読んだら絶対捨てるからね!」
「うん。それでいいよ。ありがとうリコ」

お礼を言われることなんてしてないのにロイの笑顔がすごくすごく眩しい。でも逆にロイがこれを読んだら、この笑顔がどうなっちゃうんだろう。ちょっと興味が出てきた。

「じゃあ開けるよ、リコ」

一ページ目。表紙の絵がモノクロで載ってた。ロイはすぐに次のページを開いた。どうやら漫画らしい。そこにはいつもと違う格好の私がいた。黄色いスカートに白いシャツ、その上から薄い灰色のベストを着て、どこかの街で、ロイを待ってそわそわしてる。あの服はちょっと大人っぽくて素敵だけど、こんな顔をロイに見られるのは恥ずかしい。もう既にロイの顔が見れない。お互い黙ったまま、ロイがページをめくる。今度はロイが出てきて、漫画の中の私はすっごく安心してる。分かる。ロイの顔を見たら安心できる。なのに、今は横顔一つ見れない。見てるのに気づかれたら目が合って、絶対恥ずかしくなるから。漫画の中のロイもいつもと違う格好だ。大人っぽくてカッコいいけど、ちょっと寂しい。すると、私とロイは手を繋いで歩き始めた。分かっていたけど、完全にデートだ。訪れた場所は水族館。すっごく定番だ。色んなポケモンを見て、漫画の中の私たちはとっても楽しそうだ。ポケモンたちの描き込みがスゴくて、私も楽しくなってきた。ナミイルカのショーは水飛沫がスゴい。中段くらいにいた私たちのところにも飛んできて、それをいいことに私たちは体を寄せ合っている。ロイとあんな距離、絶対心臓がおかしくなる。そう思った、その時。ドキドキして揺れた、リアルの私の体がロイの体に触れた。お互いに視線を向けた。

「ご、ごめんロイこんなに近くに寄ってたの気づかなくて」
「いいよリコ。ふふ、すっかり集中してたんだね」
「ふぇっ!?あいや

ああ、まんまと芝居に乗せられてしまった。でも、仕方ないよ。だってロイがからかってくるんだもん。きっと、この状況は仕組まれたもので、この世界は誰かの用意したステージだ。でも、そこに生きる私たちの気持ちは本物なんだもん。
漫画を全部読み終えた。私はあれからずっと顔が熱いままだった。最後のページにいた私も真っ赤な顔をしていた。きっと、

「リコ」

今、ここで顔を上げたら、ロイが見る私の顔は

「漫画と同じ顔してる
ロイもだよ」

お互い、真っ赤だった。誰かが考えた脚本、誰かが用意した小道具、それに踊らされてるだけだって思おうとしても、この気持ちは私の中で生まれてきたものだって信じてる。ロイに向かって日に日に大きく激しくなっていくこの気持ちは。