いを
2025-07-29 22:07:52
658文字
Public 刀神
 

青き路抜ける、花ざかりの森

青嵐
・紫垂月さん【Metol_P】
お借りしています。

 新調した草履の鼻緒がきつかったので、少々手を加えた。左右に開いてゆるめる。玄関まで冷風はこない。風鈴の音も流れてはこない。こめかみから汗がにじんで、あごまで垂れる。裸足のまま草履に足を差し入れると、先ほどよりもゆるんでいた。たゆんだ鼻緒は、ゆるくカーヴを描いていた。
「あなたの目はまるで石榴石のようね」そう言った刀神がいた。猫目といえば聞こえは良い、私が感じたのは狐目だった。「大事になさっているのでしょうねえ。あなたのお嫁さん」と笑い、去っていった。私は私の目の色などに愛着はない。〝オヨメサン〟という単語にもぴんとくるものもない。ふと、木の幹のような色の髪が視界の隅で揺れた。
「どうかした?」
 沓脱石よろしく頑丈な木の板が壁ぎわに置かれており、そこに立って見下ろしていた。
「鼻緒を新調したのですが、少しきつかったようで」
 足の指と指の間がわずかに赤い。紫垂月頼宗は目をうっすらと細めて、「痛むかい」と問うた。かぶりを振り、鼻緒に入れたままだった足を下げて立ち上がった。挿げ替えた鼻緒は黒から藍色になっていた。私が選んだわけではなく、下駄屋の店主が選んだのだった。
「白と藍はよく似合う」
 足を見ていったのか、それとも彼自身の感想なのか分からないが、そう呟いて私にほほえんだ。少なくとも私を見て、あるいは私の目を見てほほえんでくれるひとがいる。――その理由が〝大事にしてくれている〟というのなら、あの少女の姿をした刀神が言うこともみとめられた。私は昔と比べてひどく、貪欲になっているようだった。