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来羅
2025-07-29 21:21:30
2609文字
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トワウォ
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酔っ払い(風信)
ワンドロライ第二回。
「
……
えええええ」
思わず開いた口を閉じることもできずに信一は入口に立ち尽くした。
呵々と笑う秋と、うんざりした顔の虎と、これまた呆れ顔の十二に囲まれて、龍捲風は酒片手にむすりとしている。
確かに。
確かに、疲れてはいるようだったのだ。
最近の暑さに耐えかねた常連客がひっきりなしにやってきては龍捲風を指名し、その間も住人たちの呼び出しに応じて城砦中を行ったり来たりの繰り返し。昼食をゆっくり取る間もなかったと珍しい愚痴を聞いたのはすでに三時を回っていたか。信一が帳簿片手に摘まんでいた菓子をその口に何度か放ってやったのも束の間、龍さん聞いてよと住人に捕まった龍捲風は再び信一の視界から消えた。
次に会えたのは、ぐったりと椅子にもたれ、けれどもそろそろ兄弟たちとの会合の時間だと億劫そうに立ち上がったとき。
さすがの信一も今夜ばかりは欠席した方がいいのではないかと苦言を呈したほどだった。が、兄弟たちとのひと時は、龍捲風がようやく何を背負うこともなく気を抜いていられる時間だ。少し飲んだら切り上げると言って出かけて行ったのが六時頃だっただろうか。
『信一、今すぐ来い! 面倒なことになった!』
呼び出した十二は、口調に笑いを含ませていたから、嫌な予感はあったのだ。
あったのだけれども。
「いったい、何が」
部屋に入るなり酒と煙草の充満した空気に咽そうになった。
洒落たテーブルの上には空になった酒瓶がごろごろと転がり、いつもの豪華な食事はすでにない。秋は酒豪だが、ここまで飲むような人でもなく、虎は言うまでもない。そして、空瓶は主に龍捲風の側に転がっている。ということは。
「うっそ、大佬、飲みすぎ!」
もしかして、もしかしなくて、これは全部この人が飲んだのか。
ギョッとして側に寄れば、据わった目つきで胡乱に見上げた龍捲風が信一をその潤んだ瞳に映して目を瞬いた。
「信一」
低く呻くような声。
あまり聞いたことのないそれに、つい背が伸びる。
「信一!」
「は、はい!」
手首を掴んだ龍捲風がそのままぐっと引いたせいで、前屈みになって顔を寄せる。煙草も掻き消えてしまいそうなほどに酒臭い。
「大佬、飲みすぎだよ」
「お前が悪い」
「なんで、俺!」
「お前のせいだ」
絡み酒かよ、と自分のことを棚に上げて唇を尖らせる。龍捲風が酒に飲まれることなど滅多にない。貴重な経験だが、こんなところは似たくなかった。
「もう、帰るよ」
大佬がすみません、と頭を下げれば、秋がさらに笑い、虎が溜息をつく。その違和感に首を傾げて十二へと視線をやった信一に、十二が「いや、たぶん悪いのはこっち」と答えて虎に頭を叩かれた。
「俺じゃない、秋が」
「大佬だって止めなかったでしょ」
「俺ひとり悪者はいただけないな、虎よ」
「あとで龍に怒られるのはお前だけだ」
「いや、ふたりともでしょ?」
突っ込んではそのたびに虎から小突かれる十二は、けれどもケラケラ笑っているから、何が何だかわからない。
「
…………
つまり?」
彼らが龍捲風に怒られるようなことを言った、のは理解して続きを促せば、秋がこそりと手招いた。けれどもそちらへ行こうとすれば、未だ手首を掴んだままの龍捲風が離さない。そしてそれを見て秋はまた声を上げて笑うのだ。
「秋哥?」
「つまり、そういうことだ」
「いや、全然、わかんないですって」
首を傾げて秋を見ていたら、今度は龍捲風に「信一」と強めに呼ばれて腰を抱かれた。そして甘えたように言うのだ。
「おいで」
とんとん、と腿を叩く龍捲風は、たぶん、相当、酔っている。
まさかと思うが、座れということか。そういうことなのか。いや、冗談じゃ済まされない。
酔っ払いがぐいぐいと引き寄せてくるのを、動揺しながら抵抗する。こんな場所でいったい何を考えているのか。三人の視線を受けながら、言葉にならない悲鳴を上げていたら、秋が頬杖をついて暢気に酒を呷っていた。
「お前の悋気は可愛いなぁ、龍」
は、と気を抜いた瞬間に酔っ払いの力が勝った。
なんだって、とバランスを崩して横座りになるようにその腿の上に座り込んだ信一の体を羽交い絞めにせんばかりに龍捲風が抱きしめる。
「ちょっ、大佬、待っ、待って」
「
………
いやなのか」
「い、嫌っ!? いや、じゃ、ない! っていうか、え、いや、待って!」
混乱する信一を置き去りに、首筋に顔を埋めた龍捲風は甘噛みするようにシャツの襟の隙間に鼻を突っ込む。ふたりきりのときでさえ、こんな龍捲風は見たことがないし、されたこともない。もはや信一は涙目で虎へと救いを求めることしかできず、それがさらに龍捲風の悋気を煽る結果となった、らしい。
「っ、だいろ────ッ」
頭を掴んだ右手が信一の顔を自分へと向けさせる。なに、と思ったのと、近い、と思ったのは同時だった。
唇を覆った酒臭い息。生温かな感触。びくりと揺れた体をものともせずに、あわいをなぞった舌先が口内に滑り込んでくる。
「
…………
っっ」
「あー、つまりな、いつも会合でお前の自慢話をする龍哥に、秋哥と大佬が」
「秋が」
「
……
秋哥が、龍哥の知らないお前のことをやたら事細かに話して聞かせたせいで、いつの間にか龍哥の酒が進んでたことに気づかなくて」
「そこはすまなかったな、信一」
「龍哥も一見何も変わらないから、気づいたときには、もう」
「酔ったお前を見るのは久しぶりで愉快だ」
「
……
秋、お前はもう黙れ」
なんとか視線を外に逸らしつつ説明する十二と、いちいち自分は無関係だと主張する虎と、反省の色のない秋の言葉を、逃げられない龍捲風からのキスを受けながら信一は聞いた。
龍捲風の嫉妬なんて、嘘だろう。
だって、龍捲風が。
いつも冷静沈着な大佬が。
「嫉妬!」
慌てるべきなのに、ちょっと嬉しいのはどうしようもない。
けれども腰を撫でる不埒な左手の動きは怪しげだ。
さすがの信一もこれ以上、人前では勘弁願いたい。
「大佬! 正気に戻って!!」
渾身の力で龍捲風を引き剥がし叫んだ信一に、残念ながら味方はいなかった。
翌日から『大佬は俺の半径一メートル以内に近づくの禁止!』令を出して龍捲風を大いに慌てさせ、再び秋と虎を巻き込んでのひと騒動になることを、まだ誰も知らない。
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