わいわいと賑わうショッピングモール。連休初日である今日は、ショッピングモール内でイベントを催しており大変人が多い。そんな中、忌炎は群衆からの好奇の視線に目を背けながら列に並んでいる。一つ前には恋人の青年が大変待ちきれない様子で、先程から検索したメニューを眺めていた。珍しく子供っぽい一面を見せる青年が可愛らしく、今の忌炎にはそれが唯一の癒しである。
今日は青年と共に、ショッピングモールのフードコートに来ていた。なんでも最近出店したジェラート屋が美味しいと評判で、多種多様の味を取り揃えているとテレビに取り上げられていた。たまたまその番組を見ていた彼が目を輝かせて「ここに行きたい」と指を差していたので、休日である今日足を運んだのだ。
人気とは聞いていたが、まさかここまで並ぶとは。並ぶ事は構わないのだが、如何せん女性が多くを占める列に体格の良い忌炎は目立つ。非常に目立つ。だが青年はそんな視線等気にしていない様だ。確かに彼は忌炎より一回り低く、幾分中性的な顔立ちをしている。忌炎に視線が集中しているとはいえ、男性ではあるものの自分より目立つ事は無いだろう。何より今の彼は、何味のジェラートを頼もうかで頭がいっぱいなのだ。周囲の目等、気に掛ける時間の方が惜しい。
こんな彼を見れるなら、多少気まずい思いをしてでも来た甲斐があったというもの。忌炎は彼に気取られない様に微笑むと列に向き直った。
次第に前の人がはけて、いよいよ自分達の番になった。青年は待ってましたとばかりにショーケースへ駆け寄ったかと思えば、ふと思い出したかの様に忌炎の方を向く。
「忌炎、貴方は何を食べたい?」
「お前の好きな物を選んでくれ」
その返答が気に入らなかったのだろう。青年は輝かせていた目を途端に細めて、じと、と忌炎を睨め付ける。とはいえ身長が足りず見上げる形になっている為、あまりにも迫力が無い。
「そうじゃなくて、俺は――」
「ほら、早くしないと後の人を待たせてしまうぞ」
尚も言い募ろうと迫る青年に一言足して丸め込む。彼とて他者に迷惑を掛けたい訳では無い。それでも納得はしていない様子で、睨め付けた表情のまま頬を膨らませた。その様は如何にも『俺は不満です』と顔に書いていて、思わず吹き出しそうになる。だがここで吹き出しでもすれば、本格的に臍を曲げてしまうので、すんでの所で留まった。
「……じゃ、トリプルでストロベリーとオレンジ。あとグレープも。コーンで」
青年はぶっきらぼうにジェラートを指さすと、すっかり押し黙ってしまった。……既に手遅れだったかもしれない。忌炎は罪滅ぼしも兼ねて、青年が視界に入れていたバニラと期間限定のピーチのダブルも追加した。
***
「忌炎はいつも、俺の事ばかり優先する」
購入したジェラートを持って、座席に着いた青年は唐突に不満を零す。彼の愚痴に忌炎は思わず目をぱちくりと瞬かせた。そんなつもりは無かったのだ。
忌炎は元々食べ物の好き嫌いも無く、栄養バランスさえ取れていれば特に頓着しないタチだ。青年と同棲している今こそ三食まともな食事を心掛けているが、自身だけなら最悪栄養バーでも構わないくらい食に興味が無い。それならば、青年の好きな物を頼む方が建設的だろう。同じ金を支払うなら、彼の喜ぶ物を選びたい。これは忌炎の意思なのだが、残念ながら青年には伝わらなかった様だ。
「俺はただ、お前の喜ぶ顔が見たかったのだが……迷惑だったか?」
忌炎がそう問うと、青年は「そ、そういう訳じゃないけど……」と尻すぼみに答える。青年は暫くごにょごにょと言葉にならない音を発した後、会話を断ち切るかの様にオレンジのジェラートに齧り付いた。
その瞬間、ぱっと花が咲くかの様に表情が明るくなった。
付属のスプーンを手に取りストロベリー味を一口。これもお気に召した様で、次第に笑みが零れていく。その隣のグレープ味も一口。彼の笑顔を見るに、こちらも気に入った様だ。先程まで不満たらたらだった表情がまるで嘘の様である。
(ああ、これが見たかった)
好きな人の喜怒哀楽を間近で見れるのは恋人の特権。不貞腐れた表情も可愛いが、やはり彼には笑顔が似合う。
忌炎はスプーンでバニラのジェラートを掬い、彼へと差し出した。
これも気に入れば良いが。そう、一人思いながら。
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