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kanaco
2025-07-29 08:14:15
4393文字
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【十二信】この花冠をキミに
《十二信》成立済CPの仲良しな十二信。魚蛋小妹から花冠をもらった十二くんが、とりあえず信一くんの頭にのせる話。
明るい陽射しが降り注ぎ、柔らかな風が吹く気持ちの良い晴れの日。
いつものように九龍城砦に足を踏み入れた十二は、珍しい光景に思わず声をかけた。城砦の中庭で小さな女の子たちが楽しそうにお喋りをしている。その彼女たちが頭につけているものが気になったからだった。
小さな頭に乗っけられた色とりどりの輪。
花や葉っぱを編んで作られる頭飾り。花冠であった。
「よぉ、お嬢さんたち。どうしたんだよ?それ。すっげぇ可愛いじゃん」
そんな風にフランクに話しかければ、顔馴染みである少女たちは「十二少だ!」「こんにちは」「信一お兄ちゃんに会いに来たの?」と可愛らしい声を次々に上げ、嬉しそうに駆けよってくる。十二も彼女たちの方へ近づいていくと、あっという間に取り囲まれた。十二は子供たちの目線に合わせるために膝を折る。冠を乗せるおませな女の子たちはスカートをひらりと揺らめかせ、淑女のように丁寧にお辞儀した。十二も柔らかく笑い、合わせるようにペコリと頭を下げる。
頭に乗せている花冠をよくよく観察すると、それは生花ではなく造花であった。しかし実によくできていて、少女たちの好みや個性に合わせるように、様々なタイプの色合わせや花合わせで目を楽しませてくれる。
淡いピンクやオレンジを基調とした薔薇の華やかな冠。
タンポポのようにはっきりとしたイエローが並ぶ春めいた冠。
ラベンダー色や白の小花たちで統一された細身の爽やかな冠。
オリーブの葉っぱが主役の、そこに白い花がアクセントに効く大人な冠。
濃い発色をする赤いポピーとそれと同じくらい濃い青の花が交互に散りばめられた、可愛らしくも個性ある花冠を乗っけた魚蛋小妹が、ご機嫌な様子で十二に返事をした。
「羅さんがね、最近趣味で作ってるんだって。娘さんにプレゼントするために作る練習しているからって、私たちの分を作ってくれたの!」
「なるほど、そりゃぁいいな」
色鮮やかな冠も少女たちの笑顔も賑やかだ。中庭がパッと華やいでいる。子供たちの鈴のように明るい声が城砦に響くのは実に良い気持ちだ。そう思った十二は、少し離れたところに座ってこちらを見つめている女性にもニカっと笑って声を飛ばした。
「よぉ!お前も似合ってるじゃん」
その視線の先には、体育座りをしたまま少しだけ恥ずかしそうにしている燕芬姐がいた。頬杖をついてこちらの様子を伺っている。服装は馴染みのある黄色のチェック柄とデニムパンツというシンプルでボーイッシュな組み合わせだが、その頭には少女たちと同じように花冠が乗っていた。
「そういう調子の良いこと、アンタはすぐ言うわよね」
十二の幼馴染である女の子は、ちょっとだけ拗ねたような言い方をした。
んー?と首を傾げた十二は「そんなことを言うけど...」と、改めて燕芬姐と花冠を見た。優しい色味をした青や紫、ピンクの花がバランスよく編み込まれた、華やかなるも大人のシックさを持ち合わせる美しいクラウンは、凛とした美しさを持つ燕芬姐の顔の雰囲気と相まって輝きを増しているように見える。
「お世辞じゃねぇって。マジで似合ってる。可愛さと綺麗さのバランスが良いよ」
「当然よ!」
十二が素直にそう褒めれば、タタタッと駆けてきて燕芬姐の横に並んだ魚蛋小妹が両手を腰に当てて胸をはり、自慢げな顔で言う。
「だって私がお花を選んだんだもの!燕芬姐に似合うなって思うお花で作ってもらったの」
「さすが魚蛋小妹。アイツにピッタリだよ」
「そうでしょ。燕芬姐をね、お姫さまにしたかったの!」
「いいなぁ。燕芬姐は魚蛋小妹のお姫さまなのか」
魚蛋小妹の屈託のない笑顔が、頭上の花に負けずに咲き誇る。横の燕芬姐がますます恥ずかしそうに、しかし嬉しそうに薄っすらと笑みを浮かべた。仲の良い姉妹で実に微笑ましい。そう十二はウンウンと頷く。
すると魚蛋小妹が「そうだ!」と声を上げた。座っている燕芬姐の背後に置いてあった紙袋を手に取る。
「羅さんが1つ多く作ってくれたの。十二少にもあげるね」
「俺?」
「あ、でも十二少の分じゃないよ。大人のサイズだから十二少のお姫さまにあげたらいいよ」
きっと“きゅんきゅん”しちゃうのよ。
魚蛋小妹が「はい」と紙袋を手前にだした。
「俺のお姫さま
…
」
十二がそう呟きながら、ありがたく手に取って袋の中を覗き込む。なるほど、中には少し大きめの花冠が1つだけ入っていた。
「え!十二少って恋人いるの?」
「知らなかった、どんな人?」
「私たち、その女の人を知ってる?」
わぁ!と他の女の子たちが興味津々な顔を寄せてくる。その勢いに「おわっ」となった十二は苦笑いしてからスクッと立ち上がった。それから口に人差し指をあてるとバチン!と悪戯っぽくウィンクをする。
「内緒」
「「「え~!」」」
ワケ知り顔をした魚蛋小妹と燕芬姐だけが、紙袋を手に取った十二を見てニマ~と笑う。それにニッと笑い返した十二は「サンキュー!魚蛋小妹」とお礼を言い、軽やかな足取りをしてその場を後にするのだった。
*✿**✿**✿*
「うわぁお、ちょー不機嫌」
少女たちと別れたその足で十二は信一の部屋を訪れた。信一は帳簿の合わせの真っ最中であったが、なんともタイミングが悪い頃合いだったらしい。十二はとんでもないしかめっ面と遭遇した。部屋に客が来たことに、信一が眉間に皺を寄せたまま「ああん?」と顔を上げる。いくら顔が整っている男だと言っても、表情にあまりにドスが効きすぎていて台無しになっていた。
「おい、黒社会出てるぞ。ブス真っ最中じゃん」
「よぉし!ストレス発散にお前ェのツラ殴らせろ。俺と同じくらいブスにしてやるよ」
「暴力って良くないと思いマース。何だよ、また計算が合わねぇの?」
「たぶん兄貴が
…
」
「どうにかできねぇのかよ、その毎度の戦いをさ」
呆れたような十二の言葉に、苦味つぶしをした顔の信一がフゥと息を大きく吐く。机を見れば灰皿の中に重なっている吸い殻の量が不穏だ。
「お疲れですねぇ」
十二はそう言うと、後ろに組んでいた腕を前の方に出す。
「そんな時にはこれさ」
背に隠し持っていたモノを信一の頭へと真上から落とした。
パサッ。
何かが頭に降ってきて信一が首を竦めた。それから目をパチクリとさせる。十二はニッコリ笑って聞いた。
「する?きゅんきゅん」
「ハァ?」
信一がこれでもかという程に怪訝な表情をする。そして首の向きだけを変えて、椅子に座ったままに少し離れた場所にある姿鏡を覗き込んだ。それから自分の頭に置かれたモノが白い花が咲き乱れる花冠であることを理解すると、もう一度マジマジと自分の姿を見て感心したように呟いた。
「俺、何でもサマになるな」
「自分で言うか、それ」
キリっとした顔がなんとも大仰で、十二は半笑いのままに返事をする。しかし実際サマにはなっていた。存在感ある華やかなホワイトローズと落ち着いた緑みを魅せるユーカリの丸みある葉。目を引くようなボリュームと共に白の清楚さも兼ね備えた花冠はインパクトが強い。しかしそれはあくまで信一の顔立ちを際立たせるために華やいでいた。端的に言って似合っているし、美しい。十二は大満足しながら信一を見る。
「何だよ?似合いすぎて惚れた?」
自分を満足そうに見る十二に気がついて、信一がフフンと得意げに笑ってみせる。
「それについては、とうに惚れてる」
「それはそう」
信一はその返事の方に満足したようで、頭上の花冠をポンポンと叩いた。
「どうしたんだよ、コレ」
「中庭で魚蛋小妹たちがつけているのを見かけて、話しかけたらお前の分をくれた。十二のお姫さまに被せてあげてね、だとよ」
頭に乗せれば“きゅんきゅん”するってさ。女の子は可愛いねぇ、と十二がニヤリと笑えば「おひめさまぁ?」と信一が素っ頓狂な声を出した。それから空かしたように笑った。
「俺がお前のお姫さま?」
「そう。“きゅんきゅん”した?」
「いや、ゾワゾワした」
「だよなぁ、分かるぅ。そういうタマじゃねぇよな」
寒気がするとわざとらしくブルブル体を震わせる信一に、十二はあっけらかんとしながらカラカラと声を出して笑った。しかし思うところがふっと湧いて出て「ああでも」と言い直す。
「そうは言っても龍兄貴の前じゃお姫さまかもしれねぇなぁ。そんでもって、部下たちの前じゃ女王だな」
「女王?そうかねぇ。
……
何だよ、お前も俺にかしずいてくれるわけ?」
冠を乗せたままの信一が太々しく椅子にふんぞり返って意地悪そうに笑った。十二はそれを呆れ顔で見ると「なんで俺がお前にかしずくんだよ」と片方の眉だけ上げて抗議する。
「おいおい、お前がクイーンなら俺はキングだろ」
「ほぅ、キングねぇ」
「でもまぁ」
十二は一度言葉を切った。そして流れるような自然な動作をして、油断している信一の手をフワリと優しく取った。恋人の唐突な行動に信一の反応がしばし鈍り、冠を被さられた時と同じようにその形の良い瞳をパチクリとさせる。十二は気にせず “きょとん”としたままの青年の手の甲に滑らかにキスを落とした。紳士らしくスマートに、しかし顔はキザったらしく片目をつむって見せる。
「かしずくんじゃなくて“お前の手を取る”だったら、何度だって喜んでするぜ?俺は」
だから一緒に旗揚げよう。
数秒の間が流れる。フッと息を吐くように笑って信一が「まだ言ってる」と返した。
「お前がその気になるまでずっと言うけど?」
そう言いながらも、十二がパッと潔く信一の手を放す。信一がますます笑みをこぼした。十二は何度だって誘いを口にするが、しかしそれ以上はしつこく追ってはこない。無理に押すことはなく、ただただ自分が振り向くのを待っている。あくまで信一の意志を尊重するそのサッパリとした気性と度量が、信一にはいつだって好ましく映るのだ。
「お前のそーゆーとこは“きゅんきゅん”くる」
「そう?じゃぁ揚げる?」
「揚げねぇ」
「つれねぇなぁ」
返事を気にした風もなく小さく笑って、十二は今度は右手のひらを上にしてうやうやしく差し出した。
「じゃぁとりあえず気分転換としよーぜ。ついでに龍兄貴のポケットの中身をカツアゲしにいこう」
「ノった」
信一がその手のひらに自分の手を気取った風に重ねる。
それから今日一番の”悪いカオ”をした2人は、どうやってあの龍捲風から容易く領収書を巻き上げるかの算段を相談し始めたのだった。
*✿**✿**✿*
つーかさぁ、これって姫用じゃなくて花嫁さん用の髪飾りじゃねの?
気づくねぇ。だから言ってんじゃん。俺とお前でキングとクイーンだってさ。
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