【二次創作|スーリニ】我慢できずに勝手に書き始めた神籬篇

土下座します。まつりさんの「suicidal/leniency」の二次創作です。なのにクレマリー先生たちは影も形もないです。というかスーリニの雰囲気も…な、なくね…?? 暇があれば続き書くかもしれません いつもありがとうございます

登場人物


白銀真冬
神籬、国立帝都医術院に勤める漢方医。
蒼司とは幼馴染。


沖田蒼司
神籬の帝都見廻組に所属する凄腕の剣客。職業軍人。
真冬とは幼馴染。


嘴馬遼士郎(※序幕は名前だけの登場です)
真冬同様に医術院に勤める外科医。
リューデンへの留学経験がある。真冬、蒼司と幼馴染。


***

序幕



 深夜。──音もなく、深々と雪が暗い街を覆っていた。月明かりは雲に隠れてしまった。息遣いすらも凍てつくような外気に、男は深く息を吐きだす。腰に差した刀に意識を向け、橋の向こう側に一つの気配を見た。
 行燈を片手に、橋の向こうの人物は男へゆっくりと向き直る。

「かような時間に、何者だ」

 僅かに雲の切れ間から差し込む月明かりに顔が露わになる。
 銀髪に彫の深い顔。西洋の血が混ざっているのか、すらりと背は高く、女に言い寄られそうな雰囲気があった。少なくともまともな人物ではあるまい。男はその銀髪を睨む。

「最近、花街で原因不明の高熱に苛まれる患者が多くいる」

 銀髪はそう言って、男を一瞥する。実に落ち着いた受け答えをするな、と男は思った。

「医者か」 男は刀の柄に置いていた手を外し、一歩前へ踏み出す。「名は」
「白銀真冬。医術院の者だ」
「医術院……帝都医術院か?」
「ああ」 真冬はどこか影のある表情で短く答える。「一つ、聞いてもいいだろうか」
「何だ?」
「この近辺で女郎が斬り殺される事件が起きている。何か知らないか」
……さあ。知らんな。天翼廊のことは詳しくない」
「誰も天翼廊とは言っていないはずだが」

 真冬は鋭く男を睨んだ。男は再び柄へ手を伸ばす。そして脇差を勢いつけて引き抜き真冬へ振りかぶった。
 金属同士がかち合う甲高い音が響き、真冬は懐に隠していた短刀で必死にその刀を押し戻そうと力を籠める──鍔迫り合いのたびに刀の重さで膝が折れて、真冬は己が暴力の前では如何に無力な存在なのか思い知る。

「迂闊だった。まさか天翼廊に出入りしてる医者がいたとは」
……、やはりお前が、卯の花花魁を、斬ったのか!」
「そうだ!! あの女──俺を、俺を、慕っていると言っておきながら!! 他の男を!! 、何故だ!? 卯の花は、俺の敵娼おんなだったはずだろう!? 何故だ、なぜ、何故? なぜ……
「──ッ!!」

 同じ症例。真冬は目の奥に気鬱の色を見る。明らかに尋常な精神状態ではない。男は叫びながら狂った太刀筋で脇差を再び上段に振りかぶった。防ぎきれず肩に峰が激突する。上体を崩した真冬はそのまま雪の上に転がされる────男がその好機を見逃すはずがなかった。

 死ぬ。斬られる。間違いなく、避けられない。
 真冬は固く目を瞑る。
 こんなことに首を突っ込むべきではなかった。そう思いながら。


「────が、アッ!?」

 悲鳴が響く。何が起きたのか一切理解できなかったが、男は地面に倒れ伏していた。真冬は月明かりに照らされた眼前の男を見上げる。
 白と黒のだんだら羽織。黒い袴。男は打刀を軽く振って鞘へ戻す。
 緋色の髪に、青い瞳。病人のような白い肌。


「蒼、司……?」

 たった一撃の峰打ちで男を倒したのだと気づいたのは、彼に手を差し伸べられてからだった。真冬は恐る恐るその手を取る。

「無事でよかった。怪我してない?」

 幼馴染の一人──沖田蒼司は相変わらず穏やかな声色で真冬へ問うた。子女でなくともくらりと来そうな美貌が雪の白と月の光に照らされて、真冬は少しだけむっとしてしまう。

「いつ、天翼廊へ」
「ちょっと前に。遼士郎が真冬を気にしてたから、土方さんに頼んでこっちへ行かせてもらうことにしたんだ」 蒼司は軽く真冬の肩についた泥を払う。
……土方さんに恨まれるぞ」
「あはは。いやあどうだろ、あの人常に色ボケだから、恨むほどでもないんじゃない? 今頃もしかしたらサボって花街で色紙ばら撒いてるかもよ」
「ああ勘弁してくれ。その光景が目に浮かぶ」

 真冬は蒼司の言葉に軽い頭痛を覚えた。蒼司とは同僚という間柄の剣客、土方は随分と足しげく花街に──高級娼館、と西洋の言葉では言うそうだが──天翼廊へ通い詰めていた。
 天翼廊は花街の中でも最高級の店である。入るだけで一体いくらがかかるのか。春を買いたければ己の魂すら金に換えて売らねばと言われるほどだ。
 真冬はずきりと胸の奥が痛んだ。一人の女郎を、想ったせいであった。

、白鷺……

 その女郎は夜伽をしない。
 誰にいくら積まれようと春を売らなかった。──というよりも、買えるものがいないのだ。高価たかすぎる、という理由で。さらに他の理由もあった。一つは彼女が巫覡であるからだ。そしてもう一つの理由は────

「ねえ、真冬。この男が例の〝卯の花〟殺し?」
「恐らく。だがおかしい」 真冬は顎に手を当てて、乱れた着物を軽く正した。「気鬱の病か、高熱で魘されたような具合だった。もしかすると例の怪死事件にも、関わっているかもしれない」
「ああ、例の──〝連続腹上死事件〟」 蒼司は軽く目を細める。「遼士郎が気にしてたのもまさにそれだよ。ほら、誰だっけ……
「不知火花魁?」
「そうその人。豊前屋の馴染みが何人も死んでるって」
……豊前屋は一見の客は入れないはずだ。何かおかしい」
「僕は一度こいつを屯所へ連れて行くよ」

 蒼司はひょいと気絶している男を小脇に抱えた。まるで仔猫を抱えるような気軽さである。

「真冬、もし力になれることがあったら言ってね」
……ああ。蒼司」

 真冬は美丈夫を呼び止める。蒼司は軽く振り返って、

「ん?」
……お前も気を付けろ。最近は何かと物騒だからな」