himuri
2025-07-28 22:30:54
3169文字
Public #鋼徹ワンドロワンライ
 

「何年経っても」

第十一回 鋼徹ワンドロワンライ、「十年後」と「かわいい」で書かせていただきました。さ、最後なの辛い。



 まだ村上がボーダー入りたてだった頃、そのサイドエフェクトで若干特別扱い気味だったので、幹部の方から、師匠を決められた。
 三門市ではないところからスカウトされた身でもある為、そもそも両親などと離れて暮らしている状況ともなれば、生活面でもサポート出来る人が好ましい、となったわけだが、若い高校男子である村上の周囲で、同性でそんなにちょうど良い面子がいるわけもなく。
 結果、まず第一に扱う武器で決められた師匠が、荒船だった。
 正直、一人暮らしも初めてで、友達と呼べる相手もおらず、高校にはこの後編入予定、となっている状況で、同年代をお膳立てしてくれた幹部には感謝している。
「よろしくな」
 初めて会った荒船は、脱帽して笑顔を向けてくれた。少し勝ち気に見える笑顔は年相応だったが、話す時の雰囲気や、予定をしっかり立てるところなどは同年代にあまりいなかったタイプだった。
 荒船に対して最初に感じたのは「しっかり者」で。

「おまえ毎回ボーダー来てるけど、家の事とか平気なのか?」
「え? あ、いや……まだ全然」
 幹部たちからある程度村上のデータはもらっているのだろう荒船は、ある日突然そう言った。ボーダーに通うようになって四日目くらいの事だった。
「別に毎日来なくていいんだぜ」
「でも早くいろいろ覚えたいし」
「熱心でいいけどよ。そのままだと、高校始まってからいろいろ詰むだろ」
「う、うん……そうかな」
 こちらに引っ越してきた当日は親がいろいろやってくれて、必要最低限のものはある。ただ、これからやらなければならない、例えば食事の事とか、洗濯の事とか、そういうものは正直全然で。
 とはいえ、食事は外食すればいいし、洗濯はコインランドリーが近くにあるのだが、それらも全てそこそこ金がいる。どうしようかなとは思っていても、そう簡単に動く気になれず問題は放置されていた。
……まずいかな」
「まずいだろ。俺、行ってやろうか?」
「え」
 そんな、悪いよ、とは何度も言ったものの、荒船は決断を覆すことなく、気が付けば日程も時間も決められて、あっという間に当日を迎えたのだった。

……よ、よろしくお願いします」
「ちょっと緊張しすぎだろ」
 いつもボーダーで会う時くらいの雰囲気でやってきた荒船に、村上はどう接して良いかわからず、結局いつもの師弟みたいな感じになった。
「よし、じゃあまず掃除からだな!」
「わかった」
 荒船は、どうやら何か計画を立ててきたらしく、開いたノートにはびっしりスケジュールが書きこまれていて、これ全部やる気なんだろうか、とちょっとゾっとしたのを覚えている。
 そして当然ながら、高校男子二名では予定していた内容の半分も終わらず一日が終わったのだった。
……悪い、これは俺のプランが甘かったな」
「いや、そもそも俺が何もやってないからだし……
 予定していた時刻を一時間も過ぎた頃、今日はここまでにするか、と言い出したのは荒船だった。その頃には二人とも疲れ果てていて、効率の悪さにげんなりしていた。
「こうなったらまた明日だな」
「えっ」
「ここまで来たら中途半端に終われねぇだろ」
 そう言って、疲れ果てているくせにニヤリと笑った荒船に対して村上は、しみじみと思ったのだった。
 負けん気が強いなぁ、と。
 そして翌日も荒船がやってきた。二日目はいろいろなグッズを持ってきていて、ある程度効率化が図れるかも、となったのだが、いざ始まってみると、使い忘れていたり、使い方がわからなかったり、手順が多くて面倒になったりして。
 結局、さらにもう一日追加して、ようやく当初の予定していたところまでが終わったのだった。
 荒船は、二日目の時もげっそりしていたものの、諦めず。
 ついに三日目にして終わらせた時には最終的に二人で抱き合って喜んだのだった。
「終わった!」
「よくやったな!」
 二人揃って喜びを嚙みしめる。荒船はガッツポーズまでしていて、こんなに他人の部屋のことで喜んでくれるのか、なんて感心してしまった。
 そしてその喜びようときたら。
 普段の姿がキリッとしているだけに、その様子につい「可愛いかも」なんて思っている自分にびっくりした。
「ありがとう、荒船!」
「おう、終わってよかったな!」
 もちろん、上っ面だけやって根本の問題が解決していないところもたぶんあるのだが、高校男子二人でやりきった事を考えれば、本当によくやった、という話だった。そして荒船は、ノートにあった一日のスケジュールを書き換えて、三日、とした。
「今書き換えるんだな、それ」
「ああ、今後こういう事があった時にな」
「今後あるのか?」
「またこの部屋綺麗にする時に役立つだろ」
「ま、また手伝ってもらうのかな、俺」
「あり得なくはないだろ?」
 そういう時の為のメモだ、と胸を張って自身のノートを見せてくる荒船に、村上はなんだか本当におかしくて、大笑いしたのだった。



「今思えばあの時が最初かなぁ……
「何がだよ」
「ほら、俺がボーダーに来たばっかりの頃の掃除」
「あーあったな、そういや」
 今日は、久しぶりに二人が揃って部屋の掃除をする日だった。
 あれから十年が経過して、とっくに成人した二人はいまだにボーダー隊員として活躍している。とはいえ荒船は指導を主に担当する人員として活躍しており、村上はいまだ現役で戦っている。
 二人が恋人同士になってもうだいぶ経つ。そして今になってようやく同棲する事になり、今はその引っ越しの為の掃除中なのだった。
「あの時が、俺が最初に荒船を意識した時かも」
「は、あれが?」
「あの時の荒船のガッツポーズで」
「ガッツポーズで……?」
 荒船は想定外すぎた様子で、唖然としている。実際荒船が特別になっていった過程なんていくらでもある。やれ戦う姿が格好良かっただとか、頭がいいところとか。
 でも確かに、荒船に対して強い興味を引いた瞬間は、あの時の掃除で、あの最後のガッツポーズと、そしてスケジュールの書き直しだったかもしれない。
「そんな前から俺が特別だったって?」
「うん、そう」
 学生時代にそう指摘されたら恥ずかしくて顔が赤くなっていたが、すでにこの程度では動揺もしない。
「だから感慨深いな。ついに同棲なんだなって」
「まぁちょっと遅いくらいではあったよな……
 ボーダー隊員ではなかった同級生たちも、職について数年。もう転職している者もいれば、はじめの会社で頑張っている者もいる。そしてボーダー隊員でも、辞める者もいればいまだに現役を走る者もいるし、別の業務を受け持つ者もいて、メインの現役は昔とは様変わりしている。
「荒船」
「あぁ」
「これからよろしくな」
「おう、こちらこそ」
 二人はそう言ってきちんと礼をした。ちょうど拭き掃除中だったので、三つ指立てて、みたいなポーズになっていて、それに気づいてつい二人して笑ってしまった。
「終わったらかげうら行くか」
「ラーメンも食べたい」
「あーそれは悩むな……
 そうして。
 すっかりスケジュールも自分たちのペースに合わせて作られるようになって、もう十年。
 二人はまだもう少し、新しい生活に向けて掃除を続けるのだった。
「終了予定時間十八時な」
「あと二時間か。ちょっと遅れてるかも」
「気合いれるぞ」
 そして相変わらず、こういう時の荒船は負けん気が強くて、変わらなくて、愛しいなぁ、と思うのだった。

 



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