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☆人/H星人
2025-07-28 20:12:26
22209文字
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間話 掟と話し合いと…集合?
五つ国には
固い掟が存在する。
それを破る者には法の番人がやってきて、天罰を下す━━━
五つ国に属する者であること
婚姻する王子の国に属する者であること
王の認めた家柄であること
王子が認めた者であること
この掟を破った者はどうなるか
…
今回はその話━━━━
〇〇〇
アテナは武の城、自室に戻った途端ザードによってベットに押し倒された。
「ざ、ザード様待っ
…
」
必死に拒否の言葉を言おうとしたアテナの口は塞がれてしまった。
ザードは口を重ねたまま、アテナの太股を撫でる。
「!!!!?
ざざざざ、ザード様駄目です!」
「てめぇは俺の女になったんだ。おとなしく抱かれろ
…
それに」
ザードはニヤリと笑うと、アテナの胸に触れた。
「あ、」
「お前の体に服が張り付いてて、エロいしな」
アテナは顔から火が出るくらいな勢いで恥ずかしくなった。
━━それは
水でびしょ濡れだから
…
!
その言葉が出ない。
頭で拒否していても、体はなすがままとなってしまう
…
「ザードさまぁ
…
」
「すぐに気持良くしてやるよ」
ザードの手がアテナの服の帯に触れた━━━━
その時、
「ぶっーーー!!!」
「ぶがっ!」
「ザー君!?」
白い兎がザードの顔に当たった
…
…
否、飛んできた。
兎が飛ぶわけがないので、慌てて元を探す━━━
だが、それはあまりにもあっさりと終了した。
「
…
このっ
…
クソ親父!」
いつの間にかドアが全開な上に、ザード達の様子を王様
…
父のレオが見つめていた。
ザー君も彼がブン投げたらしい(爆)
(親子揃って動物を投げてはいけません)
ザードはワナワナと体を震わせて、レオに食ってかかった。
「何しやがるんだ!
せっかくアテナと
…
!」
「子作りならば大いに結構だ。むしろ私は応援する」
レオはザードの言葉を遮り、二人の行為をあっさりと肯定した。
しかし、それに反して溜め息で続ける。
「しかし
…
まあ、それを気に入らない奴
…
等もいるらしくてな」
「奴ら?」
コクりと頷くレオは体をズラシ、後ろの人物へ道を開けた。
「
……
あ」
「あ。じゃない。頭の触角引っこ抜くぞ」
少しくせ毛の水色の髪
…
灰色の瞳は不機嫌そうに光り、女性のような柔らかい顔立ちは明らかに怒りに満ちていた。
「しつこくまた出たな、ヒサギ」
「煩い、出たくて出たんじゃねぇ!!これ見ろ!」
またまた出た(苦笑)ヒサギはザードの目の前に一枚の紙を突き出した。
「『武の国ホドにて会議をされたし。
至急王、王子は集合すること━━知の国ケフラー王』
……
これが、全ての王の元へ届けられている
…
いくら種馬ガキでもこの意味が分かるよな?」
ザードが差し出された紙を読む前に、声は内容を読みあげてくれた。
声の主を探すと、ヒサギの後ろ━━部屋の外に位置する廊下に背中をもたれる黒い男がそうだった。
━━ああ、さっきの
…
やっと平静を取り戻したアテナは男の姿を見て、先程の記憶を呼び起こした。
衛兵に指示を出し、父達を連れていって
…
その後ザードと自分を見逃してくれた黒い━━━
「工の国コクマー国王、
ヒイラギだ
…
あと」
気付かぬうちに首を傾げていたアテナを見かねて、レオは後ろの男を紹介してくれた。
ついでに
「せめて布団を巻いたらどうだ
…
?
服透けてるぞ、アテナ」
「
…
きゃあ!!」
レオの言葉にアテナは慌てて布団を体にあてた。
「
…
とにかく
…
こっちのキルティー領事件よりも、お前等の事の方が重大ということだ
…
」
溜め息混じりに言ったヒサギはアテナとザードを交互に見て、再び息を吐いた。
「掟破りには法の番人がやって来るんだよ
…
」
〇〇〇〇
アテナは急いで服を着替えていた。
ヒサギの溜め息の後、
フルフルと震え始めたザードはいきなりアテナに『着替えろ!』と怒鳴り、走り去っていった
…
状況は飲めないが、とりあえず水浸しの服を着替えられるのだから、まあ文句はない
…
「掟
…
掟ってなんだろうねザー君?」
足元で頭をグリグリと擦り付けていたザー君はアテナを見上げて首を傾げた。
「ぶっ?」
「
……
何か、ヒサギ様が言ってたような気がするのだけど
…
」
処刑されそうになった時
…
ヒサギがザードに言っていた。
掟は四つ
…
?
いや、三つ?
「思い出せないなぁ
…
」
アテナはザー君を抱き上げて撫でた。
〇〇〇〇
アテナは服を着替えると部屋を出て、長い廊下を歩き始めた。
━━そういえば、
行く場所を聞いていない
…
そもそもザードの元に行くべきなのかも怪しい。
しかし部屋で待機していろとも言われていないし
…
「(とりあえずザード様の部屋に行けば何かあるかもしれない
…
)」
アテナはちょっとした不安を振り払い、自分に言い聞かせた。
それにしても、相変わらずこの廊下は昼間にも関わらず、長く薄暗い
…
シャンデリアのほとんどは壊されている(?)為に明かりが乏しい。
防犯もこれでは難しいのではないだろうか
…
?
━━と、その時
視界に人影が映った。
薄暗い為に気付かなかったが、ずっとその場にいたらしい
…
人影は壁に寄りかかる体を起こし、アテナに向き直った。
「貴様が『アテナ』か?」
凛と迷いのない低音が響く
廊下の窓から光が入ると、人影の姿がはっきりと写し出された━━
無表情な顔はまるで人形のように整っている。
そして、後ろでキッチリ一つにまとめられた金色の髪は一寸の乱れもなく、澄んだ水のような切長の瞳によく合っている
…
細身の体に合わせた服も清潔な雰囲気同様に、塵一つ付いていない。
アテナはそんな高貴な雰囲気に圧されつつも、控え目に頷いた。
「は、い
…
アテナは私ですが
…
?」
「では、即刻この国から出てゆくのだ」
「━━
……
えっ?」
アテナは男の言葉に体を硬直させた。
「貴様の生家、キルティー領は工の国コクマーの領土
…
よって、他国の人間と婚姻もしくは同棲する事は禁止されている。なにより、貴様の様な平民が将来国を担う王子と釣り合うわけがない━━━退国せよ」
「
…
あ」
男の言葉が
胸に突き刺さる━━━
それは、全て紛れもない事実
…
「ご
…
めんなさい」
勝手に口が動いた。
ザードと心を通じ合わせたとしても、相手は王子
…
自分では無━━━
「アテナ!」
その瞬間、馴染みのある声が響き、腕を引っ張られて抱き締められた。
やはり、気付かないうちに後ろから来ていたらしい。
アテナは抱き締めてきた相手を見上げた。
「
…
ザード様」
「コイツの言うことなんざ気にするな
…
!!
お前は俺の事だけを考えてればいいんだ」
━━安心する胸の中でアテナは素直に頷いた。
「━━だから、お前がいなくなるのはザードの為にもなるって言ったのに
…
」
隣からも覚えある声が上がる。
「ヒサギ様
…
」
「アテナ、お前の存在がザード
…
いや、五つ国全てを壊すかもしれないぞ」
自分の髪をもてあそぶヒサギは目を細めた。
〇〇〇
一同は中庭へと移動した。
その場所にはテーブルと五つの椅子━━━
「━━相変わらず、この国の備品には不備が多すぎるな」
金髪の男は眉間に皺を寄せて、背もたれが壊れかけた椅子に手をやった。
その様子にザードは舌を鳴らした。
「文句あるなら座るな、てか帰れ馬鹿フェルナンド」
━━━
…
フェルナンド?
アテナは首を傾げた。
「(どこかで
…
聞いた事がある名前
…
)」
━━そう、確かレオが以前言っていた
…
「
…
知の国ケフラーの王子フェルナンドだ。
……
お前、俺の事も知らなかったからな」
「え、え?」
溜め息混じりに言うヒサギは呆れたようにアテナを見た。
…
知の国
…
ケフラー
…
………
王子
…
!?
「お、王子様!?」
アテナは一際大きな声を出し、金髪の男
…
否、王子フェルナンドに頭を下げた。
「すみません
…
!
あの、私、まだ知らない事が多すぎて
…
それに、ザード様やヒサギ様とまっったく違う雰囲気だったのでまさか王子様だったなんて
…
」
「弁解は結構だ」
フェルナンドは冷静に切り返すと、ジロリと残りの王子を睨んだ。
「キルティー領での状況は頭に入っている
…
それを含めて、始めに出会った王子がこの二人ならば当然の意見だ
…
そして、この二人が王子という自覚を持たず乱れた姿をしているも要因の一つだ
…
」
フェルナンドは言い終わると用意された椅子に座り、手を組んだ。
「くだらない話は終りだ。座れ
…
私は掟を正しに来たのだ━━━」
━━法の番人が来る
その言葉の意味が今やっと分かった━━━━
「━━そもそも、何故王子の妻になる者に条件があるのか
…
貴様等は理解しているのか?」
フェルナンドは座る三人を鋭い視線で見回すと、答えを待たずに続けた。
「自領土の女性をめとるのはそれぞれの国の血を薄めぬよう
…
王に認められた家系の者を選ぶのはより優れた種を生ます為
…
そう、王に据える有能な子孫を残す為の掟なのだ」
言い終わると、アテナを見つめ溜め息を吐いた。
「どちらにも当てはまらない貴様は、到底認められたものではない
…
もとより、この掟を破れば国が傾く。
一つの国が傾けば、残りの国も崩れる━━━
この意味を理解できるな?
━━ようするに、
劣性の子が生まれてしまうと、以後子孫が武の国を治めるのが困難になってしまう
…
武の王族が駄目になれば、民の抑制も出来なくなり、血に飢えた武力を犯罪に使い始める
…
王とは、人々の力を抑える役割もあるのだ」
━━そう、城にいる屈強な戦士達は王族の力で抑えているだけなのだ
…
それで今の王族が少しでも抑える力を弱めれば
…
きっと腕に自信のある者達は他国でも武器を奮い始めるだろう━━
…
自分の存在が五国を壊す
アテナは想像以上の事実に胸が苦しくなった。
「分かりにくい説明どうも
…
インテリ野郎」
アテナがうつ向くと同時に隣に座っていたザードが、鼻で笑った。
「てめぇの言ってる事、さっぱり理解できないな!
れっせー?なんだそれ?
弱ければ鍛えりゃいい。
馬鹿共が暴れ始めたらぶん殴ればいい
…
」
ザードは一回そこで止めると、いきなりアテナを抱き寄せた。
「ぐちゃぐちゃてめぇがどんな事言っても、コイツは俺様のもんなのは変わらねぇんだからな!」
「
…
ザード様」
ザードの瞳には全くの迷いがなかった━━━━
フェルナンドの眉間がピクリと動いた。
「
…
かなりキテるな、おい」
黙って聞いていたヒサギは目を反らした。
…
その瞬間、
何かが切れた音が微かに聞こえた。
「この
…
大馬鹿者っ!!」
突然の大声にアテナは肩をすぼめた。
しかし、ザードは再び鼻で笑う。
「冷静になれよ、インテリ」
「黙れ愚か者!
貴様はいつもいつもいつもいつもいつもいつも自分中心で
…
周りの迷惑を考えろ!良いか、貴様がその娘を妻にしたならばヒサギの妻はどうなる?同じ国の種は二ついらん
…
むしろ法度だ!そして何よりも
…
今まで高めてきた武王族の血に工の平民の血を混ぜるというのは
…
先祖の功績を踏みにじる事なのだぞ!」
…
沈黙が辺りを流れた。
フェルナンドの意見は全くの正論。
非の打ちどころもない。
確かに掟で
『王が支配する領土の娘』
とあるのだから、もちろん妻の被りはいけないのだろう
…
アテナがチラリとヒサギを見ると、彼は不機嫌そうな表情をしていた
…
なんて居心地の悪い空間なんだろう
…
アテナは耐えきれずに立ち上がった。
三人の視線が一気に集まった。
「あのっ
………
お茶、いれてきます
…
ね」
硬い笑顔を見せてから、小走り気味に食堂へ向かい始め━━━
「きゃっ」
「危な
…
」
…
たと思いきや、
3m進んだ所で誰かにぶつかりかけた。
「ごめんなさ
…
」
━━━綺麗
…
ぶつかりかけた青年の容姿を一言で言えば、それしか出てないだろう。
絹糸のようにサラサラと風に揺れる白銀の髪に、空よりも海よりも透き通った青の瞳
…
女性のような長い睫毛が一段と儚さを引き立てている。
服もそこらの貴族が着ているような物ではなく、高貴かつセンスの良さを感じさせ、長身の青年によく似合っている。
そんな、女性よりも遥かに美しい人物がアテナの肩に手を添えていた
…
「
…
君、『アテナ』?」
「は
…
はい!」
「ふーん
……
」
白銀の青年はニコリと笑った。
「(て
…
天使の微笑み~!!!)」
周りに春のようなキラキラフワフワした光が見えるようだ
…
アテナは思わずみとれてしまった。
次の瞬間までは━━━
「ザードを相手にするのって大変でしょ
…
?大きいし
…
」
「えっ?」
━━━━かぷっ
…
耳元で囁いたと思ったら、白銀の青年は耳を噛んできた。
「
…
きゃああああああぁあ!!」
「アテナ!!」
ふらりと倒れかけたアテナをザードがナイスキャッチしてくれた
……
「なにしやがる殺すぞアレフ!」
「いやぁ、フェルナンドも『種』とか『生ます』とか言って
…
エロいなぁ
…
」
(ザード無視)
『アレフ』と呼ばれた白銀の青年は、なにくわぬ顔で椅子に腰掛けた。
…
いきなり現れて、当たり前のように王子達の輪に入るなんて
……
一体
…
━━━待てよ?
「あ
…
あ、の?あの方は」
「だから『とんでもねぇ奴』って言ったんだ!
これからは近寄るな、妊娠する!」
…
とんでもない
…
そう、
そのセリフ聞いた時がある
あの
…
花畑で
…
「俺は創の国ティファレトの王子、アレフ
…
覚えてね、花畑で誰かさんといちゃついてたアテナちゃん」
銀の髪をフワリと揺らし、アレフはアテナに微笑で答えた。
一つ一つの動作がキラキラ美しい
……
は置いといて、
「王子
…
よりも、え、あのいちゃついてたって
…
?」
「いやぁ、最近のオペラグラスは性能が良くて
…
ザードと二人であんなことやこんなことしてる姿が丸見えでした」
丸見え!?
確かにあの時、ザードの過去を聞かされた花畑は、創の城の近くだったが
…
!
フェルナンドの眉間の皺が再びピクリと動いた。
「
…
ほぅ
…
詳しく聞かせてもらおうか、ザード」
…
怒ってます。
「フェルナンド、コイツの言う事信じるな!
た、確かに抱き締めはしたが
…
」
「婚前の女子を抱き寄せる事自体罪に値する!!
民の手本たる王子がなんたるふしだらな!
……
あとアレフ、私は真実を伝えただけだ。や、やらしくなどない!」
騒ぎの元のアレフは関係ないと言わんばかりにそっぽを向いた。
「
…
相変わらずだな」
静観していたヒサギは溜め息を吐いた
…
「そもそも、アレフを呼んだのはアテナの事を話す為だろ?
あと一人
…
奴を待てよ」
一人冷静なヒサギは、とりあえずその場を収めてくれた。
一同は椅子に座った。
…
一人を除いて。
「アテナ?座れよ」
アテナは控え目に首を振った。
「
…
椅子、あと一脚しかありませんし
…
」
━━椅子は全部で五つ。
集まった王子は四人
…
もちろん、あと一脚はまだ来ていない王子の物だろう
それに
…
「わ、私がこんな場所にいる事も恐れ多いです
…
!」
━━言われてみれば、
国で最も尊い存在である王子達が四人も自分の前にいる。
見る事さえ、喋る事さえも本来は叶わないはずの四人が
…
「今頃気付い━━」
「んな事どうでも良いじゃねぇか、来い」
フェルナンドの言葉を遮り、ザードはアテナを自分の膝に座られた。
「よし」
「よ
…
よし、じゃありません!恥ずかしいです!離して下さい~!」
…
王子三人の視線が痛い
…
アテナはバタバタともがくが、ザードは嬉しそうな表情をして、離さない。
「お前は俺のモノ!
だから、俺の好きにしていいんだよ」
…
言いながらアテナの胸に手が行ってるのは気のせいではありません
…
「いい加減にしろ!」
やはりフェルナンドの雷が落ちた
…
「本当にザードはアテナに惚れてるわけね
…
じゃあ
…
」
やっとアテナを離したザードを見つつ、アレフは頷きながら言った。
「本妻に認められないなら愛人にしちゃえば?
いい考えじゃない?」
「愛人
…
?」
アテナだって、その意味くらい分かる。
否、分かりすぎる。
そもそも父が愛人を作ったから、自分は塔に軟禁されたのであって
…
何にしても、あまりよろしくない事である。
「それこそ武の国に傷が付くわ、馬鹿者!」
「じゃあどうするんだよ?コイツ、もうアテナしか見えてないぜ?」
「猪だから
…
」
「猪じゃねぇ!
けっ
…
認められなくても、俺はアテナと一緒になるからな!」
「国の事を考えろ!」
「黙れ、インテリ野郎!俺に指図すんな!」
再び不穏な空気が流れ始めた━━━
「これは貴様だけの問題ではない
…
我等を含め、王族全ての未来に関わっている
…
!もし、ここで間違った判断をすれば国の民達も巻き込み、大混乱が起こる
…
私は視野を広くして事を見ろと言っているのだ
…
!」
「民達の意思を尊重して、俺の意思は無視か?
ざっけんな!そんな国なんて壊れちまえ!」
「
…
!!
そんな事を
…
貴様、王族失格だぞ!」
「構わねぇな!」
「王にふさわしくない者は死あるのみだ
…
!!」
━━やめて
…
アテナは呟いた
…
フェルナンドとザードの言い争いはますます増していく━━━
アテナの体は気付かぬうちに震え始め、後退りした。
━━これは私のせいだ。
ザードが王にふさわしくないとは思えない。
フェルナンドだって、そう思うから彼を止めている。
なのに、
何故こんな意味のない言い争いをしなければいけないのか
…
━━私のせいだ。
ザードと出会ってしまったから、
ザードを好きになってしまったから
…
でも、
自分がいなくなれば、
全ては何でもなくなる。
そうだ
…
いなくなれば
…
「何してるだか!?」
━━えっ?
即倒しそうな位ピリピリした雰囲気に、ある一声割り込んできた━━━
「この子泣いてるでねぇか
…
大丈夫ぺ?これで拭き」
この場に駆けてきた青年はアテナに薄い布
…
てぬぐいを渡してくれた。
「
…
ありがと
…
ございま
…
ふ」
「えぇだよ。それよりも」
青年はフェルナンドとザードに向き直った。
「もう少しこの子の気持ちも考えて話し合わねぇと駄目だっぺよ
…
そら、二人の言い分もあるかもしれねぇだが
……
…
可哀想だへよ」
青年の言葉に二人は少しばつの悪そうな顔をした。
━━空気が柔らかくなった
「やっと来たか、泥くさサルゴン」
「サルゴンがいないとすぐ喧嘩になるし
……
あっぱれ癒し系」
ヒサギとアレフは青年の登場を待ちわびたかのような口ぶりで笑った。
…
一体何者なのか
…
と、やはりこの青年が残り一人の王子と考えるのが自然か
…
しかし、
「(どう見ても
…
ただの農民ですよね
…
?)」
この『サルゴン』と呼ばれた青年
…
容姿は白のシャツに農作業用の上下ツナギ。
ちなみにツナギの上部分を腰に巻いているのはやはり作業が暑いからか
…
足元は長靴で、ポケットに軍手、首に汗拭きタオル
…
明らかにとかしてないと思われる薄紫の髪は
…
よくて無造作ヘアーとしか言えない。
しかも、他の四人と比べて
…
顔は褒められない。
そんなよく分からないサルゴンはアテナを濃い緑の瞳で再び見つめた。
「
…
あ、自己紹介がまだだったへな。
オラはサルゴン。
…
一応農の国イエソドの王子
…
すまねぇだ、どう見ても王子に見えねぇっぺな?」
サルゴンは人なつっこい苦笑を浮かべ、頭を掻いた。
「王子
…
」
アテナは涙で霞んでいるから彼が王子に見えないのか、と拭って再び見た。
しかし、何度拭っても農民の姿にしか映らない
…
「正直に『ただの泥臭い農民にしか見えない』って言ってもいいんだぜ」
「え、あ
…
いえ」
ザードはアテナの髪を撫でながら言った。
…
ちょっと申し訳ないと思っているのか、手付きが随分優しい
…
「てか、アテナを慰めるのは俺だ!近寄んなもじゃもじゃ!」
ザードは怒鳴りながらアテナを隠すように抱き締めた。
…
もしかしたら、サルゴンが見つめたから嫉妬?
しかし、そんなサルゴンはザードの気持ちに気付いてか、笑みを浮かべた。
「大丈夫だで、アテナちゃんはザードんとこの嫁だ。誰も盗りはしねぇっぺ、安心しや」
『お似合いだへ』とも、
サルゴンは付け足してくれた。
「(
…
すごく良い人です)」
その笑みと優しい言葉に、アテナは今日一番の安らぎを覚えた。
何も否定せずにフェルナンドとザードの喧嘩を止め、自分の不安を拭い去り、
そして、不穏な空気を一瞬にして払う
…
━━━
サルゴンは見た目は全く王子ではないが
…
キチンと中身は王子様のようである
…
━━━
法の番人であり、五人のリーダー役でもあり
…
つねに眉間の皺が取れない
知の国ケフラー王子
フェルナンド
美しい顔に似合わず、ずばずばとエロネタと喧嘩の種を撒く
創の国ティファレト王子
アレフ
農民姿がどうにも気になるが、五人中の良心
農の国イエソド王子
サルゴン
なんだかんだ言って、結構世話を焼いてくれる口の悪い
工の国コクマー王子
ヒサギ
そして、
乱暴で俺様だけど、本当に自分の事を好きになってくれた
武の国ホド王子
ザード
━━何だか凄い事になってる
…
!
アテナは王子五人に囲まれている今の状況に、心臓が裂けそうな位緊張しはじめた。
繰り返すが、王子は国で最も尊いもの。
こんな近くにいる事など平民は叶うはずない。
それが今、五人全てが揃って自分の前にいる
…
そんな状況に体の熱りと動悸が止まるはずもなく、ゆっくり数歩後退りした。
「あ、あの、私場違
…
」
『場違いなんで、退場します』
━━と、続けようとしたが、もちろん止められた。
「お前はここにいろ」
と、腕を掴むのはザード。
「今回我等が集まったのは貴様の処遇を決める為だ。勝手な行動は許さん」
と、睨みつけながらなのはフェルナンド。
「てか、お前らのせいでこっちも色々と振り回されたんだ。その責任も取らずに行くのは卑怯だぞ、布女」
と怒ってるのか応援してるのか分からないのは、ヒサギ。
「女の子がおどおど泣きそうな顔見てるの
…
楽しい」
…
何を言っているのですか?アレフ。
「皆色々言ってっだが、心の中では応援してるっぺ。大丈夫だで」
優しい微笑みで話をまとめてくれたのはサルゴン。
「
……
すみません」
…
一斉に言われたアテナはその場にいるしかなくなった
…
〇〇〇〇
「━━とにかく!
今すぐに工の国へと送るべきだ!
…
例の事件の重要参考人でもあるわけだしな」
一同はテーブルを囲み、やっと話し合いを再開した。
…
ちなみにアテナの椅子は急遽食堂から持ってきたもの
…
ちょっと壊れかけているがザード膝に座らなくて済むので文句は言えない。
「例の事件?」
フェルナンドの一声にサルゴンは首を傾げた。
例の事件━━
キルティー領主が妻を焼死させた事を発端に、娘のアテナを塔に軟禁。
布の製作者を偽り売っていたのも罪に含まれ、領主には重い罰が下されるだろう
…
フェルナンドが簡単に事件を話すと、アテナは眉を下げて口を開いた。
「
…
あの
…
重い罰って
…
お父様はどうなるんですか
…
?リンスロットやお義母様は?」
「
……
今、国で審議しているところだ」
淡々と答えるフェルナンドの言葉にアテナは心苦しくなった。
自分がザードと出会わなければ、家族はずっと幸せに暮らせたのかもしれない
…
自分が我慢していれば
…
「罪は必ず明るみになるもの
…
本人の責任だ。罰を下されるのはすなわち自業自得
…
」
フェルナンドは相変わらずの淡々とした口調だが、どこか優しい
…
「━━━それに、領主は重々罪の重さを分かっているようだったから、多少罰も軽くなるやもしれん
…
『誰かが』、改心させたおかげでな」
チラリと視線を移すと、その『誰かが』そっぽを向いた。
「あ、りがとう
…
ござい
…
ますヒサギ様
…
!」
泣きそうな震えに、アテナはかすれた声で礼を口にした。
「━━で、その罪人の娘のアテナをどうするの?
やっぱ愛人?」
感動の瞬間にアレフの声が割り込んだ。
…
何故愛人を押すかは分からないが(爆)
ザードは目を吊り上げた。
「アテナは嫁にするっつてんだろ、馬鹿が」
「馬鹿はお前だ。
論点を間違うな、他国の娘とは婚姻できないと何度言わせる」
すかさずフェルナンドの突っ込みが入るが、ヒサギは溜め息を吐いた。
「はいはい
…
こっちも何度も言うけど、この脳筋
…
アテナしか見えてないから。てか、もしコイツからアテナ取りあげたら絶対暴れるぜ」
暴れてる様子が容易に目に浮かぶ
…
「だから、取りあげずに解決する方法考えろよ、エッグヘッド野郎」
「じゃ、好きにさせてみれば?法を破るとどうなるかの実験にもなるし、フェルナンドの血管が切れる姿も見れるかもしれないし
…
ふふ」
アレフはニッコリと笑いながら言った。
…
サラリと揺れる銀の髪をかき上げているサド王子は今回の事を、真面目に考えるつもりはないようです。
「実験ってなんだっー!」
「法的に存在消すぞ、アレフ!!」
「まあまあ
…
落ち着くっぺよ二人とも
…
」
切れかける二人をなだめてから、サルゴンはアテナに向き直った。
「アテナちゃんはどうしたい?」
「私
…
ですか?」
急に呼ばれたアテナはサルゴンが言う言葉の意味が一瞬理解出来なかった。
「んだ。
ザードはアテナちゃんを嫁にしたい
…
んだが、アテナちゃんはどうなんだへ?
他国に嫁入りは何かと大変だで
…
本当に好きだなかったら、止めた方がええ」
━本当に好きじゃないなら
「私は
…
」
周りの事ばかり気遣っていたアテナに気付いたのか、サルゴンの深緑の瞳が鈍く光った。
「━━そうだな。
…
ザードの言い分ばかり聞いてしまっていたが
…
貴様の意見をまず聞かねばならなかったな」
フェルナンドは目を細めて指を組んだ。
一同の視線がアテナに集まる━━━
「私は
…
」
自分がいると、国が傾くかもしれない
…
しかし、ザードは自分の事を必要としてくれている
…
掟を破ろうとしてまで、愛そうとしてくれている
…
掟を破れば、身を滅ぼすかもしれないのに
…
「
…
私は、ザード様と一緒にいてはいけません
…
」
「!?」
ザードは瞳を丸めた。
「私がいるとザード様は
…
身を滅ぼすのですよね
…
?
だったら
…
ザード様が好きなら、引くべきだと思います
…
」
「アテナ!!」
「でもっ
…
!!」
うつ向いていたアテナは顔を上げた。
「でもっ
…
私はザード様の側にいたいんです
…
ザード様が死ぬかもしれないのが分かってるのに
…
側にいたくて
…
たまらないんで、す」
『愛してしまったんです』
アテナは最後はかすれてしまったが、泣きながら言った。
━━自己中心過ぎる
…
アテナは自分を罵った。
本当は自分も幸せになりたい
…
ずっとそう思っていた。
だけど、自分の幸せは他の人を不幸にしてしまう
…
父やリンスロットがそうであったように━━━
「ごめんなさい
…
今のは、私の勝手な我が儘です。
━━気にしないで下さい」
アテナは無理に笑顔を作って、再びうつ向いた。
━━そう、
人を不幸にしてしまうのならば、私が我慢して耐えればいい。
そうすれば
…
「人を愛するというのは、美しいね」
「えっ
…
?」
━━沈黙していた一同の耳に、突然軽やかな声と弦楽器の音が飛込んできた。
「誰
…
え?きゃっ!」
振り返る間もなく、アテナは声の主に手を掴まれて、どこかへと引っ張られてしまった。
━━王子一同は、
その犯人の正体を見て唖然とし、手出しが出来なかった
…
〇〇〇〇
五つ国の城には必ず一つ、王達が話し合いで使う応接間がある。
室内は王族以外の出入りを禁止しており、アテナもこの部屋のみは掃除にさえ入ったことがない程だ。
しかし━━━
「まあまあ、ケーキでも食べてゆっくりしてよ♪
あ、お茶もあるから」
「は、はい
…
」
…
何故、今自分はその応接間内でケーキとお茶を出されているのだろう
…
?
そう、五人の王子と話していて
…
そしたら突然腕を引っ張られて、気が付いたらここに
…
応接間にいた。
状況が飲めない自分を、手を引いてきた人は席に座らせ
…
「そのケーキ、うちのとこの名店で作ったチーズケーキなんだよ。舌がとろけるような美味しさでね~♪
超おすすめ♪」
…
今に至る。
「気にせず食べるがいい
…
そいつなりの気遣いだ」
「
…
レオ様」
アテナは馴染みある声の主を見て、少し安心した。
ホッとするアテナを見てか、武国の王レオは腕を組んで溜め息を吐いた。
「リーフ、急に連れてくる事はなかろう
…
彼女も驚いている」
「いやぁ、連れ去られ体質と聞いて思わず☆」
…
どこで聞いた
…
!?
というのは置いといて、
リーフと呼ばれた男はアテナに向き直った。
「それに、もっと知りたくなったからね
…
君の本音が」
男の白銀の髪が微かに揺れた。
白銀の髪の男は、見た目旅人のような姿をしている
…
以前、塔にいた時に吟遊詩人が町にやってきて演奏していたが、男の姿はまさにそれに当てはまる。
長い髪はサラサラと揺れ、男にしては美しい顔に思わずみとれてしまうが
…
「あ、じゃあまず緊張ほぐす為に僕の演奏を聴いてもらおうか?惚れるよ~♪」
…
このおちゃらけた口調はどうにかならないのか
…
?
「言うことを真に受けるな小娘
…
コイツはネジが二、三本なくなってんだ」
「え、えぇ?」
…
レオ様の隣にいるのは
…
黒い人
…
そう、工国の王ヒイラギ様。
王様だからって吟遊詩人ぽい人に酷い言いようだ
…
━━王様?
「
……
あの、ここって王族しか入れないのですよね?」
「じゃあ出ていけ、小娘」
「あう
…
でも、その吟遊詩人さんは
…
?」
「ん?」
吟遊詩人は首を傾げた。
「僕?
僕は愛の吟遊詩人リーフさんですよ☆」
「いや
…
ではなく、あなたは
…
」
「創の国王リーフ
…
これでも、ティファレトの頂点やで」
━━後ろのドアが開いた。
不思議な訛りが応接間に響く
…
「かくいう、わても
…
これでも農国の王やねん」
これでもこれでもと、
何だか気にかかるが
…
「お茶、おかわりいらへん?わてんとこで採れた新茶葉や」
農民がいるっー!!!!
何故麦わら帽子に作業着姿のおじさんがティーカップにお茶いれて、それを吟遊詩人ぽい派手な人が飲み始めてるのっー!?
でも、今『王様』って言ったですよね?ここは王族しか入れない応接間ですよねっー!!!!??
アテナは今の光景に頭がパニックになった━━━
「落ち着け、アテナ
…
」
目をクルクルさせて混乱するアテナの肩をレオが叩いた。
はっ、と正気に戻るが
…
やはり目の前の光景が認められない。
脳内で拒否している。
…
王とは、国の頂点
…
一番高貴でなければならない
…
はず。
なのになのに
…
「小娘
…
お前さっきガキ共にあったんだろ?」
「ガキ
…
?」
今度はヒイラギが眉を下げるアテナを哀れむように助言(?)してくれた。
「こいつらの息子も同じようなもんだっただろ。
創の国はネジが外れた馬鹿で、農の国は王族も耕業してやがる
……
」
━━付け加えると
武の国は何だか威圧感がある破天慌で、工の国は口が悪くて意地悪ぽい
…
のか。
確かに吟遊詩人ぽいリーフ王の息子
…
アレフは掴み所のない不思議な人だったし、農国は王子サルゴンもまるっきり農民の姿をしていた
…
「
…
なんだか今凄く納得した自分が嫌です
…
」
…
それは武の国親子で慣れてしまったからかもしれない。
「とにかく、認める事だな
…
アイツが帰ってくるまでに、聞いておかなくちゃいけない事があるんでな」
ヒイラギはチラリと窓の外を見た━━━
「そうそう、忘れてた!
いやぁ、ラルちゃんのお茶が美味しすぎて忘れてたぞっ♪」
アテナが首を傾げたのと同時にお茶を飲んでいたリーフが立ち上がった。
「問1☆アテナちゃん、ザード君の事どの位好きか
……
歌で表現してみて♪」
━━歌!?
「む、無理です!」
「踊りでも良いよ」
「もっと無理です!」
「じゃあ
…
」
「いっぺん死ね!!」
リーフの頭にハンマーが直撃した。
━━ヒイラギの手に発射器らしき物が握られている為、恐らくハンマーの犯人は彼だろう。
レオは溜め息を吐いた。
「
…
アテナ、
とにかく聞かせてくれ。
お前の気持ちが本当か
…
それを確認しない限り私とて認められない」
「レオ様
…
」
ザードは将来武の国をまとめる事になる
…
レオとて、武国の未来を心配しているのだろう。
「私は、ザード様の事が好きです
…
認められなくても
…
この気持ちだけは本当です」
自分の鼓動が一際大きく聞こえる━━━
本当に
…
本当にザード様が好きなんだ、と思う━━━
「大丈夫やで、そんな緊張しなくても
…
」
アテナの前に香りの良い紅茶が出された。
顔を上げると、
農民姿の王様がニッコリ微笑んでいた。
「二人を結婚させる為に、ワテ等がここに来たんや」
「━━えっ」
「皆、君の味方ってことや」
農民
…
否、この人も王様だろうから農民ではないのだろうけど
…
とりあえず農民風王様は、アテナの頭をポンポンと叩いた。
「事情をレオとヒイラギから聞いてな、本当に好きあう二人を離すわけにはいかへん!って事で話がまとまってん。
そこで、ナルセスが女神に許可を取りに行ったんやけど
…
その前に君の本音を聞こうとしたんや」
アテナは分からない単語を多く並べられ、少し目を白黒させた。
後ろにいたレオはその様子に苦笑した。
「━━まず『ナルセス』は知の国王の名だ。
……
息子よりも厳しいぞ」
知の国の王様
…
ということは、あの怖いフェルナンドの父ということになる。
息子より怖いのか
…
アテナはフェルナンドより怖い人の想像して、身震いをした。
「そして『女神』だが
…
」
「僕達の麗しき女王陛下だよ」
━━いつ復活したのか。
リーフはアテナの顔を覗きこんで、答えた。
五つ国の中心にはとても高い塔が一つ建っている。
頂上は雲の上に隠れて見えないほど遥かな高さをほこり、なんとも幻想的な光景だ。
その塔は人々に『天』と呼ばれ、信仰の対象でもある『女神』の居城ともなっている。
『女神』は五つ国の全てを守護する神
…
王達の頂点であり、五つ国の運命を決めている。
「
…
まあ、言葉で説明すると難しいが、とにかく我等のリーダーのようなものだ」
「そうそう
…
だから何か新しい事とか
…
女神に報告しなくちゃいけないんだよね」
何か新しい取り決め等がある場合、一度女神の許可が必要となる。
今回も、掟をどうするか
…
それを聞きにいったらしい。
「奴には王しか会えない
…
本当は脳筋猪が自分で言いに行けばよかったのにな」
王族とて、好きに会えないものらしい
…
…
とうとう大変な事になった。
王族だけでなく、五つ国の頂点『女神』も動かしてしまったのだ。
自分のせいで、王国の掟も変わってしまうかも知れない
…
「
…
あの
…
ごめんなさい」
「何を謝ってんのや。
大丈夫大丈夫。自信持ちなアテナちゃん」
しょぼくれるアテナにニッコリと微笑んだ農民王は、そっと耳打ちした。
「この掟なんて、実はもう20年前に破られてるやで」
「━━━えっ?」
「それよりもさっきからうぜぇんだよ」
アテナの疑問を遮り、ヒイラギがドアに向かって多数の工具を投げつけた。
━━
…
雑に投げたように見えたのだが、鮮やかにドアの止め具に命中
…
豪快にドアが倒れた。
「うぎゃあっ!」
「え
…
あ!
ざ
…
ザード様!?」
と、ドアと共に見慣れた青年が倒れてきた
…
…
恐らく張り付いて中の会話を聞いていたのだろう。
ザードは名前を呼ばれると勢い良く起き上がり、仁王立ちでヒイラギを指差した。
「何しやがる、この黒子!殴るぞ!」
「ほう
…
言うようになったな盗み聞き野郎が
…
てめぇの大事な小娘の顔潰してやろうか?」
「な
…
!」
ヒイラギはニヤリと笑いつつ、アテナを工具で指した。
…
やはり、王様の方が何倍も上手らしい。
そんな固まったザードの隣に凛と一人立った。
「勝手な行動失礼しました。このバ
……
ザードを止める事を出来なかった我等の責任です」
薄い金の髪を揺らし、ザードに付いてきたらしいフェルナンドは頭を下げた。
後ろを見ると、呆れたような視線を送るヒサギや苦笑するサルゴン、つまらなそうに倒れたドアノブをいじるアレフもいる。
「あらま、お揃いで
…
♪」
「まあまあお茶飲む?」
のんびりとした創、農の王に促され王子一同も入室した
…
「のんびりしている暇などありません。
女神からの許可など下るわけないので、父上が帰る前にこの娘の処分を決めるべきです」
フェルナンドは席にも座らず、腕を組んだ。
━━相変わらず、アテナへの鋭い視線が怖い
…
言葉は続いた。
「━━それに、この後例の事について工の国に事情を説明してもらわなければなりませんし
…
」
フェルナンドの恐ろしい目つきが工の王族二人に容赦なく突き刺さる
…
本気で怒らせたくない人物とはコイツの事を言うのでしょう
…
←
辺りが法の番人オーラに押されている中、一人溜め息を吐いた。
「フェルたんは本当にパパ似だねぇ
…
♪少しは肩の力抜いたら~?」
創王リーフさんは、人を勝手なニックネームで呼びます。
は置いといて、
リーフはにっこりと微笑んだ。
「この世に絶対という事はないよ
…
君が『絶対認められない』と言っても、決めるのは女神
…
そして、ザード君とアテナちゃんさ。
そこに法など入る余地はない
…
人の意思は、自由なんだから
…
」
白銀の髪がゆらりと揺れ、今までふざけていたリーフの表情は『自由を司る創王』となっていた。
「っ━━しかし
…
」
「うん
…
俺達がどうこう言うことじゃないよ。
流れに任せて見守るしかない
…
ね?」
眉間に皺を寄せるフェルナンドの肩に創の王子アレフが手を置いた。
青の瞳が静かに光り、フェルナンドの言葉を消す
…
━━この親子は、何か不思議なオーラを感じる。
離れて見ているアテナでさえ、ドキドキしてしまった。
再びリーフは微笑んだ。
「
…
ま、人の恋路を邪魔するのは野暮ってもんだし~♪武の国とは隣だから、暴れられても困るぅ!みたいなぁ?」
「大丈夫、愛人ってのは内緒にしとくから
…
♪」
…
やはり、この親子の考えてる事は分からない。
とにかく真面目ではないようだ
…
そんなんで、無表情フェルナンドの一撃がアレフの頭にクリーンヒットした。
「まあまあ
…
皆落ち着くだよ。ナルセスさんが帰っまでお茶でも飲んで待つべ」
変な雰囲気に農民(ぽい)サルゴンが助け舟と言わんばかりの温かいお茶を出してくれた。
良い薫りが応接間を包む
…
一同は暫しティーブレークとなった。
〇〇〇〇
「フェルナンド様、すみません
…
今回は色々とご迷惑をかけて」
アテナはフェルナンドに頭を下げた。
なんだか、今までの様子を見ていて一番苦労しているように見える
…
「
………
ふぅ」
フェルナンドはティーカップを置くと、アテナに向き直った。
相変わらず目が鋭い。
「気にするな。根本の原因は他にあるのだからな」
睨んで
……
いるように見えるが、どうやらこの鋭さが素の表情らしい。
「そうだよな。
元はと言えば、この脳筋ツンツン猪がアテナを拐ったのが悪いわけだ
…
うちの揉み消しがバレたのも
…
」
「誰が猪だ、タレ目ヒサギが!!
今回のは、アテナが俺の前に来たのが悪いんだ!」
「ようするに『自分に惚れさせたアテナが悪い』ってわけね?」
「黙れ失せろアレフ!」
「落ち着くっぺよ」
「
…
はぁ」
…
相変わらず王子五人が集まると煩いというか、やかましいというか
…
「見ていて飽きないね~」
「せやな」
王達も慣れたようにくつろいでいる
…
こんなのに慣れるのも嫌だが
…
「
…
しかし
…
ザードの手の早さはレオ似だな。
…
種馬親子が
…
」
ヒイラギは呆れたような表情を浮かべた。
今まで静かに腕組みしていたレオは『むっ』と一言唸ると、目を伏せた。
……
否定はしないらしい。
「確かに♪
僕達の花嫁騒動もレオが発端だったしね~☆」
「武の国遺伝子やな」
笑う王達
…
前から思ってはいたが、レオの過去は本当に色々あったらしい。
一体ザードが生まれる時に何があったのか
…
チラリとレオを見て、アテナは首を振った。
「(やっぱり怖くて聞けない
…
)」
たまに見せるレオの憂いをおびた表情が、聞くに聞けない要因となっている
…
『手が早い』とはなんなのか
…
いや、息子と一緒で相手を誘拐してきたなら激しく嫌だが。
…
いつか機会と勇気があったら聞いてみよう。
アテナは胸に誓った。
「こんな奴と一緒にすんな!
……
他が嫁探ししてないだけだろ!」
━━と、アテナが思考中も話は続いていたらしい。
ザードは王子一同を鼻で笑った。
「俺がいち早く可愛い嫁を見付けてひがんでるんだろ
…
ふんっ、ひがめ!
てめぇらが女探しに奮闘してる間に俺は子供五人は生ませてやるよ!」
五人ですか!?
………
。
えー
……
突っ込むところを間違えました。
子供はどうでも
…
よくないけど、いつのまにかアテナが嫁になるという流れになっているようだ。
…
さりげなく、
このまま話が進めば
…
「馬鹿者!そもそもアテナは妻にも花嫁にも認められていない
…
戯言も大概にしろ」
…
嗚呼、
やっぱり法の番人に誤魔化しは効きませんでした。
さすが、天下のフェルナンド王子です。
しかし、先程の話し合いとは違うのんびりした雰囲気にアテナはやんわりと微笑んだ。
「今の発言
…
撤回しろ、フェルナンド」
━━刹那、
応接間に緊張が走った。
低く、静かな声が響くと同時に乱れない足音が後方に聞こえる
…
アテナは何故か身動きが取れずに固まってしまった。
「『アテナ』
…
とは君か」
━━名前を呼ばれただけでピリピリと肌が痛い
…
ザードと初めて会った時の緊張とは違う
…
体ではなく、心臓が押し潰されそうな感覚に襲われてしまう
…
…
この方は━━━
「私は知の国ケフラー国王、ナルセスと申す
…
アテナ、今から君の処遇を言い渡す」
もう一人の法の番人、
フェルナンドの父にして、ケフラーの国王
…
全ての法を司る男が、
前ぶれもなくアテナの前に立ちはだかった━━━━
知の王ナルセスは、国王らしく乱れ一つない清潔な服装に、薄い金髪をオールバックにしている。
そして、青い瞳は息子同様に鋭くアテナを捉えていた
…
「あ
…
ぅ
…
ごめんなさい」
勇気を振り絞って振り返ったアテナだが、情けない声を出してしまった。
…
確かに常人がナルセスと対峙したならば、30秒で半泣きになってしまうかもしれない
…
それほど、彼には法の番人としての威圧感があった。
「
…
噂には聞いていたが
…
将来武の王妃なる者がこのように気弱くて良いのか
…
?」
アテナの怯える様子にナルセスは眉間に皺を寄せた。
…
ちなみに怒っているわけではなく、ただ疑問を口にしているだけのようだ
…
その証拠に、首を傾げてアテナを覗きこんでいる。
「うるせぇな、コイツはそこが可愛いんだよ!」
…
さすがは怖いモノ知らずのザード。
威圧感たっぷりの王にさえ怯まずに噛みついた。
しかし、ナルセスはさらりザードをあしらうと、軽く溜め息を吐いた。
「
…
まあ、いい。
この事柄を追及しても仕方がない
…
話を進める━━━」
ナルセスは凛とした表情となり、一同が見渡せる位置へ移動した。
「今回の処置を、女神より賜った。
これはザード、アテナ二人だけの問題ではない
…
次期国王である全員に関係してくる事だ━━━」
とうとう
…
とうとう二人の運命が決まる時がきたのだ
…
アテナの鼓動が最高潮に高鳴った
…
━━━
ナルセスは、少し考えた後先程の凛とした様子から一変、溜め息なのか口ごもっているのかよく分からない口調で話し始めた。
「
…
短刀直入に言う。
『別に慌てる必要はない。現状維持する』だそうだ」
「??」
アテナは首を傾げた。
現状維持とは、つまり今の状態を変えない
…
ということだ。
早く分かりやすく言うと、アテナを武の国に放置
……
って事になる。
それでは問題が解決しないではないか
…
「父上、説明を」
一同の心内をフェルナンドが代弁してくれた。
説明をしてくれなければ、意味が分からない
…
ナルセスは目を伏せて、溜め息混じりに頷いた。
「
……
女神は、『法律は元から二人のような関係を禁止していない。言ってなかったっけ?』と言われた
…
」
ナルセスは一枚の紙を取り出した。
紙には
『1:大陸の娘であること
2:二人の王子が同じ国の娘と結婚してはならない
(ようするに組み合わせがバラバラになるように)
3:王子が認めた者であること
4:王子に認められた家柄である事。』
…
と、書かれていた。
覗きこんだフェルナンドは一部の文章が修正された上に書かれている事に気付いた。
「これは
…
」
「明らかにその場で書いた法律改正書だ
…
……
ようするに、女神は王妃の条件を変えてしまったのだ
…
その場で」
……
はい?
一同は目が点になってしまった。
ナルセスの言っている事はかなり簡単なはずなのに
…
なのに
…
なのに、このモヤモヤ感はなんだ?
「勘違いはするな。
全て女神がやった事だ
…
彼女はバレていないと思ってやったのだろうが
…
」
ナルセスは頭を抱えた。
…
彼とて不本意なのだろう
易々と法を変えられてしまったのだから
…
「
…
えーと
…
」
困惑する空気を振り払い、アテナはおずおずと口を開いた。
「
……
あの、ようするにのようするに
…
私は、ザード様の側にいて良いって事ですか
…
?」
そう、結論だ。
ナルセスは頭を抱えたまま頷いた。
「
……………
ああ」
…
やり方はどうあれ、
不自然でも今決めた感じでも
…
「女神の決められた事だ。君が、ザードの妻になることを認めよう」
女神が良いと言ったら、
それは五つ国の掟となる━━━━!
「
…
えーと
…
」
困惑する空気を振り払い、アテナはおずおずと口を開いた。
「
……
あの、ようするにのようするに
…
私は、ザード様の側にいて良いって事ですか
…
?」
そう、結論だ。
ナルセスは頭を抱えたまま頷いた。
「
……………
ああ」
…
やり方はどうあれ、
不自然でも今決めた感じでも
…
「女神の決められた事だ。君が、ザードの妻になることを認めよう」
女神が良いと言ったら、
それは五つ国の掟となる━━━━!
瞬間、沈黙が流れた。
しかし
…
「━━よっしゃあああぁああ!!!!アテナ!!」
「は、はいぃい!?」
ザードは叫び、
返事を聞く前にアテナを抱き上げた。
周りの視線など気にもせずそのまま机に押し倒し、口を塞いだ。
「!!!!?」
一瞬の出来事でアテナは理解に少しかかってしまったが、すぐにザードを押し返した。
「ザザザ
…
ザード様!!
止めてください!
ま、周りの視線がは、恥ずかしいですっ!」
「関係ねぇ、お前は俺のもんだ!」
相変わらずのザードのセリフにアテナは顔が熱った。
…
嗚呼、
周りの視線が激しく痛い
…
「今すぐ嫁にする!
結婚じゃっー!」
「止まれ、脳筋!!」
━━
…
一撃。
ほっとくと、明日には世継が生まれそうな勢いの為、ヒサギはザードの頭を工具で強打してやった。
「首の上に乗っているのは飾りか馬鹿者!これは貴様等二人だけの問題ではないと言ったはずだ!」
フェルナンドも怒り気味にザードの頭を数回叩いた(思い切り)
「
…
とにかく、法は改正された。明日五つ国全域に改正法を発令する
…
」
今日何度目の溜め息か
…
ナルセスは一層深く吐いたのち、出入り口に進んだ。
「城に戻るぞ、フェルナンド。明日の準備を行う」
「
…………
はい」
不服そうな表情を浮かべ、フェルナンドはナルセスに続いた。
しかし、ドアの前でくるりと振り返ると相変わらずの鋭い瞳で睨みつけられた。
「
……
武の国に、
女神の加護と幸運を祈る
…
」
ぼそりと呟くと、フェルナンドは立ち去っていった。
……
睨みつけられた
…
わけでなく、ただこちらを見ただけか。
なんと紛らわしい
…
舌打ちするザードの横で、アテナは苦笑を浮かべた。
「とにもかくにも
…
あの言葉は法の番人が完全に認めたって事だよ。
おめでとうザード君、アテナちゃん♪」
「は、はい!」
アテナの後ろからポンポンと頭を叩くリーフは、軽やかな足取りで窓に近付いた。
「ナルセスも帰ったし
…
僕も行くよ☆じゃあね」
━━━リーフの名の通り、風に舞う葉の如く、窓を飛び越えた。
その動きはやはり、美しかった
…
しかし、
「
……
てっ
…
撤退早いな」
「
…
知の二人が帰って30秒もしなかったな」
「くだらない話し合いは飽々だからね」
呆れるザードとヒサギを尻目に、アレフはニッコリ微笑んだ。
「俺もさっさと帰るから。避妊方法でも勉強しててよ」
「なっ
…
!」
…
猫のしなやかさとは、この事か。
アレフも父と同様に窓からヒラリと退場して行った。
気まぐれな猫のように
…
「
…
ところで、」
アテナは城の外へ歩く二人を想像しながら首を傾げた。
「どうして普通にドアから出なかったんですかね?」
最後まで、創の王族は不思議でした
…
「
…
じゃあ、俺達もそろそろ帰るか」
騒がしい人物がいなくなった応接間は、厳かな雰囲気を取り戻していた。
…
本来は
こうあるべきなのだが
…
ヒイラギは気だるそうに伸びをすると、出口へ歩き出した。
「帰って後片付けしろよ、垂れ目チビ」
「うるせぇ、明日から忙しくなる息子を労れ!」
「そんなの、そこらへんの女を押し倒しとけ!」
…
相変わらず工の親子は口が悪い。
本気で口喧嘩したら、とんでもない事が起きそうだ
…
アテナは慌てて立ち上がった。
「あっ
…
あの
…
!
━━今日は
…
」
…
ヒサギにも、ヒイラギにも言いたい事がたくさんある。
どれから言えばいいのか、分からないが
…
「今日はありがとうございました!」
それが、
一番言いたかった言葉だ。
ヒサギはその言葉に灰色の瞳をアテナに向けた。
「━━またな」
その表情は、
作り笑いではない本当の優しい微笑みだった
…
ヒイラギとヒサギが退室した後、何やら外が騒がしくなってきた
…
ザワザワと低い声が部屋を包み込む感じだ。
アテナは首を傾げながら窓を覗くと、いつまにか外に城中の兵士達が集まっている━━━
「え
…
な、何か始まるんですか?」
「
……
そうだな。
皆、アテナの帰還を待ち侘びていたということだ」
「えっ
…
」
レオの言葉にアテナは目を見開くと同時に、肩を叩かれた。
「行ってあげ。皆待っとるよ」
振り向くと農国王が優しく微笑んでいた。
その後ろで王子サルゴンも頷いている。
━━こんな私でも、
帰れる場所があるならば
…
アテナは再び目が熱くなってしまった。
「は
…
い!」
「よっしゃっ!来い!」
涙が流れる前に、
ザードはアテナを抱き上げ窓を跳び越えた。
一瞬、風になったような感覚に襲われ、目を瞑ってしまった━━
「アテナちゃん!!!」
しかし、
すぐに兵士達からの歓喜の声が聞こえる━━
うっすらと目を開けると、皆、笑顔でアテナを囲んでいた。
「待ってたぜ嬢ちゃん!」
「アテナちゃんがいないとこの城の癒しがないよ~」
「マイエンジェルアテナ!」
「マイラーブ!」
「心配かけさせんなって」
一斉に言うから、全く聞き取れないのだが━━━
アテナは微笑んだ。
「今、帰りました!」
〇〇〇〇
次の日、五つ国中に武の王子の婚約と新たな法令が発表された。
『王妃条件を一部改正
1:大陸の娘であること
2:二人の王子が同じ国の娘と結婚してはならない
3:王子が認めた者であること
4:王子に認められた家柄である事。
なお、
本日より王妃候補を募る。各々の王子に面会するように━━━』
この法令で、国中の娘達は歓喜に湧いた。
自分でも、王妃になれる可能性があるのだから
…
〇〇〇〇
「
…
あの馬鹿王子、やってくれたな
…
!!!」
ここにも一人、改正された法令を見つめる娘が一人
…
武の国の広場に立てられた看板を鋭く、意思の強い瞳でニヤリと見上げた。
「━━これで、フェルナンドとの結婚になんの問題もないわけだ
…
!」
髪に結わえたハンカチを一回撫で、武の娘は国の外へと走り始めた。
━━━これが、
五つ国全てを巻き込む恋物語の本当の始まりでした。
【二話へ続く】
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