ボツネタ

シナリオネタバレなし

ソウカン+アサヒ
※ゾンビ系ポストアポカリプス

 始まりは、とある死体が指先を動かしたことだった。火葬される直前のそれは、遺族が握った手を握り返したのだ。国はそれを公式に認め、その死体を骨の髄まで研究し尽くした。

 結果、それは特殊な細菌による『再現』であることを突き止めた。これを利用すれば、医療はより高度な領域へ踏み込むことができる。研究者たちは細菌を繁殖させ、実験を繰り返した。

 それからたった数年。経過の詳細は省くが、進化した細菌が生きた人間に感染した。あっという間に細菌による蹂躙が始まり、世界はいわゆるゾンビ……『動く死体』で埋め尽くされていった。凶暴で人を襲うゾンビに秩序や法は形をなさず、地球は正しい意味で終末のような星に成ったのだ。


 ここは、とある街の成れ果て。廃墟と化したビル群の隙間を、一人の男が孤独に歩いていた。肩からショットガンを下げ、背には斧を携えている。手に持った袋には、掻き集めた物資が詰まっていた。
 動く死体たちの多くに知性はなく、頭を失えば大抵は無害な肉塊になる。故にこの街で武器を手放すことは無謀で、また死にたがりのイカれた行為だった。


……はぁ」


 青髪を一度掻き上げ、男は息を吐く。すっかり夕方を過ぎた空は、既にポツポツと星を灯らせていた。これ以上無駄に外にいれば、ゾンビに噛まれてその仲間入りするのが予測される。

 血や泥で汚れた階段を下り、入り組んだ道を迷いなく進む。辿り着いたのは、頑丈な鉄の扉。いくつか引っかき傷が付いているが、ここに来るゾンビは限りなく少ない。道中に少し工夫しなければ開かない、ギミック付きの扉があるためだ。


「帰ったぞ、モモ」


 そう告げてしばらく待てば、扉が内側から解錠される。開いて中から顔を出したのは、マスクを付けた研究者風の男。すぐに青髪の男を招き入れ、また扉をしっかりと閉める。武器を下ろして肩を鳴らした男は、綿の飛び出たソファーに身を預けた。


「おつかれ、ソウゲツ。今日は何か変わった事あった?」

「いつも通りだった。嫌になるくらいな」


 疲労を隠さずソファーに横たわる男……ソウゲツを背に、モモと呼ばれた男……アサヒは、袋から物資を取り出し並べていく。缶詰、銃弾、布、電力。他にも足りないものは沢山ある。
 彼らは現在まで明確に生き残った、純人間である。ゾンビの感染拡大で無法地帯となる世界に揉まれながらも、懸命に存続する僅かな人類の一部。アサヒの知識とソウゲツの実力で、二人はなんとか拠点を保っている。他の人類がどうなったかは分からない。そんな思考を裂けるほど、二人に余裕はない。


「アイツは?」

「いつも通りだよ。嫌になるくらいにね」


 アサヒが無感情に吐けば、ソウゲツも無表情で「そうか」と返す。ぐったりとソファーで倒れていたソウゲツだったが、目を閉じることはなく再び立ち上がる。首元に下げていた鍵を取り出し、無言でアサヒと別れて別室へ踏み込む。少し長い廊下を進み、南京錠の付いた一室の前に立った。

 取り出した鍵で、錠を解く。鉄の軋む音を響かせながら、ソウゲツは暗闇に明かりを灯す。天井から下がった豆電球が、ボンヤリと弱々しく輝いた。情けない光は部屋を照らし、その全貌を薄暗い中で明らかにした。

 金髪の男が、小さく丸まるように倒れている。
 いいや、違う。それは最早、男とは呼べないだろう。正しくそれを表すのなら、男の死体と言う他に無い。細菌に感染し、人を喰らう怪物。足音に反応して動くそれは、既に生物としての性質を失っている。


「ただいま、カンジ」


 微笑んだソウゲツを、死体カンジは渇いた瞳で眺めていた。