傘道
2025-07-27 23:35:08
1572文字
Public ダディト
 

恩返しと紙一重の感情

znzrのダディト(おやっさん×🔦)です。
地下闘技場から抜け出した時の話。

選択肢がなくなった自分はここで息絶える。
目が眩む照明。
暴力の嵐。
アンダーグラウンドの世界。
掃き溜めのような場所で生きて、殴って、戦って、仲間の元へ行く。
そう思っていた。


ガタガタと揺れる車体の中。
毛布に包まれたライトは目を覚ました。
すぐに後部座席に横になっていたことを思い出す。
そして夢ではなく現実であることを知った。
瞬きを何回もして夢ではないことを確認する。
あそこから出られたんだ
翡翠色の瞳から一雫の涙が溢れる。
金のために暴力を振い続けるのはもう嫌だった。
暴力だけじゃなく、アンダーグラウンドの世界では秩序はなかった。
穢れていく自分はもう日の光を拝めないと思っていた。
逃げ出したいと思うたびに、ドッグタグが揺れてどうしてここに居るのか思い出した。
その度に仲間の顔を脳裏に浮かぶ。
逃げ出せるわけがなかった。
しかしこれからどうなるんだろう?
借金を肩代わりしたシリオンはライトの両手を握りしめながらこう言ってライトを引き取った。
「貴様の拳は派手で、負けを知らないように見えた。」
「これからは、カリュドーンの子のために勝ちまくってくれ。」
勝ちまくる。
また俺は暴力を振るうのだろうか?
また俺は穢されるのだろうか?
結局、地下闘技場という場所から抜け出せても俺の運命は変わらないのか?
包帯が巻かれた手を自分の臍あたりに置く。
「なんだ、起きたのか?」
運転していた猪のシリオンが声をかける。
どうやらモゾモゾと動いたため、起きたことに気づいたようだ。
「ちょうどいい。腹が減っただろう。あそこで休憩するか。」
確かに腹が減った。
地下闘技場から抜け出して、そこから何も食べていない。
車が止まり、ラーメン専門の飲食店に向かう。
お昼をとっくに過ぎた時間だからだろうか?
客はほとんどおらず、すんなりカウンター席に通された。
人がほとんど居ない。
よかった。
今は人の視線が怖くてたまらない。
暴力を振るう自分がどう見られているかわからなくて怖くてたまらない。
「俺の奢りだ。好きなものを注文すりゃいい。」
好きなもの。
そう言われても借金を肩代わりしてもらった身だ。
これ以上お金を使わせるのはいかがなものか。
ライトは一番安そうなトッピングが少ないラーメンを指差した。
「遠慮はするな。」
猪のシリオンはそっとライトの手に自分の手を添えた。
隣に座って初めてサングラスの隙間からシリオンの目が見えた。
派手な出立からは考えられぬほど優しい瞳。
遠慮しなくていい。
甘えてもいい。
そう言いたげな父親のような瞳だった。
「もう一度言う。好きなものを注文すりゃいい。」
ライトはメニューをめくった。
好きなもの。
俺の好きなものってなんだっけ?
ふとカボチャと味噌のラーメンを見つける。
甘くて美味しそうだ。
美味しそう。
そう思ったのはいつぶりだろう?
ライトがカボチャと味噌のラーメンを指差すと、シリオンは満足そうに頷いた。
そして店員にラーメンを注文した。
湯気が立つ温かい食事。
本当にいつぶりだろう。
甘くてあったかい食事をライトは涙を溢しながら食べた。


ライトは知った。
猪のシリオン、ビッグ・ダディは地下闘技場の奴らと違うことを。
ライトは知った。
命をかけてでも守りたいと思う存在を。
ライトは知った。
温かさを。
ライトは知った。
自分は彼に全てを捧げたいことを。
ライトは知った。
それは恩返しの感情だけではないことを。
ライトは知った。
自分の片想いを。

どうか身も心も捧げさせて欲しい。
醜い自分かもしれないけど、俺を見てほしい。
お願いだから恩返しをさせてくれ。
お願いだから振り向いてくれ。
お願いだから俺を抱いて欲しい。

これは恩返しと紙一重の感情。