三毛田
2025-07-27 22:55:38
1086文字
Public 1000字4
 

66 066. 君の名前を呼んだら

66日目
好きが溢れていく

『丹恒!』
 彼の名を呼ぶと、嬉しそうに俺の名を呼び返してくれて。
 ただ呼んだだけなのに、ただ呼ばれただけなのに。
 嬉しくて、胸が高鳴って。
「きゅう」
 そう、彼の名前を口にしたはずなのに。
 声にならず、まるで鳴き声のように唇から零れ落ち。
「丹恒? 大丈夫か? 具合が悪いなら、部屋に戻ろう」
 依頼のため、外に出ていて。探していたものが置かれている場所を、通り過ぎてしまったので呼び止めたのに。
「大丈夫だ。きゅう、そこにある」
「あ、本当だ! 丹恒、よく見てるな」
 そっと俺の手を取り、そちらへ。
 穹が俺の手を取って歩くので、遅れないように歩を進め。
 喉に触れるも、違和感はない。
 さっきから、彼の名前を正常に呼べない。どうしてだろうか。
「うーん……疲れた~」
 穹は大きく伸びをし、それから首を回す。
 依頼を終え、その報告をして列車へと戻って。
 彼は俺の手を引き、己の部屋へと連れ込む。普段ならば抵抗するのだが、俺もそれなりに疲労が溜まっており。
 たまには浴槽でゆっくりするのもいいだろうと、ついてきた。
「丹恒、ちゅー」
 手洗いうがいをし、服を脱いでシャワーを浴びようとしたら後ろから抱き着かれ。
「きゅう」
 ほら、また。
 名前は鳴き声のように。
「今日の丹恒、可愛いな。俺の事、そんなに好き?」
「好き、だ」
 好きだと告げるのは、すぐに、素直に出てきたのに。何故?
「嬉しい。だから、ちゅーしよ」
「ああ」
 唇を重ね合わせる。
 穹の熱で、溶けてしまいそうだ。
「は、ふ、ぅ……
 舌と舌が絡まり合い、体の奥が熱を持っていき。
「丹恒、えっちだ」
 唾液を何とか飲み込む。舌だけ、飲月に戻ってしまった。
 穹の言葉に、少しだけ期待感が。
「耳、飲月になってる。そんなに、俺とそういうことするの期待しちゃった?」
……だったら、どうする?」
 挑発するように告げると、顔を真っ赤にして座り込んでしまう。
 こういう時に俺が反撃すると、彼は決まってこういう反応に。
「丹恒先生、ズルいって」
「何がズルいんだか」
 さっさとシャワーを浴びて、体の汚れを落としてまだ温まる前の浴槽へ。
 水温が心地よくて、自然と鼻歌が漏れ。
 水面に、黒髪が揺れる。気が緩んで、飲月に戻っているようだ。
「丹恒先生。俺も入りたいんだけど」
「なら、俺は出ようか。お前のベッドで待っている」
 引き留めるような声が聞こえたが、無視。そうしないと、駄目だと本能が。
 穹への好きだという気持ちが、溢れてしまいそうになったから。
「好きだ、穹」