はな
2025-07-27 21:45:14
2085文字
Public
 

ひまわり、麦わら帽子、愛しいあなた

ウェイドと狼ジミちゃんがひまわり畑でデートする話(ウェジミ)

【元ネタのポスト】
町の市場で麦わら帽子を見かけた狼ジミチャン、幼い頃、両親に麦わら帽子をかぶせられてひまわり畑に出かけたな、とぼんやり思い返していたら不意に視界が翳り、目を瞬きながらかぶせられた麦わら帽子のつばを持ち上げると、ウェが「ひまわりがあるともっとかわいいね」と笑うから、明日はひまわり畑でデートです



























 日盛りの夏の陽に向かって、大輪のひまわりが一面に咲き渡っていた。照りつける日射しを遮るように、ジミーは右手で麦わら帽子のつばをわずかに下げた。昨日、ウェイドが市場で買ってくれたものだ。帽子には、先ほどウェイドが挿してくれた小さなひまわりが揺れている。
 左手をウェイドに引かれ、己の背丈ほどもあるひまわりのトンネルをくぐり抜けながら、ジミーはふと、幼い頃を思い返して口元をほころばせた。

「どうしたの」

 ウェイドに訊ねられて、ジミーは苦笑した。

「子どもの頃、ひまわり畑で迷子になって、見つけてくれた父に手を引かれたなと思って」

 両親と行った、大きなひまわり畑。幼い自分には当然広すぎて、はしゃぎ回るうちに迷子になった。自分の背丈の何倍もあるひまわりの中を、両親を捜して泣きながら進んでいたら、

 ──ジミーちゃん。かくれんぼが上手だね。

 にこにこ笑う父に見つけられて、両親を捜し回ってたくさん汗をかき、道中転んで泥がついた手を優しく引かれたのだ。あのときの安堵といったら、今も忘れない。
 ジミーは繋がれた左手を見た。

「──お前も、俺がもし迷子になったらすぐに見つけそうだな」

 どこにいても、たとえ地の果てだとしても、この男なら自分を見つけるのだろうという確信がジミーにはあった。
 だからこそ、今の自分たちがある。揺るぎない証左だった。
 だが、当のウェイドはすぐに答えることなく、暫し考えるそぶりを見せた後、うーんと首をひねり、

「多分、そうだね」

 曖昧に答えた。
 いつも自信満々のウェイドが曖昧な回答をするのがとても珍しく、ジミーは思わず顔を上げて、目をぱちぱちと瞬いた。

「見つけられない?」
「んー、見つけられる……、と思う」

 ウェイドの答えはやはり奥歯に物が挟まったような回答で、ジミーは麦わら帽子のつばをきゅ、と握った。

 “多分”
 “見つけられる……、と思う”

 ウェイドの言葉を反芻し、長い睫毛を伏せる。

 ──こんなの、ただのたとえ話なのに。

 見つけられるよ、ジミーがどこにいてもね──ウェイドがそう答えてくれるだろうとどこかで期待していた自分がいて、なのに満足のいく答えが得られず、勝手に傷ついている。
 ジミーは己の卑しさに居た堪れなくなり、繋いだ手を解こうとした。が、ウェイドの指がジミーの指に深く絡まって解けない。解くどころか、しっかと握られる。離すことのできない手が徐に持ち上げられて、ジミーが顔を上げると、ウェイドがチェシャ猫のように笑った。

「ジミーちゃんのこと離さないから、見つけるとか見つけられないとかの問題じゃないんだよね」

 そうして絡まる指先にキスを落とした。
 ジミーは麦わら帽子の中で自分の耳がぺたんと伏せるのを感じた。それをウェイドに知られたくなくて、俯いて唇を噤む。

 ──この男はいつもこうだ。

 きざったらしくて、やっぱり自信満々で、ジミーの考えなど到底及ばないことを言ってのける。けれども、それはいつだってジミーが求める答えなのもまた、事実だった。

「ジミーちゃんのかわいいお耳、もしかしてぺたん、てなってない?」

 見たいな、などと言いながら、ウェイドが麦わら帽子に手を伸ばす。その手を拒むように、ジミーは身を捩った。

「だめだ」
「どうして?」

 かわいいお耳、見せて、となおもウェイドが帽子を取ろうとするので、ジミーは取られまいと今度はウェイドの胸に飛び込んだ。
 ウェイドからは、夏の陽と汗の匂い、それからつがいの雄の匂いがした。ジミーは鼻先をウェイドの肩口に埋め、すん、と鼻を鳴らした。
 ウェイドがほしい答えを自分もあげたい。

「──見せるなら、」

 ウェイドの服を胸元できゅ、と握る。日射しを避けたはずの頬が焼けるように熱い。

「ベッドがいい……

 辺り一帯で鳴く蝉の声にかき消されそうなほど小さな声だったが、しかし、ウェイドには十分だったのだろう。伏せた耳が見えるか見えないかのぎりぎりのところまで麦わら帽子をゆっくりとずらされる。まるでセックスのときのようで、ジミーの耳と尻尾がふるりと震えた。
 ウェイドの鼻先が、麦わら帽子のひまわりに触れる。

「全部見せて」

 ──ベッドで。
 耳元に吹き込まれる情欲のこもった雄の声に、ジミーは目元を赤らめた。返事のかわりに火照った唇を愛しいつがいのそれにそっと寄せる。熱い吐息がこぼれ、汗が首筋を伝ってゆく。
 ふたつの影が重なって、麦わら帽子に挿されたひまわりが、二人の足元に静かに落ちた。