コンビニに入ってすぐ、見慣れた人物の存在に気づいて反射的に舌を打った。もう夜も更けた時間帯で、店内に客は疎らだ。軽快な入店音と店内ミュージックでほとんどかき消されたはずだが、当人は俺の舌打ちに気がついたことだろう。何せ長い付き合いだ。
「なんでいるの」
「どこで何してようが俺の勝手だろ」
「183円です」
店員の声で、レジの真っ最中だった太宰が続くはずだった軽口を喉の奥に飲み込んだ。俺も迷惑な客とは思われたくないので、太宰から離れて店の奥へと向かう。
ここは俺の家の最寄りコンビニで、「なんでいるの」は太宰よりむしろ俺の台詞のはずだった。駅から少し離れていて、普通に生活していたら通りがかるような場所ではない。つまりは俺の家に来る途中ということだ。
間が悪いとしか言いようがなかった。俺はこれから仕事の予定だ。これが仕事の前でなければもう少しマシな反応をしたと思うが、太宰にうだうだと絡まれては遅刻しかねない。あまり構ってやる時間はない。
太宰と顔を合わせるのはしばらく振りだった。俺のいない間に何度かあいつが家に来た痕跡があったが、いずれも会うことは叶わなかった。今日も同じのようだ。本当にタイミングが悪い。
愛飲しているエナジードリンクを取ってレジに向かいながら店内を見回したが、太宰の姿はもうどこにもなかった。どうせ部屋で顔を合わせるとでも思って先に行ってしまったか。何も言わなかったからしばらく待ってようやく俺が出かけるところだったと気づくのだろう。無駄に絡まれるのは勘弁してほしいが、それはそれで悪いことをした気分になる。
そう思いながら車に戻ると、助手席に太宰が座っていた。少しの間だからとエンジンを掛けっぱなしにしていたから、太宰でなくとも易々と入り込めたはずだ。ため息を吐きながら運転席に乗り込む。
「俺、この後仕事なんだけど」
「知ってる。呑気にコンビニ寄る時間があるなら、私を送っていく時間くらいあるでしょ」
なぜ仕事だと知ってるのかなんて最早いちいち太宰に突っ込むまい。太宰の言う通り1度戻るくらいの時間はある。
しかし、ここから俺のマンションの下まで徒歩で2分もかからない。車でも時間はほとんど変わらないか、信号のタイミングによっては車の方が時間がかかることもある。だから太宰の行動の意味なんて、ひとつしか考えられないわけで。
ゆっくりと車を発進させ、来た道を戻っていく。昼間はそれなりに行き交う車も多いが、夜も更けるとほとんど通る車はない。
「朝までには帰ると思う」
「ふーん、だから?」
太宰は気のない返事で窓の外を覗いている。今更物珍しいものなどないはずの見慣れた道だ。
「それまでいい子で待ってろ」
「やだ」
それなりに気合いを入れた台詞だったが、間髪入れずに断られてぐっと息を呑む。
「ンだよ。わざわざこの距離送らせといて」
「この暑い中、運転手がいるのにわざわざ外歩くわけないでしょ」
「突然来といて人を運転手扱いしてんじゃねぇ」
「連絡入れればお迎えに来てくれるってこと?」
「そこまで言ってねぇ」
いつも通りぎゃあぎゃあと言い争いをしている間に、短いドライブは終わりを告げた。元々そう遠くないのだから仕方がない。
太宰は完全に車が止まるより先にドアを開ける。本当に俺をただの運転手扱いする気か。
「あんまり遅いと帰っちゃうから。精々頑張って仕事に励みたまえ」
そのまま躊躇いなくドアを閉められる。偉そうな物言いに腹が立って、返事もせずに再び車を発信させた。
しばらく走ったところで、太宰の別れの言葉が「待ってろ」の返事であることに気がついた。あいつは本当にわかりにくい。でもそんな風に可愛げのないところが可愛いなんて思ってしまっているあたり、俺はもう手遅れだ。
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