あけみ
2025-07-26 21:50:48
5134文字
Public SPN(小説)
 

【SPN】天使は心配性【C/D】

S15後の天界でイチャイチャするカスティエルとディーンの話。
ザ・ウィンチェスターズのネタバレ少々。
8月の大阪インテで無料配布しました。web再録です。

 ディーン・ウィンチェスターの魅力は悪魔や魔物たちをも魅了し執着心を抱かせ狂わせる。それは、本人の意思に反してつきまとう。ある者は彼の地獄での拷問を「芸術」だと評価し、その容姿を「ゴージャスで綺麗」だと言い放つ。天国の住人となった今でもディーンは周囲を魅了し、魂を虜にする。地上に降りようとする不安定な魂を拾って、天国の案内人をしていた時には迷い込んだ魂に付きまとわれ引き剥がすのも苦労した。もちろん、苦労したのはカスティエルである。
 ディーンの肩に乗って離れない魂をカスティエルは一振りして恩寵で叩いた。スッと消えた魂に対して、ディーンはギョッとする。
「おい、天国の住人だろ、あまり乱暴するな」
 カスティエルのあまりにも容赦のなさに、ディーンは注意したがカスティエルから見れば、あの魂には下心があり、ディーンに纏わりついていた。地獄送りにならないだけマシだと、言い放つ。
 ディーンは釈然としない表情をしていたがカスティエルは重たいため息をつくのだった。
「ディーン、君は天国にきてから無防備すぎる」
「そうか?」
 自覚がないのか。地上にいた頃は、警戒心を押し隠すことはなく精神が張りつめていたから、肩の荷が降りたのだろうか。やっと本来の明るく優しいディーンの性格が現れたのだ。
 それは、それとして。
 再びここ天国でカスティエルは頭を抱えていた。
 手元にある携帯端末の画面に映し出されたチャットの画面。カスティエルとディーンのプライベートトーク画面だが、最後にディーンが入力した言葉はフラッと散歩に行ってくるというような軽いノリで「地上に降りる」であった。
 天国の住人が気軽に地上に降りるなど、許されるわけもなく。天界でも問題がある行為だった。ジャックは地上の干渉を禁じている。それはディーンも充分、知っていたがそれでも地上に降りる覚悟を決めたのには理由がある。
 それを知ったカスティエルは、引き留めることはできない。その行動こそがカスティエルが愛するディーン・ウィンチェスターだからだ。

 ジャックがいくつもあった世界軸を修復したと話した時、ディーンはぼんやりとこう呟いた。
「その世界のどこかに、黙示録とは無縁の幸せに暮らしている両親もいるのかな」
 夕暮れの地平線を見つめながら零れた言葉に、カスティエルは静かに頷いた。その時は、彼の哀愁に揺れた瞳に胸を打たれ寄り添うように返答したカスティエルだったが、まさか、現状はもっと深刻で、再び世界の危機が訪れることになるとは思いもしない。
修復した世界軸を壊す舞台装置を元神のチャックが密かに巡らせ作動したと、ジャックから報告を受けた。放って置けば、せっかく修復した世界軸が全て消えてしまう。
「地上で生活しているサムも巻き添えを食らう、てことか?」
……そうだ」
 カスティエルが神妙に頷くと、ディーンの目にハンターとしての闘志が湧き上がるのを見た。
「ディーン、」
「前の神チャックが仕込んだことなら、俺たちの責任だ。俺が、なんとかするしかねぇだろ!」
「君だけに背負わせない」
 本来なら、ディーンを止めなければならない立場だったが、ついて出た言葉は共に戦う決意だった。ディーンは、カスティエルの言い分に一瞬、目を丸めたがすぐにニヤリと好戦的に笑んだ。
「なら、これが最後の狩りだ」
 チャックが仕込んだ魔物は狡猾だった。ジョンとメアリーが出会う世界軸で人知れず蠢き、世界を蝕んでいた。発動する時期をわざわざ1972年のローレンスに仕込んだのも意地の悪さがうかがえる。
 消え去る両親の一筋の未来を救う。ディーンは、世界が再び消滅すると聞けば、見て見ぬふりなどできない。カスティエルが惹かれ愛する彼はずっとそうしてきたからだ。
カスティエルは、シボレーインパラのベイビーと共に別の世界を救いに行くディーンを見送り、ジャックへの言い訳を考えていた。神であるジャックは地上に干渉することを一切禁じている。以前の神が干渉したせいで世界を壊し、好き勝手に弄ったことからの反省だった。
「カスティエル」
 ジャックが眉を顰めながら溜息をついたので、全てを察しているのだとカスティエルは察知し言い訳を考えるのを止める。
「ジャック……すまない。私は、ディーンの意思に従いたい」
……カスティエルはディーンに甘い」
 少し拗ねたような言い方だったが、ジャックは少し口元を緩めた。それは、いつまでも相思相愛な両親に呆れる子どものような反応でもあり、カスティエルはわざとらしく咳き込んだ。
 ディーンが天国に来てから、カスティエルは地上にいた頃には欲しくても叶わなかったものを手に入れた。自然と周囲に惚気を聞かせてしまったようで、それはジャックもボビーも呆れるほどなのは自覚していた。
 けれど、ジャックはすぐに表情を曇らせカスティエルを見つめる。
……少し面倒なことになった」
 そう言って、ジャックは懐から二枚の写真を出した。そこには、1972年のローレンスで撮られたであろう、ディーンの姿が写っていた。シボレーインパラに乗るディーンが隠し撮りされたことで、若いジョンとメアリーにその存在を知らせてしまったようだ。
「それだけじゃなくて、周辺に潜んでいる得体の知れない魔物もディーンのことを警戒している」
 ジャックの発言に、カスティエルは嫌な予感がした。ディーンはこの世界には既に存在しない。地上に降りたさいは実態を持つが、魔物から見ればそれは魅力的な魂として認識される。
 地上に降りたディーンは目立ちすぎるのだ。
「私も地上に降りる」
 カスティエルは、咄嗟に言い放ち踵を返す。
「え! 待って! カスティエル!」
 ジャックの制止する言葉も聞こえず、駆けるカスティエルの脳裏には魔物に言い寄られるディーンの姿が浮かび、苛立ちと焦燥が募る。
 ディーン・ウィンチェスターは、人間にも魔物にも異様にモテるのだ。現に、地上に降りたディーンに惹かれる人間たちが数多くいる。人間はまだ良い。彼らは無害だ。
 だが、魔物は厄介だった。
 カスティエルは天使の剣を握りしめる。その視線はディーンを狙う魔物を一撃で仕留めるというハンターの面構えである。
 そもそも、ディーンは天国に来てから無防備すぎる。更に狩りから離れ穏やかな時間を過ごす中で容姿の変化もあった。伸びた前髪をかきあげる仕草はカスティエルも見惚れる美しさであり、素直にその感情を口にすれば、その度にディーンは照れくさそうに微笑むのだ。見慣れぬ新しいディーンの表情が増えるたびにカスティエルは想いを伝えることと、相手がその想いに応えてくれることへの愛おしさを思い知らされた。
 カスティエルは1972年のローレンスに降り立つと、悪魔や魔物たちが噂するディーンの正体を気付かれる前に始末する。チャックが仕込んだ魔物も厄介だが、今悪魔たちにディーンの存在を知られるのは避けたい。ディーンの跡をつけ狙う悪魔をカスティエルは背後から天使の剣を突きたてた。
「お前は……! 天使が何故!?」
 カスティエルを見やって、驚愕する悪魔は地獄へと逃れようとするも、一体残さず倒す。この世界軸のルシファーやアザゼルの感知に入る前にその場で滅した。
 ディーンの周囲をうろつく魔物たちを倒すうちに、カスティエルは自身でも思わぬところで目立ってしまったようで。カスティエルもまたジョンとメアリーに存在を知られることになる。

   ×   ×   ×

 一目見るだけで良かった。地上に降り立つつもりもなかった。だが、チャックのクソ野郎が修復した世界軸を壊す舞台装置を密かに巡らせ、作動したとあれば、迎え撃つしかない。最後の狩りだと、ディーンはシボレーインパラのベイビーと共に別の世界を旅した。若いジョンとメアリーを遠目から見守りながら、周辺に潜んでいる得体の知れない魔物を探っていた。
 次元の狭間に閉じ込められる瞬間、危機を脱したディーンは両親の幸せな生活が存在する世界を守ることができた。ジャックの苦言をかわしディーンは誤魔化したが、ジト目でこちらを見つめるボビーの視線に苦笑するしかなかった。
「全く、お前も無茶するが、カスティエルも滅茶苦茶する」
「キャスがどうかしたのか?」
 ボビーの言葉に、ディーンは眉根を顰める。地上に降りることを伝えたが、颯爽と一人で乗り込んでしまったので天界に置いてけぼりをくらったカスティエルは怒っているかもしれない。
「あいつも地上に降りて滅茶苦茶していたから、おれが後始末を背負わせられたんだよ」
 ボビーはゲンナリとした表情で言い放った。
「は!? アイツも来てるのか?」
 ディーンは肩を揺らした。
「カスティエルは天界に帰したよ」
 ジャックがそう付け加え、そうして「ディーンもカスティエルと謹慎ね」と、ニッコリ微笑みながら答える。かなり怒っているようだ。
ディーンは表情を引きずらせ、口を噤んだ。あれだけ暴れて謹慎処分なら、ジャックもまだ甘いのかもしれない。そんなことを思い、ディーンは苦笑する。
 けれど結局、ジャックも地上に降りディーンたちの後始末をつけたのだから親代わりだった身としては面目ない。
ディーンは伸びた前髪をかきあげながら深い溜息をつく。視線の先には若いジョンとメアリーが不審げにこちらを見つめている。ディーンは微笑んでから、改めてジョンの周囲にいる優しい人たちを見つめた。彼らは良いハンター仲間だ。明るくムードメーカーのカルロス、魔術に詳しいエイダはカルロスと良いコンビを見せる。彼と彼女らがジョンとメアリーを前向きに支え手助けしてくれた。自分が知っている世界線では、出会わなかったかもしれない人たち。
 今回の件は誰も犠牲にならずに済んだことが良かった。地上から去る前にもう一度両親を見つめた。どうか、二人とも幸せに長生きをして欲しいと祈りながらディーンとボビーとジャックたちは静かにその場から立ち去る。

 ×   ×   ×

 天界に戻ったディーンは、用意された我が家に足を踏み入れた。ジャックから謹慎を言い渡されたが、カスティエルと共に暮らしている家にしばらく籠るということだ。
 それは、つまり。
「ディーン!」
 カスティエルがディーンの無事を確かめるように出迎えると、熱い抱擁を交わす。
「キャス、大袈裟だな」
 ディーンは顔を上げ笑ったが、カスティエルは眉を顰めこちらを睨んでいた。 
「地上に降りた君は目立ちすぎる。心配する私の身にもなってくれ」
 カスティエルはそう言って、トレンチコートの懐から写真を取り出した。そこには、隠し撮りされたディーンの姿が写っている。
「うまく撮れてる」
 ディーンは他人事のように言ったが、カスティエルは写真の回収に奔走していたようだ。1972年に現在のディーンの姿を撮られていたのは、大問題で一つ間違えれば再び時間軸が歪み世界が破滅への道をたどる。しかし、カスティエルが奮闘していたのは別にある。
「君を見て『ハンサムでゴージャス』と言っていた悪魔たちを始末した」
 そう言い放ち、一仕事終えたように胸を張るカスティエルはどこか満足げである。
「たかが悪魔だろ、警戒しすぎだ」
「得体の知れない魔物が君に興味を持ち、そのうえ執着を抱き悪意を向き出せば、どんな姑息な手を使ってでも美しい魂をわが手にしようと躍起になる悪魔たちはいくらでもいる」
 早口でまくしたてられ、ディーンは少し困惑する。最近のカスティエルは、少し心配性ではないか?
「なんだよ、お前、もしかして地獄の番人にクラウリーを復活させたの、まだ根に持ってるのか?」
「また思い出してしまうからそれ以上言うな」
 カスティエルが鋭い視線を向けたので、ディーンは押し黙る。どうやら、機嫌が悪いらしい。
ディーンは溜息をつく。
「キャァス、そんなむくれるなよ。ほら、ジャックからしばらく謹慎くらってるんだ。俺とお前。しばらく二人っきりだぞ」
 カスティエルの肩に腕を回し、ウィンクしてから甘い声を出す。ディーンが天国に来てから覚えた甘え方を実践する。首を傾ければ、前髪が横に揺れ、ディーンは目を細め微笑んだ。すると、カスティエルが一瞬、静止する。
 その後、深い口付けを交わしてから二人は一室にあるベッドへと転がり込む。時間はたっぷりあるのだから、あとはベッドの中で楽しんでから話し合えば良いのだ。もっとも、その頃には何で言い争っていたのかお互い忘れているだろうが。





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