影喰い
2025-07-26 21:28:33
2340文字
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893パロ伊剣♂

軽率に始まった893伊x探偵剣。青空ver.から少し修正。
直接の描写はないですがやっているのでワンクッション。ちなみに伊は非童貞(左固定)。
たぶん続かない。







 「ここが件の事務所か」
 「情報元からはそうだ」
 依頼を受けたら必ず完璧にこなせてみせる。名探偵の肩書きを背負うセイバーは今回助手と協力者のイオリと一緒に捜査を始めている。
 手際が良く、いや、料理から推理の手伝えまで何でも良すぎるでも過言しない程度で、あの組織の目からうまく逃がしつつ、依頼内容に載せた一連の証拠や痕跡を追う。
 そして最後にたどり着いた場所は、誰もいないあるビルなのだ。

 「……罠にかかられたのか」
 「いや。その組織は今日予定があったから、全員留守のタイミングを狙っただけ」
 階段から上へ、目標のフロアに無人の部屋。何故か人がいる気配まったく感じられない。ただ最奥にある良質な革椅子で、厚そうなコート一つ掛けているのみ。

 「おかしいな。コートだけ残したとは」
 「何故だ」
 「ここまで来たくせに何を言う。この組織、相当な地位を持つ者が必ずコートを着用することが決まりなんだぞ」
 「なるほど、そういうことか」

 カッ、カッ、黒い革靴がセイバーの言葉を聞きながら奥ヘ進む。
 少し前まで二人の捜査は路地裏やアスファルトを駆け抜けていた。だからこそ、今更あの靴も随分良い品物だと気づいてしまった。視線を上に移ると、そのジャケットもいい生地から作られたのを分かってきた。
 「だとしても頭もいないとは話が違うぞ、イオリ」
 「確かにいるよ」
 美術品みたいにゆったりとしたコートを眺めると、イオリがそれを肩に掛けた。ゆっくり踵を返す青年は助手にらしからぬ笑みを浮かべる。

 「――このコートを掛けている間にな」

 指パッチン一つで、二人しかいない空間に組織の成員たちが湧いてくる。

 「良い助手になったんか?逞しい名探偵さん」
 ここに持っている武器は何もない。大勢の人を相手に無事とは済まない、そう悟った瞬間セイバーは両手を上げた。
 「最初からそのつもりなのか、助手さんよ」
 「気分転換を思ってくれるといい。深追いし過ぎとこうなる、と外に見せしめ必要でもあるな」
 おまえは賢いから間違いはしないはずだ。
 そう言い、宮本伊織の部下はセイバーの手首をきつく縛りつけた。

 「乗れ」
 高級車を乗る機会はそんなに多くないが、まさか今回は死に一番近い場合で。取引の内容は内密に、と他の組織員に宣告すると伊織はセイバーを連れてかなり良いホテルヘと向かう。
 「で、取引とはなんだ」
 「壁に耳ありのを忘れるな」
 ドライバーがいる前方ヘ伊織が眼差しを送った。今は自分の立場をよく覚えろ、とも言えるのだろうか。
 彼の部下はどれもそれなりに鍛錬を重ねた者と見受けた。取引はなんでもいいが、とにかく隙を見つけて逃げなきゃ。
 隣に程よく距離感で肩を並んで、コートの陰で手首の縄を隠しつつ、予約した部屋を目当てに足を運ぶ。エレベーター特有な小気味良い音と共に指定のフロアへ、部屋の門を閉じた途端、まだ使える両足で長身の男に蹴り飛ばす――つもりだった。
 その前に伊織はもう足首を握られて、何の衝撃もないままで済んだ。

 「暴れるな」
 「この……!」
 「それとも望み通り乱暴にされたいか?」
 次の瞬間、行動を制限されたセイバーは大きなベッドヘ投げ込んだ。沈む暇もなく、男の影が真上から落ちる。
 「連中は気性が荒いやつがたくさんいる。ここまで連れていなかったら、おまえはもっとひどい目にあうのは間違いない」
 こんな体形では男も女も同じ結果に至る。例えば、いくら男のモノを咥えても解放させてられない。割と愉快に笑う伊織に、セイバーは睨むしかできない。
 「貴様ならどうする」
 「見せしめは必要だと、先程もう言ったな」
 乱れる前髪を整えながら、伊織は続きの言葉を紡ぐ。が、声に発することがない上に、その裏腹にも違う感情を持っている。

 『やるのは一度だけ。憎んでも構わない』

 探偵という職業とは、要するに頭を使う仕事。
 細かいところから手がかりを探れまくれ、容疑者の言葉や表情から真実を突き出す。
 けれど、目の前の「宮本伊織」は嘘をついてない。

 「これだけで気を遣ったか」
 『そうしないと先は辛い』
 「まだこれからだ」
 『体の傷を気にしないでくれ』

 しかもわざと、その本音を漏らすように見える。

 「初めてと言っても具合が良いよな」
 『すぐ終わるから』

 助手の役を演じるときもそうだ。裏はあるが嘘は一つもなかった。だから、
 「……――ッ!!」

 抵抗がある体を裏切って、その心を先に彼を許した。


 「理由を問うまいか」
 「もう言ったじゃないか」
 上位者として手本をするため。裏社会の掟を壊さないため。一度や二度のことではないと見受けたそれが、人としての心を疲弊されている。
 「今なら取引の条件を言えるだろうか」
 「……ああ」
 バスルームの中でコートを着るわけにはいかない。言った通り、頭の義務はしばらく部屋に置いている。

 「簡単に言うと、引き続き俺に助手をやらせてくれ。表向きでは、な」
 「何を考えている」
 「表の立ち位置が欲しい。それと、おまえと一緒なら楽しく過ごせる」
 「こんなことをやった人は何を言う」
 浴槽の縁に頬を掛けながらセイバーは文句を言い放つ。拒否権がなくても、小言の一つや二つは許されるのだろう。
 「そうだな、代わりにおまえの生活費は保証される。組織調査の件はこちらがなんとかする」
 「物騒なやつか」
 「ご想像にお任せします」

 こんなことを考える気もない。小柄の体が少しぬるくなっている水の中で沈み、下から男の心配そうな顔を覗き込む。