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haruon1018
2025-07-26 11:10:07
2934文字
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アラブの茶室
ぼちぼちとは描いてる……
そんな順風満帆な晋作が何故、後宮にいるかといえば森が他国の太守だからである。
先ほどのように諸侯は女帝信長の傘下に入ったが先祖代々の土地は引き続き彼らが統治している。
太守とは遠い日本の体制であれば国主、ないしは藩主に近い存在だ。
一定額の税を女帝に納め、いざという時には兵を挙げて信長の元へ馳せ参じる。
上級階級の子どもは他国の地理は勿論、太守の名前や家臣の名前も教養として覚えるが、
肖像画は画家の腕前もあれば、信長や北の長尾などは女性と認知されているが何故か男の姿で描かれた肖像画も出回っている。
なので初対面でしかも通り名で自己紹介された森が太守だとは高杉は露程思わなかった。
森と初めて会ったのは大市場の晋作の店の玄関だった
最初に構えた店では手狭になり、郊外に工房を造った饅頭は宿泊者向けに、元あった店は、熟練された菓子職人がその腕前を披露すべく、寒天で果物を固めた美しい冷菓子や季節の花々を象った菓子を改装した店舗の一階で販売していた。
欧州は勿論、信長が治める地域一帯でも空前の日本ブームが起きており、それに乗っかり店内には輸入した畳が敷かれ、扇子や掛け軸といった装飾品が所狭しに並べられている。
この地域ではまだ女性が一人で食事を摂ることが憚られているが、ほんの少し菓子を摘まむ程度なら咎められない。
地域に根付いている珈琲や紅茶で菓子を食べても美味しいが、日本で親しまれている茶で飲むと一層味が引き立つ。
抹茶に緑茶、ほうじ茶など様々な種類があるが、抹茶は他の茶葉に比べて高価な上、点て方にこつが入り、苦みも強いせいでか飲む人を選ぶ。
晋作の店では通好みの客にしか抹茶は出さない。
森は蜜に惹かれる蝶のごとくその店にやってきた。
「いらっしゃい
……
職人の引き抜きならお断りだし、立ち退きもしないよ」
晋作の店が繁盛すると露骨な嫌がらせをしてくる者が後を絶たない。
森の容貌と体格から最初、どこかの店に雇われた用心棒だと晋作は思っていた。
「あっ客に随分な挨拶じゃねぇか、物取りでもなんでもねぇただの客だ、」
「それは失礼
……
もしかして他所から来た人」
「何で分かる」
「なんとなくね、訛っているとかではなく纏う雰囲気というのかな」
「ほーん美濃から来た」
「美濃、信長公のお膝元の辺りか、随分と遠くから何しに」
「
……
もてなす気がないなら帰る、」
「待ってくれ
……
いや、その悪かった、お詫びと云ってはなんだけど君、抹茶は飲めるか」
「ああ、」
「そうか、用意しよう、お代は要らない。ついでに維新饅頭も付ける」
晋作はそういうと客ー森を店の奥に造った茶室に案内した。
「随分と気に入ってくれたようだ、どうだいうちの茶室は、」
森を茶室に招いた後、高杉はさっと黒地の着物に着替え茶道具を持って部屋に戻った。
「なかなかに侘びてるな」
「侘び、君、相当日本好きだね、君のような大男には窮屈かもしれないが抹茶を飲むならやはりこういった場所に限るだろ」
先ほどの部屋でも抹茶を出すことがあるが、長椅子に赤い天鵞絨を敷き、室内なのに和傘を飾ったいかにも日本という造りに対して、ここは正真正銘日本の商人でもあり茶の第一人者である千利休とやりとりして造った場所だ。
模様がない殺風景な壁と床の間に花を一輪飾っただけの部屋だが落ち着きのある空間で晋作も気に入っている。
「説明は
……
、これが維新饅頭、」
招いた客の中には興味津々で茶道具について訊ねてくるが森はうっそりと部屋の雰囲気に浸っている。
「どうぞ、」
晋作は森に合わせるように口数を減らすと、点てた抹茶を森の前に置いた。
茶器を愛でながら飲む姿は様になっており、何度も嗜んでいると分かる。
晋作と同じ上流階級なのかと考えていれば、ふと森と目が合った。
「飲んだようだね、結構なお手前でとかはないのか?」
「それあんまり使わねぇ
……
みたいだぞ、饅頭と茶も旨かった」
「それは良かった、おかわりはいるか」
「そんながぶがぶ飲むモンじゃねぇだろ、菓子は貰う」
「気に入ってくれたようだね、ああ紹介が遅れた、僕は高杉晋作、維新饅頭の発案者で経営者でもある」
「森、勝蔵」
「森、ああ君、美濃の出身と云っていたね。確か東美濃と呼ばれる地域を治める太守の姓が森だったはずだ」
「そうだ、ヤケに呑み込みが早いな」
「君の佇まいを見れば上級階級だとすぐ分かる。で、なんで長州まで来たのだ」
「
……
愛を語りに」
「あい、愛、なんだそれ面白いぞ君、見たところお付きの者もいないということはお忍びってやつだな、」
晋作は世の中を知るために商売を始めたが、上級階級の男子は独り立ちをする前に遊学するが一般的だ。
独り立ちすれば結婚し家庭を持ち、家長として家族を支えていく。
つかの間の火遊びや自由を謳歌させ、青春に哀喜しながら残りの人生を過ごす。
遊学には大抵、お付きの家庭教師や案内人と五、六人の従者がいるが、森にはそういった従者がいる気配はない。
分家や本家の次男坊以下はお忍びで吟遊詩人やさすらいの武芸者と名乗りながら諸国を練り歩いたりする。
「
……
ジジイは置いてきた、」
「へぇ~、じゃあ今はさすらいの武芸者辺りか、」
「型だの段位など戦じゃ役に立たねぇよ、この矢立みろよ、どうみても詩人だろ」
「大道芸の熊、もしくは恐竜が枝を持ったようにしか見えないぞ
……
」
森は質の良い筆を取ると何かを書く仕草をする。
それが妙に馴染んでいるのが可笑しく晋作はつい揶揄う言葉を投げかけた。
「あ、大殿が云うにはオレが唄えば女が腰を抜かすとか云ってたぞ、まっ大殿も茶々様も腰を抜かさねぇから分からねぇけど」
「大殿? 主の名前か、ごめん、つい口が滑った。君とはまた話したいと思ってるんだ、」
晋作は懐から会員証を取り出し、森に渡した。
「これは普段、常連にしか渡さないモノだが君にあげる、少しだけお得に茶が飲めるし、事前に予約してくれればこの部屋を私用で使ってくれても構わない。二枚目の紙はハンコが十個貯まると維新饅頭を一個無料で食べられる」
「ほーん、まっこの国には暫くいるから貰っておくわ」
「また是非来てくれ、今度は君が点てた茶でも飲んでゆっくり話そう、」
そろそろ店の様子も気になると晋作が立ち上がろうとすれば、森が手を握ってきた。
「
……
なぁ、高杉。オレはこの国で始めて攫いてぇほど惚れた相手が出来た、」
晋作の瞳を覗く顔は男前でそこらにいる乙女ならば一瞬で恋に落ちるだろうが、晋作は男でまだ恋というものを知らない。
「おや、随分とお盛んな事で。いいよ、そういう話、僕も好きだ、」
恋という感情を知らなくても女性を愛でることが好きな晋作はくすっと笑う。
茶ではなく杯を交わすのも悪くないと晋作が微笑めば、森が口を開いて笑った。
「ひゃはは、やっぱ、てめぇは面白ぇヤツだな、」
「それはこっちの台詞だぞ、森君、」
晋作は笑い返し、友情というモノが芽生えたがそれだけだった。
森に云わせればあの茶室でもてなされてから恋に落ちたといつかの閨で語っていた。
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