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せいる
2025-07-26 04:17:53
2473文字
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酒宴の片隅で
城寨ボーイWith秋哥のお付の二人。「…AVだ」のロン毛さんのイメージで書いています。
「すいません〜ちょっと避難させてください〜」
騒がしい通り越して混沌としてきた席を離れて、俺はもはや顔馴染みとなった秋哥のお付きの二人の席に移動した。
「どうぞ、どうぞ」
「いやぁあっちは今日も元気だな」
賑やかな飲み会は好きだが、いかんせん周りは自分よりだいたい歳下で、たまに元気が良すぎてついていけない。十二少なんてほぼシラフのはずなのに、なんでついていけるんだろうな、あの人。
少し前の食事会で暴走した信一さんから逃れようとする俺を二人が匿ってくれて以来、ちょっと休憩したいときはこっちにお邪魔させてもらっている。
彼らの雇用主を含むよっぱらい達が大騒ぎしている一角を見ながら、のんびり食事を楽しむテーブルに酒は一切ない。
「やっぱり飲まないんですか」
「旦那様は『お前たちが酔っていても問題ない。たまには好きに飲め』とよくおっしゃってくれるが」
「ただの金持ちじゃなくて、秋哥ですからねぇ」
「ご自分の身を守るくらい余裕だろうが、こっちも仕事中だからな」
「それ、うちの信一さんに言わないでくださいよ
…
」
俺達の目線の先で、我らが龍捲風の右腕は彼の指定席である大老と秋哥の間でご機嫌に何か喋っている。
(今日も頑張ってるなー)
俺が初めて秋哥との食事会に参加したとき、その日も信一さんは盛大に酔っ払っていた。
しかしなんとなく妙だった。いや、もともと酒癖は大分悪いが、城寨で仲間内で飲んでるときはもっと飲んでたって、あそこまでテンションは上がらない。ひょっとして体調でも悪いのかと思ったが、翌日はいつもどおりに起きて、咥え煙草で帳簿をつけていた。
「あー、やっぱ気づいてたか」
昨日はいったいどうしたのかと尋ねれば、鉛筆をくるくる回しながらちょっとバツが悪そうに彼は答えた。
「俺さー、初めて秋哥と飲んだとき大分はしゃいじまって、流石にやべぇかなって思ったんだよ。でも大老が『あいつがあんなに楽しそうなのは久しぶりに見た』って」
まわっていた鉛筆が、カタン
…
と帳簿の上に落ちる。
「もともと酒で騒ぐの好きな人なのに、あの抗争の後は全然飲みに行かなくなったんだってさ。だったら、なんか、俺と飲んでるときは楽しんでて欲しいから」
端から見ればそこまで酔っていないのに地獄の酒癖を三割増で再現してる最悪な人だったが、信一さんなりの優しさと思いやりだったらしい。
「あの人は」
ふーっと吐き出した煙の行方を追うように遠くを見つめる瞳が、彼の養父を思い出させる 。
「誰より自分のことを許せないんだって」
自分は何もできないまま、眼の前で愛する家族を殺される。どんな気持ちかなんていきら想像したって、本人の地獄のような苦しみはわからない。軽々しくなにか言うつもりはない。
秋哥の妻と子供の仇は大老が討った。陳占は死んだ。
それで終わりにできないってのはわかる。でも三十年近く見つかるかもわかんない仇の子供探し続けるっていうのはどんな気持ちなんだろう。良いとか悪いとかじゃなくて。
ちょっと想像してみたが、後ろには戻れず、どこにもつながっているかもわからない一本道をひたすら歩かされるような、ひどく不安な心持ちになった。
信一さんの話を聞いてから、俺も秋哥がいるときはできるだけ楽しんでもらおうと考えた。
とはいえ俺は大食漢でもザルでもワクでもない。ついでに言うと二日酔いは大嫌い。だから周りの奴らにどんどん食わせて、どんどん飲ませるようにした。注文も任せろ。
大惨事を避けるために水もじゃんじゃん飲ませて、マジでヤバい状態のやつは便所とかに一旦引っ込める。流石に酒の席で死人は出したくない。あとそうやって忙しくしてればだいたい信一さんと秋哥から逃げられる。
ちなみに俺のこの立ち回りを大佬はちゃんと気づいてくれた。
いつだったかふらふらな酔っ払いたちを片っ端からタクシーに押し込んでいる俺の肩に手を置いて、こう言ってくれたのだ。
「いつも気を使わせて悪いな。助かる」
かっこよすぎるだろ。こういうところがずるいんだよなこの人。言葉は少ないのに、いや、少ないからこそ言われたときの衝撃がすごい。あと顔が良い。でもできるなら、もうちょい信一さんと秋哥を押さえて欲しいです。
茶を飲む二人と、持ってきたウイスキーのロックをちびちび舐める俺。三人で飽きもせず酔っ払いたちを眺める。
「またTiger哥が潰れそうだな」
「旦那様がTiger哥に集中的に飲ませるから
…
」
「大佬はなんかよくわかんないけど、うまくはぐらかしてんですよね。どうやってんだあれ。あ、提子ちょっとやばいかも」
「とにかく旦那様が楽しそうで我々も嬉しいよ」
「じゃあ今度二人も秋哥誘って飲んでみたらいいんじゃないですか?」
「やめてくれ、死にたくない!」
「俺達に止められると思うか
…
?」
信一さんや十二少のように右腕でも、俺達のように舎弟でもない。でも雇用主とその護衛という言葉だけでは表せないくらい、この二人だって秋哥のことを慕っている。
広くて綺麗な家に独りで暮らしで(もちろん使用人はいる)ただ仇討ちだけを目的に生きる。なんとなく厭世的で、人との関わりも絶って毎日刃物研いでる人とか想像してしまいそうだが、この復讐者は俺達に飯奢ってくれたり、死ぬほど飲ませようとしたり、信一さんの酒癖を楽しむような人だ。
だから外野としてはもっと自由に生きればいいのになと思ってしまう。それこそ余計なお世話だろうけど。
視線に気づいたのか、秋哥がこちらに歩いてくる。
「なんだお前こそこそとこんなところで、ちゃんと飲んで食ってるのか?」
今にも大量の酒を飲ませてきそうな秋哥を前に、さてどう切り抜けようかと考えていると、二人が助け船を出してくれた。
「そういえば、旦那様ちょっとお尋ねしたいことを思い出しまして
…
」
「立ったままもなんですから、お座りください」
早く行けと言う目配せに、軽く会釈を返す。この人がいない隙に提子を助けてやるかと、俺はもといたテーブルに歩き出した。
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