三毛田
2025-07-25 23:23:13
1081文字
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64 064. 引いた一線の曖昧な分かれ目

64日目
それを君はやすやすと飛び越えてくる

 俺に関われば、あの男に襲われ命の危険に晒すだろう。
 そのことを伝えたけれど、列車の乗客は簡単にやられるほどやわじゃない――ただし、車掌を除く。という注釈がつく――と笑って返され。
 少しだけ安心した。
 終の棲家とするわけではないが、ここは心地良いと断言できるほどではないものの、それなりに快適に過ごせる場所だと感じられるように。
 人見知りのけがあると気づいたので、あまり他人とは必要以上に関わっていないが。
「丹恒~!」
「っと。穹、飛びつくな。俺だから何とかなったが、他の人間だったら倒れていたぞ」
「丹恒だったら、大丈夫だと思ったから飛びついたんだ」
 背中に飛び飛びついてきた穹。
 彼の尻の下へと手を回し、数回体を揺すって背負うのにちょうどいい位置を探す。
「キャ~。丹恒のえっち!」
「落とすぞ」
「冗談だって。ラウンジまでレッツご~!」
「まったく」
 背に抱えたまま、ラウンジまでの短い距離を歩く。
 彼を拾ってしばらくは、距離を取っていた。
 心も、体も。
 深く関わって欲しくなかったから。
 彼も目をつけられてしまったら。そんな、臆病な気持ちがあって。
「丹恒」
「どうした? 落とせばいいのか?」
「違うって!」
 振り返らなくても、どんな表情を浮かべているのか丸わかりだ。
 きっと、不満そうに頬を膨らませ、唇を曲げている。
「好き」
 また、いつものように穹はその言葉を口にして。
 彼はいつもいつも、俺が引いた一線を軽く飛び越えてくる。
 曖昧な分かれ目だって、気にすることなく。
「そうか」
「あ。ちょっと嬉しそう」
「そんなことないと思うが」
「俺はそう感じる! でっ」
 うなじの辺りに頬ずりされ、生温かいものが触れて思わず振り落としてしまった。
「穹!」
「いてて。何で落とすんだよぉ」
 むすっとした表情でこちらを見上げて。俺が声を荒げるも、反省しているそぶりは見えず。
「何をした」
「え? 首にキス」
 驚きすぎて、口から出てきたのははく。と、言葉にならない息。
「何で。って顔してるな。好きだから。それと」
「そ、それと?」
 答えを聞くのが少し怖くて、思わず距離を取ってしまう。
 けれど、気にすることなく立ち上がり、俺の前まで来て。
「丹恒、好き」
 扉に追い詰めるように、迫ってくるものだから後ずさるしか出来ず。
「あっ」
「わっ」
 扉が開いて、俺は背中からラウンジへ。そして穹は、俺の上に倒れてくる。
「何をやっておるんじゃ」
 パムの呆れたような声が。
「埃をはたいてから、戻って来るように」