三毛田
2025-07-23 22:21:42
1088文字
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62 062. 一粒落ちた涙

62日目
君の涙を見ていいのは俺だけ

「あれ」
 地面を濡らす雫。
 一度それに気づいたら、次から次へと垂れていって。
「ほら」
「ありがとう」
 隣にいて、黙って見ていた丹恒はそっとハンカチを渡してくれる。
 それで涙を拭い、数回深呼吸したら落ち着いた。
「強く擦るなと言う前に擦っていたから、腫れる可能性がある。戻ったら、少し冷やすぞ」
「うん」
「話したくないならば、それで構わない」
「別に話せない内容じゃないよ。ただ」
「ただ?」
「自然と、涙が出てきた。それだけ」
 本当にそれだけなのだ。
 人体の不思議っていうの? 悲しければもちろん涙は出るけれど、感動したり、嬉しくても出るのだからすごい構造だ。
「脳の構造? それとも、感情の方に引きずられている?」
「何の話だ」
「涙」
「欠伸をしても出るだろう」
「あれって何で?」
「顔の筋肉が動くことで涙腺が刺激され、涙が押し出される仕組みだったはずだ。こら。何も言わずに触れるな」
 丹恒も欠伸をすると涙が出るのだろうか? そんな疑問が先に来て、彼の頬に触れたら怒られた。
 でも、叱るって感じだから、怖くない。
「じゃあ、触れていい?」
「そっとで頼む。他者に触れられるのは、余り慣れていない」
「わかった」
 そっと、恐る恐る指を丹恒の頬へと伸ばし。
 触れた頬は、ちょっとだけ俺よりも冷たい気が。
「こら」
 頬を引っ張ったら、手首を掴まれた。
 これじゃ涙は出ないのか。
「つまらない」
 頬を膨らませると、誌の頬を指先でつつかれ。それと同時に、彼の口元には笑みが浮かぶ。
「っ」
 まさか笑うとは思っておらず、心臓が跳ね。
「変な顔だったな」
「変な顔って言うなよ」
 拗ねた声が出てしまう。でも、丹恒の笑みのインパクトには及ばない。
「丹恒、キスしたい」
「いいぞ」
 頬に手を添え直し、唇を重ね。
 丹恒の泣いたところを見たいと思うと同時に、泣き顔を俺以外には見せないで欲しいという気持ちも。
「たんこう」
「なんだ」
「もし、お前が泣くなら俺の前だけにしろよ」
「それなら、泣かなくてもいいな」
「何でだよ!」
「ふふ。冗談だ。お前の上着の中で泣こう」
「約束だからな」
 小指と小指を絡め、約束を交わす。
 実際に彼が泣いたところを見たら、俺はどんな反応をするのだろう。
「丹恒!」
 あれからしばらくして。
 飲月の姿になり、突然涙を流す丹恒。上着を脱いで、慌てて彼を隠す。
「どこか痛いのか? 苦しいのか?」
 問いかけるけれど、首を横に振るだけ。
 上着の上から抱きしめる。
 涙は綺麗だけど思っていたよりも、動揺した。