墨色
2025-07-23 19:22:03
2952文字
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優しい侵略計画

獅子神さんの家で過ごすレイメイについて考える話
YJのキャラデザインタビューに影響受けて書き始めたのに、どこに反映されたの?どこ?

叶と二人の時間を過ごすことが増えて、気付く。コイツは他の奴らがいない時だと、存外静かだ。
賭場で独壇場のように喋り続ける叶を見続けていたし、ストーリーマーという職業柄なのか、はたまた持って生まれた性質なのかと思っていた。しかし、どうやら違ったようで、自身の観察眼のなさにガックリくる。
フラリと一人で家にやって来ると、動画の編集作業を始めたり(それは、自分ちでやりゃイイんじゃねえか?)ただゆるりと微睡んでいたり(だから、家で寝ればイイだろ?)する。
冷蔵庫からエナドリを取ったついでに、今日の夕飯のリクエストをしてきたりもする。その日ある材料で出来る料理をピタリと指定してこられると、悔しさ半分有り難さ半分だ。


「うん!今日も敬一君のご飯は美味いな!!」
「そりゃ、どーも」
今夜のメニューは、スパゲッティーアラビアータ。「うんと辛くしてね」のリクエスト通り、なかなか辛くなったのだが、叶はケロッとした顔で食べ進める。
「ほら、サラダも食えよ」
「えー、パスタにトマト入ってるから良くない?」
「緑の野菜を食え」
放っといたら、一日エナドリで済ませそうなコイツの食生活には、ついつい口を出してしまう。
……仕方ない。敬一君特製ドレッシングは美味いから、入国を認めよう」
「そりゃ、光栄なこった」
「それに、コレを食べたらデザートがあるんだろ」
……食べなきゃ出さないからな」
やっぱりバレてるか。
「ははっ、厳しいな。敬一君は」
一人でいると静かな叶だが、食事のときは別だった。味の感想だったり、ネットで騒がれてるニュースだったり、様々な話題を振ってくる。
そして、食事が終わるとソファに陣取り、後片付けをするオレをじっと観察する。いや、手伝えよ。
オレが水仕事を終え、ソファに座るとニコニコと子どもみたいなツラで近寄ってきた。
「お疲れ様。ありがとう」
「そう思うんなら、手伝えよ」
心の声を素直に口にするが、当然スルーされる。
距離を詰めて隣に座った叶が、
「さて、今日は何して過ごそうか?」
訊ねてくるので、映画でも観るかと提案しようとして、はたと気付く。『コイツがオレの意向を聞くのは初めてだ』と。いつもは、それこそ映画でも観ようかと考えれば、叶がいくつかお勧めの映画をピックアップしたり、もう少し仕事がしたいと思えば、叶も編集作業などを始めていた。自然過ぎて気付かなかった。アレは、オレに合わせていたんだ。あの〝叶黎明〟が。
あぁ、くそっ。前髪を乱暴に掻きむしる。行動の裏を読めきれない悔しさがこみ上げる。
「叶」
「ん?」
なーに?と聞いてくるが、分かってんだろ?知ってんだよ。叶の優しさを甘受していただけなど、不甲斐なさすぎる。
「オレが望むことじゃなくて、オメーが望むことして過ごせよ」
左目のスマイルマークが、半円に形を変える。どうやら、オレの答えはお気に召してもらえたみたいだ。
「よく見てて偉いぞ、敬一君」
「けっ、よく言うぜ」
気付くまで何回、お前をそうやって過ごさせたんだか。自分の甘さが嫌になる。悪意じゃなくて厚意に気付きにくいのは、オレの数ある弱点の一つだ。
「まあ、でもオレがやりたくないことをしてたわけじゃないからな。オレはオレにウソをついてないから、気付かなくても仕方ないぞ」
「そりゃ、そーだ。オメーは自分のやりたくないことはやらねえからな」
「その通りだぞ、敬一君。だから、オレは自分の意志で『敬一君にとって居心地の良い客』であったわけだ」
確かに、邪魔にならない距離感、空気感で当然のようにそこにいて、それでいて賑やかな食卓……オレよりオレを熟知しやがって。
「健気だろ?惚れ直しちゃう?」
肩を抱いて勝ち誇った態度の、どこが健気なんだか。第一、前提が違うっつーんだよ。
「ハッ、健気なオメーに惚れるかよ。唯我独尊、傍若無人の叶黎明に惚れたんだからな」
じっと目を見据えて言えば、
……それ反則だよ、敬一君」
叶はデッケエ身体を小さくして、オレの肩口に顔を埋めた。コイツのツボは、いまだによく分からねえ。
今の、褒め言葉になるか?
「ねえ、オレのやりたいこと過ごしてイイって言ったよね?」
「ゔ……い、言ったか?」
「言ったよな?」
あぁっ!言ったともよ!!だが、この流れはヤバい、ダメだ。
「そんなに怯えなくて大丈夫。かんたんなことしかしないから」
そんなこと言われて「ああ、そうですか」ってホッと出来るわけねえだろ。オレは猜疑心に満ちた視線を、叶に向ける。
それを全く意に介さず、叶はご機嫌な表情でソファに座り直した。
「さ、敬一君。ここに座って」
そんな叶が両手でポンポンと示す場所は、
「座れって……オメエの膝にか?」
「そうだよ、早く」
ニコニコとカラコン同様のスマイルを向けられて、悩みながらも言われるままに、叶の太腿に腰掛けた。
……感想は?」
……うん。視界悪いし、重いし、圧迫感あるし、暑い」
ヒデー感想だな。
「思ってたのと違う!」
喚く叶に、努めて冷静に言ってやる。
「オレとしては予想通りだ」
なんで182cmと190cmの男でこんなことしなきゃなんねえんだよ。やれやれ、と立ち上がると叶に腕を掴まれた。
「じゃあ、こっち。ここに座って」
次に指し示されたのは、叶の長い脚の先。
「家主を床に座らせんのかよ?」
「イイから、ほら、早く」
仕方なく、床に座って胡座をかくと、ポスンと頭頂部に重みを感じた。
「コレはイイな」
叶が自分の顎をオレの頭に乗せ、後ろから腕を回してきた。所謂バックハグだ。
叶の弾んだ声に、気恥ずかしさを押し殺して、
「そりゃ、良かったな」
胸元の手に、両手を重ねた。
「よし、それじゃオレのやりたいこと二つ目、いくぞ!」
「へーへー、付き合ってやるよ」
適当に返事をしたら、目の前にスマホが登場した。
「レイメイチャンネルを一緒に見るぞ!」
「は?なんで本人がいるのに配信見んだよ?」
っつーか、自分の配信を目の前で見て欲しいって、メンタル化け物だろ(知ってってけど)
「オレを見る敬一君を見たいから」
……見てんだろ、いつも」
「それはそう」
オレの頭に、叶が頬を押し付ける。グリグリと擦り付ける。
「敬一君がオレを見てるのが一番幸せなんだもん〜」
「もん、って言うな」
アラサーの自覚をしろ。
一番幸せとは、最高のリップサービスだな。
「例えじゃなくて、ホントに幸せなんだけど?」
耳元で囁かれる声音に、心臓が跳ねる。
オレの鼓動と体温の変化に満足したのか、叶はよしよしとでも言いそうに頭を撫でた。
「へえへえ。そんで、どの動画見ればいいんだ?」
ズラリと並んだレイメイチャンネルのサムネに目をやる。
「やっぱり、オレを見ろ。敬一君」
頭上から声が響いたかと思えばいきなり、グインと首を上に向けられた。
「痛えよっ!!」
「オレだけ見とけよ」
なんて我儘な、我(われ)が儘(まま)なヤツ。
……とっくにそうなってるよ」
そんなヤツに魅せられ、囚われているオレの返事も、分かっているのだろう。
細められたスマイルマークを目蓋の裏に隠して、叶が口づける。
いや、だから首が痛えんだけど。