0087aa
2025-07-23 03:40:15
2195文字
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着火

いんるべED後のボラ部小話 ネタバレあり

何やらシリアスな香りもするが、このあとめちゃくちゃ開き直って超エンジョイしはじめます
"お約束"が楽しくて仕方ないのでボラ部には入らないかもしれないし、部活動から省かれたときにキレて入るかもしれない








人にはそれぞれの優しさがある
過渡期と居場所の話

 「……古緑さあ」
呆れ果てたような枯れた声色で、四散架が話しかけてくる。
「そろそろボラ部の入部届出せば?」
それは、よく晴れた秋の日のこと、いつものようにボランティア部の部室に侵入し「ヘレディタリー」を見ようとしたものの、アリ・アスターは好みじゃないと言う熊荒ツバサの反対意見により、泣く泣く視聴を断念した時のことだった。勧誘だなんて帰宅部の名折れだな、と呟いた彼のことは、ひとまず睨むことにした。


 赤い夜空を裂いた白い光が誰かの人生を少しだけ明るく照らしたあの七夕の日、私は数年ぶりに短冊に願いを書いた。慌ただしい一ヶ月だった、そして瞬きのように過ぎた二日間だった。きっと、私はこの爽快な七夕のことを忘れないだろう。
 インフィニティコードを追い求める生物教師は闇に溶け、生徒に慕われていたレネゲイドビーイングは電子の海へと消えた。人々が、在るべき場所へ戻っていく。そのまま私も影のように消え、元の生活に帰っても良かった。元々ヴィカラーラからの命令で巧月東高校へ潜入していたのだ。もうあんな居心地の悪い仮初の平穏に身を浸す必要もない。それでも、セルリーダーに撤退を提案された時、気付いたら首を横に振っていた。彼女はその時、少しだけ微笑んでいたように思う。
 そうして、セルの仕事を手伝う傍ら、何の任務にも紐付かないただの高校生活が始まった。こうなってくると、いよいよ学校での過ごし方が分からなくなった。自分はオーヴァードであるにも関わらず、日の光を浴びて育った善良なクラスメイトたちが、まるで同じ存在であるかのように軽々とこちらに近付いてくる。もしかして、自分も普通の高校生として過ごせるのだろうか? そんな錯覚に陥りそうになる。
 横切未果には返しきれないほどの恩を抱えている。だから、彼女のためならば、何だってする心積もりだ。だが、彼女は「レネゲイドの力を隠蔽すること」に疑問を抱いている。それだけは共感できなかった。こんな力が露呈したら、繋いだ手を離されてしまうに決まっている。だったら、最初から手を取りあう意味なんてないのだ。
 それなのに、私は今も高校に通い、その日々を持て余している。
 こんな時、気付いたらいつも私はボランティア部のドアを叩いている。ここは、少しだけ他の場所より息がしやすい。

 そんな曖昧な日々を続けていたら、四散架がとうとう入部を打診してきた、という訳だった。痺れを切らした、というよりは、どうして入部しないのかが全く分からない、という風に見える。眩しい。そんな感想を抱く。この人は、出会った時からずっと眩しい。
「え〜、だってFHの仕事もあるし、先輩みたいに暇じゃないって」
「アマプラ見ようとしてるやつなんか全員暇だろ」
「正論はんたーい」
まあ、無理にってわけじゃねぇけど。そんな風に続く彼の言葉を私は受け流し、ストローの刺さった紙パックのカフェオレを吸う。命じられた高校生活が始まった頃に比べると、この人工甘味料の味にも随分慣れたものだ。
 正直に言えば、入部しない理由はない。だけど、入部する理由も別に無いよね、と臆病な私は言い訳をする。
 本当は分かっている。この温かさが一時の仮初だとして、それでももう少しだけこれを抱えていたい。そして、それを失う「いつか」にずっと怯えている。理性は全て理解していて、だけど情動だけが一歩踏み出せずにいる。
 間を埋めるように軽口を放る。それに紛れて、気付かれないよう少しだけ詰めた息を吐き出す。
「ツバサくんが私の分も働いてくれるって言ってる」
「おい」
「いや〜、ツバサくんがいればボラ部も安泰だよね」
…………古緑が、それで良いなら、良いが」
彼にしては歯切れの悪い物言いだった。小気味良い皮肉が返ってくると思っていたので調子が狂う。その顔は、部室の窓から差し込む西陽に照らされてよく見えない。
 それで良いかどうか。星の滲むあの七夕から、私がずっと考えていることだ。改めて人に、特に彼に問われると、その問いに向き合わざるを得ないという気分にさせられる。
「まあ、だからさ」
しばらく大人しくしていた四散架が、ふと降り立った静寂を散らすように、そして私たちをアシストするかのように、仕切り直して話し始める。
「俺たちはいつでもウェルカムってわけよ、なあツバサ?」
「いや、そういうわけじゃ……まあ……
ずっと軽やかな先輩とずっと歯切れの悪い同級生が、目の前で噛み合わない会話を繰り広げている。口で四散架に勝てるわけがないのに、それでも熊荒ツバサはまだ食い下がっている。
 その光景をぼんやりと眺めながら、いつになったらこの紙に古緑颯希と記入できるのだろうか、と思案する。目の前の白い入部届は素知らぬ顔で私を見つめている。さっさと書けばいいのに、まるでそう語りかけてくるかのようだ。回し損ねた鉛筆が手からすり抜けて、その潔癖の白を少しだけ汚した。
 それでも、予感だけがある。臆病が根を上げる日はきっと遠くない。その日、私はこの紙に名を記すことだろう。

=====

「お、白妙、遅かったな」
「ちょっと先生に呼ばれちゃって……あら、ツバサくん、なんだか機嫌悪そうね」
「そこのノンデリの先輩がさっきいじめてました」
「四散くん……
「えっ!? いや俺何もしてねえから!!」