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あけち
2025-06-21 06:22:31
4760文字
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その他
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簓くんとセフレ
ろ←ささ前提の簓×モブの女の子小説
「誰かに連絡?」
するり、と滑らかな女の腕が背後から首に絡められて、背中に柔らかな重みが乗る。彼女がシャワーを浴び終えて寝室に戻ってくる気配は察知していたため、盧笙とのトーク画面は閉じた所だった。
「ちょお見んといてや〜」
携帯端末を放り誤魔化すように振り向いて後ろから回された腕をとると、そのまま彼女ごとシーツにダイブした。そのまま唇を重ね、ちゅ、ちゅ、と戯れるようにキスをする。
「恋人?」
「ちゃいます〜」
「別に気にしないのに」
サバけてるなぁ、と思う。でもこういう子の方が後々めんどうにならないから、こうして即物的な欲求を解消する相手として望ましかった。
「でも意外だな、簓くんがこんな風に女の子と遊んでるの」
「その言葉、そのままそっくりユリナちゃんに返すわ」
「今をときめく清純派女優だもんね」
今こうして共にベッドでいちゃついている目の前の相手──ユリナは、スポーツドリンクや日焼け止めクリーム、化粧品などのCMでその顔を見ない日はない、ブレイクして三年ほどの女優業をメインに活躍中の売れっ子だ。
「それ自分で言う?」
ふふふ、といたずらっ子のようにユリナが笑うのを、かわいいなと思った。ちなみにここは彼女の自宅マンションだ。付き合っている訳でもない男を招くなんて敷居が低すぎやしないかと思うが、彼女曰く「ラブホテルになんて入るところを撮られれば一発で終了、セキュリティの堅いマンションにタイミングをズラして入るのが一番安全」なのだとか。なるほど、危機管理はしっかりしている。いやそもそもこんな風に男と関係を持たなければ済む話だが。
こうして男とベッドにしけこむくせにどこか真面目な彼女は最初こそプライベートでも俺を「白膠木さん」と呼んでいたが、寝る時に流石に「簓でええよ」と促してから「簓くん」と呼ぶようになった。
ごろごろとシーツの上で戯れてから、ユリナの顔の両脇に腕をついて覆い被さるような体勢になる。首筋に唇を落として吸い付くと、あえやかな声で快楽を漏らした。そのまま鎖骨、胸へと下りてバスローブの合わせを開く。芸能人てほんまに家でバスローブ着てるんやな、とか場違いな感慨を覚えながら。
何人目やっけ──と、ふにふにと目の前の胸の膨らみを弄びながら俺はぼんやりと思案の旅に出た。
「この子ええよなぁ。最近応援してんねん」
盧笙の家でいつものように酒を飲みながら食事をしていた時のことだ。ざわめき程度につけていたテレビではちょうどスポーツドリンクのCMが流れていた。
「子役の頃から舞台中心に演劇一筋やったんやって。映画きっかけで人気が出て、ドラマにも引っ張りだこになって今に至るんや」
ブレイクしてからトーク番組などで来歴やバックグラウンドが語られるようになったユリナを、盧笙も目にする機会があったのだろう。番組で紹介されたままであろうフレーズを、何のてらいもなく口にした。
「笑った顔がまたええよな。クリーンなイメージで一貫してるし、きっと純粋な子や。こういう子と付き合えるん、どんな奴なんやろ」
そうやって盧笙が、芸能人のメディアに出ている部分だけを観て勝手に純粋だの頑張り屋さんだの、性格まで清らかに捉えているのを見ると、なんとなくむしゃくしゃするようになった。盧笙と通天閣で本気のバトルをしてからこっち、なんだか俺はおかしい。
「そういや今度共演するわ。クイズ番組やったかな」
「ほんまに!? 実物はもっとかわええんやろなぁ」
「サイン貰ってきたろか?」
「そういうんはええわ。でも機会があったら応援してますて伝えてくれ」
程々に酔っ払って顔を赤らめながらそう言うのを、盧笙らしいな、と思った。ぼんやりそんなことを思っていると、不意に頬から耳まで赤く染めたまま胡乱な目で見据えられドキッとする。何故だろう。何故だか盧笙と目を合わせると、後ろめたくなることがある。
それよりもっと前、盧笙が気に入っていると言ったタレントの女の子に、初めてワンチャン行けそうな雰囲気を出された時。いつもなら人と適度な距離を置いて誘われようが断ってきたのに、テレビに映る彼女を褒める盧笙の横顔がチラついて──気付いたらホテルでベッドを共にしていた。むしゃくしゃが甦って、ならいっそ盧笙に言えないようなことをしてしまえばいい、なんてやけっぱちな衝動に流された。全てぶち壊してしまいたいような、そんな。
盧笙がええなぁ言うてたミカちゃん、今付き合うてもない男に抱かれて善がってんで。──そんなほの暗い愉悦のような感情が湧いて死にたくなった。ほんま何してんねん、俺。
女の子と致してる真っ最中になんで盧笙のことなんか考えているのか。目の前の女の子の身体に集中しきれないこともやるせなさに追い打ちをかけてくる。そうしてやる事をやったら足早にシャワーを浴びて、全身にまとわりつく気だるさを洗い流した。脱衣所に上がり端末の新着メッセージを確認すると、盧笙から「ほな酒 何でもええ」という返事が来ている。少し前に送っておいた「今日遅くなるけど行くわ〜何か欲しいもんある?」というメッセージに対するものだ。
ベッドルームに戻るとミカちゃんは眠そうな顔を一瞬上げて「もう出るの?」と言った。俺がここに来た時に着ていた私服に身を包んでいたからだろう。
「堪忍なぁ、呼び出しくらってもうてん。ここ払っとくから朝までゆっくりしてき。朝食バイキング美味いらしいで」
「ありがと〜。売れっ子は忙しいね」
先に帰る男に事も無げにそう返すと、彼女は再び布団に潜り込んだ。ホテル代を男が払うことに慣れている所作だと思った。
「お、ミカちゃんやん。やっぱ黒髪のが似合うなぁ」
ホテルを出て盧笙の家に着いたのは二十三時を回った頃だ。「さっきまで零おったのに、丁度すれ違ってもうたな」という盧笙の言葉を聞き流し、手洗いとうがいをする。家に上がる時にこれをしないと盧笙がうるさいせいですっかり習慣になってしまった。
──盧笙の好きなタイプってわかりやすいよなぁ。黒髪で目がぱっちりしていて理知的で真面目そう、雑に言えば「清純派」とか「清楚」に分類されがちな、そんな子だ。俺は芸能界に身を置いた数年間で、そういう女の子の方が性に奔放だったりするのを身に染みて知っていたが何も言わなかった。
──そのミカちゃん、今頃男の帰ったホテルのベッドでダラダラしてんで。そんなことを知る由もなく深夜枠の番組でひな壇に座る彼女に可愛いだの今日もコメントが冴えてるだのと言っている盧笙を見て、おかしな事に俺は──溜飲が下がったような、胸のつかえが取れたような不思議な爽快感に満たされた。否、満たされてしまった。以来それは悪癖となり、現在進行形で人数の記録更新中だ。
「私別に誰とでもこういうことしてる訳じゃないんだ」
ユリナに不意にそう告げられて、ドキリとした。セックスが終わって何となくダラダラといちゃついていた最中だ。言われて、我ながら最低とは思うが後腐れのない関係を求めて事前に慎重に見極めていたつもりだったので、しまったと思った。見誤ってこちらに対して本気の相手と関係を持ったりと、無用に傷つけるようなことをするつもりはないのだ。
言葉の真意を測るためどう答えようか考えていると「顔に出てるよ」と追撃され、ますます言葉が見つからなくなる。出してない。つもりなのに。女の子って時々鋭くて、とても聡い。
「そういう意味じゃないから安心してよ。簓くんと同じだよ」
「と言いますと⋯⋯?」
諦めてユリナの言い分に耳を傾ける。この流れはきっと、誤魔化しは通用しない。
「簓くんはさ、私のこと好きにならなそうなとこが好きなんだよね」
「なんやそれ。ユリナちゃん大好きやで俺」
「本気になられても相手に悪いじゃない?」
「スルーかい」
割り切った相手と関係を持つのは楽だ。ただしあまり回数を重ねると、片方が本気になったり相手を特別だと勘違いしてしまうこともある。だから同じ相手とは継続して寝ないようにしていた。
「さっき私が簓くんのこと本気かと思って、ビビってたでしょ。顔に出さないようにしよう、って思って構えたよね」
「⋯⋯意地悪言わんといてや」
「悪い男だなー」
大してそんな風に思ってなさそうな響きだ。それにしてもこの子、鋭くて聡くて、おまけにエスパーか?
「簓くん、好きな子いるでしょ」
「いやそれは無いて!」
「ふふ。いいよ、詮索のつもりで言ってないから」
「いやほんまに⋯⋯。そんな相手おったらこんなことせぇへんよ」
突然何を言い出すのだろう。先程から残酷なほどに俺の心理を言い当てていた彼女がここに来て頓珍漢になって、ますます分からなくなる。俺のその反応を見て彼女は不思議そうに首を傾げた。
「違った? さっき連絡してた人。そうなのかなって」
「イヤ⋯⋯それこそ無いて」
「画面覗いてる時の表情とか雰囲気でピンと来たんだけどな」
盧笙からのメッセージを確認して返事を打っていた時のことをそんなふうに表現されて、本気で理解が追いつかない。
「だから思わず聞いちゃったんだ。⋯⋯私も好きな人いるから」
「へぇ!?」
初めて寝た相手にそんな暴露して大丈夫なのかと、今度はこちらが心配になる。
「誰とでもしない、っていうのは、ちょっとヤな言い方すると相手を選んでるってことね。簓くんにはなんとなく、シンパシー感じたんだよね」
「シンパシー?」
「人に囲まれてるのにちょっと寂しそうなとことか」
「ギクーッ!」
ついおどけてオーバーリアクションしてみせるのを、ユリナは仕方ないものを見るみたいに微笑んだ。女性の色香を漂わせながらもどこがあどけなさの抜けない笑みは、爽やかなのに妖艶でドキドキしてしまう。流石売れっ子女優。
「でもさ、片想いしてたらその間ずーっと一途にその人のことだけ想い続けなきゃいけないの? って思って。寂しいなとか、人肌が恋しいとか誰かと居たいなとか、それを埋めても良くない?」
「ほうほう」
「って思わない? 簓くんも」
ここで一つ腑に落ちた気がした。危機管理意識もあり自分のパブリックイメージを分かっているであろう彼女が、異性を招き入れたのが不思議ではあった。
「ちゅうか、俺が片想いしてるのは確定なん?」
「違うの?」
「違⋯⋯わないんかな。情けない話やけど、わからん」
そんなの考えたこともない。何を素直に言っているんだと思いつつも、彼女が先に弱みを披露したことでこの子は他言しないだろうという直感が生まれていた。
──俺が、盧笙に片想い? いつどこでどうして? でも仮に、そうだとすると合点のいく部分も出てくる。いやほんまにそんなことある?
ふと、盧笙と本気で闘った時のことを思い出した。こちらを睨みつける熱量の溢れた血走った視線とか、俺に本心を伝えるための殺伐とした形相とか。思い出すと身体の心が掴まれて揺さぶられたような衝撃を思い出す。
「片想い同盟だね」
そんな俺の様子を見て、確信したように彼女が言った。
「⋯⋯なんやねんそれ。お互い今の恋が諦められるまで〜ってか」
「そこで実るまで、って言わないとこが簓くんのいいとこだよね」
「⋯⋯ユリナちゃんでも恋が叶わん相手なんておるの?」
「いるよ」
ふんわり柔らかい空気で場が暗くならないように、なんでもないことみたいに話すその姿勢に俺は覚えがあった。
「また連絡していい? 人肌恋しくなったら」
「⋯⋯うん。俺もするかも」
シンパシーを感じたと言ったユリナの気持ちが、その時わかった気がした。
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