shiroyakei
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君はオレンジ

イフ吸いするオロのオロイフ

 雲ひとつない清々しい夜だった。どこからか聞こえてくる優しいギターの音と、つられて歌うクク子竜の声が混ざって花翼の集いの空を彩っていく。さわやかでおだやかな夜だ。そんな空の下、すでに明かりが消えているイファの診療所の前で声を上げる男がひとり。

「イファ、いるか。」
「おー、オロルンか。こっちにいるから来い」

 こっち、というのはイファの診療所の隣にあるイファのプライベート用の自宅だ。急患が来てもすぐ診療所へ向かい対応できるように。イファの両親が建てた診療所と自宅を、イファはひとりで相続する形で受け継いだ。
 
 オロルンはイファの自宅の扉を開けると、途端につんと通るようなコショウの香りが鼻をくすぐった。様々な薬や包帯の匂いであふれる診療所の方とは違い、自宅である離れは様々な香りであふれることが多い。今日はジャーキーでも作っていたのか、と思いながら、オロルンは勝手知ったる様子で家の奥にある台所に向かっていく。

「よう、きょうだい。今作り終わったばかりなんだが、ちょっと手が離せなくてな。」
 イファはこちらを向かずに洗い物と向き合っている。シンクの後ろにあるダイニングテーブルに、乾かしてある作りたてのビーフジャーキーと、その真横には彼の帽子の上で丸くなって寝息を立てるカクーク。

「イファ」
「どうした、きょうだい」
 イファの視線は動かないまま。蛇口から出る水で、数個の銀のボウルや網を洗っている。応答の雑さはオロルンは慣れたものだった。だから気にせず、自分のやりたいようにやる。それがオロルンという男だった。

 オロルンはイファの背後に回ったのち、首に鼻を埋めた。おい、という小さなイファの抗議は無視して、腰に手を回す。すう、と深く細くイファの首筋をまるで香を嗜むように吸った。
 イファの匂いはフォンテーヌで食したバブルオレンジによく似ている、とオロルンは思った。太陽と水をめいっぱい浴びて育った果実。一口齧れば果汁が弾け、甘さと少しの酸っぱさがじゅわと口内を満たす。もう一度イファの香りを嗅ごうと鼻と首筋の隙間を無くそうと角度を変えると、イファはくすぐったかったのか抗議の声が少し小さくなった。
 彼は料理をする前にシャワーを浴びたのだろう、首筋からも癖のある銀髪からも、彼の香りの手前に石鹸の香りがいた。

「僕は太陽の光を浴び続けるのは苦手だ。肌はすぐ赤くなるし、光を見続けると目が痛くなってしまうから」
「いきなり人のことを嗅いできて何を言い始めるんだ
「もう少し嗅がせて、イファ」
はいはい」
「うう
 ぐりぐりとイファの肩にオロルンは頭を擦りつける。その様子を背中で受けたイファは、口を開く。
「どうした、きょうだい。なんだか疲れてるな」
うおーべんまたばあちゃんに捕まった」
「ああお疲れさん
 捕まった、との言い方をもし黒曜石の老婆が聞いていたとしたらまた大目玉を喰らうだろうなあ、とイファは思った。しかし疲労困憊のオロルンにそれをいうのは酷だな、とイファはオロルンにさせたいままにしている。

「イファ、」
「どうした、きょうだい」
 相変わらずイファはシンクに向き合ったままだ。自分のやりたいようにやる。それがオロルンという男である。イファの首筋をすう、と吸ったのちにタトゥーの山の部分をガブと咬んだ。うぉ、と驚くイファを慰めるように熱を持った舌が首を這っていく。
「ちょ、おい、オロルン」
「イファはいい匂いがする」
 そういうとオロルンはまたイファの首に鼻を埋めて吸い込んだ。少し嗅いでは咬んで、舐めて。
 イファは自身の恥骨に感じる熱い熱に気がついて口を開いた。
「疲れてるんじゃなかったのか」
「たった今元気になったよ」
 オロルンのデニムの上からでもわかる固く反り勃ったものを、下からとんとん、とつくようにイファに押し付けた。
ぉ、あっ、オロルン」
「イファ、イファ」
 擬似的なピストンにおろどいたイファの手から、水飛沫が飛んでイファの衣服に数滴飛んだ。
「イファ」
「なんだ、よ」
「イファも勃ってる」
 イファの肩の上から覗き込む形で、オロルンはイファの中心を張っているモノを確認した。隠し通そうとしていたのに、ズバと指摘されたイファは何も言えず、首筋に血液が溜まって真っ赤になってしまった。オロルンはそれもまたいっとう美味しそうに見えてしまって、また首筋に舌を這わせたあと、がぶ、とひとつ噛んだ。
「イファ」
何も準備してないぞ」
「一緒に準備すればいい、僕も手伝えば早いだろ?」
 イファの拳がオロルンの頭にボコ、と軽快な音を立ててクリーンヒットした。オロルンはイファの準備を手伝いたがるが、許してもらったことは今まで一度もない。オロルン曰くふたりともに必要な準備の行為なのだから、君だけに負担させるのは違うのではないか、ということなのだが。イファは道理は理解したが衛生的にも、心理的にも許せそうにないのだ。イファ、と甘えた声を聞いても頑固として了承はしない。
 
 その代わり、残りの洗い物を全て大きな水の張った器に入れて、自身の濡れたままだった手を布巾で吹いた。残りの洗い物は明日やればいい。イファはすうすうと深く眠ったままのカクークを見た後、オロルンに向き合った。鼻先まで真っ赤に染まったイファを、オロルンはひどく愛おしく思った。

「すぐ終わらせるから先に寝室行ってろ」
「わかったよ、いい子で待ってる」