human_hamster
2025-07-21 21:20:04
4142文字
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星の指輪

※金髪時代の🐋とパーティーに行く話
※🐋金髪時代
※夢主のデフォ名前は「アリス」です

アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリス「なぁ、アリスよ。おまえ、パーティードレス持ってるか」

もう2、3日で次の島に着く。慌ただしい一日の終わりに白ひげから投げかけられた唐突な問いかけに、アリスは動揺した。パーティードレス?
海賊稼業の女がそんなもの、持っているわけがない。今日だってぼろぼろに汚れた服で汗まみれになって働いていたのに。

「誘われてんだ、次の島で。舞踏会っちゅうやつにな……
「それで、なんで私に、聞くの?」
……アホンダラ。着いてこいって言ってんだ、言わせるな」

白ひげは照れくさそうに頭の後ろを掻きながら、そう言った。

「!……私で、いいの?」
「他に誰がいるんだ。頼んだぞ」

パーティーに連れて行ってもらえるということは、伴侶も同然の扱いということだ。アリスは頬が緩むのを抑えきれなかった。舞踏会なんて、おとぎ話の世界のようだ。

次の島に上陸したあと、すぐに衣装屋に走った。彼に決めてもらった色の、たっぷりとしたフリルのドレスを見繕う。慣れないコルセットを巻いて、船の上では絶対に履かないヒールのパンプスを履いて、彼の髪の色に合わせて柔らかいゴールドのアクセサリーをつけた。
今日はタールで顔を真っ黒にしなくていい。自分でできる限りの華やかなメイクをして、鏡の前で、ぐるっと回ってみる。彼の隣に立つのに、相応しい装いだろうか? うん、悪くない。そんな風に自問自答する。

「お待たせ、……ニューゲート!素敵……。そんなタキシード持ってたの?」

待ち合わせに現れた白ひげは、見慣れないタキシードを着ていた。海賊帽は今日は無しだ。長い金髪が黒いタキシードに映えていた。

「大昔のやつだがな……アリスこそ、見違えたじゃねえか」
「だって、ニューゲートとパーティーに出るんだもの」
「綺麗だぜ、アリス
「ふふっ、あなたもよ」

ふたりは手を取り合うと、城に向かった。


城は大きく、明るい活気に溢れていた。アリスはきらびやかな装飾に目を奪われた。参列者たちも皆、大きな宝石や貴金属で身を飾っていた。つい、欲しくなってしまうがもちろん奪うわけにはいかない。

旧知の仲であると言う島の国王に正式に招かれてはいるものの、王族たちやパーティーの列席者たちは、フロアに入って来た白ひげの姿を見てざわついた。高額の懸賞金のかかった手配書まで出回っている海賊だ、無理もない。白ひげはこういう時でも動じないものだが、アリスは少々そわそわとしてしまう。

「白ひげさん。よくぞ来てくれました」

やや騒然としているところに、明るく声がかけられた。パーティーの主催である国王だ。従者を従え、嬉しそうに白ひげに駆け寄ってくる。国王と言うからお爺さんを想像していたアリスは、思いの外若い国王に少し驚いた。

「グララララ。久しぶりだな。招待は嬉しいがな、こんな晴れの場、おれなんて場違いだろう。すぐお暇するぜ」
「そんなそんな。料理にダンスも楽しんで行ってください。白ひげさんは私の恩人です。奥方様も連れてきてくださったんですね。お二人で楽しんで」

人当たりのいい国王は忙しげに去っていった。
……やだ、奥方様なんて。アリスは照れて白ひげの顔が見れなかった。

席について間も無く、ダンスの時間が始まった。周りの出席者たちが手と手を取り合って、音楽にのせてゆったりと体を揺らす。ニューゲートが席を立たないのに倣って、アリスも席でじっとしていた。机の上に出されたご馳走を少しずつ食べながら、ダンスフロアを眺める。
踊るつもりはさらさらないのか、白ひげは同席者からの雑談に応じていた。
アリスは飲み物でも取りに行こうかと、周りの様子をうかがう。そこで気づいてしまったのだ、通りがかった人から好奇の目線を向けられていることに。

「あれ、海賊の……。やあね、国王さまに直々に呼んでもらったのに踊らないのかしら」
「海賊風情が踊れないんじゃないか。それに、夫人とあんなに身長差があったら無理だろう」

通りすがりの夫婦の冷たい言葉に、アリスは心が冷えていくのを感じた。囁き声の身内の会話がたまたま聞こえてしまっただけだ。白ひげの耳には入っていないであろうことが幸いだった。
気持ちを切り替えようと、アリスは席を立った。ボーイからシャンパンをもらうと、ひといきに飲み干してしまう。こういうお行儀の良くないところが海賊風情だなんて陰口を叩かれてしまうのだろうか、なんて思いながら、二杯目のシャンパンをもらった。壁にもたれて、遠目に白ひげを眺める。私の男は、ものすごくいい男だなぁ、なんて思う。

「お嬢さん、いい飲みっぷりだね」
「どうも」

いかにもキザな感じの男に話しかけられ、アリスはシャンパンを飲む手を止めた。口髭をいやらしく生やして、嫌な感じだ。

「一人で来ているの?僕と踊らない?」
「生憎だけど、一緒に来ている人がいるから」

ツンと突っぱねたつもりだったが、男はめげなかった。

「いいじゃない。せっかく来たのに踊らないと勿体無いよ」

肩に気安く手をかけられ、アリスは一瞬激昂しかけたが、白ひげの顔に泥を塗るわけにもいかない。出しかけた拳をぐっと引っ込めると、後ろから耳によく馴染む愛おしい声が聞こえた。

アリス。油売ってるんじゃねえ、帰るぞ」
「ニューゲート」
「!?」

地響きのような足音を立てて目の前に立ちはだかった白ひげからじろりと冷たい視線を向けられ、男は慌てた様子でそそくさと去っていった。

「あんなの、自分で追い払えたのに。でも、ありがとう」
「こんないい女、ほっとかれないのは分かるがな。いい気はしねェなぁ。グララララ……
「んもう。早く帰ろう」

足に痛みを感じて確認してみると、慣れないパンプスで靴擦れしてしまっていた。最後までなんだか情けない。白ひげの肩に乗せてもらって、海沿いを歩く。パーティーではあまりいい思いはしなかったけれど、素敵な島だとアリスは思った。穏やかで、ごみもあまり落ちていないし、公共物も荒れていない。道も綺麗に舗装されていた。飢えた子供も見かけない。なのに、なんだか居心地が悪かった。
遠くにモビー・ ディック号の顔が見えてきた時は本当にホッとした。あそこがわたしの生きる場所なんだ。大好きなモビー・ディック号。

「ねえ、結局、今日って何のパーティーだったの?」
「国王の世継ぎが生まれた記念だそうだ。とは言え、国全体が浮かれていてもう五回目の舞踏会らしいがな」
「ははは、なにそれ。いいね」
……アリス。おまえ、あんなに楽しみにしてたのに元気ねぇじゃねえか。なんか食いもんでも当たったか」

ぎくりとして、誤魔化すように白ひげの金髪を梳かすように触る。

……そんなふうに見えるの?ご飯は美味しかったよ、でもコルセットがきつくてお腹が痛いや、はは」
「さっきの男に何かされたか?」
「ううん、それは大丈夫。少し話しただけ」
……何考えてやがるか知らねぇがな。おれの前でだけは無理するな」
……ニューゲートと、踊りたかったなって」

目を丸くする白ひげ。そんなことを言われるとは思ってもなかったらしい。

「海賊があんなところでステップ踏むわけにもいかねぇだろ」
「分かってるよ。でも、踊りたかったんだもん」

口からほろりと本音が出て、アリスはあっと口を引き結んだ。わがままを言ってしまった。しかし言葉は止まらなかった。

「私とあなたの身長差がすごいから、踊れないんじゃないのかって、言われてるの聞いちゃったの。私、悔しくて」

ぎゅ、と首筋に抱きつきながら、聞こえなくてもいいや、と思って囁くように話した。白ひげの立派な髭越しに、大きな満月が見えた。夜道が明るいわけだ。

「こんなデカブツの女になったこと、後悔してるのか」

揶揄うような口調で白ひげがそう言う。

「してるわけない。愛してるよ、ニューゲート」

こんなに大好きだってこと、心底あなたに惚れているってこと、何回だって伝えたかった。白ひげは、アリスの少し潤んだ瞳に真っ直ぐ見つめられて黙り込んだ。ふたりは同じ気持ちでいた。

何時もは夜通しの見張り番がいるものだが、ここは白ひげと懇意にしている国王の島だ。奥まった安全な場所に停泊させてもらい、見張り番も今日は非番になっていた。
誰もいない甲板というのは新鮮なものだ。アリスは白ひげの肩から下ろしてもらい、裸足で甲板に降り立った。潮水で湿った木の板の感触が、足の裏に気持ちいい。戻ってきた実感がある。
白ひげを振り返る。月夜の晩、愛する船の上に愛する男といる、それだけのことがたまらなく幸せだった。白ひげはアリスを愛おしげに見つめると、膝をついて手を差し伸べる。

「音楽はねぇがな、踊るぞアリス
「え、……

白ひげの手のひらが優しく背中に添えられる。白ひげの指先に促されるまま、ふたりは波音に合わせるようにしてステップを踏んだ。白ひげの指の爪先につかまってターンをしたし、白ひげの大きなステップに合わせて、手を繋いで走った。最後にはくるくるとターンをしすぎて、アリスは大笑いをしながら甲板に倒れ込んだ。

「ニューゲート。一緒に踊れて嬉しい」
「寂しい思いさせちまったな」

煌々と輝く月に見守られながら、アリスは白ひげの腕に包まれた。腕に浮いた血管をせつなく撫でてねだる。顔の位置まであげてもらえるいつもの合図だ。

「大好きよ、ニューゲート。パーティーに誘ってくれてありがとう」

唇に慈しむようなキスをすると、白ひげもキスを返してくれた。大きな手に指先をつままれ、されるがままに夜空に指をかざす。アリスの薬指に、きらきらと月明かりと星の光が揺蕩った。

「ふふ、指輪みたい。私にくれるの?」
「おまえにやるよ、おれの星を。アリス、愛してる……

ふたりはしばらくじっと、波音を聞きながら星の指輪を眺めていた。


おわり