usagipai
2025-07-21 05:03:19
3662文字
Public 幽世の縁【幻影ノ戦編】
 

【幻影の戦】第5話


第5話

***

カナメ と ????

……おと……ひめ……さん……かも………………

声にならない
喉がヒューヒューと音を立てるだけで、空気がまともに入ってこない。

倒れている
乙姫さんと、賀茂さんが──あの二人が、血を流して。

何を見せられてるんだ……
ありえない、こんなの

息が止まる。
……違う、こんなはずがない。
だってあの人たちは、
いつも笑って、戦って、無敵みたいに──

地面に、血を流して、動かない。
それだけで、
世界の音が一度、止まった。

必死に胸に手を当てる。
息を吸わなきゃ。呼吸を……整えなきゃ。

けれど、肺は空っぽのまま、喉だけが苦しく鳴っていた。

「大丈夫?」

ふわり。
手に、誰かの温もりが重なった。
その指は、あまりに優しくて.....敵のものとは思えないほどだった。

「ごめんなさいね。
来たとき、貴方があまりに怯えていたものだから」

ふわりと笑うその顔に、敵意はなかった。
……ただ、ほんの一瞬。
微笑んだままの瞳の奥に、何か鋭いものが見えた気がした。

「あなたたちは……どうして、こんなことを……

「そうね、敵なのかしら……貴方から見れば、きっとそうなのね」
小さくうなずくその声音は、本当に哀しげで、
どこか“決して交わらない前提”を背負っているようだった。
その声音は、本当に哀しげで。
まるで、「敵」と呼ばれることに
痛みを感じているようにすら思えた──。
どうしてこんなにも、傷ついた顔をするのだろうか。
不思議とそんな疑問が、カナメの頭をよぎる。

その瞬間、カナメの視界に一つの映像が浮かび上がった。

「朧宮さん……
冬のエリア
深い雪が降り積もる静かな荒野で、
朧宮と晨焔が激しく刃を交わしていた。

***
冬のエリア
数刻前

冷たい風が吹き抜ける雪原。
晨焔と朧宮はゆっくりと、円を描くように歩み寄る。

「お前、水属性だろ?相性最悪じゃん。俺は火なんだよね〜」

「おや好都合だね、俺に喋ってよいのかい?」

鋭い視線を交わしながらも、その言葉にはどこか余裕がある
だが、二人の間に張り詰めた糸のような緊張感は、逃げ場を許さなかった。

──間合いが一気に詰まる

晨焔が炎を纏い、一瞬で朧宮に斬りかかる。

「ッ──!!」

鋭く振るわれた炎の刃が、空気ごと切り裂く。
対する朧宮は、瞬きの間に抜刀。冷たい金属音と共に、刀身から冷気が立ち上った。

……へぇ」

ニヤリと笑いながら、晨焔は踏み込む。
朧宮は応じるように足を滑らせ、最小限の動きで斬撃を受け流す。

──炎と氷
拮抗する霊力がぶつかり、雪原が蒸気に包まれ始めた。

「鈍いな、水野郎!」
「軽すぎるよ、炎野郎──!」

両者、速度を緩めない
打ち合うたびに、蒸気の霧が上がる
視界が霞み、音が歪み、空間がねじれるような錯覚。

誰も、その戦場には立ち入れない。

朧宮の刃が紙一重で晨焔の頬をかすめる。
赤い糸のような傷が浮かび、晨焔はぺろりと血を舐めた。

「クッソ……やっぱお前、面白ぇなぁ〜」
「まだその口を動かす余裕があるなら、手を止めなければよかったな」

「余裕じゃねぇよ、オレは楽しいんだよ」
晨焔が笑う。どこか歪んだその笑みに、朧宮の瞳が僅かに揺れる。

「──何がお前をそんなに愉快にしている?」

問いかけた瞬間、晨焔の動きが止まる。
目に浮かんだのは、ほんの一瞬の“沈黙”。

……ねぇ?戦ってればさー。余計なこと考えなくて済むだろ?」

その言葉の奥に、何かを隠すような気配があった。

「それだけだよ、“朧宮”──お前だって、戦ってるときだけは何もかも黙らせられるんじゃねーの?」

晨焔がふっと笑い、背後で燃え立つ炎が竜のように唸りを上げる。

「火と水じゃ、相性最悪──って自分で言ってたくせに、随分と喰いついてくるな?」
「相性が悪いってだけで負ける気はないでねっ!!」

水の刃が弾け、二人の間にまた閃光が走る

──刹那

朧宮の間合いが崩れたその一瞬。
晨焔の刀が止まる
胸の奥で、何かが“引っかかった”

──焼ける匂い

雪の夜にあるはずのない、鉄と焦げの臭いが鼻を刺した。

……なんで今、これを……

視界が歪む。記憶の底から、あの情景が無理やり引き上げられる。

(あぁでもちょと懐かしいな)
***

──八千年前。
炎に焼け落ちる、同族の村。
絶叫。血の匂い
そして──声にならない、金切り声達

いつものように兄である黎昊と共に
燃え朽ちる村を見ながら逃げ回り叫び声を聞くのが好きだった
子どもも、大人も、悲鳴すら聞こえないほどに燃え尽きていく。

晨焔は笑っていた。黎昊と並んで、命を蹂躙しながら。

「うわぁぁぁんひっぅおかぁ……おかぁ……!」

「ん?まだ動いてんのかよ。──ほらほら、燃えろよォ!!」

灰の中でうずくまる小さな影に、火球を投げつけようとした──そのときだった。

晨焔が放った煙が突如かき消されたのだ
そしてすぐ隣で声が聞こえた

「そこまでにしなさいな」
凛として、透き通った声が響く
──光が降ってきたようだった
女がいた。
髪は澄んだみはなだ色、瞳はやわらかな琥珀。
月の神聖さと、太陽のあたたかさを、その身に同居させているような美しい娘だった。

……誰だよ。邪魔する気〜? お嬢ちゃん」
怯えもせず、黎昊と晨焔の前に立ちはだかる。
「あら?戦うの?……ふふいいわ、そちらの方が都合もいいし」
そういう少女の顔は男2人の紛い物に不適なえみを馴染ませていた。
2対1
負けるはずなかったのに勝敗はすぐに決まってしまった 結果は俺たちの負け

「いっっってぇぇぇぇぇ!!!!」
「本気で殺す気だったろ!!!
完敗だった、なす術もなく
晨焔と黎昊は未だ自分が
負けたことに驚いた
こんなボロボになるのも初めて
めちゃくちゃに負けたのだ
しかも、こんな少女1人に。

「ふふ、なかなかに面白かったわ。貴方達最高よ」
「あぁごめんなさい、私は黎姫(れき)──」

……自己紹介、ドーモ。んで?あんた、俺たちに勝って、何がしたかったの?」

晨焔は血の中に転がったまま、睨みつけるように問う。
身体は痛みに軋み、動かすたびに肋骨が悲鳴を上げた。
でも、なぜか心の底では──“なにか”が鳴っていた。

黎姫は微笑む。

「あなた、私の子になりなさいな」

……は?」

「これからは、無意味に命を奪うのではなく──私のために生きなさい」
「戦い方も、生き方も、全部教えてあげるわ」

────その言葉に。

晨焔の中の、“何か”が
ずっと冷え切っていた“何か”が、じわりと熱を帯びていくのを感じた。

……冗談じゃねぇ……
言おうとしたのに、喉が詰まった。

あのとき、確かに。
捨てられると思ってた。
“価値なんてない命”を──
初めて、「生きていい」って言われた気がした。

炎で焼き尽くすしかなかったこの心に、
微かな火が灯った。

それが──黎姫だった。


黎昊がどう思ったかは知らない。
けれど、自分は──

この人に着いていこう思った。

晨焔の中の何かが、そのとき、確かに──
“揺れて”、“灯った”のだ

その記憶が、ふと胸の奥を過ぎる。



──風が吹き抜ける、冬の空の下。

ふたりの呼吸が交錯する。
……“朧宮”とかいったな」

「ん?」

晨焔はふっと笑った。
その笑みに、熱よりも先に、確かな意志が宿っていた。

「お前は、なんでそこに立ってんだ?」

「質問を返すのは──無粋じゃないか?」

「まぁな、でも……オレは、お姫さん(おひぃさん)のためにここにいる」

朧宮の眉がわずかに動く。

「お姫さん?」

「ああ。オレは世界がどうなろうが興味ねぇけど──あの人が困るような未来見たくはねぇ」

晨焔は炎の中に立っていた。
過去、全てを焼いた自分が。
今は、誰かのために炎を選んでいる。

「何が正しいかなんて、関係ないし、興味もねぇよ。でも……お姫さんが教えてくれたことだけは、信じてる」

──だから

その刹那、焔が爆ぜた。

ただの炎ではない──凍てつく雪すら溶かし、空間そのものを軋ませるような、獣じみた熱量。

……っ!?」

朧宮が一歩だけ後退する。
その眼前で、晨焔の姿が、静かに、そして決定的に“変わっていく”

髪が──燃え尽きるように、白へと染まっていく。
瞳は、深い琥珀色に沈み、理性と狂気を揺らすように揺らめいた。

全身を纏う炎は、もはや“属性”ではない。
意思を持ち、猛る獣のように、彼を王の姿へと変貌させていく。

その光景に、朧宮が静かに息を呑む。

………なるほど、コレが………お前の”本質”か」


吹き荒ぶ風の中で
変わり果てた晨焔が


ただ一一嗤った。