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もち粉
2025-07-21 02:19:04
1441文字
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来週も、来年も、来世まで、
カブミス
ミスさんからプロポーズ
「午後も、夜も、明日も、」と同じふたり
単品で読めます
午後の光が、薄く磨かれた油木のテーブルの上をなでていた。
ふたりで暮らすのにあたって新調した、大きめの食卓だ。最初はまだらに浮いていた油染みもすっかり馴染み、今ではやわらかな金褐色に落ち着いている。
甘く煮たリンゴを入れた紅茶の香りがふたりのあいだにふわりと漂う。
一口すすれば、かすかに残る酸味とやさしい甘さが、喉の奥をゆっくり通りすぎていった。
調理用具ひとつなかった、同棲初日を思い出す。
今や台所はミスルンの城だ。蕎麦に始まり、オムレツ、シチュー、リンゴのコンポートまで、何でも出てくる魔法の空間になった。
カブルーには、どこに何が仕舞われているのかも、よく分からない。勝手に配置をいじるとミスルンが不機嫌になるため、城の主に采配されるままに手伝うときしか立ち入らない。
窓から入る心地よい風が、カーテンをやさしくはためかせ、向かいに座ったミスルンの細い髪をかすかに揺らす。
カブルーは手元の資料を閉じ、紅茶を飲み、ひとつ息をついて言った。
「こういう時間が、ずっと続くといいですね」
「それなら、そうしよう」
「
……
え?」
カップから口を離したミスルンは、まるで「明日はパンを焼こう」とでも言うような調子で、さらりと言った。
カブルーはきょとんとして、それから、そっと紅茶のカップを置いた。
「いまの
……
」
ミスルンは何食わぬ顔で紅茶を口に運んでいた。だが、その頬はほんのりと赤い。
なんの変哲もない午後、なんの前触れもない会話。けれどそれは
――
。
「
……
えっと、プロポーズですか?」
念のため、もう一度訊いてみる。
カブルーの指先が、意味もなくスプーンで紅茶をかき回す。磁器のカップに当たって、スプーンが澄んだ音を立てた。
「うん」
まるで、カブルーが「ぶどうを入れたパンがいいです」とリクエストした時にでも頷くように。
あたりまえのように。
「もうすぐ、法案が通るのだろう?」
ミスルンの人差し指が、カブルーの閉じた資料をちょいと叩く。
見たの?と視線で咎めると、悪びれる様子もなく、「仕事の資料を置きっぱなしでおくものではないぞ」と、楽しげに肩をすくめた。
「だめですよ、お互い仕事のものは見ないって約束でしょう」軽くにらんで抗議すると、ミスルンが珍しく目を伏せた。少しの沈黙のあと、つぶやくように言い訳する。
仕方がないだろう、あんな件名が見えてしまったら。
『異種族間婚姻に関する基本法(案)』
「私たちが、第一号だ」
親指でカップの縁をそっとなぞりながら、ちらりとこちらをうかがってくる。
「
……
返事は?」
しばらくの沈黙。
カブルーは、その言葉を噛みしめるように頬杖をつき、優しい目でミスルンを見やると、少しだけ意地悪そうに笑った。
「もう一回、ちゃんと言って?」
むうと唇を尖らせたミスルンは、カップを置き、背筋を伸ばすと、まっすぐカブルーを見つめて言った。
「好きだ、カブルー。
来週も、来年も、十年後も共に暮らしたい。私と婚姻契約を結んで欲しい」
「
――
はい」
カブルーはそっと頬杖を外して、姿勢を正した。
「よろしくお願いします、ミスルンさん」
心から嬉しそうに笑うカブルーを見て、ミスルンもわずかに目を細めた。
「本当は、法案が可決したら俺から言うつもりだったんですけどね」
この幸福な日々をいつまでも。
来週も、
来年も、
ずっと一緒。
――
あなたとならば、
来世まで。
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