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アルマジロ
2025-07-21 01:24:09
2675文字
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違う二人は同じ二人
幼少期のレザヘク。レザラの両親が死ぬ話。
出自や過去の捏造多めです。
レザラの両親は元々ヤースラニ荒野に生きるヘイザ・アロ族だった。
世界統合に巻き込まれ、アレクサンドリア王国の一員として生きることを余儀なくされたが、それでも慣れ親しんだ荒野の大地で生きたいとヘリテージファウンドでの生活を選ぶ人間だった。
かつては荒野を駆け回り狩猟生活を営んでいたヘイザ・アロ族。そんな彼らにとってレギュレーターの在り方は到底受け入れることができず、己の命だけで獲物を狩る駆除人としての路を歩んでいた。
ヘクトールの両親もまた駆除人だった。しかしレザラの両親とは異なり、元々はエバーキープで生まれ育ったが、ガバメントから適性を判断され斡旋された仕事が駆除人であり、必然的に外に出る機会が増えることからヘリテージファウンドに移住した人間だった。
同僚である彼らは次第に親しくなり、近い年頃の息子がいるという共通点もあって家族ぐるみの付き合いをすることが多くなっていった。
物心ついた頃からレザラとヘクトールは互いに隣にいることが当たり前であり、両親の帰りを共に過ごして待つのが日常だった。両親が不在がちでも、互いがいれば寂しいと思うことはなかった。
互いの家に行き、おもちゃで遊び、絵本を読み、時には窓から雷雲を眺めながら留守番をする日々。
そんな二人だけの、しかし暖かな日常に、ある日突然亀裂が入ることになる。
いつもは揃って帰ってくる両親たちが、その日はヘクトールの両親しか戻らなかった。レザラが両親の行方を尋ねると、ヘクトールの両親は困惑した顔で答えあぐねる。
やがて彼らは屈んでレザラに目線を合わせ、出来るだけ優しい口調で告げた。
レザラの両親はもういない。死んでしまったのだと。
アレクサンドリア王国では死者の遺体は送迎係によって回収される。葬儀はなく、死後に対面することもない。遺体となった時点で、それは知らない誰かの死体という物体でしかないからだ。
それがレギュレーターを着けていない“覚えている”死体であっても、それ以外のやり方を知らないのだ。
遺体が無残な姿になりやすい駆除人なら尚の事、人に見せるべきではないとしてレザラの両親は黒い無骨な袋に包まれて既に送迎係に運ばれていった後だった。
誰も何も知らなかった。死んだ肉親のことを覚えている子供に対して、どう慰めるべきなのかを。
幼いレザラはずっと泣いていた。
床に座り込んで一歩も動かず、ただ涙を流すことしかできなかった。突然両親が死に、二度と会えないという喪失は少年にとってあまりにも大きすぎるものだった。
幼いヘクトールは懸命にレザラを慰めようとしたが、どのような言葉を紡げば親友の傷付いた心に届くのか知り得なかった。
ただしゃくりあげて震える背中を撫でることしかできないヘクトールは、親友の悲しみを癒す方法を尋ねようと別室の両親の元へ向かう。
ヘクトールが両親のいる部屋の扉に手を伸ばしたその時、扉越しに二人の声が聞こえた。
「やはり無理を言ってでもレギュレーターを着けさせるべきだっただろうか
……
」
「仕方ないわよ
……
着けたくない人の考え方は周りが言って変えられるものじゃないわ
……
」
レザラの両親を助けられなかった後悔が滲むその声に、ヘクトールは伸ばした手を降ろす。
レザラの両親はレギュレーターを着けなかったがために助からなかった。そしてレザラもまたレギュレーターを着けていない。
──何かあったら、レザラは簡単に死んでしまう。
頭では分かっていたはずのその事実が、急に現実味を伴ってヘクトールの心臓を締め付ける。
両親のような後悔を繰り返してはならない。使命感に突き動かされたヘクトールは踵を返し、真っ直ぐレザラの元へ向かった。
泣き止まないレザラにヘクトールは寄り添い、逡巡した後に意を決して声を掛ける。
「ねぇレザラ
……
やっぱりレギュレーター着けようよ
……
」
レザラは嗚咽を漏らしながらもヘクトールへ視線を向ける。
「そうすれば危なくないし、もし誰かが死んでも悲しくないだろ?」
未だ涙を零す目をキッと鋭くしながらレザラは掠れた声で叫んだ。
「
……
ッ! レギュレーターを着けたら! ボクだってキミのことを忘れちゃうかもしれないんだぞ!? キミもっ
……
! ボクのことを
……
忘れ、ちゃうかも
……
」
それは覚えているが故の悲しみに囚われながら、それでも尚覚えていたいと欲する幼子の痛ましい叫びだった。
親友から初めてぶつけられる激しい感情に、思わず気圧されそうになる。それでもレザラを失いたくないという気持ちもまた、ヘクトールにとっては偽れない本心だった。
忘却は恐ろしい。しかし今隣にいる親友の命と心が傷付けられてしまうことの方が遥かに恐ろしかった。
「
……
それでもレザラが死んだり、悲しい思いをするよりかは、いいよ」
少しの沈黙の後に返された答えに、レザラは何かを言い返そうとして息を吸うも、結局何も言えずにただヘクトールの胸で泣くことしかできなかった。
八つ当たるかのようにヘクトールの胸をレザラの小さな拳が何度も叩く。同じ境遇で、同じ時間を過ごした、半身のような存在から突き付けられた初めての隔絶だった。
(ずっと同じだったのに
……
なんでこんなに違うんだろう
……
)
両親を喪ったという事実と、親友との確かな隔たりが悲しみとなって降り注ぐ。
ヘクトールが心から自分を案じてくれていることは分かっていた。だからこそ違いが悲しかった。
こんなにも身近な存在ですら、埋められない決定的な溝があるというのか。
それは成長する中で誰しもが多少なりとも直面する個の違いなのかもしれない。
だがレザラの心の奥底では、それでもと否定する声が生まれつつあった。
そんなのは嫌だと。
ボクとヘクトールは同じであるべきだと。
認めたくないと叫ぶ声は澱みとなって心の奥深くへと降り積もっていく。
レザラはヘクトールの胸元に顔を埋めながらその服を握り締める。
それは少年に初めて芽生えた執着だった。
そうあるべきとされる道義を振り払ってでも手放したくない欲望だった。
路は同じでなければならない。
違えることなど許さない。
その妄執はやがてレザラとヘクトールの路を狭めるのだろう。
狭い視野の中、踏み出せない足と伸ばせない腕がいつか致命的な過ちをもたらすかもしれない。
それでもレザラはただ、今はこの居心地の良い二人だけの空間にいたかった。
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