アルマジロ
2025-07-21 01:15:40
1905文字
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ちょっとした災難

レザラと倫理観が終わっている駆除人たちのお話。
制限を設けない程度のグロ、流血表現があります。


 まだ駆除人として駆け出しの頃、レザラとヘクトールは何人かの同僚と共にチームを組んで魔物の群れの殲滅任務に当たっていた。

 始めは順調だったものの、想定よりも魔物の数が多く、ついにチームメンバーの1人が重傷を負ってしまう。
 負傷した彼を担ぎながらチームは一時撤退。
 今は岩陰に身を隠しているが、そのうち血の匂いを嗅ぎつけられ見つかってしまうのも時間の問題だろう。

 まだ経験の浅いレザラは息を整えながら次の手を考える。
 負傷者を拠点に運ばなければならないだろう。しかし負傷者は身体の小さいミララ族だ。果たして到着まで彼が持つだろうか?ここで応急処置をしつつ救助を待つべきか?
 残る魔物はどうする。全員で拠点に帰還して戦力を整えてから再出撃するか。

 思考を巡らせるレザラの横で、チームメンバーの1人が提案した。
「なぁ、どうせならこいつで魔物どもを誘き寄せようぜ」

 一瞬、何を言っているのか理解できなかった。
 彼は何でもない事かのように続ける。

「お前最近大量に魂資源貰ったって言ってたろ?1つくらい頼むよ〜」
「はぁ〜? 絶対痛えじゃねぇか! 最悪! 後で飯奢れよ?」

 負傷したミララ族は悪態を吐きながらも了承し、チームは彼を置き去りにして離れた所へ移動していく。
 あまりにも自然なやり取りにレザラは何かを言おうとして結局何も言えないままチームに付いていった。
 ──本当に見捨てるのか?誰も何も思わないのか?
 ちらりと隣を歩くヘクトールの様子を伺う。彼も戦闘の疲れは見えるものの、それだけだった。

 チームは負傷者を残した岩陰が見える位置に移動し、周囲の様子を見張る。
 やがて血の匂いを嗅ぎつけた魔物たちが次から次へと負傷者の元へ集まってきた。
 抵抗する戦闘音と、何かを切り裂くような音。
 もういいだろう、十分引きつけられただろうとレザラが進言しても、まだだ、まだ誘き寄せられると同僚は制する。

 そして耳を塞ぎたくなるような絶叫が響いた。
 柔らかいものが潰れる音。水がぶち撒けられたような音。魔物の鋭い牙が何かを咀嚼する音。
 ヘイザ・アロ族の優れた聴覚はそれらを1つも零さず拾い上げる。
 それは魔物も同じで、更に引きつけられた魔物の群れは数を増していた。

 胃からせり上がってくるものが限界に迫っていた時、ようやくチームは十分誘き寄せられたと判断し、魔物の殲滅に乗り出す。
 食事を堪能していた魔物たちは不意に背後から襲い来る駆除人たちに対応できず、先程の苦戦とは打って変わって速やかに殲滅することができた。

 大量の魔物の死体の中に、一際無残な亡骸があった。
 置き去りにした負傷者のミララ族のものだ。
 全身を食い千切られ、生前の面影はどこにもない。

 呆然と眺めるレザラの前で、無機質な機械音と共に亡骸が光り始める。
 しばらくすると、先程の光景が悪い夢かのように、傷一つない姿のミララ族の同僚が倒れていた。

 やがて目を覚ました彼は何回か咳き込んだ後、笑ってチームを見回す。
「あ〜痛かった! でも殲滅できたな!」
「ありがとよ。お前のおかげで魂資源が節約できたぜ」
 囮にすることを提案した同僚もまた笑顔で手を差し出した。

「どうせならお前ミララ族じゃなければ良かったのにな! そうすりゃ食いでがあってもっと時間稼げただろ」
「ちげぇねぇや!」
 それはまるで親友同士の他愛もない談笑のようで。
 みんな笑っていた。ヘクトールも笑っていた。
 レザラもぎこちなく笑った。何が面白いのか分からないけど笑った。

 笑いながら思った。
 駆除人の仕事とは、魂資源を使う仕事とはこういうことだと。
 そしてこいつらはヘクトールが同じ立場になったら躊躇いなくヘクトールの命を囮に使うだろう。
 苦しんで死んで蘇生するヘクトールに何事もなかったかのように笑いかけるのだろう。

 そんなこと……許せるわけがない。

 レザラは拳を強く握り締める。
 ヘクトールをそんな目に遭わせないように、二度とこんな事が起こらないように、どんな魔物も1人で根絶やしに出来るくらい強くなってやる。

 誓いを胸にレザラは同僚たちと拠点に帰還した。
 やがて彼は剣の腕前では並ぶ者がいないと称されるほどの強さを手に入れることになる。
 その腕前をオーナーに見込まれたレザラは、ヘクトールと共に輝かしいアルカディアの世界へと足を踏み入れた。
 だがアレクサンドリア連王国が障壁の中で生と死を繰り返す地獄なら、辿り着いた理想郷もまた地獄でしかないのだろう。