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めまめ
2025-07-20 21:47:37
1984文字
Public
鋼徹ワンドロワンライ
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第十回 鋼徹ワンドロワンライ
お題「制服」と、うっすら「汗」
外の蒸し暑さにやられてさっきまで死にかけていたというのに、こんなことをしているなんて二人とも馬鹿だ。
冷房で部屋が冷えるのも待てず、村上と唇を合わせた。唇は離さないまま互いを押しやって部屋の真ん中を突っ切る。勝手知ったる自室なので、最短距離でベッドに飛び込んだ。
「シャワーは?」
「いい。来るまえにトレーニングルームで浴びてきたし、どうせすぐに汗かくだろ」
「それもそうだ」
荒船を押し倒し、前髪を弄んでいた村上が納得したように頷いた。そのまま汗で濡れた前髪を左右に分けられる。汚いから触るのやめろ、と抗議の声を上げたのに、無視されたうえにあらわになった額にキスを落とされ、反射的に目を閉じた。
「なんだよ鋼。機嫌いいじゃねえか」
すくめていた首を伸ばし、そっと目を開けると口元をゆるませた村上がいた。前髪の次は、荒船のネクタイをするすると手の中で遊ばせている。
「荒船の夏服、新鮮だなって。夏服に変わっても六頴館じゃネクタイが要るのか?」
「あってもなくてもいい。けど今日は全校集会があったから、男は全員ネクタイ着用だった」
「そうなんだ。そういうところ、私立っぽいな。オレのところはシャツだけだから楽でいいよ」
そう笑った村上も、衣替えを迎えて夏の装いに変わっていた。袖口に三門第一の校章が刺繍されたシンプルな白シャツが彼の爽やかさに拍車をかけている。半袖から伸びる生身の腕は、ほんのり小麦色に日焼けしていた。
高校も部隊も違う村上とは、会う機会はそう多くない。基本的には三日に一回程度のペースで防衛任務が回ってくるため顔を合わせる日はあるが、トリオン体に換装している場合がほとんどだ。さらに本部と支部と拠点の違いもあるせいで、泊まりがけで
遊ぶ
なんて滅多にできない。鈴鳴支部の村上の部屋では大人しくするしかないし、荒船も実家に住んでいるので遊ぶとしたら今日のように両親が不在になるときを狙うしかない。
覆い被さる村上を眺める。荒船も、三門第一の夏服を着る村上の姿を大いに楽しんでいた。
よく見たら彼はシャツの下に薄緑の半袖を着ているようだ。向こうの学校は、インナーの色までは指定されていないのかもしれない。これはあとからベッドの上でもじっくり知ることができる情報だが、脱ぐまえの、村上の完璧な着こなしの状態から読み取れるのは今だけだ。日焼けの有無などトリオン体では判らないため、そこも見応えがあった。こちらのネクタイを触る村上の表情も、訓練中には見られないようなリラックスしたものだった。だから荒船は雰囲気に釣られてつい口を滑らせた。
「頻繁に会わないぶん、俺に飽きなくて良いんじゃねえか?」
学校や部隊が違うからこそ、相手の変化を楽しめる。そう言いたかったはずが間違えた。いや、言い方を間違えなかったとしても、そもそも友達同士で『相手の変化を楽しむ』という発想がおかしいのだ。荒船は慌てて取り繕おうとする。だが案の定、村上がすぐに顔をしかめた。
「なに言ってるんだ。もし毎日荒船に会ったとしても、オレが荒船に飽きるはずないだろ」
怒ったような拗ねたような声音で言われ、気にするのはそこなのかと、荒船は目を丸くした。村上の予想外の反応にどう返していいか迷い、あれこれ言い訳を思い浮かべ、けっきょく素直に呟いた。
「言いすぎ」
「三百六十六日、荒船の制服を見ても楽しめる自信がある」
「
……
それはスゲーな」
変に思われなかったことに安堵し、ほっとしている自分が不思議でなんでだろうと首を傾げた。
気の迷い、アバンチュール、ひと夏の恋。
今の村上との関係はまさにそれなのに、名付けようとするとどれもしっくりこない。しかも村上はこちらと毎日会っても飽きないと言う。
(三百六十六日会う関係って、どんなだよ)
だって、それでは。
荒船はこっそり笑い飛ばす。そういうのを世間では恋人というのだろうが、自分たちはそうではない。こんなものは夏の暑さに浮かされた十八歳のガキの、ただの火遊びだ。
そう思ったとき、胸の奥にかすかに引っかかりを覚えた。初めての感覚に荒船は困惑する。不快ではないが決して愉快でもない、強いていうなら胸がぎゅっと詰まるようで、思わずおのれの心臓と首筋に次々と手を添えた。
ざっと確かめたが鼓動も脈拍もいつもと変わらない。なのに、村上の言葉のせいで調子が狂っている気がした。
そんな顔をしていたら、続きを催促されたと思われたのか村上が荒船のネクタイに指をかけた。少しまえまでネクタイのほどきかたなんて知らず、おろおろしていた男が随分手慣れたものだ。冷風で汗が冷えて寒くなってきたころだったので、先ほどの違和感など忘れて暖かくなりたかった荒船はわざとらしく微笑み、素知らぬふりで海の味がする村上の首にキスをした。
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