ぐるさん
2025-07-20 17:29:41
1919文字
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7.19 ふみりかワンドロ【お出かけ】【負けず嫌い】

ふみりかワンドロライ(@ fmrk_1draw)さんの2025.7.19 お題をお借りしました。

「理解、準備出来た?」
「勿論!それでは……
「「いってきます」」

 玄関で俺達を見送る皆に背を向け扉を開けると、夏の日差しが俺達を容赦なく照り付ける。

「本当に今日じゃないと駄目なんですか?」
「うん。理解は嫌だった?」
「嫌という訳では無いのですが……

 日傘を差した理解が微妙そうな顔で俺を見る。正直、朝の天気予報で今日の最高気温は三十五度と言われた日に「出かけよう」なんて誘われたら、誰だってそんな顔になるだろう。

「と言うか、これからどこへ行くんですか?」
「それは……着いてからのお楽しみって事で」
「えぇ……

 何とも言えない表情の理解を宥めつつ、のらりくらりと目的地へと案内する。

 今日のお目当ては、繁華街のテナントに期間限定で開設された、海外の有名パティスリーのコラボカフェだ。

提供されるスイーツの美味しさは勿論の事、SNS映えする華やかな見た目と期間限定と言う魔法の言葉も相まって、猛暑にも関わらず連日予約は満杯の超人気スポットになっている。

 最初は一人で行こうかと考えていたけれど、偶然ネットの記事を一緒に見た理解が、珍しく食いついてきた所で風向きが変わった。

 普段、俺と一緒にカフェに行っても「見てるだけでお腹がいっぱいです」と言ってあんまりスイーツを食べない理解が、興味を示したのだ。

 これはもう、一緒に行って食べるしかない——そう思った俺は、その日から毎日零時の予約サイトのサーバー争いに参加し、何度目かの戦いの末に今日の予約を勝ち取った。

 本当はこの時点で理解に告げても良かったが、ここでまた一つ思った。

 黙って連れて行って驚かせたい。要はサプライズと言うやつだ。理解は未だ俺の事を微妙そうな顔で見ているが、店に着いたらきっと驚いて、そして喜ぶだろう——

「え?ダブルブッキングで予約が消えた?」

 そんな俺の希望を打ち壊したのは、無情なシステムトラブルだった。

 様々な感情が湧き上がったものの、申し訳なさそうに頭を何度も下げる店員に何かを言うのは流石に忍びない。

 それに、呆然としてしまった俺の隣で、理解がいつの間にか責任者と話をつけて別日の予約を融通してもらっていた。

「ほら、今日はもう帰りましょう。ふみやさん」
「俺のケーキ……理解と一緒に食べるケーキ……
「もう!我儘言わない!」

 理解に引きずられる形で店を出たが、傷はかなり深い。

あんなに予約取るの頑張ったのに、クソ暑い中わざわざ外に出たのに、理解が驚き喜ぶ顔が見たかったのに……言いたいけど言えない感情が、改めて胸に伸し掛る。

「それにしても驚きました」
……え?」
「ふみやさん、いつの間にあのお店の予約取っていたんですか?確か、大人気で中々取れないって話でしたよね?」
「ああ……それは、毎日頑張ったから……
「毎日!?」

 理解が大きな声で驚くけど、何か思ってたのと違う。いやこういうリアクションは確かに見たかったんだけど、モヤモヤした気持ちが渦巻く。

「ふみやさん、顔色悪いですけど大丈夫ですか?」
……え?」
「ちょっとあちらのベンチで休みましょうか。ほら、丁度木陰になっていますし」

 理解が俺の手を引きベンチに座らせると、「ちょっと待ってて下さい」と言ってどこかに走り出してしまった。

 ああ、最悪だ。格好つけて理解を連れ出したのに、今は理解に心配されている。普段なら、ここからどうリカバリーするか思考を巡らせる所なのに、先程のショックに寝不足が追い討ちをかけて何も考えられない。

「お待たせしましたふみやさん!」

 いつの間にか戻ってきた理解は、スポーツドリンクとカップに入ったアイスを手にしていた。

「はいどうぞ」

 理解から手渡されたカップには、白とオレンジの、二つのアイスが入っている。

……これ、どっちが理解の?」
「どちらもふみやさんのですよ。所謂ダブル、と言う物でしょうか?」
「いつもは『アイスは一個まで』って言うのに」
……今日は、この間テラさんに貰ったクーポンがあったので特別、です……

 フイッと、顔を下に向ける理解の耳は赤い。

「理解のそういう所、ちょっとずるい」
「ず、ずるい!?」
「今日は傷心中だから目一杯甘えさせてもらうけど、次は負けないから」
「ええっ!?」
「ほら、一緒にアイス食べよ。早くしないと溶ける」

 理解の口元にアイスを運ぶと、恥ずかしそうに周囲を伺いながら、理解は口をぱくりと開く。

 想像していた未来とは違うけど、これはこれで悪くない——そう思えたお出かけだった。