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夢篠
2025-07-20 14:51:44
2295文字
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よそおひ
陣子さんとゆりゆり
ナマエ
ナマエ
向かい合って、其の方が目を閉じてしまうのはきっと間近で視線を合わせるのがまだ少し照れ臭いからだろうか。私も少し恥ずかしいので目を瞑っていただくのは本当にありがたい。紅差し指で少しばかり掬った紅を其の方の唇に乗せていく。少し乾燥しているその唇に満遍なく紅を乗せてそれから、馴染ませるように押さえていく。我ながら上手く差せたと思う。其の方の唇は少し赤々しくはあったけれど、美しく馴染んだ事で其の方のお顔が一層華やいだ。
「出来ましたよ。陣子さん」
「
……
ん、その、ありがとう、」
閉じた目蓋が開いても、私たちの視線は絡み合わない。其の方の、陣子さんの視線は下に落ちたまま、目許はやや赤らんでいる。何て愛らしいのだろうと思った。きっと町の方々も陣子さんのこういう所を見て、惹かれてしまうのだろうなと思うくらいには。
「とても似合っています。私が殿方ならきっと町で声を掛けています」
「
……
冗談は止してくれ」
心底嫌そうな顔で陣子さんが私をじっとりとした目で見詰めるのを笑顔で返す。可愛らしい。元々、陣内さまの時だって可愛らしい部分はあったのに、陣子さんとして振る舞う時、彼はもっと可愛らしい。いつもより一挙手一投足に躊躇いが混じり、恥じ入るような言動が私を惹き付けてやまないのだ。
「冗談ではありません!だってとても愛らしいのですもの!」
「年増を揶揄って楽しいか?」
「もう、私はいつも本気なのに」
微笑んだまま、陣子さんの頬に指を伸ばす。彼女の挙動が更にぎこちなくなる。これは私たちが決めた習慣だった。陣内さまが陣子さんとして忍務に出る時は必ず、私が最後に彼女の紅を引くのだ。以前私が陣子さんの肌に良く合う色の紅を贈った時の陣内さまの慌てようったらなかった。曰く陣内さまは私に陣子さんの事を隠していたらしい。私がそれを知ったのはほんの偶然であったけれど、それはともかくとして、私が陣子さんに紅を贈ってから、陣子さんに紅を引くのは私の役目だった。そして今から、「最後の仕上げ」なのだ。
「陣子さん、目を閉じて」
「
……
っ、別に、もう、しなくとも」
「駄目です。まだ、少し赤過ぎるもの。これでは少し、唇の色が肌から浮いてしまっています」
「
……
懐紙が、っ」
何事か抵抗しようとした陣子さんの唇を私の物で塞ぐ。食むように、私の唇に乗せ過ぎた紅を写し取るように、当てていく。陣子さんの手が宙に浮いているのに気付いて絡め捕る。大きな手は男性のそれだったけれど、私の動きに翻弄されるその身体は女性そのものだった。可愛らしい。
「っ、ぁ
……
」
鼻に抜けるような陣子さんの声に何故か背中が粟立つような気がする。これは、なんという気持ちなのだろう。可愛らしい、と思う気持ち以外に何かもっと違う、感覚で言うと「尖っている」と表現するのが相応しいような違うような気のする気持ちが混ざっている。もっと、陣子さんの恥じ入る顔を見たい、というような。
厚い手を、それより幾分も小さな私の手が握っている。陣子さんの手も身体も何もかも、今は、私という小さな存在に縋るようだ。それがとても胸を高鳴らせた。
「ぁ、じん、こ、さん。
……
かわいい、」
「っ、
ナマエ
……
っ」
とろとろとした葛湯のようなとろみを持った目が私を見ている事が更に背筋を震わせる。私が今、どんな顔をしているのか、怖くて鏡を見れない。だってきっと、とても意地悪な顔をしていると思うから。追い縋るように指先を陣子さんの指に走らせる。もう大分、紅は馴染んでいたけれどそれでもまだ、足りない。陣子さんといる時、私はいつも心臓を高鳴らせ、欲張りになってしまう。もっと、彼女と触れ合っていたいと。私はおかしくなってしまったのだろうか。
「
ナマエ
っ、もう、これ、以上は
……
っ」
私の肩に触れた手が、距離を取ろうと弱々しい力で押すのを許したくなくてそれ以上の力で覆い被さる。陣子さんがまた目許を赤らめて視線を外した。
「駄目なら、私を押し退けてください
……
」
はしたないのは分かっているけれど、止められない。いつも陣内さまにされるように体重を掛けて陣子さんの動きを封じる。陣内さまがそう出来ないのを私は知っているのに。
「っ、それ、は
……
」
案の定唇を震わせた陣子さんから抵抗が薄くなる。それを良い事にまた、彼女の唇を奪う。もし、陣内さまが私に同じ事をする時に同じように感じているのだったら、それは癖になりそうな感覚だと思った。
柔らかな感触を潰すように押し付ける。陣内さまからもう何度も同じ事をされて少しだけ慣れているから、吐息の交わし方くらいは迷い無く出来る。これ以上を、して良いのかは分からなくて、でも身体の奥から溢れる「そうしたい」という気持ちにも逆らえず、曖昧に彼女の唇を舌で舐める。陣子さんの肩がぴく、と揺れてそれから、少し強い力で両肩に手を添わされた。
「っんぅ
……
っ」
不意に唇をなぞっていた舌が熱い塊に絡め取られる。驚いて、咄嗟に閉じていた目を開けてしまう。身が竦むような気がした。射止めるようなぎらぎらと光る眼が、私を見詰めている。その目に宿る明らかな欲にお腹の辺りがそわそわとしてしまう。それはまるで陣内さまとの閨事の時のような感覚だった。まるで報復のように私の舌を好き勝手翻弄していった陣内さまが漸く私を解放する。息を荒らげる私に笑う其の方は、陣内さまでしかなかった。
「やられたらやり返す主義だぞ、私は」
男の人その物の表情に身体が震える。これだから、止められない。
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