匣舟
2025-07-20 14:21:14
3552文字
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愛の待つ家

同棲土井乱で、出張でいない自分の代わりに湯船に浮かべるアヒルを買ってきた土とそれになんだかんだ愛着が湧いてしまった乱の話です。ちょっとえっちかもしれません。

愛の待つ家


 明日から前に言ってたように数日間出張でいないから、お前が寂しくないように買ってきたぞ〜。と言って彼が自分に渡したのは、よくアニメやドラマでお風呂のシーンになるとたまに浮かんでいるアヒルだった。
 最初にそれを渡された時はえ、私ってそんなに子どもに見られているんだ……。という落胆であったが、湯船に浮かぶアヒルを渡した張本人である半助が微笑んでいたので乱太郎は文句を言うのもどうかなと思いとりあえず、ありがとうございます……。とだけ返しておいた。乱太郎の恋人である半助は、乱太郎が通っている大学の准教授を務めていて、年に数回こうして出張があるのだ。
 お互いが忙しい時は顔を合わせられない日もあるけれど、同棲していれば毎日顔を合わせるわけで、半助が出張でいない間は乱太郎にとっては少しだけ寂しく感じてしまう。だけど、乱太郎は寂しいと素直に言えるほどもう子どもではないからいつも通りに半助を送り出すようにしている。
「乱太郎、私が出張でいない間もいい子にしてるんだよ。」
もう、いくつだと思ってるんですか。」
「はは、そうだったな。」
 半助さんこそ、山田教授がいるから大丈夫だと思いますけど、ちゃんと三食摂ってくださいよ。服も脱ぎっぱなしにしちゃだめですからね!怠けちゃダメですからね!わかりましたか?メッセージでちゃんと確認しますからね!と言うとわかった、わかったって〜。と頬を掻きながら、半助の大きな手が乱太郎の頭を優しく撫でてから、そのまま頬を滑るように撫でていく。
「ん……っ。」
 半助の手が頬から離れたかと思うと今度は唇に軽くキスをされ、乱太郎は思わず目を瞑った。唇が離れてからゆっくりと瞼を開けると優しい顔をした半助と目が合う。
「じゃあ行ってくるよ。」
「はい……行ってらっしゃい……。」
 少し寂しそうな乱太郎の唇にもう一度軽くキスをしてから、半助は乱太郎の頭をわしゃわしゃと撫でて出張へと出掛けて行った。
「ふう〜。」
 半助が出張へと出かけてしまってからの何度目かの夜、乱太郎は半助からもらった湯船に浮かぶアヒルと一緒に風呂に入っていた。最初はただもらったからと持っていくだけだったアヒルに、段々愛着が湧いてきたのか今日の出来事をアヒルに向かって喋るのが日課になってしまったのだ。
 今日は遅刻しそうになってと色んなことを喋っているとふと、今居ない恋人のことを考えてしまう。
「半助さん、今頃何してるかな……。」
 湯船に浮かぶアヒルを見つめながら、乱太郎はぽつりと呟く。半助が出張に出掛けてからというもの、乱太郎は毎日こうして湯船に浸かりながら半助のことを想っていた。メッセージアプリではやり取りをしているけれど、半助はそういうのに疎いから返ってくる頻度は少ないので乱太郎はよりやきもきしていた。
 ちゃんと朝、私が居なくても起きれているかなとか、ちゃんと三食摂ってるのかなとか、脱いだ服をそのままにしていないかなとか、また適当に髪を乾かしてそのままにしていないかなとか。
 なんだかんだ世話のかかる恋人だけど、それでも半助が帰ってくるのを心待ちにしてしまう。半助は乱太郎にとって、他の誰よりも大切で愛おしくてずっとそばに居たいと思う存在なのだから。
「会いたいな……。」
 そう思った時、乱太郎は無意識にアヒルへと手を伸ばしていた。しかしそんなことをしても当たり前だがあの温かさは感じないし、寂しさが募るばかりだった。
「早く帰ってこないかな……。」
 乱太郎がそう呟くとアヒルは当然何も答えることなく、ただ風呂に浮かんでいるだけだった。アヒルをちょんちょんとつついた乱太郎は、予定では明日帰ってくるだろう半助に心を寄せながら風呂を後にした。
ん、んぅ?」
 次の日の早朝、乱太郎はインターホンが鳴った音で目が覚めた。こんな朝早くに誰だろうと思いながらスリッパを履いてパタパタと駆けていく。
 身支度をしながらインターホンを覗くと、そこには乱太郎がいちばん会いたくて会いたくて堪らなかった人が立っていた。扉を開けると、おかえりなさいと乱太郎が言うより先に半助に強く抱き締められた。
「ただいま。」
……おかえりなさい……っ!」
 いい子にしてたか?と笑う半助の久しぶりの体温と匂いを感じながら、乱太郎はぎゅっと半助の背中に腕を回す。半助の腕の中は心地好くて安心するなと思っていると突然体が宙に浮いた。
「えっ!?」
 半助によって抱き上げられたのだと分かった時には既にリビングに連れて行かれていて、ソファーの上に降ろされ、そのままかぶりつくようなキスをされる。
「んっ……はぁ……っ。」
 口内を犯されているような深いキスに息苦しさを覚えつつも半助を求めてしまい、必死で舌を絡める。長い時間続いた口付けが終わると半助は満足そうな表情を浮かべながら乱太郎の耳元へ唇を寄せて囁くように言った。
「会いたかった。」
 その一言だけで乱太郎の胸は熱くなり嬉しさと幸せな気持ちで溢れ出す。半助もずっと自分のことを想ってくれていたのが分かって、嬉しくて堪らなかった。
「私もですっ。」
 そう言いながら乱太郎は自分からも半助に抱きつくと半助はそれに応えるようにさらに強く抱きしめてくれた。それから暫くふたりで抱き合っていたのだが突然半助のお腹がぐぅとなったことで我に帰ることになる。
 そのことに恥ずかしくなり赤面しながら離れようとする半助に対して、乱太郎はクスクス笑いながら半助のお腹に手を当てた。
「ふふ、お腹空きましたよね?何か作りますよ。」
「いや、いいよ。もう食べるものが決まってるからね。」
「ど、どういうことぉ……っえ?」
乱太郎に決まってるじゃないか。」
 もう、我慢できそうにないからいいか?と言って再びソファーへと押し倒されてしまい、覆い被さってくる半助を見上げているうちに段々と鼓動が速まってくるのがわかる。
「ちょっ、ちょっと、待ってくださぃっ!」
 乱太郎が慌てて静止しようとすると半助は意地悪そうな笑みを浮かべて問いかけてきた。
「なんで?」
「だ、だってっ、まだ朝ですし……。」
「別にいいじゃないか。今日は休みだし、予定もないだろ?なぁ、乱太郎。いいだろ?」
 耳元で囁かれる半助の言葉に更に顔が赤くなっていくのを感じてしまい、反論することが出来ず黙り込んでしまった乱太郎。次第に羞恥心よりも期待の方が勝ってしまい、気づけば首を縦に振ってしまっていた。
「じゃあ、いただきます。」
「ん……っ。」
 結局その後は半助に何回も求められ続け、最終的には気絶するように眠りについてしまい、次に乱太郎が目覚めた時には昼過ぎだった。そして隣にはまだ寝ている半助の姿があり、いつの間にかベットへと移動させられていたらしい。
 起こさないようにそっとベッドから抜け出し寝室を後にすると、キッチンへ向かい冷蔵庫を開け昨日買っておいた食材を取り出すと昼食作りを始める。暫く経つと部屋の方から物音が聞こえてきて振り返るとそこには起きてきたらしい半助の姿があった。
「あれ?起きたんですか?まだ寝ててよかったのに。」
「あぁ、ついさっきだけどね。」
 そう言って欠伸をする彼の横顔を見ながら乱太郎は自然と笑みをこぼす。
「今日のお昼は何かなぁ。楽しみだな~。」
「簡単なものしかできませんけどね。」
「乱太郎の作った料理ならなんでも美味しいから大丈夫だよ。」
「もうっ!すぐそういうこと言う……。」
 本当に調子のいい人なんだから。と言いながら乱太郎が照れていると半助はそんな様子をみて楽しげに微笑んでおり、それがまた余計に恥ずかしくなる要因となるのだった。
「あ、そうだ。後で一緒にお風呂入ろうな?」
……っえ!?」
 乱太郎が驚いていると半助はニヤリと悪い笑みを浮かべたあと乱太郎の耳元へ顔を近付けて囁いた。
「いっぱい汗かいたし汚れたままだしな。綺麗にしないと、だろ?」
 その言葉を聞いた瞬間一気に全身が熱くなる感覚に襲われ乱太郎は顔を真っ赤にしてだっ、誰のせいだと思ってるんですか〜っ!と全力で半助の肩を叩いた。
「もーっ!今日はアヒルさん達と一緒に入りますっ!半助さんは入ってこないでくださいねっ!」
 そうプリプリ怒ってお昼ご飯を作っている乱太郎であったが、この後自分の買ってきたアヒルに嫉妬した半助に無理やり一緒に風呂をこじ開けられ、アヒルを風呂の外に放り出されることになり、今度からはアヒルじゃなくて俺と入ろうな〜。と嫉妬心丸出しの半助にでろでろに甘やかされることになることをまだ知らないでいる。