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夢篠
2025-07-20 06:27:48
2639文字
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勇者の求婚
ジューンブライド山本陣内
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
ナマエ
幼い頃、好きだった娘に花冠を作ってやった事がある。異国の花嫁は祝言の時に花冠を被るのだと聞いたから。好いた男の手ずから冠を被せて愛を誓うのだと聞いた。だから幼いながらに秘かに練習を重ねて、一等上手な冠を編んだ。花の種類や色にもこだわって。我ながらにとても美しい冠になったと思った。
それを彼女に、
ナマエ
に被せた時、彼女ははにかんで笑った。愛らしくて、多分、私はこの幼い頃の思い出より他に、美しい記憶を知らずにいる。
「おおきくなったら、
ナマエ
をじんないさまのおよめさんにしてくださいね!」
私の作った冠を被って嬉しそうに笑う
ナマエ
の手を取って、何を口にしたのかは覚えていない。それでも
ナマエ
の胸の暖かくなるような笑みを覚えている。それからもう、何年経っただろう。
ナマエ
は美しい娘に成長した。私より三つ年下の
ナマエ
は滑らかな髪の美しい、里で評判の娘だった。里の若い者が幾人も彼女に求婚したと聞いている。
ナマエ
がそれを全て断っているとも。私はそれを見ているだけだった。私には何も、何ひとつ、言える資格は無いと思った。
忍びとして、正式に様々な忍務を与えられるようになってから、不意に怖ろしくなった。死ぬ時はいつも突然なのだと知ったから。朝、笑顔で里を出立した者が、夕方には死体で帰って来る事は茶飯事だった。死体が帰ってくるならまだマシな方だった。死体どころか指一本、髪のひと房、或いは墓の下には何も無い、墓すら存在しない者だっている。
怖ろしいのだ。愛した者を娶ったとして、私がその者を遺して逝くのは何かとても怖ろしい事のように思えた。私がいない世界を、私が愛した者が生きて逝くのも何かとても、耐えられないような気がした。私はこれ程までに料簡の狭い男だったろうかと少し苦い物を感じるくらいには。
ナマエ
には上手く伝える事が出来なかった。周囲からは時折、促される事があった。それはそうだ。私たちは幼い頃からお互いに好き合っていて、それは里でも謂わば公認の事実であったのだから。里の大人たちも同年代の者も、或いは私より少し幼い者たちも、私たちが夫婦となる事を疑わなかった。私だって、何も知らなかった頃は疑わなかった。
ナマエ
だってきっとそうだ。それでも
ナマエ
は何も言わなかった。言ってくれなかった、と責任転嫁した。
そんな頃だった。
ナマエ
が里の男に言い寄られている時に、本当に偶然、私が鉢合わせたのは。
ナマエ
は困ったように男を躱していたが、私がそこに突っ立っていたのに気付くと、困ったように私の名を呼んで、私の腕に彼女の柔らかな腕を絡めた。「ごめんなさい」と甘く囁く
ナマエ
は全く知らぬ人間のように思えてならなかった。そそくさと二人で逃げて、男が見えなくなった時に音を立てるように
ナマエ
が私から距離を取ったのを、とても残念に思った。そう思う資格は無い筈なのに。
「ご迷惑おかけしました」
「いや、構わない。その、大変だな」
「ええ。だって貰い手が無いのですもの。誰かさんが貰ってくださらないから」
ちくりと刺されるような心持ちに口端が震えた。
ナマエ
は意に介さなかったようで楽しげに声を上げて笑った。久し振りに
ナマエ
の笑い声を聞いた気がした。やはり愛らしいと思った。
「その、やはり、だな」
ナマエ
には何度かそれを匂わせるような事は伝えていた。いずれも上手く、言葉には出来なかったけれど。それでも
ナマエ
は何かを汲み取ってくれていたようで、いつも苦笑しながら私を待ってくれた。いつまでもそれが通用するとは思えなかったけれど。いつもいつも大切な言葉を口にしようとしたら唇が震えて言葉に詰まった。今日も。そうしたら握った拳を
ナマエ
に取られた。
「ねえ、陣内さま。来てください」
誘われるままに連れて来られたのは里の端にある花畑だった。幼い頃に私が
ナマエ
に花冠を作ってやったあの花畑だ。
ナマエ
に両手を取られたまま座らされる。微笑んだ
ナマエ
に目を瞑るように指示されて逆らわずに目を閉じた。小さな笑い声が零れて、幾らかの時間が流れた。暖かくて、柔らかな香りが風と共に薫る。良い季節だな、とぼんやり思っていた。
「はい、できた。目を開けてくださいな」
ふわ、と頭に柔らかな感触がして、目を開けたらとても近くに
ナマエ
がいた。美しく、それでいてあどけなく微笑む
ナマエ
が私の頭の方から両手を下ろした。
頭部に手を遣ると柔らかな感触。嗚呼、花冠。何故だろう、胸が引き絞られるような気がした。
ナマエ
の瞳が私を映す。美しい目だ。驕りではなく私の事が心底愛おしいという目をしている。
「異国の花嫁は冠を被るのでしょう?幼い頃、私にしてくださいました」
「
……
私が花嫁なのか?」
「どちらでも良いのです。私が花嫁でも、陣内さまが花嫁でも。私は相手が陣内さまならどちらでも良いのです。ねえ、だから覚悟を決めてください。早く私の旦那さまになって」
愛らしいのに豪儀な娘だ。昔からそうだった。昔から、私の喧嘩相手に仕返しに行こうとしたり、樹上に上がって降りれなくなった昆奈門のために木の上に登って落ちそうになったり。だが、そこに惹かれたのだった。
「
……
私は、臆病なんだ。私が死んだ後の事が怖い。
ナマエ
が私のいない世界でも生きていける事が」
「そんな事は起きてから考えてください」
「相変わらず、豪胆だな」
「当たり前です。だって幼い頃から陣内さまは慎重で、いつも石橋を叩いて壊すような方だったもの。だったら私が豪胆にならないと」
爛漫な顔で笑う
ナマエ
の頬に恐る恐る手を差し伸べる。目許の赤く染まるその顔が美しい。指先でそこを擽って、それから
ナマエ
の作った花冠を、大切に両手で彼女の頭に被せた。異国の花嫁は祝言の時に冠を被るらしい。きっと彼女らはとても美しいのだろう。だって彼女らの人生でも一等くらいの晴れ姿なのだから。でも、きっと今の
ナマエ
には誰も敵わない。私の愛した
ナマエ
には。
冠を被った
ナマエ
に愛を誓おうとするのにいまだに唇が震える。
ナマエ
が一等綺麗に笑った。私の手を取って爛漫な笑みで。「結婚しましょう!」だなんて。
なんて、勇ましく、愛らしい求婚だろう!
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