朝、まず私がしないといけない事は陣内さまの強力な拘束から抜け出す事だ。新婚とはもう言えないくらい一緒に過ごして来た筈なのだけど、陣内さまはいまだに私を腕に抱いて眠る。お互いの時間が合わなくて、なかなか、閨へ発展する事は少ないのだけど、それでも、陣内さまの腕に抱かれて眠るのはとても好き。朝は大変だけれども。
ぎゅうぎゅうに抱かれた拘束を、陣内さまを起こさないように外してそれから着替えて朝餉の支度。陣内さまは女中を雇っても良いと言われたけれど、私がこの家を守っていたかったから、それは丁重にお断りをした。陣内さまの帰って来る家を、私の手で守っていたいと思った。
朝餉が粗方出来上がったら、今度は陣内さまを起こす順番だけど、これが少し、と言うかかなり大変。陣内さまはお外でとても「ちゃんとしている」分、家では「ちゃんとしていない」事が多いからだ。
お休みの日に起こさなかったら昼時まで寝ているのは可愛いもので、いっそいつまで寝ているんだろうと思って本当に起こさなかったら夕方起きてきてその日はずうっと私の腰回りに腕を回してくっ付いているだけだった。普段頑張っているから、それはそれで良いと思うけれど、多分、忍軍の方がお家の陣内さまを見たらきっと誰かの変装と思うに違いない。
私もたまの休日くらい陣内さまには休んで欲しいと思うから、起こすのも本当は忍びないけれど、でも陣内さまが昨夜朝餉の時間に起こして欲しいと言うからだ。曰く、せっかくの休日を私と過ごさないのは勿体無いとの事だ。
「陣内さま、起きて」
褥の盛り上がった塊に手を掛ける。大きな身体を揺すると、御衣の中から唸り声が聞こえた。まるで冬眠中の熊のようだ。笑ってしまう。もう一度陣内さまを呼ぶ。
「もう、起きてくださいな」
「ん゛……」
「ねえ、陣内さま、起きて」
煩そうに私の手を緩く払おうとする陣内さまの手を避けてもう一度身体を揺する。遂に私の手首を陣内さまが取る。引っ張られて褥に飛び込んでしまう。状況を把握するより先に陣内さまに囲い込まれるように抱かれている。
「もう、陣内さま!?」
「ん、もう少し」
「もう朝餉出来てしまいました」
「あと一刻」
「朝餉が冷めてしまいますよ」
「じゃあここで食べよう」
「もう、起きていますよね?行儀が悪いですよ」
覚醒している声で陣内さまが含んだように笑う。陣内さまの厚い胸に顔を押し付けられる。腰の辺りに腕が回されて引き寄せられる。陣内さまの脚が私の脚に絡められて私たちの身体は限りなく近くなる。
「陣内さま、いい加減にしないと怒りますよ」
「せっかくの休みだろう。のんびりしよう」
「もう、じゃあ私は食べてきます。陣内さまは寝ていて」
「分かった、起きる」
渋々と言ったように身体を起こした陣内さまは私を腕に抱えたまま大欠伸をする。寝る前はきちんと着ていた夜着も縒れてしまってだらしなくなっている。抱えられたまま、陣内さまの襟の合わせを整える。嬉しそうな顔の陣内さまはいつもそうなのだ。私がだらしない陣内さまに世話を焼くと凄く嬉しそう。
「済まんな」
「分かってやっている癖に」
「なんだ、ばれていたのか」
「だって私がこうやってお世話すると嬉しそう」
「当たり前だろう。好いた女が私の世話を焼くのだから」
寝起きとは思えない甘い声。ぞわ、と身体が震えてしまう。顔が熱い。俯いてしまうのを陣内さまは分かったように耳許に唇を寄せる。低い声が耳を震わせる。
「今日は一日、ずっと一緒にいたい。お前の作った飯を食べて、お前と共に過ごしたい」
「ええ、でもまずはちゃんと顔を洗ってください。それから身支度を整えて。私は朝餉を温め直してきますから」
「…………むう、」
唇を尖らせる陣内さまは「ちゃんとしている」時とは随分違って子供っぽい。その様子がおかしくて声を上げて笑ってしまう。陣内さまが不本意そうに私を睨む。その頬を両手で包む。いつもよりとても陣内さまが幼く見えてとても可愛い。そう思ってしまった。
「陣内さま、可愛いです」
「……大人げないと、馬鹿にしているんだろう」
「違います。いつも『ちゃんとして』いて、私なんかじゃ釣り合わないと思っていたから。お休みの日はいつもより、陣内さまが近く見えます」
ぎゅう、と身体を引き寄せられて強く抱き締められる。これは休みの日だけに許される私の特権だ。陣内さまの子供っぽくて可愛らしい一面。私だけ知っていたい陣内さまの「ちゃんとしていない」所。
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