「え~~~~」
フロイトの不満そうな声が格納庫に響く。
「いや、隊長が運用計画ガン無視するからですよ」
整備担当の社員がフロイトに言った。
フロイトは運用計画を上回る出撃を行い、結果、整備計画がおじゃんになって部品が足りず、しばらく出撃できないとのことだった。
「部品っていつ来るんだ?」
「AOG(※AC on Ground
…速達の意)で二か月ですね~」
「二か月!??!?!」
突如、格納庫の扉が開き始めた。オープンフェイスが帰投してきたのだった。
なにやら焦げ臭く、担当整備士がメンテナンスハッチを開ければジェネレータの回路が焼けていた。
「これは
……試作武器が出力オーバーしたな?サージでジェネまでやられてる」
整備士がそう言うと、スネイルはため息をついた。
「担当者は一体なにをやっているのです。修理にどれほどかかる?」
「ここのPCB基盤は他の星系で作ってるから二か月くらい来ないね」
「二か月!?!??!?!?」
~~~
ふたりはアーキバス所有のリゾートがある惑星に降り立っていた。
「出撃できないし、有休消化と福利厚生でバカンスかぁ
……」
フロイトはアロハシャツ姿で砂を踏みしめながら呟く。周りは絶景のビーチだ。
「出撃以外にも仕事はあるのですが」
スネイルは気候に適した軽装ながらも、小脇に端末を抱えていた。
「まあ、今は大きな戦乱もなさそうだしな。温存しておきたいんだろ」
フロイトはスネイルの端末を取り上げる。
「こんなものは没収だ。楽しまないとな」
スネイルの顔を下から覗いて、水鉄砲で撃った。
スネイルは面食らい、濡れた顔を手で拭う。
「何を
…!」
「油断してたな」
「こんなことをするのはあなたくらいですよ
……」
フロイトがにやりと笑って言った。
「初撃は俺が取った。次はどうする!?」
スネイルは眼鏡を掛けなおす。レンズが白く光った。
次の瞬間、フロイトは空を舞った。スネイルが首根っこを掴んで海に放り投げたのだ。
波打ち際に盛大な水しぶきが上がった。フロイトは浮かび上がり、真っ青な空を仰ぎ見る。
「お前
……やりすぎだろ」
「強化人間に肉弾戦で挑むほうが悪いです」
「ははっ、墜落したのに痛くないぞ!すごいな、水がクッションになってるのか」
「そこで喜ぶんですか、あなたは」
スネイルが波打ち際まで歩み寄ると、フロイトは砂の上に寝転がったまま、じっとスネイルを見上げる。
「なにか文句でも?」
「いや」
フロイトは濡れた前髪を払って、くしゃっと笑った。
「お前といると、故郷にいたときの夏を思い出すよ」
「それは
……良い記憶ですか?」
「さあな。でも、今は楽しい。だからいい」
~~~
「飲むか」
ふたりは小さなヴィラのような宿に身を寄せていた。
「なんですか、その液体は」
「酒らしい」
フロイトは瓶を抱えていた。青い液体の中にキラキラとした深緑色の粒子が舞っている。
「怪しすぎます」
「なんでも試してみたほうが楽しいだろ」
フロイトは栓を開け、酒だという液体をグラスに注いだ。
スネイルはまったく、と呟き、眉間にシワを寄せながらもグラスを取った。
カラン、とグラスが触れ合う音がして、ふたりは静かに口をつけた。
口の中に冷たい感覚が広がる。
「妙な味です」
「異国感があって、イイ」
「どんな味でもそう言うんでしょう、あなたは」
瓶が半分ほど空になったとき、フロイトは椅子にもたれかかりながらだらけた声を出していた。
「うん、いい気分だ」
「頬が赤いですね」
「俺が寝たら運んでくれよ」
「甘えるな」
~~~
現地の酒が効いたのか、ふたりは、一人で寝るには大きすぎるベッドに横になっていた。
「懐かしいな。こうやって兄弟と一緒に寝たりしなかったか?」
「うちは仲悪かったので。そういうことは誰ともしませんでした」
「もう家の人間もみな死にましたし
……一生そういうことは無いでしょう」
「ふーん
……じゃあこうやって過ごすようなやつは俺だけってことか」
「まあ、そうなりますね」
フロイトはひっそりと心の奥で微笑み、スネイルを見つめる。
「俺も、俺の世界に付き合ってくれるのはおまえだけだよ、スネイル」
~~~
スネイルはカーテンの隙間から入ってきた朝日で目を覚ました。
「重い」
スネイルの腕の上にはフロイトの体が乗っかっていた。
起きなさい、とスネイルがフロイトを揺すると、フロイトは少し掠れた声で
「
……おはよう」
と言った。
スネイルは痺れて石のようになった腕を振りながら言う。
「相変わらず寝相が悪い」
「コーヒーでも淹れるから許してくれ。俺の得意分野だ」
「まさか缶を開けるのが得意という意味ではないでしょうね」
「淹れるって言っただろ。じゃん。買っておいたんだ。ここらへんの名物コーヒー」
フロイトは豆の入った袋を取り出した。パッケージに謎の生物のイラストが描かれている。
「土産に持って帰ろう。オキーフが喜ぶぞ」
「
……味は確かなんでしょうね」
スネイルの心配をよそにフロイトは湯を沸かす準備をする。こうしてまた一日が始まるのであった。
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