墨色
2025-07-18 20:41:27
3310文字
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新しい世界を教えて

れめししWEBオンリー用に書いたものの、セルフボツにしたものをテストがてら供養
れめししがゲームしてるだけの話


叶黎明の職業はストリーマー、主なジャンルはゲーム配信だ。……それを聞いたからではない。決して、ない……オレが、コンシューマーゲーム機を買ったのは。
何度目かにアイツらがオレの家に集まったとき。ソレを見つけた叶は、ニヤニヤと笑みを浮かべながらも、何を買えばいいか分からなかったオレの心を見透かしたように、オススメゲームを勝手にDLし始めた。
ほら、と渡されたコントローラーを大人しく握る。
叶が選んだゲームは、青と白のカラーリングされたロボットが、色んな星で仲間を探すアクションゲームだった。文句を言いつつ、プレイしてみればゲームに慣れていないオレでも操作に戸惑うことなく楽しむことが出来た。おまけに、バイブレーションの触感がヤバい。マジで氷を滑っている感覚や、ファスナーを下ろしている感覚がするんだ。ゲームって、こんなに進化してんのか。「ヤベェ……」思わず声を出すと、叶と目が合った。
オレが驚きの表情を向けると、
「まずは入口からだな」
叶はニパッと笑った。



その後、再び家にやってきた叶は、
「あ、これクリアしたんだ。じゃあ、次はこっちな」
と、ウキウキとしながら、新しいゲームのDLをする。
その日は、叶の持ってきたパーティーゲームを楽しんだ。ちなみに、ビリは(途中で飽きた)真経津だった。
アイツらが帰った後、叶が新しくDLしていったゲームを立ち上げた。中世ダークファンタジーで、今までプレイしたものと大分雰囲気が違……おいっ!一気に難易度上がってるんだが?!どうやら、リトライを繰り返して進めていくタイプのゲームらしい。リトライ……と言うより、やられっぱなしだ。それなのに、止め時が見つからない……攻略法を見るため、検索したら叶の動画が出てきた。くそっ、やっぱり上手えな。
そんでもって、しっかり動画を観たことがバレてるのはどういうことなのか。動画を観ていたら、すぐにスマホが鳴った。
「オレの個人レッスン受けちゃう?」
……言い方が、昭和のオッサンっぽいぞ」
「ヒドいっ!!」
わめく叶だったが、次に家に来た時には、オレの横で過不足ないアドバイスをしてくる。ただし初見時には、何も口を出さない。数回リトライを繰り返せば、ボスの動きで気を付けるべきことを、端的に指摘してくる。
「よしっ!!」
「お疲れ様、今の動き良かったよ」
ボスを突破すれば、労い褒めてくれる。撫でられる頭は照れくさくて、少々腹も立つが、人気ストリーマーを、コーチとして独り占めしている贅沢に、少し浮かれる。



「なあ、敬一君。たまには違うジャンルやらないか?」
叶が手元のゲーム機で見せてきた画面には、青くてトガッた人物が映っている。
「テキストアドベンチャーで、相手の嘘や矛盾を暴くゲーム。ちょっと、役に立つかなあ、って」
その瞳は挑戦的で、オレに出来るかと問うてきているのだ。
そんなもの、受けるしかない。
「やった!じゃあ、一緒に配信しようね♡」
「は?」
そんなことは聞かされていないし、オッケーした記憶もないが、あれよあれよと言う間に、LIVE配信が始まった。
「新主人公の新シリーズからやるからな」
「なんで最初からじゃないんだよ?」
「こっちの方が、人の感情に注目出来るらしいからな」
あくまでオレのため、とでも言いたいのだろうか。ぜってえ負けられねえ。
そうして始めたゲームは、
「なんでこいつの脇汗とか注目しないといけねえんだよ?!」
「キモっ!!キモいーーー!!!」
「はあっ?!こいつ、この表情でこの感情とか、おかしいだろ?!」
「やだー、ニンゲン怖いねえー」
ツッコミどころ満載で、思いの外盛り上がった。ついでに、再生数も予想以上で、叶もご機嫌……かと思いきや、オレ宛のコメントに顔を歪めていた。
賭場の訓練になったかと問われれば、この程度が読めないようでは、あそこでは生き残れないが、そこは仕方ない。あくまでゲームだ。
「楽しめたなら、それでイイからな」
オレに向けたメッセージを送ってきた観測者たちをブロックしながら、いい笑顔で笑う。
天使で悪魔だ。



ある日、電子書籍専用の端末を渡された。「オレのオススメを入れてあるからな」の言葉通り、フォルダ分けされたそのタイトルには『往年の名作!押さえるべき!!』『昭和ならでは!ぶっとび漫画!!』と、主に少年漫画が選ばれているものから『胸キュン♡少女漫画』に加え『実写映画化大爆死!!』などと、オススメなのか?と首を捻るものまであった。
それでも、叶はセレクトに自信満々だった。
「ガキの頃買えなかったの、大人買いで爆買いしたからな☆」
「そういや、見覚えあるのがあるな」
「懐かしさと新鮮さ、あるだろ?」
……そうだな」
嫌な懐かしさは、塗り替えればいいだけだ。ソファで読んでいれば、背中に重さを感じる。190cmの迷惑な体積も、心地良い思い出になるだろう。
今は『昭和ならでは!ぶっとび漫画!!』を読んでいる。確かに今の時代にこれは出来ねえな……と思いつつも、その荒唐無稽さが癖になる。
「あ、それ気になるよな」
肩越しに覗き込んできた、1ページ。
「これ、再現出来んのかな?」
「んー?マンガと現実は違うんだよ?知ってる?敬一君」
そんなことは重々承知だ。
「でもよ、別にマンガの世界のものじゃないだろ?」
「確かにな。再現出来たら、面白そうだな」
ニヒッと笑った叶が、後ろから抱き締めてきたので、読書はそこまでになった。



『これから、家に来れるか?』
いつも呼ばなくとも勝手に来る叶に、メッセージを送った。
既読にならないまま時が経ち、返信が来たと思ったら、
「敬一君からの呼び出しは珍しいな!!」
インターホン越しに叶の声が響いた。
「返事してから来いっ!!」
「えー、それより早く敬一君に会いたくて」
ドアを開けるなり抱き着いてきた叶を、腰から剥がす。
「ったく。準備があるから連絡したってのに」
「準備?」
傾げる叶の首を、そのまま回転させる。
「痛っ?!痛いよ?!敬一君?!」
「あー、ちょっと大人しくそこで待っとけ」
リビングのソファに座らせ、自分はキッチンへと立った。
「なんなんだよ」
唇をとがらせつつも、大人しく待つ体勢になる叶を見て、思わず口元が緩む。
「さて、と……
オレは下拵えの済んでいるソレを、最後の仕上げに取りかかった。細工は流流仕上げを御覧じろ、ってな。

「出来たぞ!」
叶をテーブルに呼び寄せ、ドンと皿を出す。
「おーっ!スゴイ!!敬一君が作ったのか?!」
「まーな」
キラキラと瞳を輝かせ、子供のようにはしゃぐ叶に、胸を張る。
皿の上には、金魚を模した……
「これ!冷やし中華なんだよね?!」
「当然」
昭和のぶっとび料理漫画の中に出てきた、金魚のように盛り付けられた冷やし中華。「気になる」と言っていた一品だ。とんでも料理が多い中(比較的)常識的な調理方法で、材料も手に入りやすいものだったので、再現出来ないかと考えてみたのだ。
自画自賛ではあるが、よく出来たと思う。その証拠に、叶はあらゆる角度からシャッターを切り、ご満悦のようだ。
「あー、悪りぃ……動画で撮れば良かったか?」
再現料理と言うのも、人気のあるコンテンツらしいし、料理動画は人気があると言っていたな、と気が回らならかったことを謝罪する。
「なぁーに、言ってんのさ、敬一君。」
ムスッと叶がジト目で睨んできた。
「オレが敬一くんのためにやることは、見せつけたいけど」
と、一度言葉を区切ると、脈絡なく口付けてきた。
「これは、オレだけが知ってればイイからな」
至近距離で見る、こいつの顔のイイこと。
「敬一君が、敬一君のために楽しんでくれるのが一番なんだけどな」
結局、誰かのために動いちゃうんだから、とやれやれと肩を竦める叶を腕の中に引き寄せる。
「誰かのためじゃねえよ、オマエのためだろーが」
「ハハッ。オレも敬一君のために目一杯遊ぶからな、付き合ってよ」
返事の代わりに、今度はオレからキスを返すことにするか。