Maisie_Lyju
2025-07-18 19:31:56
17808文字
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異世界転生ヒカセンは逆ハーを目指さない⑦

乙女ゲームの世界に転生しちゃった光の戦士(脳筋ララフェル)は逆ハーなんて興味ないので全力でアゼム(悪役令嬢)とエメトセルク(王子ってか魔王)をくっつけます!

6:光の戦士、王子様になる(テニスで)


「よいですか、つまり、光魔法は攻撃には特化していません。癒しなどの良い状態を付与し、それを停滞させるのが術の本質です。それなのにあなたが色々焦がしてしまうのは、出力が強すぎるのです。光が強すぎて焦げているけれど、焦げているものも癒している、プラマイゼロですね。焦げによって付与されるダメージは癒しの力で帳消しにしつつ、表面的な焦げは停滞作用で固定されている。結果、あなたの魔法は何かを焦がしているだけ、ということになってしまうのです」
 広い静かな講義室で、ヴェーネス名誉教授と二人、サシで講義を受けていた。
 光魔法が癒しの術だったなんて、全く気が付かなかった……。まぁ、ヒロインにはありがちな能力なのかもしれない。
 ──「おい! アゼム! 待てと言っているだろう!!」
 ──「そんな怖い顔で追ってくるやつを待つわけないだろ!!」
 講義室の窓の外では相変わらずアゼムとエメトセルクがやり合っているようだが、入学して2週間、すっかり学園に馴染んだ私にとってそれは環境音にすぎない。
 ──「今日という今日は絶対に、逃がさん!!」
 ──「おわ! おい! 卑怯だぞ! エーテリアルジェイルは反則だ!!」
「なるほど……。じゃあ周りにいる人間を爆散させたのはなんでなんだろ?」
「現場を見たわけではないので何とも言えませんが……、おそらく、対象には癒しを通り越して強化の術がかかるほどの出力の魔法だったのですから、焦げるどころか周囲を巻き込んで爆発してしまったのかと。ただ、魔法を放った対象は、爆発を強化が相殺したせいで、周囲の人間にのみ被害が発生した、と考えられます」
 ふーむ。チート能力がチート級の威力で付与されてしまい、結果、超使えない能力になってしまっていないか?
「さて、今日はここまでとしましょうか」
 ヴェーネスが教卓側の壁にかかった大きな時計を見て言った。
「うわ、もうこんな時間か。早いね」
 光魔法は本当にレアな魔法らしく、世界に誇るアナイダ・アカデミアにも光魔法の専門家はいない。なので、とっくに十四人委員会を引退しているが、光魔法の使い手であるヴェーネスを特別に招聘してもらうことになり、今日は待ちに待ったその初回講義だった。最初のうちは挨拶と自己紹介を兼ねた雑談だったのだが、それがずいぶんと長くかかってしまい、あまり講義らしい講義にはならなかった。
「本当に。光魔法の講義はあまりできなかったけれどでも、私にとってはとても実りある時間でした。新たな未知と出会えたのですから」
 ヴェーネスはきらきらした目で言う。
 ヴェーネスは、エルピスの時と同様、出会った瞬間に私が転生者だと見抜いた。どうやら元の世界で得た光の加護は魂にかけられた術らしい。ヴェーネスはかけた覚えのない自分の術を纏った私に、別の世界線から来たことを言い当てたのだ。
「世界はいつだって驚きに満ちている。私はそれを追い求めずにはいられない。ごめんなさい。じっくりと講義をしてあげられなくて。この後も古い知人に会う予定があって、今夜にはアーモロートを立つの」
 ヴェーネスの旅好きはよくよく承知している。
「うん。わかってる。アルゴスにもよろしく伝えて」
 ──「くっそー! こんな魔法引きちぎってやる!!」
 ──「無駄な抵抗はやめておくんだな」
「ええ。では、次の講義は半年は先になります。それまでに、あなたの光魔法の出力を調整する方法を考えておきます。あなたも他の魔法について、しっかりと学んでおくのですよ。体のトレーニングばかりではなく」
「え、筋トレが趣味なこと、言ったっけ?」
「わかりますよ。あなたの体幹の強さを見れば。アゼムと同じですからね。あの子も魔法の素養も十分なのに、どういうわけか体ばかり鍛えて。魔法ではエメトセルクに敵わないと思っているのかしら」
「いや、たぶん単純に、私と同じで脳筋なのだと……
 なにせ私とアゼムは魂という根っこを同じにしておりまして。説明めんどいので言わないけど。
「ふふ。そうかもしれません。では、私は行きますね」
「うん、旅の話、待ってる」
 立ち上がったヴェーネスに手を振る。ヴェーネスはニコリと笑って踵を返した。何故か窓の方へ向いて。
 ──「アゼム! おい! 無茶はやめろ!」
 ──「なら……! 術を解け!」
 ヴェーネスはスタスタと窓の方へ向かって歩いていく。
 あれ? 教室の出口はそっちじゃないけど? と思っていると、ヴェーネスは開け放たれたままの窓に手をかける。そして、ひらりとそこから窓を乗り越えた。
 え! ここ2階!
 慌てて私も窓に駆け寄る。でもヴェーネスは地面に綺麗に着地している。
 おや、まぁ……さすがアゼムの師匠。
「あなたたち」
 ヴェーネスはそう言ってエーテリアルジェイルでアゼムを捕らえるエメトセルクに向かって歩いて行く。
「ヴェーネス様!」
 近くにいたヒュトロダエウスが声を上げて駆け寄った。
「ヴェーネス、ちょうどいいところに! 助けてくれ」
 アゼムもそう声を上げ、エメトセルクは苦々し気に目をそらしつつも、パチリと指を鳴らしてアゼムをエーテリアルジェイルから解放している。
「三人ともお久しぶりですね。会えてうれしいわ。ところでアゼム、今度は何をやらかしたのですか?」
「たいしたことしてないのにエメトセルクがめっちゃ怒ってくるから」
「あら、当代エメトセルクがここまでするのですもの。きっとたいしたことなんでしょう」
「フフ、そうなんですよ。アゼムってばこの前噴火間近の火山に突撃したんですけど、その時にラハブレアの火精イフリータを拝借していたんです。でもそれ、無許可だったらしくて、フフ。手を貸したエメトセルクも連帯責任で始末書を」
「案を出したのはヒュトロダエウスだろ!」
「ワタシはあくまでそういう素晴らしい選択肢もあるって提案しただけさ」
「そういうわけだったのですね。でも、相変わらず仲が良いようで安心しました。エメトセルクも、始末書の1枚や2枚で、そんなに眉間の皺を深くしていてはいけませんよ。皺が取れなくなってしまうわ」
……最早手遅れでは。あなたの後任に、大変、とても、手を焼いているので」
 窓の下で繰り広げられるそんなやりとりに、どうにもホッコリしてしまう。だって、この感じ、まだ学園に在籍して2週間の私にとっても、もうありふれた日常で。今日も平和だな~と思うのだ。
「あ! いたいたオリヴィア!」
 背後から声をかけられて振り向くと、講義室の入り口から工学のクラスで一緒の子がやって来た。
「どうしたの? 何か用?」
 尋ねるとその子は胸の前で手を組み合わせてお願いポーズをした。
「うん、私、じつは来週あるナプリアレス杯の実行委員をしているんだけど、オリヴィアに是非参加してほしくって! だってすっごい運動神経だもの」
 ナプリアレス杯? この学園はやたらと行事が多い。年間予定は見たが、いちいち覚えてられないのでなんのことだかさっぱりだ。
「いいけど、ナプリアレス杯って?」
「ふふふ。さっすがオリヴィア、内容も知らずにOKしちゃうなんて」
 まぁこちとら元冒険者なんもんで。
「スポーツの大会って言うと分かりやすいかな。毎年テイキュウという競技でトーナメントをしているの。テイキュウは、真ん中に低いネットがあって、それを境にして相手とボールを撃ち合うのだけど、知ってる?」
 実行委員の子はそう説明してくれる。低いネットを境にボールを打ち合う。それはつまり、
「テニスってやつかな」
 そんなスポーツはエオルゼアにはないんだけど、アラガントームストーン同人で読んだことあるやつな気がする。
「テニス? オリヴィアの地方ではそう呼ばれてるのかな。自分チームの撃ったボールが相手チームの陣地に入って、相手がそれを撃ち返せなければ、自分の得点になるのだけど」
 うん、やっぱテニスだな。
「やったことはないけど、ルールは把握してる。たぶんできると思うよ」
 そう言うと、委員の子はぱぁっと顔を明るくする。
「やった! じゃあ出場登録させてもらうね! ありがとうオリヴィア!」
 そう嬉しそうに言って去る背中にうんうんと頷く。
 こういうお願いを引き受けると、生きてることを実感するわ~。

「へー。ナプリアレス杯に。毎年選手を集めるのに苦労しているから、とてもいいと思うよ」
 泡ヒュと一緒に水槽の脇にしゃがみこんで、目の前の水生生物の生態を観察しながらだべっていた。ヒュトロダエウスは午後の授業をブッチしたらしく、泡ヒュが代返しているのだ。
「アゼムとか喜んでやりそうなのに」
 私の言葉に泡ヒュは苦笑いした。
「あぁ、じつはアゼムはナプリアレス杯は出禁でさ……
「え? 何やらかしたのあの人」
「いやー、話せば長いんだけど、そもそもエメトセルクが強すぎて、誰一人歯が立たないものだから、エメトセルクを出場させないことにしようって話になったんだよ」
「え?? エメトセルクってテニスそんな上手いんだ……。あ、いや、まぁ、うん、ちょっと似合いそうな気もするな……案外強そうだし」
 白い半そでシャツに白い短パン、ラケットを持ってコートに立つエメトセルクを妄想する。エメトセルクってばアゼムを追いかけまわしてるからか何気にいい体してるんだよな。
「うん。それはもうすごくてさ、エメトセルクの雄姿が見れないのは嫌だって人たちが署名を集めて実行委員に抗議したくらい。で、そこにアゼムが名乗りを上げたんだよ。自分ならエメトセルクと張り合えるって。で、その年の決勝はアゼムの宣言通りエメトセルク対アゼムになったんだけど……勝ちにこだわるアゼムが反則もいとわない戦い方をしてね……ナプリアレスに出禁を食らったってわけさ」
「なるほどねー」
「で、エメトセルクは強すぎて殿堂入りで出場しない。アゼムは出禁。以来なんとか盛り上がる対戦カードを用意しようと実行委員会は躍起になってたってわけさ。鳴り物入りの編入生、オリヴィア・ブライトの参戦は、実行委員にとっては渡りに船だっただろうね」
「まじかー。ってことはそこそこ戦績上げないといけないんじゃん」
 私は盛り上げ役ってわけか。
「まぁそうだね。頑張って」
 ニコニコと笑って言う泡ヒュに、私は頬を膨らませて見せる。
「もうー他人事だと思ってさー」
「勿論他人事さ。ヒュトロダエウスに出場依頼が来ることは絶対ないからね」
 二人して顔を見合わせて笑った。
 なにしろヒュトロダエウスは体を鍛える授業が大っ嫌いなのだ。出席日数ぎりぎりまでサボっているのは同級生なら誰でも知っている。しかも、そのぎりぎりの出席日数すら全部泡ヒュの代返なのだ。
 でもまぁ、いうてスポーツ大会みたいなイベントでしょ。盛り上がればオッケーなんだろうし、そんなに気負わずに行こう。

 と思ってたのにさーーーー!
 なにこれ?! どこがテニス?! こんなの絶対テニスじゃない! しかもこの対戦カード、いくら盛り上げる為とはいえ、仕組まれすぎだろーーーー!
「そこにいるのは、私であるべきなのに!!!」
 ミトロンは叫ぶと、ボールを天高く放った。
「来るわよ! 構えて!」
 隣に立つガイアがそう言って自身もラケットを強く握る。
 私は頷きながら両手でラケットを握りこみ、深く腰を落とす。どんな球も受けられるように。
「サイクロニックブレイク(超回転サーブ)!!!」
 ミトロンが落下してくるボールをガットで捕らえるとそう叫んで、力任せにラケットを振り下ろした。
 ギヤーーー! 回転かかりすぎて、ボールの周囲に竜巻発生してる!! もうこれ魔法! 魔法だよ! なんでエメトセルクが激強だったのか理解した! これはテニスじゃない! テニスのルールで魔法戦してるにすぎない!! そらエメトセルクに勝てるやつおらんわ!
 だが! 落ち着けヒカリ、このミトロンの球は超回転はしているが、球速はむしろ、遅いのだ!
 竜巻の軌道上に立ち、両手でしっかり持ったラケットを構える。
 竜巻の起こす風で髪を煽られる。目を閉じてしまいそうなほどのすごい風圧だ! だが、球速の遅さで構えは万全……
 のはずが……! ガットが竜巻に触れた瞬間、あんなに強く握っていたラケットが、捻り上げられるように面を上に向けてしまい、その下をボールがゆうゆうと通過していく。マジか!!
「く! 私が拾うわ!」
 ガイアが叫んで、私の背後にスライディングの勢いで飛び込んだ。竜巻は私がモロに受けることによって引き受けていたから、ボールはただの超回転球になっている。ガイアのラケットは見事にボールを拾った。だけど、ポーンとあらぬ方向に飛んで。まぁ、ガットが外向いてたので当たっただけでもすごい。
「アウト! フォーティラブ、ミトロン+ヒュトロダエウス」
 審判エリディブスの無情な声が相手チームのポイント獲得を告げ、点差が開く。でも、今はそれより、
「ガイアログリフ、大丈夫?!」
 私はとりあえず倒れているガイアに駆け寄る。ミトロンってばガイアをガイアって呼ぶとめっちゃキレるんだよね。でも、呼び慣れてないんだよ、アログリフ。
「これくらい、たいしたことないわ」
 ガイアはそう言うけど、腕を擦りむいている。まぁ私もサイクロンをまともにくらってあっちこち怪我してるんだけど。
 とりあえずガイアを助け起こして、応急処置のヒールをする。
「もう、たいしたことないって言ってるじゃない。でも……
 ガイアはそう言ってプイっとそっぽを向き、
「あんた、ヒールもできるんだ……。すごいじゃない」
 そう、ボソっと言った。
 すると、背後から何やら圧を感じた。振り向くと、ミトロンがゆらゆらと闇のオーラを焚き染めている。
「ポッと出の編入生ごときがガイアを惑わしよって……
 忌々しげに呟いたミトロンに、その隣でぼっ立ちしていたヒュトロダエウスが肩をすくめる。
「惑わすとか大袈裟だよミトロン。あくまで対戦の為の一時的なペアにすぎないんだからさ、そう熱くならずに、ね?」
 このヒュトロダエウスは本物ヒュトロダエウスだ。体育大嫌いのヒュトロダエウスだけど、ナプリアレス杯に出れば単位を進呈するという実行委員の釣り餌にまんまと食いついて参加している。最初は泡ヒュに代行させようとしていたらしいけど、生真面目エメトセルクに見つかってコートに放り込まれた。(おかげで泡ヒュはサンバイザーとサングラスで顔を隠しつつも観客席で優雅にドリンクを飲みながら観戦中。)
 ガイアが参戦したのもヒュトロダエウスと同じ理由だ。自称フォークよりも重いものを持てないガイアは体育が大の苦手らしい。なので、なんとしてでも単位が欲しいらしく、今回の試合はダブルスなのをいいことに、大親友で男子並みの運動神経のミトロンを伴って参加表明したのだ。
 が、実行委員は当日になって、チーム分けは実行委員会が決めると言いだした。騒ぐガイアとミトロンを無視して、実行委員会はガイアには私を、ミトロンにはヒュトロダエウスをダブルスのパートナーとしてあてがった。
 最初はブツクサ言ってたガイアだけど、1回戦と2回戦を余裕で突破したおかげで、今や私にしっかりと信頼を寄せてくれている。けど、そのせいで……決勝戦のコートに、嫉妬に狂ってメラメラと戦意のオーラを燃やすミトロンが立ち塞がったのだ。
 ガイアのパートナーは、唯一自分であるべきだと。
 いやいや私に言われても知らんがな! ナプリアレス杯実行委員会に言ってくれ!! どう考えても仕組んだのは奴らだ!
「アログリフの隣に立つのは私であるべきだ! オリヴィア・ブライト、お前など相応しくないことを、この試合の勝利で示してやる!」
 ミトロンは燃える目でそう言うと、ボールボーイをする赤髪の男の子(※)に向かって手を出し、ボールを要求する。
※ 脚注 こちらエリクトニオスとなっていますが、この光の戦士は宇宙の果てでゼノスと殴り合ったのちにこの世界にやって来ており、万魔殿パンデモニウムを未プレイとなっています。
 ガイアは立ち上がるとラケットを両手で握り直す。
「私への想いが溢れている? このままじゃ、体育の単位がA評価にならない! もう、今こそ役に立ってよね、オリヴィア!」
 そう、ナプリアレス杯は出場するだけで単位進呈なのだが、さらに、優勝すればそれをA評価にしてもらえるのだ。
「わかってる!」
 けど、相手は十四人委員会のミトロン。魔法超強い。マッスルMレベルLは私の方が確実に上だから、普通のテニスだったら絶対に勝てたのに、こちとら脳筋だったもんで、キャス職はかろうじて巴術齧ってからの召喚術のみ、それもカー君いないからたいしたスキルが使えないときた。
 なんかないか! 起死回生の手!
 そう考えているうちにミトロンがボールを高く放り上げる。
「くらえ! バーンストライク(ド直球ストレートサーブ)!!」
 言葉と共にミトロンの周囲を炎を纏った蛇が旋回して、それがボールに乗り移って炎纏いサーブが来る。
 知ってるこれ! 吹き飛ばされるやつ!
 あわわわわ! とにかくアムレン! 防御バフも、
「ディレイスペル(絶対遅延)!」
 その時、背後からガイアの声が上がって、ボールに闇魔法がぶつかった。
 そか! ガイアは運動音痴だけど魔法は一級のはず!
 ボールが時計のような紋様に包まれて、一時動きを止める。
「ナイス!」
 思わず言ったけど、ピーッと審判エリディブスが笛を鳴らした。
「フォールショット! ゲーム! ミトロン+ヒュトロダエウス、ファーストゲーム」
「ええ?! 今の反則なの?!」
 しかも向こうのポイントになって1ゲームとられた!
「ラケットに触れる前のボールに魔法を使うのは反則だよ。知らなかったのかい?」
 エリディブスが言う。まぁ、確かにそうだな、それやっちゃったらなんでもできそうだし……。このテニス式魔法合戦もそれなりにルールがあるんだな。
「忘れてたわ……。悪かったわね」
 ガイアは悔しそうに言う。
「いいよ、私も知らなかったし。でも、やばい。サーバーが向こうとはいえ、1ポイントも取れないなんて」
 1回戦、2回戦は1ゲームも落とすことなく、どストレートに勝ち上がってきたのだ。まぁ、私のマッスルMレベルLから繰り出されるマッスルサーブとマッスルスマッシュは、魔法なしでも対戦相手を竦ませるのに十分な威力だったので、木人を相手にしているようなものだった。
「そうね。ミトロンは今までの体育の単位に釣られた出場者じゃない。でも、ヒュトロダエウスなら……
 ガイアが低い声で言って、私も頷く。
「うん、申し訳ないけど、ヒュトロダエウスを狙おう」
 ヒュトロダエウスは、白いテニスウエアを着て白い歯を見せ、いかにも爽やかなプレイヤー然としているが、ラケットを構えもせずにいつもの待機モーションでぼっ立ちしているのだ。
 私とガイアが頷き合ったところで、審判エリディブスがこちらを見る。
「いいかな? 始めるよ。オリヴィア・ブライト、サービス」
 エリディブスのコールに闘志を燃やして頷く。サーブ権がこちらに移ったのだ。もうあんなボコボコにされてなるものか。私はズンズンと歩いてベースラインへと向かう。
 私はボールボーイが投げて寄越したボールを軽く地面にトンとついて息を整えると、高く、かなり高く投げ上げる。
 そして筋肉と腱を総動員して自身の身長ほどに跳躍し、その頂点で力任せにラケットを振り下ろした。
「くらえ! 筋肉ショット!!」
 1回戦、2回戦の相手を恐怖でカチンコチンに石化させた豪速球のストレートショットが、ヒュトロダエウスの足元に雷の如く飛ぶ。
 勝っただろう! そう思ったのに!
「ふ、助かったぞ、オリヴィア、その単純な思考に!!」
 ミトロンがヒュトロダエウスの足元にラケットを滑り込ませ、打ち返して来た。
 くそ!! 読まれてた!
 でもミトロンの打ち返して来たボールに、こちらも食らいつく勢いで飛びこむ。
 これ以上やらせるか!!!!!
 渾身の力で打ち返す。
 単純なテニスならこっちに勝機があると、私は、信じる!!!!
「いっけーーー!」
 ダン!
 私の打ったボールは音を立てて、ヒュトロダエウスとミトロンがいる位置とは反対のコートの端にブッ刺さるように着弾する。
 ヒュトロダエウスが邪魔にならないようにコートの端にいたのが仇になったな!
「フィフティーンラブ、アログリフ+オリヴィア!」
 エリディブスの声が響く。
「よっしゃ!!」
 やっと1ポイント!
「やるじゃない」
 ガイアが言って、ちょっと目を逸らす。
「なんだか、物語の王子様みたいだったわよ」
 王子? どのへんが? ようわからん感性だな。まぁでも、ガイアはミトロンを騎士とか称してたし、案外に乙女チック思考なんだな。
 だがその時、背筋がゾクリとして、冷気の来る方を見れば、ミトロンが……! 絶対零度な感じの瞳でこちらを見ていた。
 ヤバイ! これ、ブチギレてるのでは?!
「私たちは、片時も離れないと……、共に素敵な明日へ向かうと……、そう約束しているのだ……。我らの共鳴を阻む少女、余計な第三者など消去する!」
 ミトロンは私に向かってそう言うと、なんでかヒュトロダエウスに向き合った。
 しょ、消去?! ミトロン、一体何する気だ!?
「ミトロン、ワタシは視ること以外は役に立たないって知ってるよね?!」
 ヒュトロダエウスも何か危機を察知したのかミトロンから後ずさる。
「なに、ちょっとジャンクションするだけさ。その目を役立ててもらうよ、ヒュトロダエウス。さぁ、しばし大人しくしていろ」
 ミトロンが悪い声で言う。ジャンクション? それ、プロミスオブエデンがやってたやつかな。タイタンとシヴァとかと自分を連結して能力を引き出してたやつ。てことはミトロンは自分にヒュトロダエウスをジャンクションさせて、ヒュトロダエウスの目の能力を使う気?!
 ヒュトロダエウスの足元からクリスタルだか氷だかわかんないけど何かが立ち上がり、パキパキ音を立てながらヒュトロダエウスを包み込んでいく。
「うわあああ、ちょっとさすがにやりすぎでしょーーーー! ハーデス! 助けてくれないかな?!」
 ヒュトロダエウスは胸のあたりまで覆われた氷に、観客席のエメトセルクを振り返った。観客席は騒然としていて、さっきまでのんびり頬杖をついていたエメトセルクも立ち上がっている。
「ヒュトロダエウス……! く、だが、試合中のコート内にはなんら干渉してはならない規則だ……
 エメトセルクは悔しげに言う。真面目か!!
「ええーーー! このままじゃワタシ、女の子になっちゃう!」
 ヒュトロダエウスはその叫び声を残して完全に氷だかクリスタルだかに閉じ込められた。
 女の子になっちゃう?? どういうこと??
「ジャンクション、ヒュトロダエウス!」
 ミトロンがそう高らかに言うと、ミトロンと氷漬けヒュトロダエウスが線で繋がる。やっぱそうだ! プロミスオブエデンとの戦いで見たやつ!
 だけど、ジャンクションはそれだけで終わらなかった。
 ミトロンの全身が光を帯びたと思ったら、その髪がファサァっと揺れながら、薄紫を帯びて長く伸びた。
 はぁああ?! ミトロンが変身した?! いやむしろこれ、ヒュトロダエウスと合体したってことか!女の子になっちゃうってそういうこと! ジャンクション、連結じゃなくて結合だなんて、やっぱマジモンの古代人がやるとどんな魔法も上位互換されるってか!
 観客席もおおいにどよめいている。
「きゃあああステキーーー!」
「ヒュー!! 激マブじゃねーか!」
 いや、うん、マジで激マブ。エメトセルクも泡ヒュも目を丸め、アゼムは目をキラキラさせている。
 ミトロンの騎士然としたクールビューティーと、正統派美人顔かつ柔和な雰囲気ヒュトロダエウスが合体して、とんでもない美女が爆誕したのだ。作り物のように整った顔、立ち姿は凛々しく、それでいて柔らかくうねる薄紫の長い髪が可憐さを添えている。勇ましい目と、微笑む口元。完璧オブ完璧。これこそ真の楽園招請プロミスオブエデン
「さぁ、約束を果たそう……
 美女、ヒュトロン、いや、この言葉や女の子になっちゃってるところを見るに、ミトロン優位、ミトロダエウスか。ミトロダエウスが言う。
 なんか知らんけど美しさ倍になったのもあって、強さも倍になってそう!
「ねぇ、エリディブス、これは反則じゃないわけ? 選手交代してるじゃない」
 ガイアがエリディブスに抗議する。
「残念ながら、反則ではないよ。彼女はミトロンでもあり、ヒュトロダエウスでもあるからね。むしろ君たちにとっては有利になったんじゃないかな。彼らはダブルスのコートで一人で戦うのだから」
 エリディブスは無邪気にニコリと笑う。いやいや、そんな単純なもんじゃないんじゃない?! ヒュトロダエウスの目は!
「さぁ、いよいよ試合が白熱してきたね。オリヴィア、サーブを」
 私とガイアの困惑を無視してエリディブスは悪気なんて一切なさそうな顔で促してくる。
 くー! 観客席もだけど、この状況をみんな楽しんでるんだ!
 だけど、ここまでなんでもアリならこっちだって筋肉以外も使ってやんよ!
 私は「どりゃああ!」と掛け声をかけてボールを天高く放った。そうして竜騎士ジャンプをキメる。ああ、やっぱヒカリのときほどのジャンプ力はないか……! それでも、この世界ではこれほど高くジャンプできる人間はいないはず……
「くらえ! スターダイバーサーブ!!」
 多重に赤紫の魔紋が出現し、その中をボールがものすごい勢いで一直線に飛んでいく。
 だが、ミトロダエウスはやはりコースを読んでいたらしく、スターダイバーのせいで、着弾後大きく跳ね上がったボールに合わせてジャンプし、スマッシュを決めてくる。しかも、
「弱点は見えているぞ、スピリットテイカー(身の竦むスマッシュ)!」
 そう言って、ガイア側にボールを打ち込んできたのだ。
「フィフティーンオール、ミトロン+ヒュトロダエウス」
 くっそ! やっぱりだ! ミトロダエウスはこっちの狙うコースどころか、自分の狙うべき安地まで見えている。
 ヒカセン技も通じない、ヒュトロダエウスの目を得たミトロンの魔法じゃ勝ち目がまじでわからない。光魔法は本来癒しの魔法だっていうし……
 ん……
 エリディブスは、魔法はラケットに触れる前のボールには打っちゃだめだと言っていた。つまりボール以外なら魔法をかけてもいいわけだ……。実際ミトロンだって自分たちに魔法をかけたわけだし。
「ちょっとエリディブス、タイムで」
 私はエリディブスにそう言いおいて、ガイアに近寄ると、コソコソと耳打ちした。
「ガイア、今から光魔法を打つから、私にディレイスペルをかけてくれる?」
 ガイアは怪訝な顔をする。
「なんで光魔法の発動を遅延させるのよ」
 まぁ、癒しの魔法の効果を遅れて発生させる意味がわからないんだろう。でも私の光魔法は特殊なのだ。
「いいから」
「もう、わかったわよ。ディレイスペル(絶対遅延)」
 ガイアの魔法が届いたのを確認して、私は魔法を練る。
「シャイン」
 言って、地面に向かって撃つ。シャインに時計紋様が現れる。
 よし! シャインに遅延がかかった!
 私はシャインの着弾予定地点にラケットを置く。そして、ガイアの腕を引いてそのラケットから充分な距離を取った。通常出力6分の1だと焦がさないし周囲も爆発させないんだけど、6分の1だとバフの効果も持続時間も6分の1になるんだよね。なので今回は出力調整なしだ。まぁ、出力調整はしたって2割くらいしか狙い通りにできないんだけど……
 ディレイスペルの時計紋様が針を止めた瞬間、ボンっとラケットを置いた地面が爆発する。モヤモヤした煙が立ち昇って、それが消えると、少しえぐれた地面と、焦げて黒くなったのに光彩纏ってキラキラと光り輝くラケットが出現した。
「よし! 成功!」
 私は黒光りするラケットを取り上げる。イチかバチかだったけど、シャインの強化バフ、物にもかかるらしい。しめしめ。これが失敗したら、最悪焦げ覚悟で自分にかけるつもりだったからね。
「なんだかすごくアイテムレベルが上がってるわね」
 ガイアも驚いている。
 ほう、つまりめっちゃ強くなってるってことだな!
「これでミトロダエウスとも互角に戦えるはず!」
 私はラケットを掲げもって言った。ガイアも頷く。
「そうね、取るわよ、A評価!」
「勿論!」
 私はサーブを打つ為に、ベースラインの外側に向かう。
「もういいかい?」
 エリディブスの問いに頷きながら、ボールを要求する。
「じゃあ、プレイ」
 エリディブスのコールが終わるやいなや、私はボールを高く高く放り投げた。
 ラケットが、ボールを捉えてピカーーと輝く。おっしゃ! これなら、ボールのコースも読みづらいだろう!
「くらえ! あんた達がまだ知らないキラ・キラーサーブっ!!」
 ボールはキラめくあまり、無数の光の矢となって相手コートに降り注ぐ。
 そこからは、接戦に次ぐ接戦。デュースを繰り返しながら、互いに一歩も引かぬ戦いが続く。
「ヘル・ジャッジメント!」
「キラキラードロップショット!!」
 私とミトロダエウスはとにかくもう意地の超強力技の応酬だ。ラリーが続くのは互いに命を削る所業だからだ。ミトロダエウスは身一つだし、いくら視えていたって、右に左にと走らされれば、体力ないヒュトロダエウスをジャンクションしているせいか、息も絶え絶えだ。私もガイア側の守備範囲の大半をカバーしつつ、それでもできてしまう死角を確実に狙われるのだからたまったものじゃない。
 そうして戦う中で、ガイアも、ディレイスペル・リターン(時間差強制送還)を自分と私にかけて位置を入れ替えるという妙技を編み出した。ミトロダエウスの安地判断を撹乱するキラー技だ。
 そうしてじわじわとゲームをとっていき、私とガイアは勝利に王手をかけようとしていた。
「まだだ……我らが交わした約束は……、誰にも消させはしない! アク・モーン(超強いサーブ)!!」
「こっちだって約束してるんだ! A評価を取るって! キラキラーロブ!!」
 私の返したロブをミトロダエウスはなんとか拾ったものの、キラキラー効果でこちらのコートにまでは届かない。
「く! やらせるものか! アログリフには私がいればそれでいい! そうすれば、ずっとアログリフは私だけのものだ! 私の理想郷、そこに私達以外の者が立ち入ることは許さない! モーン・アファー(これまた超強いサーブ)!」
「ミトロン! その理想郷は、ガイアを閉じ込める檻でしかない! 現実を見ろ! これじゃモラハラだ! キラキラースライス!!」
 私の放ったスライスショットは光の速度でミトロダエウスがラケットを伸ばす一瞬前にそこを通り抜ける。
「モラハラだと……
 ミトロダエウスはその美しい顔を歪める。
「そうだ。君が勝ちに拘るのは、ガイアに、自分と組まなかったから勝てなかった、と思わせる為だ。そんなの典型的なモラハラ野郎の手口じゃんか! 他者を排斥して、閉じ込めて、自分に依存させて、そうして選ばれることに何の価値がある。いいや、もうそうなれば、選ばれてすらいない。ガイアが君のそばにいるのは、君しかいないからだ」
 私の言葉に、ミトロダエウスはキツく目を瞑ったあと、キっとこちらを睨んできた。
「それでも……そばにいてくれるならそれでいいのだ!」
 美女の睨み、マジで半端ない怖い。けど、こっちだって引き下がるもんか!
「そんなもの、君の望む理想郷なんかじゃないだろ! だってそこに愛なんてないんだから!」
 そんな関係、いつかは必ず破綻する。
 ミトロダエウスは、鬼気迫る顔でラケットを振り上げた。
「うるさい! それなら何度でもやり直すまで! パラダイス・リゲインド(本気のやばい強いサーブ)!」
「何度やり直したって、このままじゃ同じだ! 必殺! 希望の光スマッシュ!!」
 私のスマッシュは見事に決まる。ミトロダエウスは動けもしなかった。
 呆然とするミトロダエウスに、ガイアが追い打ちをかけるようなことを言った。
「もう、ミトロンったら感情が重すぎるのよ! だいたい、私とあなたは、愛とか恋とか……そういうんじゃないでしょ?!」
 ガイアの言葉に、ミトロダエウスは目を見開く。
 いや、確かにガイアはミトロンのこと『トモダチ』って言ってたし、友愛や親愛は、性愛とは違うって言いたいんだろうけど、言い方!!
 案の定、ミトロダエウスは見開いていた目を静かに閉じその体から冷気が立ち昇る。
 その冷気が、悲鳴のように啼き、私の背筋を凍らせる。
 ──伏して手を掲げ(※)
 ──終わりも選べずに
 ──涙枯れ果て凍てつく心
 ミトロダエウスは、ゆっくりと目を上げると、私とガイアを見据えた。
 冷気が哭く。
 ──過ぎた願いで、我を失う
 ※忘却の彼方(エデン共鳴編4層後半)のメロディで
「アログリフ……。ここはもう、私の理想郷ではない……それなら全て消えてしまえ! パラダイス・ロスト!」
 ミトロダエウスの渾身のサーブは、私とガイアを丸ごと吹き飛ばす威力で迫ってきた。
 これは最後の正念場。これをとればゲームセット、私達の勝ちだ。なら出し惜しみはもうなしだ!!!
 迫るボールの右側に滑り込むと、ノーバウンドのまま、両手でしっかりと持ったラケットで捉える。
 くっそ、ラケットが持ってかれそうだ! でも絶対に! 撃ち返す!!
「ヒカセン最終奥義!!! リミットブレイク・スリー!!!」
 ──今、刮目して、最後にもう一度、私はやり遂げる!!
 撃ち返したボールがドーンという音と共に煙を上げる。
「ゲームセット! マッチウォンバイ、アログリフ+オリヴィア!」
 エリディブスの高らかな声が響いた。

 ミトロンは一人、ペタンとコートに座り込んで俯いていた。
 氷から抜け出したヒュトロダエウスは、べしょべしょになってガタガタと震えている。それを傍に立ったエメトセルクが炎魔法で温めてやり、アゼムは大きなタオルでガシガシと濡れた髪を拭いてやっていた。
 観客席はいまだに興奮冷めやらぬ雰囲気で盛り上がっていて、泡ヒュは隣に居合わせた人に肩を組まれて苦笑いしている。エリディブスは忙しそうに表彰台設営の指示を実行委員にしていて、表彰役のナプリアレスとイケメン学長(※)は他の十四人委員会メンバーと早速試合の講評をしている。
※こちらサリャク様となっていますが、この光の戦士は(以下略
 ガイアは肩の荷が降りたのか、すっかり気の抜けた目をして立っている。それでも仏頂面だけど。
 私は、ネットを迂回してミトロンのそばに寄ると、膝をついた。
 ミトロンが目を上げる。
「ミトロン、ガイアは君を一番のトモダチって言ってた。一番っていうのは、たくさんの中の一番ということだろ。それって、二人きりの世界で、そうするしかない状態でそばにいるのとはぜんぜん違うんじゃないの」
 私の言葉にミトロンは再び俯いて力なく首を振った。
「一番だからだ……。二番や三番になり下がることが耐えられない……。私は女だから、いつか絶対に……一番じゃなくなる……。男に産まれていれば、こんな想いしなかっただろうに……
「ああもう!! ミトロンのバカ!!」
 ガイアは叫ぶと、ラケットを放り出してこちらに駆け寄って来た。
 そして、ミトロンの面前に座り込むと、ミトロンの両頬をぐいっと手で挟み込んで上を向かせる。
 ガイアはミトロンと目を合わせると、怒った顔をした。
「そりゃ私だって、いつかは誰かと結婚して、子供産みたいって気になるかもしれないわよ? 今は全くそんな気はないけど。でもそれはミトロンだって同じでしょう。だけど私たちは女同士だからこそ、ずっと一緒にいられるんじゃない! 愛だか恋だか知らないけど、そのへんの奴らが色めきだって騒いで、くっついたり離れたりしてる、そんな俗っぽくて変わりやすい関係じゃない、もっとこう、なんていうのとにかく、私達はもっと素敵な関係だわ」
 ミトロンはガイアの怒ってるような口調の、だけど必死な言葉に目を見開く。
「ガイア……
「約束したじゃない。ずっと一緒だって。どんなに関係が変わっても、離れ離れになっても、ずっと、私の心はあんたに寄り添うの。アルテミス」
 ガイアの言葉に、元の世界のガイアが言ってたことを思い出す。そうだ、あのガイアも、転生してくるミトロンをきっと見つけるのだと言っていた。
 リーンという新たな友達ができても、それはミトロンとの関係の終わりじゃなかった。ただ、新しい日々が始まっただけ。
 元の世界のミトロンも、新しい日々に踏み出す勇気があれば、私たちは争わずにすんだかもしれない。だって、あの時にはもうアシエンとして働いていたわけじゃない。
「エメトセルク」
 私はヒュトロダエウスを暖めているエメトセルクに声をかけた。
「なんだ?」
 エメトセルクは振り向いて尋ねる。一緒にいるアゼムとヒュトロダエウスも、こっちを見た。
「優勝祝いに花が欲しいんだけど、ちょっと指パッチンでここを花畑にしてくれない?」
 私の言葉にエメトセルクは心底嫌そうな顔をした。
「何故私が……
「いいじゃん、それくらいしてあげなよ。こんないい試合になるの、私ときみの対戦以来だろ」
 アゼムの口添えに、エメトセルクはちょっと迷う顔をする。面倒くさいし心底やりたくないのだろうけど、なんだかんだ優しいやつだからな。
「お願い、エメトセルク」
 私はダメ押しをした。
「はぁあああ」
 エメトセルクは肩を落として盛大にため息をつくと、ヒュトロダエウスを振り返る。
「ヒュトロダエウス、術式を寄こせ」
「勿論だよ」
 ヒュトロダエウスがにっこり笑って言う。
 エメトセルクはなおもダルそうな顔をしながら私を見る。
「どのような花にするかは、お前が決めろ。私は生憎そういった情緒は持ち合わせていない」
 何を言ってるんだか。じつはソル帝が芸術大好きだったって知ってるんだぞ。ま、照れ隠しだろう。
 私はニマニマ笑って頷くと、目を閉じてその花畑を思った。
 やがて耳にパチンと指を弾く音が届いて。
 目を開く。
 私の足元から、ピンク色の花が所狭しと咲き乱れる花畑が広がっていく。
 そして一陣の風が吹いて、花弁をフラワーシャワーのように舞い上げた。
 わぁ、と観客席から感嘆の声が上がる。
 ミトロンとガイアは手を取り合って目を丸くしている。
「へぇ、美しいな」
 アゼムが隣に立って言った。
「私にとって、花は明日の象徴なんだ」
 世界の果てであったって、花が咲けば、そこは明日に向かっている。
「なるほど。明日……希望か」
 さすが魂が同じだけある。アゼムは正しく私の想いを汲む。
 私は頷くと、ミトロンとガイアに目を向ける。
「ミトロン、現実は、悲しみも苦しみも避けられない別れもある、決して理想郷じゃない。でもだからこそ、よりよい明日へと向かうことができるんだ。見てみなよ、ここは永遠の理想郷なんかより、ずっと素敵な世界だ」
 私は大きく手を広げて、くるっと回って見せた。
 花が咲き乱れ、空は青く、遠くには山まで見えている。泡ヒュやたくさんの学生達が感嘆していて、教師たちも満足げに笑っている。手を取り合うミトロンとガイアのそばに、私とアゼムが並び立って、エメトセルクは腕を組んで満更でもない顔をし、ヒュトロダエウスは手を庇にして周りを見渡している。
 花は枯れる。だけど、何度だって芽吹くのだ。
「二人きりでは……見れなかった世界か……
 ミトロンが呟いた。
「そう、これこそが私の、希望の園だ!」
 いや、私が見たかった、もうひとつの未来かもしれない。
 自分にリーンを、アゼムにあの日の私を重ねる。ミトロンと、ガイアと、リーンと、そして私。サンクレッドやウリエンジェ、ヤルフォートやルーリー、グールグル、皆で手を取り合うことができたかもしれない、もうひとつの。
「綺麗ね」
「ああ……
 ガイアの言葉にミトロンが頷いて。
 ガイアはふっと息を吐くように笑うと、ミトロンのおでこに自分のおでこをくっつけた。
「ミトロン……一番とか二番とか、そんな言葉に大した意味なんかないわ。でもね、あえて言うわよ。アルテミスは私の一番はじめの理解者で、一番はじめの親友で、一番はじめの大好きな人……。だから、これからもきっと、ずっと、特別に大切な人よ」
 ミトロンがポロリと涙を流して泣き笑いする。
「どうだか。お前は忘れっぽいから」
「もう、何度も言うけど、私は忘れっぽいんじゃなくて、余計なことに脳のリソースさいてないだけ。……だいたい、大事なことはいつもミトロンが教えてくれる、私はそれでいいの」
「ふふ、手がかかる」
「それでも、きっと、明日も明後日も、一緒にいてくれるんでしょ」
「ああ。互いにそう願い続ける。それが私たちの素敵な明日をつくっていくんだな……
 そう言って笑い合う二人を見て、私はハっとした。
 もしかして、やっちゃったんじゃない?!!?!
 ついにやっちゃったんじゃないのこれ?!!

「泡ヒューーーーー!!」
 私は上の空で表彰式を終えると観客席に走って行き、呑気にストローでジュースを飲んでいたグラサンフードサンバイザーの泡ヒュの腕を掴み、物陰に連れ込んだ。
 泡ヒュの両肩をガシリと掴む。
「私、やったんじゃない?!」
 そう勢い込んで言ったけど、泡ヒュはきょとんとしている。引き摺って来た勢いでサングラスはズレてるけど、口にはまだストローを咥えている始末だ。
「??」
 ジュースをすすりながら目だけで疑問を訴えてくる泡ヒュに、私はちょっと息を整える。
「私さ、ミトロンとアログリフをくっつけたんじゃない?!」
 私の言葉に、泡ヒュはやっと口からストローを離した。
「確かに」
「やっぱそうだよねーーーー!!」
 でも泡ヒュはサングラスのズレた目で斜め上を見て、考える顔をする。
……まぁ、もともとくっついてたのに、キミの登場でちょっと離れそうになって、けど離れなかっただけ。な気もするけど」
「いやいやいや、あれをね、雨降って地固まるっていうんだよ!」
 アラガントームストーン同人でよくあった手法だ。出来上がってるカップルにわざわざ波乱を演出するやつ! なんなら煙のないところに火をつけたりね。
「ああ、より強固な関係になったってこと?」
「そうそう!」
 しかも、とてもいいENDにもっていけた気がする。
 ビバ!! 異世界転生!!
「どう? 私、レベルアップしてる?」
 私の問いに、泡ヒュはちょっと遠いような目で視てくる。
「あ、確かに前よりいい感じになってるね」
 泡ヒュが驚いた顔で言った。
「キターーーー! レベルアップ!!」
 くはははははは!
 乙女系異世界転生恐るるに足らず!
 ミトロンルートとアログリフルート、2ルート同時攻略とかもうRTAリアルタイムアタックだろ!
 この調子で、この世界、ガンガン攻略してやんよ!!!