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きな
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DiD
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【DiD】同人誌『空』あとがき
お手に取ってくださり、ありがとうございます。
注:このあとがきを書いた時は、「牧場牛」を誤植だと気づいていませんでした。
同人誌『空』通頒
BOOTH(匿名配送)
こんにちは。きなです。お話を書いた人です。
お手に取ってくださり、ありがとうございます。
こちらのあとがきではそれぞれのお話の内容について、またところにより個人的な原作解釈や感想など盛大に脱線しながらお話しいたします。
なんとたっぷり元気な約一万字ですよ! え? 多くない? アッハッハ、大丈夫なかたはどうぞお付き合いください。書き下ろしがあとがきって、自分の中では新しいですね。癖になりそう。
『空』
タイトルは空っぽの「から」とお空の「そら」のダブルミーニングですね。
こういうことをするととらさんでタイトルの読みを登録する際などに悩むことになります。気をつけて。
着想としては冒険者バイブル完全版を読んでいて「蒔いたらだめなのでは?」と思ったことでした。仏舎利や聖遺物みたいに自然から隔離して大切に保管する方法はありかもしれません。でも「蒔く」ってニュアンスそうじゃないですよね。種蒔きや蒔絵の字です。あかんのでは。じゃあ新鮮なうちに冷凍保存だ。からの、こちらです。
培養。
いやいやいやネタとして悪趣味だしそんなの目にするマルシルがかわいそうです。どんな神経してんだ。すみません。
時間軸としては、このお話の「現在」はライオス王の死後五百七十年くらいかなというところです。マルシルもさすがにそろそろおばあちゃんの足音がうっすら聞こえてきているかもしれないところ、ハーフエルフの謎成長曲線ミラクルで見た目若いまま! でいてもらいました。そんなことある? 無いと思うけどこれは私が書いたお話なのであります。
構成としては「である」調部分が歴史書や記録、書籍等で、その他の部分は通常の地の文のイメージです。気分で書き進めましたので、揺れがあるかもしれません。
モブくんたちの名前の由来は カセハ→博士 シギケット→時計技師 です。シギケットの性格は意識的にチルチャックに寄せました。彼の子孫かもしれません。マリからしたら二人ともかわいかったろうと思います。かつての仲間に似たハーフフットの若者が、ドワーフの若者と友人関係でいるのですから。良い人生を、は彼女の心からの言葉です。
マリとフィオはすぐに察していただけるだろう感じにしました。読んでて予想当たると楽しいですよね。私も好きです。
このお話ではマルシルがライオスを「私の自慢の弟」と表現する箇所があります。もちろん原作にはそのような表現は存在しません。私の主観です。以降につきましても、同様に、どんなにもっともらしく申し上げようと、すべて願望と妄想にまみれた私見です。ご容赦ください。
マルシルは情が深いひとだと思います。私にとってマルシルの、氷漬けにしたファリンに対する「冷たいよね、ごめんね」は衝撃的でした(原作十二巻)。あの時点でのファリンは遺体なので冷たさを感じないはずなのですが、マルシルにとってはそうではなかった。ライオス曰く俺より何倍も頭のいいマルシルが。そうか、マルシルはそういう人なんだ、と。
ライオスが王様になった頃には、マルシルとトーデン兄妹の間柄は仲間なのはもちろん、すでにほとんど身内枠でした。明確な言葉で言い表すことは互いになく、意識にすら上っていなかったかもしれません。そしてこのお話ではそれから五十年以上、マルシルは顧問魔術師としてライオスに寄り添い、彼を看取りました。そんな彼女にとって、ライオスはより親しんだ、肉親並みの、家族のひとりになっていたものと思います。
ライオスにとっても、きっとそうだったろうと思います。
もしかしたら彼女がそれらに気づいたのは、彼の死後だったかもしれません。
マルシルについて衝撃的だったことがもう一つあります。彼女はダンジョン飯の世界の常識では、黒魔術を用いる悪い魔女なんですよね。しかも迷宮の主にまでなってしまう。これは言い訳ができない。悪い魔女です。でも、マルシルって。
ぜんっぜん悪い魔女に見えないし思えないんですよね。
すごいな、と思うんですよ。本当に等身大に素直で一生懸命で頑張り屋な、明るくて人懐っこくて賢くて、それで情けも深い女の子じゃありませんか。自分の偏見を衝かれた感じがしました。新鮮で、より魅力的に感じました。大好きです。
だからこのお話でも、何百年も努力と研究を続けたマルシルは、めちゃ強で単純な暴力を行使したら誰にも止められないし、議会なんかじゃ「老害の魔女」だなんて酷い言われようなのですが、実際には一生懸命頑張る泣き虫ないつものマルシルで、初めての魔術でも一発で成功させちゃう学校はじまって以来の才女なマルシルです。
「炭素二十キログラム、アンモニア四リットル、石灰一.五キログラム、
……
」はご存じ鋼の錬金術師です。懐かしいですね、人体錬成。
フィオニルがハーフエルフだということ、九井先生がそう設定されたのなら、きっとそういうことなんだ、と考えています。寿命から言って、彼女はマルシルと同年代と言っていいんです。九井先生がそうされた。ここにも九井先生の優しさがある、と。
九井先生はキャラクターを雑に理不尽に放置するようなことはなさらないかたです。ダンジョン飯の世界観には厳然たる差別・偏見があり、トールマンを含めそれぞれの種族・地域での偏った常識や慣習があり、一筋縄ではいかないのですが、それでもどこか人の温かさを感じます。例えばライオスは冒険者バイブル完全版で父親との和解フラグが立てられています。ミスルン隊長は新しい人生を照らす光を見ます。ミスルン隊長についてはまたそれが、短命種であるカブルー、そして過去エルフとは敵対関係にあった種族ドワーフであるセンシからもたらされたのがすばらしいと思います。
ですので具体的には、フィオニルがマルシルと同年代のハーフエルフだということは、マルシルは長きに渡ってひとりきりになったりしないし、フィオニルも同じく、長きに渡ってひとりきりになったりしない、そういうアンサーなのだと受け取っています。このお話のように仲良しになるかはわかりませんが、彼女たちの間に何らかの交流は生まれるのだと思います。
人物紹介を見る限り、フィオニルは苦労していそうですよね。メリニでは幸せに暮らしてほしいです。
皆どうか幸せに人生をまっとうしてほしいです。
『悪食王の結婚事情』
まず最終段落の二人のイメージがありました。
それから、リドが辛そうだったので、結婚しないであげてくれないかな、とも思っていました。冒険者バイブル完全版によりますとリドは警備隊に所属とのことなので、結婚せずに済んだのかなと思います。おっと、ここでサイン会情報です! リドとは結婚しなかった、とのお話があったそうです。よかった~。
ライオスにはトールマンよりオークであるリドのほうが率直で意思疎通しやすそうですから、彼女が嫌がっていることに気づけた可能性があります。ライオス自身も咄嗟に彼女の年齢を気にしていましたから、種族差から幼く見えて忌避感を抱いたか、あるいは断る口実や建前にするつもりでいたか、やや困った様子ではありましたよね。
またライオスについて勝手ながら、その名前から彼に子供ができることに漠然とした不安感もありました。エディプス・コンプレックスの由来であるギリシャ神話のオイディプス王、その父王の名だからです。子であるオイディプスに殺される父の名です。
ただライオスは神話での立場と逆転するように、「父親(ないし両親)との確執」を負った息子の立場だったので、単にそういう意味での名付けなのかもしれません。
ギリシャ神話のライオス王は他にもそれはあかんやろ
…
な逸話があります。同様に立場の逆転がありそれがマイルドになっている、と仮定すると、軍に所属していた頃などのライオスが暴力や悪意にさらされていることがそれに対応している
…
というのはさすがにこじつけが過ぎそうですね。
反対に、おっ、えらいきれいに対比してるな
…
と感じる点もあります。ギリシャ神話のライオス王は自分の生存のために子殺しを命じるのですが、ダンジョン飯のライオスは自己犠牲的側面があります。この点、実に対照的ですね。もっともこれも、私が見たいものを見ているだけかもしれません。
さてそうしてとりあえず最終段落の二人のイメージでお話をこねこねしていまして、その時たまたま気が向いて映画『エリザベス』『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を視聴します。
ヴァージン・クイーンならぬヴァージン・キングが爆誕してしまいました。
申し上げなくともエリザベス一世が元ネタと皆さまお察しのこととは思いますが、念のためお知らせしておきます。
ライオス自身の恋愛観や結婚観について。
個人的には、彼は恋愛や性愛に嫌悪感はないけれど強い関心や積極性もない、流されやすい人だと考えています。それから、彼は基本的に異性愛者だと思います。
根拠はどこか。性愛込みの異性愛者という点については、例えば原作二巻の巻末おまけ漫画、モンスターよもやま話。オークとトールマンでの美醜の感覚の違いについてのお話でしたが、ライオスは結論ゾン族長の奥方につき「全然いけ
……
」と口にしかけています。また冒険者バイブル完全版の記述からは許嫁には好印象を持っていたようです。長じては許嫁と結婚し家庭を作るもの、という村長の息子としての常識に特に疑問や苦悩を持っていなかった様子ですね。ファリンのことがあり、家から出るまでは。
では強い関心や積極性がない、流されやすい、というのは? はい。お待ちかねの、彼の女性関係と言えば外せない女性、アシビアです(冒険者バイブル完全版)。パーティー解散危機の時の彼女ですね。ライオスはアシビアに対してはうっすら好意があったかもしれません。ですが、優遇している自覚がなかったというのがほぼ答えのように思われます。
ライオスは異性に限らず人間関係の経験が少ない・興味が薄いので、自分はそうだから他人もそうだろう、というバイアスが強めにかかるのでしょう。このバイアスはシュローとの件が顕著ですね。酷くショックだったろうライオスはこの件を境に自らの思い込みに気を付けるようになったようですが、それ以前は無自覚です。ですのでアシビアなどの場合、具体的には「自分ならよっぽどの理由がなければそうした主張はしないから、相手が主張するなら相応の差し迫った理由があるはずだ」と思い込みます。
体力には個人差があるのだから、帰りたいほど疲れたと言うならその体力の無い者に合わせるべきだし、金が無いと相談をもちかけるほどならよほど困っていて食べるものにも事欠くのだろう、とライオスは考えたはずです。小狡いわがままだとは見抜けません。
加えてライオスは基本的には良識的であり人の悪意を嫌っています。万一疑わしいと感じたとしても、彼女の言が本当だった時に生じる事態や後悔を思えば彼には退けることはできません。
アシビアが自分へ(表面的に)好意的な態度を取っていたなら、より力になってやりたかったことでしょう。ライオスは恋愛に限らず人に好かれること自体に慣れていません。好かれていると思えば喜び、嬉しく思い、応えたくなるはずです。
ということで、ライオスは簡単に流されるほうだと思います。但し書きとして、特に状況や条件的に問題がない前提で、彼の基準でかわいい等感じられる相手に、押しつけがましくない程度に積極的になられたら、が付きます。えっ、但し書きが長い。
というのは、彼の中で恋愛や性愛の優先順位はかなり低いからです。何せサキュバスと対峙した際には魅了されることなく真っ先に証拠隠滅をはかり、そして誘惑された方法は結局、理想の恋愛の成就や性愛の満足ではまるでなく、「魔物になろう」でしたからね(原作九巻)。さすがライオス。
ライオスは自分に目的や欲求、主張がある場合は案外弁が立ちます。嫌だと思えば納得するまで譲りません。だからこその脱走兵です。村の大人たちも、軍の規律も、暴力を振るう兵たちも、彼にとって話が通じる相手ではなかったのでしょう。そして隊商に拾われた時のように、嫌だと思わなければ簡単に流されます。
ところでサキュバスと言えば。この時サキュバスが取った姿、その人選がマルシルだったのは理由が二つあると思います。
一つ目には、ライオスの(身内や仲間以外の)他人への興味関心、恋愛欲求や肉欲が薄いために、魅了できるほどの強い理想像が見当たらず、一応は異性のなかで最も好感度が高く警戒されない、そして美人でもある、仲間のマルシルが出てきてしまった。
イヅツミの例や原作六巻のモンスターよもやま話を勘案するに、ライオスにとって最も好感度が高い人間であるシュローや妹でキメラ化したファリンではなく、マルシルの姿であったことも、彼が(その欲求が薄いとはいえ)性愛に忌避感の無い異性愛者である傍証になるかと思います。
ですが注目すべきはサキュバス自身が指摘したように、マルシルの姿をしたサキュバスは性愛的にはライオスをまったく魅了できなかった点です。すなわち少なくともこの時点では、ライオスは彼女を恋愛対象や肉欲の対象として見ていませんでした。
さらにこの時、体面と立場の心配が真っ先に来て、真っ青になり即隠蔽をはかろうとしたところからは、やはり彼の恋愛事への順位付けの低さが伺えます。それにしてもおもしろいシーンでしたね。きっとパーティー解散危機の苦い記憶も脳裏を過ぎっていたことでしょう。彼は身も世もなく恋愛を優先するような人間ではありません。
この『悪食王の結婚事情』のお話の中でライオスは「俺だって恋愛や結婚にまったく興味がないというわけでもないんだが」とまるでそれなりに興味があるような発言していますが、これは彼の主観上のお話です。他の大多数の人間と比べるなら、彼の興味や欲求はかなり薄いほうになるかと思われます。ただそれでも確かに、前述の通り、まったく無いわけではありません。
二つ目には、彼に魔物化の誘惑をする上で最も効果的な人物が選ばれた。
好感を持っていて、信頼する仲間であり、妹の友人で、おそらく年上ながらその振る舞いは素直でどこか幼くてどんくさく、女性でもある庇護対象です。総じて警戒心を抱きにくく、攻撃したくない相手ですね。その上自分より何倍も賢く知識も豊富で、教え導いてくれる尊敬できる側面もある相手です。さらには魔術を含めた単純な暴力的な意味では現パーティーの誰よりも強い。何なら魔物並みに強い。言われるともしかしたら魔物かもしれない。そんな馬鹿な。
ある種健全ですよね。ライオスには、信頼関係を築き、かつ己に無い知識を持つなど説得力のある相手でなければ本来、道を違えるような誘惑は通じないのです。たぶん。相手が悪魔でもなければ。
ついでですから彼の変身願望について。翼獅子に指摘される以前から、原作八巻などでライオス自身も自分に変身願望があることを認めています。その上、原作八巻のモンスターよもやま話では「トロールになりたかったなあ
……
」、原作七巻のモンスターよもやま話では「牧場牛になるのが夢だったんだ」と発言。魔物じゃないのかよ(原作十二巻カブルーの口調で)。それにしても牧場牛。深読みしようと思えばできる発言でもありますね。どういう意味なのかちょっと気になります。まあともあれそうしますと、牧場牛でありかつ魔物でもある黄金郷のミノタウロスは彼にとって究極の理想形のひとつと言えそうです。
なんでひとつかって? それはご存じの通り、彼は「俺の考えたカッコいいモンスター」になって至極ご満悦でしたから(原作十三巻)。よかったね~。
彼のこの変身願望には複合的な理由があるとは思います。ですが個人的には、第一義的には子供がヒーローやヒーローロボットになりたい、怪獣や恐竜カッコいい、と目を輝かせるような素朴な憧れを感じます。
関連しまして、サキュバスではなく翼獅子のほうの魔物化の誘惑について(原作十三巻)。この際、翼獅子はライオスの内心を指摘します。しかしながら、こちらどこまでが真実か見極めが難しいところです。
最初は彼の内心そのままを言い当てているはずです。内心を読んでいるのだ、と刷り込み、誘導を行うための定石として。翼獅子は自らの目的と欲求のためにライオスを誘惑し操ろうとしています。そして翼獅子は悪魔であるために、翼獅子自身が思うほど人間の感情と意思を真に理解し寄り添っているわけではありません。マルシルが迷宮の主となった際のままならなさ、願いの叶え方のいびつさを見れば明らかです。翼獅子の言葉には、ライオスを誘導するための誇張や恣意的な情報の切り貼りが含まれていると考えるのが自然でしょう。まったくの嘘ではなく事実が含まれているからこそ、言われるとそうかもしれないという動揺や隙が生まれます。
獲物に動揺や隙が生じたなら、しめたもの。それに乗じてどんどんと誘導を進めます。「代わりにお前の身体を私におくれ」以降の翼獅子の提案は特に、安全圏から眺める読者のひとりとしてはツッコミどころの多すぎる失笑噴飯ものです。人間を馬鹿にするなよ。けれどこの時のライオスはすでにいったん、正常な判断能力を失っているように見えました。
見極めが難しいとは申し上げましたが、部分的に私見を。
最初のほうの翼獅子の発言、「人間は退屈」等は真実と考えます。この点はライオス自身何度か口にしています。原作八巻で語られる変身願望やトールマンの特徴の無さを嘆く言葉などですね。同八巻モンスターよもやま話でのチルチャックの言葉は彼には響かなかったのでしょう。
他方「人間が嫌い」は誇張と感じます。「人間(の悪意や排斥、暴力に訴えるといった、そういうところ)が嫌い」くらいでしょう。彼は妹や仲間たちが好きです。そして彼らが無事なら、自分を含め他の大多数がどうなってもいい、という感情は責められることではないように思います。条件付けがすでに翼獅子により故意に狭められているからです。トロッコ問題のようなものでしょう。作為的です。この時点の彼は王でもなかった。ファリンが「他の誰かを傷つけても兄さんやマルシルには生きてて欲しいんだ」と言い自己犠牲をいとわなかったのと同じです(原作十一巻)。似た者兄妹ですね。
「魔物の群れが人里を襲う空想」はおそらく村でのファリンへの扱いに、お前らなんか、と憤った時のことではと思えてなりません。村の中では妹を助けられない自らの無力にも憤っていたことでしょう。そこに子供らしい残酷さや非日常への高揚、人間らしい破滅願望が含まれていたとしても、それほど奇異で特殊なことではないように思います。
ライオスが他人の悪意に辟易していたことは確かでしょう。そんな彼だからこそ、東方の異文化圏の生まれで特徴があり、知らないことを教えてくれて、強く冷静で賢く、人を笑わず、物静かで無用な諍いを起こさないシュローのことを、尊敬し大好きなのも頷けます。
あの自己犠牲的側面のあるライオスが、翼獅子との戦いで「俺は俺が生きるために」と叫んでくれたこと、一読者として嬉しかったです。元気に生きていってください。
さてさて、ところでやらついでやらと申し上げて随分長いことお話が逸れました。
それではサキュバスや魔物化の誘惑云々の前のお話に戻りましょう。あからさまな性愛の誘惑は通じないのに「お願いごと」に流されやすいライオス。そんな彼は、相手に押されればいつの間にか付き合っていることになっていて、責任をと言われれば結婚までしたろうと思います。あくまで王様でなく、財産等他の状況や条件的にも問題が無いのなら、の仮定の上でのお話にはなりますが。自分の強い欲求からの能動性によるのではなく、社会的立場や責任や必要性、良識、相手の希望を勘案して結婚を決めるタイプのように見受けます。それはそれで詐欺に遭わないか少し心配ですね。だからもっと自分を大切にして。
ちなみにまったくの余談ながら、映画『エリザベス:ゴールデン・エイジ』を見る限り、あの王朝の侍女は女王の許しがないと結婚したり男性と関係を持ったりできないようだったんですよね。まあ諸々異なりますし、ライオスはカブルーにそんな制限を課さないでしょうけれど。
『確かにここにある』
ファリンが覚えていないことも、九井先生の優しさだと考えています。先生がそうされている。ですから、ファリンは生涯思い出さなかったはずです。
彼女はずっと、兄ちゃんを大好きなままだった。
仲良しな似た者兄妹、トーデン兄妹が大好きです。彼らがハグするシーンが特に好きです。生涯いっぱいハグして過ごしてください。
この段落は読み飛ばしていただいて良いのですが、個人的には、ファリンやイヅツミも異種族と混じり合っている状態ですから、マルシル同様、子供は作れないのではないかと考えています。ですからファリンが恋をしたり結婚したりすることがあったかどうかはわからないものの、『空』含め、彼女の実の子孫を想定せずに書いたところがあります。しかし養子を迎えることなどはあったかもしれません。
少し飛躍しますが、この三つの連作の主要登場人物で、私にとって一番養子を迎える想像がしやすいのはなぜかカブルーです。ただこれは私の好みの問題のような気がします。
さてカブルーと言えば。あのとんでもない人たらしのカブルーが、このお話ではファリンにとっては「いい人」止まりなのはなぜか。原作十四巻の目覚めた後の挨拶のコマが印象的だった点が大きいです。彼女はカブルーに手を取られて挨拶を受けるのですが、なんと頬に赤みがまったく無いんですね。珍しいことです。隣のページの「卵とにんじんのどろどろ」並みに無い。まったく喜びや興奮、あるいは慌てた様子が無い。その印象が強かったところがあります。もう最初スルーし続けたライオス並みに興味無さそう。似た者兄妹。
他方マルシルのほうはというと、これまでの経緯もあったのでしょうが、カブルーを指して「あの人」という警戒心の強い表現をしていたのが印象に残っています(原作六巻)。一応子供ではなく成人として扱っているんだな、とも思いました。彼は別のパーティーのリーダーなのですから、納得するところではあります。
カブルー、ファリン、マルシルがお互いをどう呼ぶのか? というのは迷ったところでした。結局お互いに呼び捨てで、ただしカブルーは二人に対し簡易的な敬語を用いていること(ほぼ対ライオスと同様)にしました。「さん」付けや「くん」付けも魅力的ですよね。
カブルーの一人称は、二人に対しては普段は「僕」でしょうが、込み入った、本音で話すべき内容部分でしたので「俺」と言ってもらいました。場面の最後では「僕」に戻っています。
ライオスは割と感激や感情移入などですぐ泣くほうだと私は思っているのですが、このお話のカブルーはまだ彼のその姿を知らないようです。このお話ではなんとなく泣くより喜びそうだと思ってそうしました。ですが、泣いてもらってもよかったかもしれませんね。
それから、野暮な解説を少々。
ひとつのお話の中で二度も不憫な目に遭うカブルーですが、二回目のほうは多少自業自得でもあります。
このお話の冒頭で彼はライオスに「自分の目的のためにもメリニで働いていきたい」という趣旨の発言をしています。
これはカブルーとしては言外に「ライオスを簡単に見限ったりしない、もし道を間違えるようなことがあればライオスを叱ったり、なんなら殴ったりしてでも正す、自分たちの目的は一致している、共にメリニを支えていくつもりだ」という意味合いを含んだ言葉です。友人であるのみならず、仲間や同志でもあるということ。またそれゆえに自分たちの結びつきはより強いこと。俺のやる気と意志を見くびるな、ということですね。
けれどライオスは言葉通りどころか明後日方向のマイナスの意味に取ります。
「なるほど彼にとっては彼自身の目的にこそ重きがあって、俺との友情には実のところ、さして重要性は無いのだな」と。
おやおやすれ違いコント発生ですよ。ヒュ~! 失礼。これは丁寧に説明しているようで肝心な言葉の足りなかったカブルーのミスでもあります。相手はあのライオスなのですから。そしてそのライオスには、そもそもの性質から汲み取れなかったことに加え、やはりシュローの件、大好きで尊敬しているシュローに実は苦手と思われていた傷が地味に深すぎたようです。とはいえ不憫です。
そのうちわかってくれるようになるといいですね。きっとカブルーならできますよ。がんばって。ライオスだって彼なりに努力します。実際、ライオスはその持ち前の素朴な誠実さと良心によって少しずつ、彼にできる範囲で変わりつつあるのですから。それが彼の選択であるなら、応援したいところです。まあわかってくれるようになるまでのその間に、何度かカブルーその他が不憫な目に遭わないとは言えませんけれども。
そんな風にきっとなんやかんやありながら、皆、どうか元気に、おいしいものをバランス良く食べて、よく寝て、適度に運動をして、力を合わせていろんな苦労を乗り越えて、どうか、幸せに生きていってください。
ファンの一人として、心から祈っています。
最後まで読んでくださって、ありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。
各種SNSやWeb拍手などで見守ってくださったかた、応援してくださったかた、ありがとうございます。
それから、あの日背中を押してくれた友人にありがとう。
暑い日が続きますので、皆さまどうぞご自愛ください。
二〇二四年七月 きな 拝
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