彼は、万人とまではいかないものの、多くの者に好かれる。
あの車掌だって気づけば彼に心を開き、せっせと世話を焼いているのだ。
彼と俺とで対応の差というか、心の距離に開きがあるのは、まあ、俺が世話のしがいがなかったのもあるだろう。
「あーん。丹恒の胸がやっぱり一番いい〜」
「何の話だ。それよりも、飛びつくな。危ないだろう」
相談したいことがあったので、ラウンジに来ると扉が開いた瞬間穹が飛びついてきて。
「異性の胸部をみだりに触ると、犯罪になるぞ」
「触ってないからな?!」
思わず真剣に諭そうとしてしまったが、信じられないくらいのスピードで否定されてしまった。
「なら、なぜ俺の胸がどうこうという話になる」
「なんかさ、こう、ふにふにするものを貰ったんだよ。試供品っていうのでさ」
俺に抱きついたままポケットを探り、目的のものを取り出す。
それは、ボールチェーンがついたキーホルダーで。
受け取って触れてみると、確かにふにふにとした感触。
思わず己の胸に触れて、比べてしまう。
「
……」
「丹恒の胸、最高」
そう呟いて、顔を埋め。
褒められているのか、そうでないのか判別できず。俺は、とりあえず彼を引き剥がしたのだった。
「丹恒先生、今日もいいか?」
後ろから俺に抱き着き、胸へと手を伸ばしながら穹は耳元で。
「穹。言葉の前に触れているだろう」
「触れてるだけ。揉んでない」
「そういう問題じゃない」
胸に触れている両手を剥がそうとするも、触れているだけのはずのその手は、中々剥れず。
「穹」
「揉ませてよ」
「必要ないだろう」
「俺には必要!」
背中にコツコツと頭突きしてきて。
俺よりも、他者に好かれやすい彼の側に居られるよう努力しようとしていたその矢先。
これだ。
「何がしたいんだ、お前は」
「好きな人に触れたいって思うのは悪いことか?」
思い切り引きはがそうかと、襟元へ回しかけた手が止まる。
彼は、今何と言った?
「丹恒、好き。好きな人に触れたいって欲は、抱いちゃ駄目なものか?」
「いや、それは
……」
その問いに、俺はどう答えればいいのかわからない。
だって。
彼が俺に対し欲を抱いているとしても、はいそうですか。と、流すこともちょっと難しい。
「丹恒。好き」
うっとりしたような、だけど欲を孕んだ声色で。
また、俺への好意を口に。
正常な判断が出来ず、脚に力が入らなくなりそうだ。
俺が彼の傍へと行くのに、隣に立つのにふさわしいかどうかなど、どうでもよくなってしまいそうだ。
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