human_hamster
2025-07-17 12:55:09
4610文字
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やくそくのミルキーウェイ

※マリンフォード後白ひげ生存if。海賊引退して夢主と故郷で隠居しています。
※夢主の幼女時代(白ひげ海賊団の末娘)多め
※幼女夢主の総愛されみたいな感じですが🐋夢です
※夢主のデフォルト名は「アリス」です

アリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリスアリス
小さな村の医院で日課の投薬を終わらせた白ひげは、帰路につきながら村の人々と挨拶を交わした。
最近はこの大きな体に驚かれることも少なくなった。ここで暮らすようになってから、何年になるだろうか。
“頂上戦争”の後、白ひげ海賊団の末娘であるアリスと他のクルーたちに説得され、白ひげは隠居の道を選んだ。
元より体にはガタが来ていたが、海賊稼業を始めたからには陸の上で死ぬ気などさらさらない。息子や娘たちに療養のため……と何度も頼み込まれ、渋々のんだ隠居である。だが、その道を選んだと言うよりは、必然に近いような自覚もあった。

陸での日々は、当初は浮き足立つような違和感を覚えたものだ。しかし、かつて去った故郷でのむすめとの二人暮らしは、長年の激闘に疲弊した白ひげの心身を癒した。ふたりは島の静かな場所に、ほぼ大破したモビー・ディック号の材木を再利用して家を建て、身を寄せ合うようにして静かに暮らしていた。
家の前の深い入り江にずっと停泊したままのモビーは長い長いメンテナンス中だ。外観はほぼ修復されたものの、船内には深い傷が残っている。マルコ曰く、「モビーが直ったら、オヤジはまた海に出ちまうだろい?」のことだ。

白ひげが帰宅すると、アリスはダイニングのテーブルからにっこりと振り返った。

「オヤジ、おかえり」
アリス、何してんだ?」

ハサミを片手に持ったアリスに白ひげが歩み寄る。色紙を星の形に切り抜いていた。切り込みを入れて網のようにした紙細工や、果物を模した形のものもテーブルの上に置いてある。

「昔を懐かしんで、やってみようかと思って。七夕のお祝い、やったことあるでしょう」

白ひげは記憶を辿るように、自分の顎をさすった。

「イゾウに教えてもらったやつだな。おまえ、七夕好きだったな」
「うん。少し落ち着いたし、久しぶりにやってみたいなと思ってね……

ここに移り住んできてからも、色々あったものだ。「少し落ち着いた」と言う通り、この穏やかな暮らしを手にできたのはここ最近のことである。
激闘の昔、アリスの小さい頃に、モビー・ディック号で七夕飾りを皆で作ったことがあった。一回きりのその思い出は今もアリスの胸の奥に懐かしく咲いている。

***

「パパ!今日、織姫さんと彦星さんが会える日なんだよね」

船内の一日の業務もあらかた終わり、陽が沈む頃にそう言って船長室に飛び込んできたのはアリスだ。

「こら、アリス。船長さんのお部屋に入る時はノックするのよ」
「グララララ。いいんだ、こっち来いアリス。楽しみにしてたもんなァ」

ナースがアリスを嗜めるのを制した白ひげは、ベッドの上からアリスを呼び寄せた。アリスは専用の踏み台でベッドの上に登ると、いつもの定位置である白ひげの腰の横にぺたんと腰を下ろす。

「でもね、さっきみんなに聞いたら、今日は曇ってるから星は見えないかもしれないって」

先日、白ひげが聞かせてやった織姫と彦星の話をアリスはいたく気に入ったらしい。指折り数えて、今日の日を楽しみにしていたのだ。
しょんぼりと肩を落とすアリスの髪の毛を、白ひげは指の先でくすぐるようにして撫でてやる。

「パパ。織姫さんと彦星さん、会えるかな?」
「会えるさ。おれらには見えなくても、密会してやがるんだ」
「ミッカイ?」
「グララララ……イゾウにも空の様子見てもらってこい。風向きが変わるといいんだけどな」
「うん!行ってくる!」

弾むように駆けていくアリスの背中を見送った後、白ひげは覗き窓から外の様子を見た。重たい雲が立ち込めている。星は見えそうになかった。

🐳🐳🐳

「イゾウさん、お仕事終わった?」

食堂で書き物をしているイゾウを見つけたアリスは、机の上を覗き込むように背伸びしながらそう尋ねた。

「ああ、大丈夫だ。どうした?」
「あのね、今日は七夕なのに天の川が見えないかもしれないって。曇りなんだって」

口をへの字に曲げているアリスを見て、イゾウは同調するように少し眉毛を下げた。

「そうか。楽しみにしていたのに残念だな」
「うん。ねぇ、七夕のお話もう一回聞きたい」
「おれがオヤジに教えた話を、オヤジが勝手に脚色してたからな。海賊船が天の川を渡るとかなんとか……

イゾウはもう一度七夕の伝説を話してやった。アリスの目がうっとりと輝く。

「やっぱり見たかったなぁ、天の川……
「落ち込むな、アリス……そうだ。おれの国では、七夕には七夕飾りを作る。願いごとを書いて吊るすと叶うと言われているんだ。一緒にやるか」
「やりたい!」

アリスの顔がうきうきと輝くのを見て、イゾウも目を細めた。

「よし、準備だ。みんなにも手伝ってもらおう」

🐳🐳🐳

「なんでこんなにあるんだよ!」

手伝いを命じられて来たエースは、木箱にどっさりと溜まった色とりどりの短冊を見てそう叫んだ。長方形に切られた色紙に一枚一枚に手書きで何やら書きつけてある。

アリスが張り切って船内放送で募集したからだよ。エースも早く手伝ってくれ」

イゾウはハサミを使って器用に何やら紙を切っていた。短冊と一緒に飾る紙細工だが、見慣れない形にアリスが興味深そうに見守っている。

「で、これ、何なんだ?」

アリスが簡単に説明してやると、エースはにやりと笑い、自分も余っていた短冊とペンを手に取った。

「ふぅん。七夕ねぇ、意識したことなかったな。ま、おれも書くかな」

エースも短冊に願い事を書き込む。慣れない文化に戸惑う者もいたが、手の空いている船員たちは皆、短冊に思い思いの願い事を書いてくれた。およそ海賊らしいとは言えない光景ではあったが、船の末っ子であるアリスが喜んでいるのだから皆満更ではなかった。

「よし、できた。これを張ってくれ」

本来であれば笹に短冊を飾りつけるものだが、笹など急に手に入るわけもなく、皆で余っている網の切れ端を繋ぎ合わせたものに短冊をくくりつけていった。イゾウの号令で、短冊を吊るした網を帆柱と帆柱の間に渡し、ぴんと張るように引く。

「わぁ、きれい!」

網に張り巡らされた色とりどりの短冊や紙細工が、陽が沈みつつあるモビー・ディック号の上空を彩った。オレンジ色と灰色の混ざり合った、遮るもののない空を背景に短冊が微かにそよぐ。

「こりゃあ、本物よりも天の川らしいじゃねぇか」
「パパ!」

白ひげが地鳴りのような足音を鳴らしながら甲板に姿を現すと、アリスは一目散に駆けていって白ひげのブーツに抱きついた。

「パパ、見て!綺麗でしょ!イゾウさんが教えてくれたんだよ、お願い事書くの。ねえ、パパも書いて、これね、パパのために作ったの!短冊!」

目を輝かせて矢継ぎ早に語りかけてくるアリスの話を、白ひげは微笑みながら聞いていた。アリスが白ひげ用にひときわ大きく切った色紙を取り出す。薄ピンク色の短冊を受け取った白ひげは、にやりと笑うとアリスにペンを持たせた。

「おれぁいいんだ。アリス、おまえが書け」
「さっき書いたもん。みんなも書いたんだよ。パパにも書いてほしいの」
「グララララ、欲のないやつだな。一つと言わず、いくらでも願えばいいだろうが」
「えー、うーん、いいのかな?」

アリスがイゾウの方をちらりと見ると、イゾウは目で頷いてくれた。
アリスはペンを取ると、大きな短冊に小さな文字を書き連ねていく。エースが覗き込もうとすると、アリスは体を短冊の上に覆い被せるようにして隠した。

「エースは見ちゃダメ!」
「なんだよ、恥ずかしがんなよ。エースお兄ちゃんと結婚できますように、とか書いてんのか?」
「そいつぁ聞き捨てならねぇなあ……

アリスとエースの軽口の応酬を黙って見ていた白ひげは、アリスをひょいと摘み上げると自分の肩に乗せた。

アリスの婿はおれのお眼鏡にかなうやつじゃねぇとなぁ」
「婿入り確定かよ……
「エースと結婚すんのか?なぁ、アリス

白ひげは肩に座らせたアリスの靴が脱げそうになっているのを指先でつついて直してやりながらそう尋ねると、アリスはいたずらっぽい笑顔を見せた。

「へへ。しないよ。あのね、パパにだけ見て欲しいの、お願いごと」

求愛もしていないのに勝手に振られたエースは白ひげの足元で憤慨していたが、アリスはどこ吹く風で短冊を白ひげに差し出した。

『モビー・ディック号でパパと天の川を渡れますように』

大きく切り出した紙に、小さな手で一生懸命書いた小さな字でそう書いてある。白ひげはそれを読むのに一苦労したが、やがてにっこりと笑顔になった。

「グララララ……アリス、こんなことでいいのか?パパが叶えてやるよ」
「ほんと?パパ、約束だよ」
「勿論だ。こんな良いお願い事は、一番良いところに取り付けてやんねえとな」

白ひげは網の一番ど真ん中にアリスの大きな短冊を吊るしてやると、ひときわ大きなそれは風鈴のようにたっぷりと風を含んで揺れた。二人はしばし、短冊を眺める。

「みんなバカなこと書いてやがんなぁ。グララララ」
「来年はパパも書いてね!」
「そうだな、娘よ」

短冊同士が擦れ合う音が、笹の葉のようにさらさらと白ひげとアリスの耳をうつ。陽が暮れて、風が吹き始めたようだ。厚い雲が割れ、空を流れるようなミルキーウェイが顔を出し始めていた。

***

「オヤジ、覚えてる?一緒に短冊書いたよね。私、嬉しかったな。」
「いいや、おれは書いてないぞ。結局あれっきりやってねえからなあ。おまえ、誰と勘違いしてるんだ」

からかうようにそう白ひげが言うと、アリスは笑って誤魔化した。

「えー!じゃあ今こそ書こうよ、一緒に。短冊が一枚じゃ寂しいでしょ?」

あの頃と同じように、アリスが大きく切り出した色紙を白ひげに手渡す。

「おれの願いはもう叶ってんだ。紙に書く必要なんてねえや」
「何それ〜、すごいなぁ」
アリスはもう書いたのか」
「私はもう書くこと決まってんの。『オヤジがずっと健康で元気にいられますように』……っと」
……おまえ、妙に現実的なこと書くようになりやがって」
「だってもう大人なんだもん」
「グララララ。そんなもん書くまでもねえ、違うお願い事にしな。天の川だってそのうち渡ってやらぁ。なぁ、モビー」
「ちょっと!それまだ覚えてたの?!恥ずかしい、やめてよ!」

窓の外には、入り江に係留されているモビー・ディック号の顔の部分が見えた。白ひげが語りかけると、モビーも応えるように歯を輝かせて笑っているように見えた。
照れくさそうに笑っているアリスの横顔を、白ひげは目尻の皺を深くして見つめる。願いはとうに叶っているのだ。自分で手に入れた家族と、どんな形でも離れずに暮らしていく。雲が切れて、満天の天の川にはしゃいでいたアリスのあの頃の面影を重ねながら、白ひげは今ある時間がただ愛おしかった。


おわり