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mikaya25
2024-06-03 21:43:53
3720文字
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安寧力は存在するのか
フォロワーさんのイラストをネタに書いたもの。ルシサン。ベリくんとファーさんは左右わからない。
ギャグ的短編。
僅かながら、身体を動かすのに億劫さを感じた。しかしルシフェルは颯爽と中庭へ向かう。
(サンダルフォンに会いたい)
頭を占めるのはそればかりだ。
逸る気持ちを抑えることなく木々に囲まれた道を進むと、ガーデンテーブルの近くに佇む彼が見えた。更に歩速を上げて近づくと、彼はこちらの気配に気付き振り向く。
ふわりと鳶色の髪が揺れ、こちらを捉える柘榴の瞳は見開かれて喜色に溢れている。手には一枚の白い羽根を大切そうに。その様を見るだけで、ルシフェルは光の奔流を浴びた気分になる。
「おかえりなさい、ルシフェル様!」
(ああ、サンダルフォン、やはり今日も
……
圧倒的安寧力
……
!)
それは一種の衝撃だ。サンダルフォンが目を細め、微笑んでこちらを迎えた。それは無垢で愛らしく眩しく、ルシフェルに爆発しそうな喜びと高揚感を与え──思わずばたんとぶっ倒れた。
「る、ルシフェル様?!」
慌てて駆け寄る気配と裏返ったサンダルフォンの声を感知し、それすら心地よく感じながらルシフェルは呟く。
「サンダルフォンは
……
すごいな
……
」
「よ、よくわかりませんが、大丈夫ですか? えっと
……
」
倒れたものの満足そうな表情なルシフェルの頭を、どうしたら良いのか迷いながらサンダルフォンは自らの膝に乗せた。
「サンダルフォン?! これは
……
」
「これなら頭が痛くならないと思いまして。気分はどうですか?」
後頭部に感じるむっちりした太ももの感触、見下ろす愛し子の眉を下げた心配げな顔。これもまたルシフェルを高揚させ、かつ急激に心身を癒やしていく。言うなれば。
「最高、だろうか
……
」
「え、ええ
……
?」
しばらくその状態を続けたルシフェルは、その後サンダルフォンと共に珈琲や会話も楽しむと、自分が見つけた眩き力について語りたいという望みがふつふつと湧いてくるのを感じていた。
(これは、友に報告だ)
※※※
(なんだ
……
?)
ルシファーは軽くアイスブルーの目を瞬かせた。報告書を提出しにきたルシフェルが眩しく感じられたのだ。いや確かに光っていて目に沁みる。彼の表情は普段乏しいのに、今は生き生きと喜びに満ちているようだ。
(喜ぶと光るのか? そんな風に作った覚えは無いが)
しかし不具合でも無い。というかルシフェルが喜ぶとはまたアレだ。ルシファーはげんなりした気分を隠しもしない。どうせ今回の任務を終えたらすぐに中庭へ向かったのだろう。
それに気づいているのかいないのか、ルシフェルは口頭で先の討伐報告をしてから、続けて語り出した。
「友よ、私は素晴らしい力を発見してしまった」
「力
……
?」
(星の民との合同幽世討伐で見つけた新たなエネルギー、などというものがあると?)
そう口を開こうとしたルシファーだが。
「名付けて『安寧力』という」
「そっちか!」
思わず突っ込みを入れて脱力した。
「ああ、『ところで』と入れた方が良かったか」
「『ところで』を入れても離れすぎだ」
「満を持しての本題だ、確かに『ところで』では物足りないかもしれない」
「いやそんなことは言っていない
……
というかアレの話が本題なのか
……
」
「君に話すことが必要だと思った」
何やら今日のルシフェルとは会話がスムーズに行っていない気がする。サンダルフォンの話題ならままあることだが、妙な違和感をルシファーは感じていた。気の所為かもしれないが、とまじまじ顔を見ても、気力に満ちた笑顔だ。相変わらず自分にそっくりなのに健康的である。長いまつ毛に囲まれた自分より彩度の高い美しい瞳は、きらきらと輝いていて。
(いや、ギラギラというか
……
少し白目が血走っているか? そして血色は良いが肌がかさついているように見える)
「サンダルフォンは好ましい造形をしていて、それはそう私が作ったのだが、それだけでは無い溢れるかわいさというものがある。設計通りなのに設計以上だ。跳ねた髪も柔らかい声色もこちらに駆け寄る脚も。しかも私を気遣ってくれる。それが私に想定し得ない力を与えるのだ」
(話し始めてしまった
……
)
しかし止めても止まらなかっただろう。うんざり目を座らせたルシファーは、一応耳に入れながら、肘をついたデスクの上にある鏡を横目で見た。
(俺の目も血走ってる上、隈がある。というか頭が働かんな)
思考がぼんやりしている。何か大事なことに気付きそうなのだが。
「高揚感というべきか。気力が湧いて実際に肉体にも力が満ちるようだ。サンダルフォンが微笑むだけで私の存在ごと強化される気がするのに、サンダルフォンは言葉も交わしてくれる。心も寄せてくれるのだ」
(存在を強化、というのは面白いが、どうにも与太話の予感しかしない)
「サンダルフォンを摂取すると心拍数は上がり血流も音を立てて、疲労など吹き飛んでしまう。まるで私の心身が強化どころか進化しそうだ。つまりサンダルフォンは、サンダルフォンのかわいさは、無限の力を秘めているのではないか」
(摂取
……
? 進化
……
? 待て、疲労
……
)
どうにも頭に靄がかかった感覚に苛立つ中、無理矢理聞かされる聞きたくない話題に目が死んでいく。ルシフェルはサンダルフォンのことになると挙動不審になるのはいつものこと。しかしこうして聞いていると、あの雛有害なのではと思わせる。
「『安寧力』とはそういうものだ。サンダルフォンは素晴らしい。この安寧力を他の用途にもと思ったのだが、私以外に使うことは許しがたく、それが悩みどころなのだが
……
」
「あれ、2人とも何してんの?」
勝手に語り勝手に苦悩し始めたな、とルシファーがため息を漏らしたところで、ひょいとベリアルが顔を出した。こいつにも聞かせて妨害させるかとベリアルの方を向くと、彼は珍しく大仰にため息をつきルシフェルとの間に割って入った。
「駄目だろファーさん、寝ないと! 何日徹夜したと思ってるんだい? ルシフェルも新しい天司の研究に付き合った挙句討伐遠征してただろう」
「「あ
……
」」
2人してぽかんと口を開ける。ルシファーはやっと違和感の正体を知り、苦虫を噛み潰したような顔をした。こんなことにも思い至れない今の自分への苛立ちと、やはり完璧な被造物でも疲労に勝てないという事実への反抗心によるものだ。
(いや、疲労で精神が劣化するのは当たり前。つまりルシフェルのおかしな言動もそれ故だ)
そう結論づけるとすっきりする。
「友よ、今すぐ寝た方が良いと私も思う」
「いやお前が言うな」
心配そうにルシフェルが言い、ルシファーは思わず素早い突っ込みを入れた。ルシフェルはきょとんと首を傾げる。
「私は安寧力がある故大丈夫だ」
(何を言い出す)
流石に目を剥いた。
そこでだいたいの事情を理解したらしいベリアルが、呆れたように口を挟んだ。
「ちょっと待った。じゃあもしかして、この部屋に通じる廊下や柱が破損してるのってルシフェルの所為?」
「力が有り余ってしまって
……
すまない」
「そんなことになってたのか」
(疲労で自らの力を制御しづらくなっているのか。それとも安寧力とやらで制御出来ない程の力が
……
待てそれはない)
ルシフェルを休ませねば。そして自分もさっさと寝た方が良い。ルシファーは働かない頭に鞭打った。
「
……
ルシフェル、俺は寝る。お前も休息を取れ。中庭で雛と三日間好きに過ごして良い」
ぱああ、と先程より更にルシフェルが光った。ルシファーは思わず顔を伏せたし、ベリアルもルシフェルに背を向けている。
「友よ、嬉しいが三日も良いのだろうか」
喜びにそわそわするが心配でもあるらしいルシフェルの確認に、本当はスケジュール的に厳しいものの、平然とした声でルシファーは答えた。
「それくらいは問題無い。あったとしても後でリカバリできる差異だろう」
「そうか。ならば私は中庭へ戻る。友も早く寝た方が良い。では」
「ああ」
ルシファーの返事を聞くと、ルシフェルは颯爽と執務室から退出していく。勢い余って閉めたドアの蝶番が外れたし、廊下の方からも何やら破砕音が聞こえる。この音に自分は気づかなかったのか、と気落ちするが、問題を片付けた爽快さもあった。
「さて、ルシフェルも行ったしファーさんも寝よう」
「
……
そうだな」
「あっそれは持ち込んじゃダメ」
「うるさい」
隣の仮眠室へ、ルシフェルが置いて行った報告書を手に向かう。ベリアルの腹に頭を乗せて横になると、どっしりした疲労が節々に重くのしかかった。
(安寧力か
……
。おかしなことを言うものだ。しかし疲労を押しやる程の高揚を齎す力ではあるのか? もしかしたら肉体にもそれは及んでいたのか? 進化までは行かずとも星晶獣を強化する力
……
ルシフェル個人には作用するとして、利用法は
……
いや待て俺は何を考えて)
一旦思考を区切り、ぱらぱらと報告書を流し見ていく。何故か終盤には『サンダルフォン』の文字が散見されて、またルシファーはげんなりと目を伏せる。頭を撫でるベリアルの手を跳ね除けてから、今は何も考えるまいと意識を手放した。
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