ふじしろ
2025-07-16 20:35:46
2373文字
Public 浄皇
 

思い出未遂

夏祭りのダムメン+ほんのりじょーこー風味??なのかな??

颯の提案で俺たちは店にいつもより早く集まり、そう遠くない場所にある神社の夏祭りに来ていた。
虹顔市で一番大きな神社は下町地区の虹顔神社だが、他にもこじんまりとした社は何か所もある。
ここもそんな一つで規模は大きくはないものの地元民に大切にされており、折に触れて祭りなど催されている。
「やっぱお祭りって楽しー!」
颯は満面の笑顔を見せ、身体全部でワクワクしているのを表すかのように飛び跳ねる。
「ね、ここならさ、イベントのアイデアとか出そうでしょ!」
そう言って宗雲の顔を覗き込んだ。
「しかし、こうも暑いと大変だな」
いつの間に買ったのか、浄は青い氷を口に運びながらぼやく。
まだ明るい時間だが屋台も店を開けているところが多く、夜ほど混み合ってはいないだろうがそれでも思ったよりも人は多かった。
色とりどりの屋台を眺めるとやはり食べ物屋が多い。
焼きそばやベビーカステラなんかの定番のものからブランド牛の牛串焼きなんてものもある。
「?」
見慣れない屋台の前で思わず足を止める。
のれんには大きく「はしまき」と書かれている。
聞いたことのない言葉だ。
「皇紀さん、はしまき好きなの?」
立ち止まった俺に颯が目敏く声を掛けてきた。
「いや、知らねえ」
「そっか。はしまきって薄く焼いたお好み焼きを箸に巻いたものなんだよ」
そう言うと颯は屋台の人間に素早く二本と注文をする。
「おい」
「食べてみようよ。こういうのってお祭りで食べるから美味しいって感じたりするし」
颯は金を払って両手にはしまきを受け取ると、その内の一本を俺に差し出す。
早く受け取ってという無言の圧に仕方なく一本を大人しく受け取った。
そのまま口に運ぶとソースとマヨネーズの味が口の中に広がる。
「チープだな……
確かにお好み焼きと言われればそういう味だが大きな具が入っているわけてもないのでひどく簡素なお好み焼きといった感じだ。
「うんうん。これが良いんだって」
颯もはしまきにかぶり付きながらにこにこ話す。
「何かこのチープさがかえって懐かしく感じたりするみたい」
「ふーん」
話す口調から颯もきっと客にでもはしまきのことを教えてもらったんだろう。
彼自身に特別思い出があるというわけではないようだ。
残念ながら何かを食べて懐かしく感じることはなかなかないが、普通の生活をしていたらそう思うことが当たり前にあるんだろうなと思う。
もしかしたらその青いかき氷にも何か思い出でもあるんだろうか。
いつの間にか浄へと視線を移し、きっともう空になったであろうカップを見つめた。
そのまま真っ直ぐに道を進むと社へと繋がっていた。
大きくはない神社で手水舎もなく、こじんまりとした社だが社の前には立派な賽銭箱が口を開けている。
前を歩いていた宗雲は慣れた手つきで賽銭箱の前に立つと財布から金を取り出し賽銭箱へと入れた。
その横に颯が並ぶ。
社に向かって礼をする二人を眺めながら後ろで順番を待っていると突然強く腕を引っ張られた。
「なっ」
「しー。声は出すなよ」
声を潜める浄にそのまま建物の脇まで引っ張られる。
まったく持ってイヤな予感しかしない、そう思っていると浄は周りをくるりと確認して顔を近づけてきた。
思わず拳を握り、ありったけの力で彼の腹を抉る。
「ぐっ……
変な声を上げると浄は腹を抱えてその場にうずくまった。
「何もしてない……
「止めてやっただけ有り難く思え。何ならこの場で解体してやってもいいんだぞ?」
情けない姿を上から見下ろし、呆れて鼻を鳴らす。
まさか神様がいると本気で信じているわけではないが、それを大切にする信仰心をバカにする気もない。
狩猟をさせてもらっている山にも古くからの山の神がいて大切に祀られている、だからそういうしきたりにはきちんと倣う。
ガキがはしゃいでいるなんて話ならまだしも、目の前の男は三十路のいい大人だ。
これ以上、何か言う気も起きなかった。
「皇紀さーん?」
俺たちがいないことに気が付いたのだろう、キョロキョロとしながら颯がこちらへと近づいてくる。
颯はそのまま俺たちの様子を見て目を丸くした。
「何があったの?」
颯は相変わらずうずくまったまま顔を見せようとしない浄に不思議そうに声を掛ける。
……参拝してくる」
「え? 皇紀さん、ちょっと待ってよ」
それだけ言って歩き始めた俺の後を颯は慌てたように追いかけて来る。
やっぱり思い出ってヤツはろくなもんじゃない。
浄の下らない企みに心の底からそう思った。



「お前は一体何をしたんだ?」
浄と皇紀を探す颯の後について二人の元に来た俺はそのままうずくまる浄の横に立っていた。
……まだ何も、してない」
浄はうずくまったまま、かろうじて聞こえる細い震え声で答える。
怒っている皇紀とうずくまる浄、二人の様子を見れば浄が余計なちょっかいを皇紀に掛けて反撃を食らったであろうことは安易に想像が付いた。
「あれだけ怒る皇紀なんかなかなか見れないぞ」
呆れて思わず言葉と共に溜め息が漏れる。
普段の素行に乱暴な面があるから彼のことをあまり知らない人間には分からないだろうが、皇紀があれだけ本気で怒ることはなかなかない。
本当に興味のない人間にそんな感情は向けないだろうから浄のことを少なくとも仲間としてそれなりに見ているんだろう、だからこそ手に負えない。
「宗雲、このことは忘れてくれ」
彼は細い声でそれだけ返した。
ろくなことをしなかったことは本人が一番自覚しているようだ。
「これ以上何か言うつもりはないが、業務と任務には支障がないように」
それだけ言うと俺も颯や皇紀の後を追う。
余程皇紀に食らった反撃が効いていたのか、浄はなかなか俺たちの元には戻ってこなかった。