moto
2025-07-16 12:30:59
783文字
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モモタイム

さまささワンドロワンライお題「桃」


「おっかえり〜!左馬刻、桃食べる?」
 左馬刻がリビングに足を踏み入れるやいなや、簓の第一声である。「桃?食う」そして、いつも唐突な簓の投げかけにも慣れた瞬発力のある左馬刻の返事である。すでに部屋着でくつろいでいた簓は、いそいそとキッチンへ向かう。オオサカでの会合に組長代理で参加した左馬刻は、滅多にないスーツ姿だった。ジャケットを脱ぎ、ネクタイを緩めながら簓のあとを追う。それだけで肩の荷が降りたように思え、軽く息をついた。
「今日お好み焼き食べに行ったら、ばあちゃんが桃くれてなー」
 はよ食べなあかんやつや言うとったから全部剥いたったわ。簓がジャーンと得意げに冷蔵庫から取り出したタッパーには剥かれた桃が詰まっていた。蓋を開けると甘い匂いが広がる。熟れた桃は、簓に剥かれて切られて、さまざまな形になっていた。簓はそのひとつをフォークに刺して、左馬刻の口元へ持ってくる。
「はい、アーン」
 左馬刻は覆い被さるようにして大きく口を開けた。簓が差し出した桃は冷たく甘かった。自分にまとわりつく酒や煙草の匂いも消え去ったのではないかと錯覚するほどで、左馬刻は一度目を閉じた。
「あま」
「なー!剥きながら一人で一個分食べてもたわ」
「食いすぎ」
「なははは」
 もうひとつフォークに刺して差し出してきたので口を開ければ、簓は悪戯っぽく目を細めて、くるりとフォークをひるがえし、自分で食べてしまった。
「んまーい!」
……おい」
「んふふふ、ごめんて。はい」
 キッチンの片隅で、他愛のない会話をしながら交互に桃を食べる。
「何個も桃剥いてたら指がずーっと桃の匂いしててな」
 フォークの代わりに今度は右手を左馬刻の目の前に差し出してきた。その手首を掴んで、ふざけて口を開けると「先に桃食べてや!」と簓が笑い、桃の匂いのした指が、左馬刻の頬をするりと撫でた。